3 / 202
キャンプのはずだったのに……
3.異世界? 神隠し?
しおりを挟む
言葉がわかって少し冷静になったので、男の顔をよく見てみれば、日に焼けているのか地黒なのかわからないけどやや褐色の肌に深い赤色の髪と似たような色の瞳をしている。彫りが深くて鼻が高い……うん、イケメンに分類されるだろう。というか、瞳が赤い人間なんてアルビノ以外に地球上にいるんだろうか? それにしても色が鮮やか過ぎはしないか。呆けたように男の顔を見つめていると、少し居心地悪そうに視線をずらして男は言った。
「そんなヒョロヒョロで戦えそうもなさそうなのに、どうしてこんなところまで来られたんだ? 大きな荷物を持っているが商人か? にしてはエハヴィルド共通語が話せないようだが……」
ヒョロヒョロで悪かったなとちょっとムッとしてしまいつつ「えっと、キャンプで……」と話し始めたけど、気になったのは『なんちゃら共通語』。そんなの聞いたことがないし、世界の共通言語になりつつあるのは英語じゃないんだろうか?
「あの! その共通語ってなんですか? あと……さっきの熊は……し、死んだんですよね?」
「お前、どこから来たんだ……? 共通語を知らないとか。ここも結構辺境だけど、相当孤立した集落の単一民族か?」
男は怪訝な顔で俺を見てくる。ここ日本だよね? 辺境って? そりゃキャンプ場は山の中だけど……って余計混乱する。俺は困り果てて答えられないでいた。男は更に続けて言った。
「それにアレは熊じゃない。ま、元は熊だったんだろうが、完全に魔化してるし既に『魔物』だな」
男はアレはこの辺りによく出る魔物だろ、何言っているんだとでも言いたげな呆れた目で俺を見てくる。「は? 魔物って……」と、俺も変な表情になる。
そして言われてよくよく見れば、熊のようにみえた動物は目が3つあり、口に収まらない大きな牙と鋭すぎる爪を持っていた。
「な、に……これ……」
と絶句する俺。
男は、とりあえず何か事情がありそうだが、こんなとこで話しているとまた魔物が出るからそこそこ安全なところまで連れて行ってやると提案してきた。俺はあんなのがまた出たらたまらんと混乱の続く頭のまま着いていくことにした。どんな人なのかはわからないけど助けてくれたのは確かだし、悪い人ではないだろうと思った。
さっきお茶を飲むために出してしまった荷物をまとめていると抜けた腰も治ってきたようだった……まあ、頭は混乱したままだったけど。俺が荷物をまとめている間、男は熊の魔物を解体していた。グロそうだと思って見ないようにしていたんだけど、チラッと横目で伺うと思ったほど血も出てなくてびっくりした。聞くと、水魔法の応用なんだそうだ……。
(魔法……な、何を言ってるのかわからないし、何を聞かされてるのかもわからなかった……頭がどうにかなりそうだ……)
じゃなくて! 魔物に魔法に剣、そして赤い髪と瞳の男、通じない言葉。これが意味するところは……昨今よく見る『異世界』ってやつじゃないのか。
男があの魔物を片付け終わると、こっちだと歩き出したので俺も悶々と考えながら着いていく。多分、俺に合わせてゆっくり歩いてくれているし、歩きやすそうなところを選んでくれているんだろう。衝撃から立ち直りつつある俺は状況分析を始める。
異世界だとすると、どういうことなんだろうか。俺は死んだ覚えはないんだけど。チート能力をプレゼントしてくれる神様は出てこなかったし。つまり、転生ってやつじゃなくて転移とか神隠しみたいなほうだろうか。
あっちじゃ俺が消えたことになってるって可能性がかなり高い……ちょっと勘弁してほしい。コツコツ勉強するのが苦手な俺が必死で受験頑張ってなんとか大学に入って、独り暮らしも始めたところだったのに。
いや、どうするよ、これ。どうしたら戻れるんだろう。ネットでよく見る異世界行って帰ってきた経験談は異世界の誰かが助けてくれたりするじゃん? 『異空間のオッサン』とか『ケラケラ男』とかさ。ま、アレは創作かもだし……そう都合良くはいかないかぁ。
急に黙りこくってしまった俺に気がついた男が話しかけてくる。
「顔色が良くない。気分悪いか? 大丈夫か?」
「あ、はい。体調は……その、平気です。すいま……せん……」
そう、俺の顔色が悪いのはどっちかというと精神的ダメージだ。つい謝ってしまったけど、それをどう捉えたのか男は気遣わしげに言う。
「そういえば名乗ってなかったな。俺はルイ。この先の村の出身だ。これから村に帰るところなんだ」
「……ルイ、さん……」
「さんなんていらねーよ。ルイでいい」
「俺は和瀬田 郁弥です。あ……えっと、イクミでいいです」
ルイと名乗った男は「イクミ、ね。ワ……なんとかってのは姓? どこかのそれなりの身分だったり?」とニッと口の端を上げて笑った。
それなりの身分って貴族とかそういうやつのことかな? 流石にそれは否定しておきたいと思った俺は自分のことと推測できるこの状況について説明することにした。
自分はおそらく違う世界からここに迷い込んでしまったと思われること、自分の住んでた国では身分とかなくて誰もが姓を持ってること、あとは『魔法』なんてないし『魔物』もいないこと、だからもちろん戦ったことなんてないこと、どう説明したら信じてもらえるのかわからないけどポツポツと震える声で話しながらルイの後ろを着いていった。
道中、普通の動物の他に、角の生えた変な鳥みたいなのとかデカイ昆虫みたいなのとかが出てきてビビりまくったけど、俺が気付くよりも早くそんな魔物をバッサバッサと余裕で切り捨ててくルイ。
でも、どうやら俺の話をちゃんと聞いてくれてるようだった。なんで周囲を警戒して魔物を倒しながら俺の話を聞けるのか……謎だ。まあ、警戒しながら歩いてるルイに話す俺も俺なんだけど、なんていうのかな……不安に押しつぶされそうで喋ってないと怖かったんだ。
「なるほどな。それで、か……」
何が『それで』なのかわからなくて首を傾げると、ルイは自分の額の黒い石の付いたアクセサリーをトントンと指して言った。
「これ。イクミに付けても作動しなかっただろ? これは魔導具なんだよ」
「魔導具……。そういえば、それをルイが付けたら言葉がわかるようになりましたね……」
「魔法がない世界ってさっき言ってただろ? つまり、イクミには魔力がないってことだ。そりゃ、魔導具が使えるはずがない」
さらっとなんでもないことのように言うルイに俺はかなり驚いた。
「そんなヒョロヒョロで戦えそうもなさそうなのに、どうしてこんなところまで来られたんだ? 大きな荷物を持っているが商人か? にしてはエハヴィルド共通語が話せないようだが……」
ヒョロヒョロで悪かったなとちょっとムッとしてしまいつつ「えっと、キャンプで……」と話し始めたけど、気になったのは『なんちゃら共通語』。そんなの聞いたことがないし、世界の共通言語になりつつあるのは英語じゃないんだろうか?
「あの! その共通語ってなんですか? あと……さっきの熊は……し、死んだんですよね?」
「お前、どこから来たんだ……? 共通語を知らないとか。ここも結構辺境だけど、相当孤立した集落の単一民族か?」
男は怪訝な顔で俺を見てくる。ここ日本だよね? 辺境って? そりゃキャンプ場は山の中だけど……って余計混乱する。俺は困り果てて答えられないでいた。男は更に続けて言った。
「それにアレは熊じゃない。ま、元は熊だったんだろうが、完全に魔化してるし既に『魔物』だな」
男はアレはこの辺りによく出る魔物だろ、何言っているんだとでも言いたげな呆れた目で俺を見てくる。「は? 魔物って……」と、俺も変な表情になる。
そして言われてよくよく見れば、熊のようにみえた動物は目が3つあり、口に収まらない大きな牙と鋭すぎる爪を持っていた。
「な、に……これ……」
と絶句する俺。
男は、とりあえず何か事情がありそうだが、こんなとこで話しているとまた魔物が出るからそこそこ安全なところまで連れて行ってやると提案してきた。俺はあんなのがまた出たらたまらんと混乱の続く頭のまま着いていくことにした。どんな人なのかはわからないけど助けてくれたのは確かだし、悪い人ではないだろうと思った。
さっきお茶を飲むために出してしまった荷物をまとめていると抜けた腰も治ってきたようだった……まあ、頭は混乱したままだったけど。俺が荷物をまとめている間、男は熊の魔物を解体していた。グロそうだと思って見ないようにしていたんだけど、チラッと横目で伺うと思ったほど血も出てなくてびっくりした。聞くと、水魔法の応用なんだそうだ……。
(魔法……な、何を言ってるのかわからないし、何を聞かされてるのかもわからなかった……頭がどうにかなりそうだ……)
じゃなくて! 魔物に魔法に剣、そして赤い髪と瞳の男、通じない言葉。これが意味するところは……昨今よく見る『異世界』ってやつじゃないのか。
男があの魔物を片付け終わると、こっちだと歩き出したので俺も悶々と考えながら着いていく。多分、俺に合わせてゆっくり歩いてくれているし、歩きやすそうなところを選んでくれているんだろう。衝撃から立ち直りつつある俺は状況分析を始める。
異世界だとすると、どういうことなんだろうか。俺は死んだ覚えはないんだけど。チート能力をプレゼントしてくれる神様は出てこなかったし。つまり、転生ってやつじゃなくて転移とか神隠しみたいなほうだろうか。
あっちじゃ俺が消えたことになってるって可能性がかなり高い……ちょっと勘弁してほしい。コツコツ勉強するのが苦手な俺が必死で受験頑張ってなんとか大学に入って、独り暮らしも始めたところだったのに。
いや、どうするよ、これ。どうしたら戻れるんだろう。ネットでよく見る異世界行って帰ってきた経験談は異世界の誰かが助けてくれたりするじゃん? 『異空間のオッサン』とか『ケラケラ男』とかさ。ま、アレは創作かもだし……そう都合良くはいかないかぁ。
急に黙りこくってしまった俺に気がついた男が話しかけてくる。
「顔色が良くない。気分悪いか? 大丈夫か?」
「あ、はい。体調は……その、平気です。すいま……せん……」
そう、俺の顔色が悪いのはどっちかというと精神的ダメージだ。つい謝ってしまったけど、それをどう捉えたのか男は気遣わしげに言う。
「そういえば名乗ってなかったな。俺はルイ。この先の村の出身だ。これから村に帰るところなんだ」
「……ルイ、さん……」
「さんなんていらねーよ。ルイでいい」
「俺は和瀬田 郁弥です。あ……えっと、イクミでいいです」
ルイと名乗った男は「イクミ、ね。ワ……なんとかってのは姓? どこかのそれなりの身分だったり?」とニッと口の端を上げて笑った。
それなりの身分って貴族とかそういうやつのことかな? 流石にそれは否定しておきたいと思った俺は自分のことと推測できるこの状況について説明することにした。
自分はおそらく違う世界からここに迷い込んでしまったと思われること、自分の住んでた国では身分とかなくて誰もが姓を持ってること、あとは『魔法』なんてないし『魔物』もいないこと、だからもちろん戦ったことなんてないこと、どう説明したら信じてもらえるのかわからないけどポツポツと震える声で話しながらルイの後ろを着いていった。
道中、普通の動物の他に、角の生えた変な鳥みたいなのとかデカイ昆虫みたいなのとかが出てきてビビりまくったけど、俺が気付くよりも早くそんな魔物をバッサバッサと余裕で切り捨ててくルイ。
でも、どうやら俺の話をちゃんと聞いてくれてるようだった。なんで周囲を警戒して魔物を倒しながら俺の話を聞けるのか……謎だ。まあ、警戒しながら歩いてるルイに話す俺も俺なんだけど、なんていうのかな……不安に押しつぶされそうで喋ってないと怖かったんだ。
「なるほどな。それで、か……」
何が『それで』なのかわからなくて首を傾げると、ルイは自分の額の黒い石の付いたアクセサリーをトントンと指して言った。
「これ。イクミに付けても作動しなかっただろ? これは魔導具なんだよ」
「魔導具……。そういえば、それをルイが付けたら言葉がわかるようになりましたね……」
「魔法がない世界ってさっき言ってただろ? つまり、イクミには魔力がないってことだ。そりゃ、魔導具が使えるはずがない」
さらっとなんでもないことのように言うルイに俺はかなり驚いた。
19
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる