ずっと、君を探してた。

さひこ

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1.5章:邪神を倒す旅に出るまで

それぞれの休暇(ノアとゴーティエの場合)※

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俺の名はゴーティエ。
デュドネ国の騎士団団長を務めさせてもらっている。
とは言っても、基本は事務仕事ばかりの雑用係みてえなもんだけどな?
まあ、俺のことはそんなんでいいだろう。
俺には最近恋人ができた。
とてもきれいな銀色の髪で大きなアメジストの瞳を持った、すげえ可愛いやつだ。
可愛い恋人がほしいと思っていたが、こんなに可愛いやつを俺のモンにできるとは思ってもみなかった。
隣では昨夜散々貪り散らかした健気な細い身体が一定のリズムで小さな寝息を立てている。
細い身体には複数…とは言えないほどの大量の鬱血の跡。ケツからは俺の飲み切れなかった白濁がとろとろと流れていた。
この小せえ尻穴で、この細い腰で、よく俺のデカブツ飲み込めてんなと、いつも不思議に思うが、それはこいつが男だからだろう。女なら、俺のモンは奥まで入り切らねえからな。

こいつ…ノアと初めて出会った時の衝撃は忘れられない。
匂いが、声が、全てが、こいつが俺のモンだと告げているのが分かった。
あとはどう手に入れるか、そう思っていたが、それは意外にもあっさりと俺の手の中に落ちてきた。
陛下のご命令でノアは俺の庇護下に下り、そして、何よりノア自身が俺に喰われたがっていたからだ。
最初の1か月は我慢した。ノアの知識が、何より心が育つまでじっくり待つつもりだったからな。
でも、思った以上にノアの心は早く成長していた。俺色のベビードールを着て、奉仕までして俺を誘ってきやがった。好きなやつにそこまでされて、何もしないとかできる男がいたら見てみたいもんだな。
そんなノアの健気な頑張りのおかげで俺たちは結ばれた。
その後は、まあ、ご覧のとおりってやつだ。

「ん…。」
昨夜も散々喘がせて、かすれたノアの声が聞こえる。俺が起きたことにより、起こしちまったか?
「あ…ゴーティエ、おはよう。」
だっこ。と言って、俺に向かって手を広げる。俺は言われたとおりに抱き起して、抱きしめてやった。
すると、すりすりと俺の身体に擦り寄り、すんすんと匂いを嗅いでくる。どうやら俺の体臭がお好みらしい。大好きな森の樹を思い出させるんだとさ。そんなことを言われたのは初めてだ。
俺はそれよりも、野イチゴのような甘い香りのするノアの匂いの方がいい匂いだと思うがな。
「風呂行くぞ、しっかりつかまってろ。」
「うん。」
部屋についているシャワー室までノアを抱き上げて連れて行く。副隊長クラスまで各部屋にシャワーはついているが、湯船につかりたかったら大浴場まで行かなきゃならねえ。だが、ノアには毎回部屋のシャワーで我慢してもらっている。こんな可憐でかわいい身体をオオカミ共の群れにむざむざさらすわけがねえだろうが。

「あぁ、もったいないからかき出さないでぇ…。」
「駄目だ、動くと漏れちまうぞ。」
「うう…。」
俺がノアのまんこから滴っている俺のモンをかき出そうとすると、いつもこうやって甘えた声出しながら、もったいながる。でも出しとかないと、後で漏れて恥ずかしい思いをするのはこいつだ。そこはしっかりと心を鬼にしてしっかりと出し切る。
正直かき出すときに指にまんこが吸い付いてきて、俺のが持ち上がりかけるんだが…それは内緒だ。
話すとこいつは絶対ヤりたいって言うに決まってるからな。どうやら俺に奉仕することに悦びを感じてやがるみてぇだ。でも、休みはいつも決まってすることがある。一日中ノアの身体を堪能するのは魅力的だが、急にいかなくなると心配かけるだろうからな。

「なあ、今日は俺も連れてってくれるんだよな。孤児院。」
そう、俺の毎週の休みでやっていることは、孤児院に行くことだ。最初こそ、母親に連れていかれてだったんだが、持って行った菓子なんかで喜んだり、遊んでやると目をキラキラ輝かせて懐いてくれる姿を見ていると、こっちが元気をもらえた。そこからは自主的に行くようになった。
子供は好きだ。将来への可能性をバシバシ感じさせられる。そんな子供たちが食うもん困って下手すりゃ病気や命の危険にさらされるようになるなんざ、悲しいだろ。
俺なんかにできることは限られてるけど、それでもできることをしたい。それが孤児院に通うことだ。
全部俺のモンを出し切ったあと、シャワーを浴びせてやる。ああ、この肌がしっとりとして、手に吸い付いてきやがる。俺はノアの身体を洗い流すふりをして、そのすべすべの肌を堪能する。
「ん…んん…♡」
おっと、やりすぎたみてえだ。ノアが感じちまってる。

「ああ、もちろんだ。フィナンシェ渡すんだろ?」
シャワーを止めて、ノアをバスタオルに包む。自分の身体も手早く拭いて、シャワー室から出た。
脱衣所でノアの身体を拭いてやりながら、唇にキスをする。これくらいならいいだろう?
「ゴーティエ、大好き♡」
ノアが俺に抱き着いてきて、舌を絡めてくる。小さくて甘い舌を堪能しながら、ノアの身体を拭き終えた。

「なあ、ゴーティエ。前に蒸しパンくれただろ?プリンも作れるかな。」
「プリン?ああ、大丈夫だと思うぜ。」
そう言うと、ノアの顔がぱあっと晴れて、
「昨日、シュリにプリンの作り方教えてもらったんだ。子供たちと一緒に作れるかな。」
と聞いてきたもんだから、俺はその健気な姿に愛おしくって、ノアを抱きしめた。
「…ゴーティエ?」
「材料、市場で買っていこうな。」
「うん!器も!…馬車に乗るかな。」
「乗るに決まってんだろ。他の食材も入れれるようなでかい馬車だぜ?」
ノアのやつはこの前まで自分が浮浪者だったのにもかかわらず、どうやったら子供が喜んでくれるか、一生懸命考えたんだろう。ああ、なんて優しいやつなんだ。
「みんなと仲良くなれるかな。」
不安そうに聞いてくるので
「なれるに決まってんだろ。皆優しいいい子ばかりだしな。…お前も含めて。」
当然だと答えた。




市場に着くと、ノアが早速『鑑定』を使っていた。
どの野菜が新鮮だ、とか日持ちするだとか。俺は店主に旬の野菜だとか勧められるがままに買って行ってたけど、それだけじゃない食材も買うことができる。『鑑定』は改めてノアの命を繋いでくれていた、大切な能力なんだなと気づかされた。肉にしても、新鮮なものだけじゃなく、日持ちする、冒険者が買うような干し肉やベーコンなんかも包んでもらったりした。
玉子も生みたてのものを売る業者を見つけて、それを買う。牛乳も同じく搾りたてのものを、だ。
結婚したら、こうやって2人で買い物をして、何を作ろうとか言い合うのもいいな。そんな夢を抱きながら馬車に荷物を積んでいった。
最後に、朝早い市場に来るために食いそびれた朝食を買って、俺たちはこの場を後にする。
せっかくだから焼きたてのものを、と言ってゆっくりと馬車を操縦する俺に、隣に座ったノアが一口ずつパンをちぎって食べさせてくれるのがこれまた美味かった。もちろんノアも自分の分を食べながら。飲みもんも定期的に口に運んでくれる。これが「あーん」ってやつかと思いながら食わせてもらってた俺の顔は絶対に締まりがなかっただろうと思う。



郊外まで馬車を走らせると、古びた教会が見えてくる。
その隣にある平屋建ての大きめの建物が俺たちの目指す孤児院だ。
教会の表ではシスターたちが食うものに困っている人たちに定期的にやっている炊き出しを行っていた。それの邪魔にならないように、裏口に回って、馬車を停める。
すると、この院の中で年長者のうちの1人、ミラが洗濯物を干していた。
「あ、ゴーティエさん。いらっしゃい。」
ミラはこっちに気づいて近づいてくる。すると、次第に俺の方じゃなく、隣にいるノアの方が気になりだしたみてぇで、ノアの方をちらちら伺いながら俺の前に立った。
「よぉ、ミラ。相変わらず働きもんだな。食料持ってきたぞ。」
俺がそう言うと、ぱあっと顔を輝かせ、微笑んだ。
「いつもありがとう!この前またシスターが一人拾ってきちゃって、食べものが底をつきそうだったの。助かるわ!」
そう、ここの孤児院の経営者シスターアンナは、人の良い女性で自分の食事を切り詰めながら孤児をどんどん引き受けちまう。だからうちのほかにも貴族が寄付を行っているが、ここの経営はいつもひっ迫している。
「…ところで、そちらの方は…?」
ノアの方を今度はしっかりと見て、ミラは俺に尋ねてきた。
なのではっきりと伝える。
「俺の恋人だ。」
ミラは喜びながら驚くという芸当をその顔で見せながら、
「ゴーティエさん、こんな可愛い恋人出来たの?!よかったじゃない!みんなでお祝いね!」
と、自分のことのように喜んでくれた。するとノアが
「こ…こんにちは。初めまして。ノアと言います。今日はゴーティエにお願いしてここに連れてきてもらいました。な…仲良くしてやってください。」
緊張しながら挨拶をした。
「かっわいいー!!!ゴーティエさんの恋人ってことは私より年上でしょ?敬語なんていいから!こちらこそ仲良くしてね!あっ、私はミラって言うの!よろしくね!」
ミラはノアの両手をつかんでぶんぶんと手を振って握手した。
ノアはそんなミラの様子にあっけにとられていたが、次第に表情が緩み
「ありがとう、ミラ。改めてよろしく。」
微笑み返した。

その後は、今日買ってきた食材の運び入れだ。
箱に詰めた野菜や肉、玉子に牛乳、小麦粉に乾麺のパスタ、食用油や調味料など、そしてノアが自分でと言って買った、菓子の材料と器だ。
「あれ?玉子と牛乳が2つ分けてある…?」
ミラが不思議そうに言うので、ノアは
「今日、プリンを作りたいんだ。…いいかな?」
と、うかがっていた。ミラはまさかの提案だったのだろう。プリンは大量に玉子を使うみてぇだからな。庶民の味ではあるが、ここのやつらにとっては贅沢品だ。すごく顔を染めて
「嬉しい…!プリン、食べてみたかったの!」
と、キャッキャと喜んでいた。
「一人じゃ大変だから、ミラもよかったら手伝ってね。」
「うん!もちろん!早く洗濯物終わらせなきゃ!」
「あ、なら、俺手伝うよ。」
いいかな?ゴーティエとノアが見上げてくるので、もちろんだと言って、見送った。

院の奥に入ると、シスターアンナが小せえ子供たちをあやしていたので、挨拶する。
「よお、シスター。今厨房に野菜と果肉を運んできたぜ。」
するとシスターは今俺に気が付いたみてぇで、
「あらあら、ゴーティエさん。いつもありがとうございます。」
いつもの人の好さそうな顔を青っ白い顔色で浮かべた。…これはまた、自分の食べもん削ってやがるな。止めろっつってんのに。ったく。
「シスター、ガキども起こしてきたよ。…って、ゴーティエ!」
この院の年長の中の1人、レオンがやってきた。この院の中では体格がいい方のやつだ。
「ゴーティエ!俺を騎士にしてくれ約束、覚えてるよな!俺来年には成人なんだ!絶対城に行って騎士の試験、受かってみせるからな!」
こいつは俺がこの院に通い出した時から居るやつで、まだほんの小せえ時から知っている奴だ。
騎士はこの国でも花形の職業で、給料もいい。将来有望なやつが来てくれるのはいいんだが…。
「おめえは多分一般兵からだ。それに約束したんじゃねえ。させられたんだ。誰でもぽっと騎士になれるとは思うなよ。」
ノアやシュリ殿が異例なんだ。あの2人は騎士に必要な戦闘能力…冒険者で言うところのBクラスの戦闘能力は持っている。
ノアは『鑑定』スキルでめきめき強くなり、今ではA+、シュリ殿は元々Sクラス冒険者だ。
あの3人…ユヅキ様も含めて、休みがかぶった時はただ遊ぶだけじゃなく、俺たちに内緒で首都ユーグにあるデュドネの冒険者ギルドに登録してやがった!!
ちなみにユヅキ様はまだ力を使いこなせていないと言ってはいるが、もうAクラスにまでなっている。
『神のいとし子』の力っつーのはどんだけなんだよ!!!
素材や魔石、食べられる肉を城に持って帰っては、皆を驚かせていた。
ああ?もちろん初めて知った時はノアの身体にお仕置きしてやったがな?
それからノアには冒険者の活動を行うときは必ず、俺が仕立ててもらった最上級の防具をつけてから行かせている。
ノアはそれが嬉しいみたいで毎日磨いて大事に使ってくれているようだ。
…と、話がそれちまった。
「…ちぇっ。騎士になって、ここのやつらやミラにうまいもん食わせてやりたいのに。」
「お前の気持ちは分からないでもねえが…。騎士はいざとなったら最前線に出て魔物や人との交戦もある。そんな危険に身を置こうとしなくても、お前なら十分働き口はあると思うがな。」
家族や恋人にいい暮らしがさせたい。そういう理由で騎士になり、武勲を上げようと気がはやり命を落とした奴らを俺は何人も知っている。正直なところ、こいつもそうなりそうな気がして俺としては心配なところでもある。
「騎士がいいんだよ。俺、ゴーティエみたいに格好良くなりたいから。」
「ははっ。そう言ってくれる奇特なやつはなかなかいねえけどな。…お前はまだ若い。もっとよく考えろ。相談になら乗るからな。」
そうして、頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「お待たせー!ご飯の用意するから、みんな手伝ってー!」
ミラの声がする。どうやら洗濯物干しが終わったらしい。
「今日早いねー。」
「もっと寝てられると思ったのに。」
そういう子供たちの声が次々と聞こえる。ノアは器用だからな。俺の洗濯もんもいつも干してるし、それだけ役に立ったんだろう。
「ノアさん、すっごく手際いいの!あっという間に終わっちゃった。」
ミラがニコニコと嬉しそうに空の洗濯籠を持って、裏口から入ってきた。
「そんな。ミラこそいつもあんなにたくさん大変だっただろ?これからは俺もゴーティエと一緒に来れる時は来るから、その時は手伝わせてくれな。」
こいつらこの短時間であっという間に仲良くなったな。ミラの明るさのおかげで、ノアも心を開けたみてえだ。
「…ミラ、そいつ、誰?」
レオンの声が少し低くなる。でも、ミラは鈍感だから気づいてないみたいだ。嬉しそうに
「ノアさんって言うの!な・ん・と!ゴーティエさんの恋人さんよ!」
すると、レオンはぱっと明るくなり
「え!?ゴーティエの恋人?お祝いだ!!」
安心したのが丸わかりな声で、でも俺を祝ってきた。
ノアは頬を染めながら
「初めまして。ノアって言うんだ。よろしくな。」
洗濯籠片手にレオンと握手を交わした。シスターアンナにも挨拶して、握手を交わしていく。
シスターアンナは涙を流して喜んでいた。
「まあ、まあ!ゴーティエさんにこんなに可愛い恋人が!!お祝いね!!」
…なんでみんなすぐ祝いたがるんだ。

朝食は市場で買った新鮮なウインナーを入れた野菜スープた。
ノアもミラに教わりながら手際よく包丁を使い、食材をカットしていく。
ミラは大鍋にカットされた食材を入れ、味を調えながらスープを煮込んでいく。
出来たスープは子供たちが零さないように盛り付け、次々と食卓へ運ばれていった。
これまた今朝屋台で買った、焼き立てのバケットを一人分ずつににカットし、バターを添えれば完成だ。
「では、皆さん。神とここにいるゴーティエさん、ノアさんに感謝しながらいただきましょう。」
シスターアンナがそう言った瞬間、子供たちは一斉に朝食に手を付けた。
「ウインナー美味しー!」
「パンももちもちー。」
そんなことを言いながら食べ進め、あっという間に皿は空になった。
「うう…無くなっちゃった。」
「もうちょっと食べたかった―。」
年中ぐらいになると、そんなことは言わなくなるが、まだ小さい子供は正直に思ったことを言っちまう。
「ゴメンね。もうスープないのよ。」
ミラがすまなそうに言うと、
「なら、デザートは食べれるかな?」
と、ノアが大事に抱えていた紙袋を取り出した。
「デザート?何ー?」
「フィナンシェって言うんだ。甘いお菓子だよ。」
「わー!食べたーい!!」
子供たちは期待に胸を躍らせている。
ノアは、子供たちの前に1個ずつ、フィナンシェの入った袋を置いていった。
「みんなの口に合うといいけど…。」
「ねえ、もう食べていい?」
「甘い匂いがして美味しそう!」
ノアはまるで天使みてえな慈愛の顔を浮かべ、コクリとうなずいた。
「わあー!お兄ちゃん天使様みたい!」
「きれい!」
「そ・そんなことないよ。さ、食べてみて。俺が作ったんだ。」
わー!と、子供たちがまた一斉に菓子にかぶりつく。
「「「美味しーい!!!」」」
「甘いよ、それにバターのいい香りがする!」
「頬っぺた落ちちゃう!」
みんな嬉しそうにほおばる。
「美味しい…。こんなに美味しいお菓子初めて食べたわ。」
ミラも初めて食べたフィナンシェに舌鼓を打っている。確かにこいつのフィナンシェは最高に美味かった。
ノアは子供たちを見つめ、ニコニコと笑っているシスターアンナの元まで行き、
「シスターアンナも食べてください。…今、この院で一番栄養が足りていないのは貴女です。もし貴女が身体を壊してしまえば、子供たちが心配しちゃいますよ。」
後半は小声で言っていた。
それにシスターは感激したのか、涙を流しながら、
「ありがとう。本当にゴーティエさんは優しいいい恋人を持ったわね。」
ノアに渡された菓子の小袋を開け、ほおばった。
「まあ!美味しい!優しい味だわ。貴方の心の様ね。」
涙を拭い、ニコニコと微笑みながらきちんと全て食べきる。それにノアはほっとした様子で、胸をなでおろしていた。
「実は昼食後にもプリンを作る予定なんです。それも全部食べてくださいね。」
「まあ!プリン!大好きなのよ。ありがとう。」
今この施設にいるのはシスターを含め48人。菓子用に買った玉子は50個。十分足りる計算だ。
「ゴーティエももちろん食べてね。」
「じゃあ、お前のも用意しろよ。」
これで50個。ぴったりだ。


俺が子供たちと遊んでいる間、厨房の方からは甘い匂いが漂ってきていた。
プリンを蒸しているのだろう。少し覗いてみると、蒸しながら次の材料を作っているノアとミラ、それを覗く子供たちの姿が見えた。
プリンが蒸しあがったら、買っておいた氷に水を入れ、容器ごとプリンを冷ましていた。
「ねー。ゴーティエ兄ちゃん。恋人に見とれるのはいいけど、僕たちとも遊んでよ。」
「そうだよ。いくら可愛いからって鼻の下伸ばしちゃって。」
「…俺はそんな顔してたか?」
「してた!」
「デレデレ!」
…子供たちに見られちまうとは情けねえ。俺は名残惜しいが、その場を後にした。



昼飯は豚のミンチとトマトソースのパスタだった。今回は一緒にご相伴にあずかる。これもノアが今度は味付けも手伝ったらしい。食べてみたが、肉のうまみとトマトソースのバランスが絶妙ですげえ美味かった。
「ミラはいいお嫁さんになれるね。」
ノアが言うと
「ノアさんこそ!ゴーティエさんのいいお嫁さんになれるよ。ね?」
ミラが返した。突然俺に振られたもんだから最初こそ驚いたが、
「ああ、ノアは必ず俺の嫁に貰う。」
そう言うと、ノアが真っ赤になって俯いた。
「…うん。」
すると、食堂中がにぎわう。
「よかったな!ゴーティエ兄ちゃん!可愛い嫁さん貰えて!!」
「末永くお幸せに!」
おいおい、本当にお祝いムードになっちまったじゃねーか。悪い気は微塵もしねーがな。
ノアも幸せそうに笑っている。
「あ、そうだ。皆、今日は昼ごはんもデザート付きだからな。プリンって言うお菓子を作ったんだ。滑らかで美味しいんだよ。」
「「「やったー♪デザート!!」」」
子供たちがワクワクしながら配膳されるのを待っていた。

「じゃあ、皆食べてみてくれな!」
「「「わーい!!」」」
ノアの掛け声とともに、並べられたプリンを食べる。こ…これは。
「うめえ…。」
氷水で冷えたプリンは文句なしにうまかった。卵1個をフルに使って作られたプリンは多めに出来上がっていたのに、みんなすぐペロッと食べちまっていた。
「シュリ…俺の親友の得意なお菓子なんだ。皆も気に入ってくれたみたいでよかった。」
どうやらシュリ殿の家庭の味らしい。どおりでこんなに温かい気持ちになれたのか。
それを完全に再現したノアは、どこまで優しいんだ。こんなに優しいやつが俺なんかの嫁で収まっていいのか?
『いいに決まってるだろ。』
不思議なことにどこかから声が聞こえた。
『ノアは、お前の運命だ。お前の優しさに惹かれ、ここまでたどり着いた魂の半身なんだ。手放すんじゃねえぞ。』
すると、声はぱったりとしなくなった。
魂の半身…。
するりと納得できた。こいつを見て初めて俺が抱いた感情は「俺のものだ」。…そう言うことか。
器を片付けようと席を立とうとしたノアの手を掴み、胸の中に閉じ込める。
ノアは最初こそ驚いていたが、直ぐに俺の胸に擦り寄った。
「今すぐは難しいが、絶対結婚するぞ。いいな?」
「…嬉しい。俺をゴーティエのお嫁さんにして。ね?」
そして唇にキスをする。いつもの深いものではなかったが、時間が止まったかのように唇を重ね合わせた。

「もう!プロポーズならもっと場所を考えてよ!」
ミラが顔を真っ赤にして恥ずかしそうに怒っている。
シスターアンナも顔を真っ赤にして、だがこちらは
「まあまあ!お2人のこれからにも神の祝福があらんことを。」
と、涙ながらに拍手を送ってくれていた。
レオンは「そうか、ミラは場所が大事か…。」とぶつくさ言っている。
お前はプロポーズよりも先に、まず告白をしろ。

そんなこんなでどたばたと昼食の時間は終わっていった。
「プリンもっと食べたかった―。」
「ねー。」
そんな子供たちの声と共に。

昼からは、ノアも子供たちと一緒に遊んだり、レオンの訓練に付きあったりしていた。
レオンが最後に手合わせを!と頼んでいたので、やらせてやると、あっという間にのしてしまって慌てていた姿がまた可愛かった。まあ、レオンもこれで騎士になる現実の厳しさに気づいただろう。
最後にミラの作る夕食の手伝いをして、ノアの初めての孤児院訪問は終わった。

「じゃあ、またね!ノアさん!」
「ノアちゃん、またプリンとフィナンシェ作ってね!」
「またあそぼーね!」
ミラをはじめとした子供たちとすっかり仲良くなれたノアは、嬉しそうに
「うん、またな。」
と、また天使のような笑顔を向けていた。


数日後、今度はノアとの休みがかぶらないときに1人だけで訪れた時は、あからさまにがっかりされてほんのり傷ついた。
「だってノアさんともっとお話ししたかったのに!」
とは、ミラの話。
「ノアちゃんかわいーから好き―!」
…聞き捨てならねえな。
「ノア殿に今度こそ勝って見せようと訓練したのに!」
レオンよ、そりゃ十何年後の話だ。

そんな話を土産話にすると、ノアは嬉しそうに笑っていたから、まあ、いいけどな!
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