ずっと、君を探してた。

さひこ

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1章:まっさらな旅

ごめんなさい

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玉座の間に正式に通されるのは今回が初めてだ。
俺が緊張しているところを、ニコラがそっと背中を撫でてくれた。
俺はニコラを見て、ニコリと笑う。
ふふっ。ニコラは不思議だ。俺の些細な緊張や不安を全て吹き飛ばしてくれる。
兵士さんたちに案内されて、俺は玉座の間の中央まで通された。

「シュリ殿、ここでお待ちを。ニコラ一番隊隊長殿も同じくです。」
そして兵士さんたちは引き返していった。

しばらくして、皇帝さんとうつむいた優月が現れた。
しかし、俺の中でその恰好が問題だった。
皇帝さんはともかく…優月?お前、その服どうした!?

優月は皇帝さんと同じ真っ白な衣装だったんだけど、皇帝さんが詰襟の軍服のような服を着ているのに対して、優月はふわふわぴらぴらのフリルとレースに縁どられた襟と手首のシャツ。首元には宝石がいくつも並べられているけど、決して派手過ぎないネックレス。足はズボンこそ普通だが、靴ががまた羽をモチーフにされたであろう縁取りのブーツに、これまた大きなダイヤモンドのような宝石が中央に、小さな石が靴の上側にちりばめられている。
はっきり言って、はっきり言って…。

「優月!なんだその可愛いらしい恰好は!!」
ぶはっと俺は吹き出してしまった。
するとっ優月は真っ赤にした顔を上げて俺に向かって叫んだ。
「仕方ないだろ!!アダンが用意してくれた服がこれしかなかったんだから!!俺だって何度も嫌だって言ったのに!!」
そう言って涙目でこちらを睨んでくる。そのさまがまた可愛らしくって、俺は笑った。

「アダン!!やっぱり俺なんかがこんな可愛い服着るの変だって!!」
「そうか?俺としてはもっと飾り立ててよいと思うのだぞ?だが慎ましいユヅキのためにそれで妥協したのだ。」
皇帝さんは不服そうに言っていた。目が本気だ。優月…。ファイト☆(←他人事)
その隣でニコラが「シュリにも似合うだろうな…。いや、私がもっとシュリに似合う服を買って着せてやろう。薄紅色も捨てがたいが、やはりシュリの心のような純白か?」と、ぶつぶつ言っているのは聞こえていなかった。




「―――で、本題なのだが…。」
そう言って、皇帝さんは話を始めた。

「俺とユヅキは、ずっと話し合った。それで出した結論だ。」
皇帝さんがそう言って、優月を顔を合わせ頷き合った。


「ごめんなさい。」
「すまない。」


「俺は怖い…。いくら神様が俺に力を授けてくれたと言っても、その神様より力をつけている邪神と戦って、勝てる自信なんてない。俺は今まで普通の高校生だったんだ。それなのに…。」
「俺も同意見だ。ユヅキにそんな危ない橋は渡せない。俺がついて行ってユヅキを守ると言っても、神の前では俺の力など塵に等しいだろう。それではユヅキを守れない。」


ああ、そうか。やっぱり。

俺は落胆したんじゃない。安心したんだ。
優月に抱き着いた時に思った。って。
10年近く修業した俺とは違う、筋肉も何もついていない優月の身体。そんな細い肩に世界を背負わすなんて、俺にはできない。

俺は優月の方を向いて笑った。

「大丈夫だよ。優月。俺がこの世界を救えるよう頑張るから。」

「え?」
優月が戸惑ったように返す。

「俺には最高の友人たちがいる。みんなの力を借りなきゃいけないのは心苦しいけど、幸いみんなやる気でいてくれてるし、俺がこの世界を優月の代わりに救えるように頑張る…。ううん。必ず救って見せる。」
俺は真直ぐ優月の方を向いて言い切った。

「恐れながら陛下、発言をお許しいただけますでしょうか。」
隣にいてくれたニコラが敬礼をして皇帝さんに進言する。

「なんだ。申してみよ。」

「私は、この国の1番隊隊長の座を、後進に譲り渡し、この国の騎士を辞めようと思います。」
途端に皇帝さんは狼狽える。
「何故だ…!お前ほどの腕の者をそう簡単に我が国が手放すと思っているのか?」
ニコラは笑って皇帝さんを見た。
「はい。陛下ならわかってくださると思っております。ユヅキ様に出会われた陛下なら…。」
「…シュリ殿か。」
皇帝さんは納得したように、ニコラと俺を交互に見る。

「はい、私はシュリを愛しております。私の命など、比較にならないくらいに。これからの人生、シュリがいなければ私は確実に狂う。」
ぎゅっとニコラが俺の手を握る。俺はその手を握り返した。
「…私のがこう言っておりました。『自分と、自分の愛する者を守れるように強くなりたい。』と。私はその言葉を恥ずかしながら、日々の訓練と戦いに明け暮れる中、今まで忘れておりました。でも、彼に会った瞬間に思い出したのです。私の原点は、そこからだったのだと。」
皇帝さんは目を見開いてニコラを見ている。何かに驚いているようだ。
「私は私の始まりに、人生の恩人に嘘はつけません。陛下、どうかお許しください。シュリを…私の半身をこの手で守り抜かせてください…!」

ニコラの真摯な声が、視線が、手から伝わる鼓動が俺の目頭を熱くさせる。
ニコラ!今すぐ抱き着いて抱きしめたい!抱きしめてほしい!

だけど、皇帝さんはそれを許さなかった。

「ならぬ。お前には殿、今まで通り、。」

…ん?俺を守りながら隊を率いる…?



すると優月が俺の方に向かってきて、抱き着いてきた。

「ごめんなさい。勝利。俺、ずっと勝利にそんな覚悟を背負わせてたんだね。」
「優月…?」

そして優月は語りだした。

「俺とアダンが謝ったのは、勝利たちだけに今まで世界の命運を預けようとしてたからなんだ。」
先に怖いって言っちゃったから、勘違いさせちゃったね。
そう言って優月は身体を離して、俺の両肩に手を置き、にこりと笑った。

「勝利、俺とアダンは行くよ。勝利たちと一緒に行く。邪神を倒す旅に!!」

「優月…。でも、本当に大丈夫?モンスターって、ゲームでやってるよりずっと怖いんだぞ?本当に死にそうになる攻撃受ける時もあるし、油断したら死ぬ。俺、そんな危険な目に遭わせたくない。だって、だって俺たち…。」

「俺たち、『親友』でしょ?だから、勝利だけに危険な目に遭ってほしくないし、遭わせたくない。一緒に行きたいんだ。モンスターたちを倒すのは勝利がだいぶん先輩だから、最初のうちは守ってもらうことが多いかもしれない。
でも、絶対追いつくから。だからその時は、隣で戦わせてほしい。」

優月が俺に向けている瞳は真直ぐ、まばゆいほどだった。
俺はぷっと笑い、
「違うよ、俺が湯月の隣で戦わせてほしくて勝手に修業したの!順番逆逆!」
と返した。すると優月は
「でも今は勝利の方が先輩でしょ?逆じゃないよ!」
その後は、俺の方が、いや俺が…って言い合って最後に2人して笑い合った。

「んじゃ、よろしくな!『相棒』!」
俺がこぶしを優月に向けて出す。優月はそれに自分のこぶしを重ね合わせて応えた。
「うん!よろしくね。『相棒』!」


「ふっ…全く妬けるな。シュリ殿にお前がいてよかったと思うくらいだ。」
皇帝さんはニコラに話しかけている。
「私も同じことを思っておりました。ユヅキ様に陛下がおられてよかったと。」
ニコラは皇帝さんにお辞儀をして、それに返した。

「我がデュドネ国、第一番隊近衛騎士隊長ニコラよ。」
「はっ。」
ニコラは皇帝さんに向かって敬礼をする。
「改めて任命する。我らデュドネの近衛隊長として、『神のいとし子』と『精霊の友人』両名の警護に当たれ!!そして隊を率い、我らとともに邪神を倒す旅へと同行しろ!!」
皇帝さんはニコラにそう命じる。ニコラはそれに応えた。
「はっ!必ずや両名のその尊き御命、我ら第一近衛騎士隊が命に代えてもお守りいたしましょう!!」
2人は笑い合う。

それを見ていた俺と優月は
「「格好いいなあ…♡♡♡」」
と、お互いのパートナーに見惚れていた。
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