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1章:まっさらな旅
ニコラのご褒美
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「わぁー!とろけるぅー。美味しい♡」
一昨日、Sランクに昇格した俺はニコラにご褒美をもらったのに、さらなるご褒美をもらっていた。
それはこの町一番(と俺は思っている)の料理屋さん、「満陽亭」で、俺の大好物の牛ヒレ肉のステーキを奢ってもらっている。
「本当に、シュリはそれが好きなんだな。」
ははっと笑い、ニコラは白身魚のポアレを食べている。その食べ方は本当に綺麗で、気品すら感じさせる。流石は元王宮騎士の部隊長クラス(と勝手に思っている)だ。
俺がじっと見つめていると、ニコラはこちらをちらりと見て、ポアレを切り分け、付け合わせのソースを付けた後、俺の口元に差し出してきた。
俺はそれを口に入れ、咀嚼する。
お・美味しい♡外はカリカリ中はふわふわ、魚自体についたソースと、付け合わせのソースの味の相性も抜群で、最高♡
「美味しかった♡ありがとう!ニコラも、あーん。」
俺はステーキを食べやすい大きさに切ると、ニコラの口元に差し出した。ニコラはそれをぱくりと食べる。
「うん、流石にシュリの好物なだけあるな。とても旨いよ。」
ふわりとした笑顔にキュンキュンと胸が高鳴る。
さらにじーっと見つめていると、ニコラは不思議そうにした。
「どうした?欲しいものでもあるのか?私にできる範囲なら何でも買ってやるぞ?」
それを聞いて、俺は慌ててぶんぶんと顔を横に振る。
「い…いいよ!そう言うんじゃなくって、ニコラの食べ方綺麗だなって思って…。」
するとニコラが『ああ』と
「王宮騎士になるとき、最低限のマナーを覚えるようにと、教え込まされてな。それのせいだろう。」
なんでもない事のように言った。
「か…格好いい♡」
思わず本音が口からこぼれると、
「こんなことでもシュリの関心を誘えるなら、覚えておいてよかった。」
と、ニコラは笑った。
*****
「ねえ、今度はどこ行くの?」
満陽亭を出て、シルヴェストルの街を歩く。街の人たちは皆、冒険者によって守られているこの場所を安心して生活している。
店で物を売るおじさんやおばさんたち、それを買っている人、欲しいおもちゃが買ってもらえなくて駄々をこねてる子供までいる。
わいわいがやがや。
2年もお世話になったこの街を離れるのは寂しいが、俺には優月を助けるって自分で決めた使命がある。
皆さんお世話になりました。
そういう気持ちを込めながらニコラの後をついていくと、ある武器屋にたどり着いた。
「ニコラ、ここって…。」
この街一番の職人さんたちが集う人気の武器屋だ。ただし、本当に腕がいいため、予約は1か月先まで埋まっている。でも、もしかして…。
「シュリの防具を頼んでおいたんだ。もう、ボロボロだろう?武器はまだ状態がよかったが、防具はもう寿命だ。私から贈らせてくれ。」
そう言って、店の中にどんどんと入っていく。
ニコラが予約番号を言うと、レジカウンターにいる店員さんが、
「ひと月ほど前にご予約いただきましたニコラ様ですね?もちろんご用意できております。フィッティングルームにお越しください。」
と案内を始めた。
「ああ、その防具は彼のものなんです。…シュリ、身体に合うか見てもらってきてくれ。」
ニコラは俺を促す。店員さんはにこりと笑い、
「では、こちらへ。」
と案内してくれた。
出来た防具を着ると、なんでこんなに?って思うくらい俺の体にフィットしている。
試しに身体を曲げたり伸ばしたりしていると、すごく動きやすい。それに、軽い。けど頑丈そうなのが見て取れた。胸元の中心部にはダークブルーの石が付いた魔道具が付いている。魔道具入りなんてすっごく高いんじゃないのか?
「お客様、いかがでしょうか?お直しするところなどございませんか?」
店員さんがにこやかに尋ねてくる。
「い、いえ!すっごく着やすいです!ありがとうございます!!」
「それはよろしゅうございました。では、胸元の魔道具についてご説明いたします。こちらは、魔物や他者からの一定以上の攻撃に対して、自動的にシールドを張ります。魔力充填石に1回の魔力完全充填で最高5回は使えますので、ご活用なさってください。」
ひえっ!
「また、補修サービスも受け付けております。お時間はいただきますが、3年以内なら1度のみ無償で修理いたしますので、いつでもお気軽にご来店ください。」
ひええええええっ!
説明が終わり次第、俺はニコラの元に戻る。
ニコラは俺を認めると、にこやかに笑って手招きした。
俺はニコラにぴったりとくっついて、
「あの…これ…あの…俺、こんなの払えないかも…。」
とひそひそ話をした。
「では、お会計です。」
俺はびくりと身体を震わす。すると、するりとニコラがレジカウンターへ行き、
「180万レオノールとなります。」
「わかった。ここから引いてくれ。」
と、さらりと通帳の役割も果たしている冒険者証を渡し、簡単に支払ってしまった。
「ニコッ…ニッ…ニコラさん???!!!」
俺は思わずニコラに駆け寄り、彼の衣服を引っ張る。
よく見れば、ニコラの防具も変わっている。こちらに魔道具はついていなかったけど。
「心配するな。ちゃんと払えるし、まだまだ蓄えはある。」
そーいう問題だけど、そーいう問題じゃないんですが⁉
「Sランク、改めておめでとう。私からのお祝いだ。受け取ってくれ。」
かああああっっっっっこいいいいい!!!
じゃない!
俺はニコラを引っ張って、店を出る。そして店の裏手で彼に詰め寄る。
「い…いくらなんでも、これはもらいすぎなんですが!!!」
すると彼は俺の身体を抱き寄せ、
「私はそうは思わない。私にとってシュリは私の命よりも大切なんだ。君に対してやってあげたいことは、これでも足りないぐらいだ。どうか、これくらいは受け取ってほしい。」
そう祈るように俺に説いた。
…どうしよう。こんな立派なもの貰ってるのに。そんなことより、ニコラの愛情がずっとずーっと嬉しい。
俺はニコラを抱きしめ返して、すりすりと彼の胸の中で擦り寄り、彼の顔を見上げる。
「…わかった。ありがとう。本当はすごく嬉しいよ。この防具、大切に使わせてもらうね。」
そうしたら、ニコラは本当にうれしそうに笑って、俺の頭にキスを落とした。
「シュリ。改めて言う。Sランク昇格おめでとう。」
「うん、ありがとう!!」
俺たちは笑い合う。お互いを強く出し決め合ったまま。
*****
「デュドネにしばらく拠点を移される…。ですか。」
受付の人は残念そうに言った。
「私としては、このシルヴェストルでもっとご活躍をされてほしかったのですが。…しかし、仕方ありませんね。冒険者の方のゆく道を縛ることなどできません。デュドネのギルドには私から連絡をしておきますね。ご武運をお祈りしております。」
そうして俺たちは、十日分の食料と水と、ポーションや魔道具などを買い込んで、旅立つ準備を整えた。
デュドネの王宮まで乗合馬車を乗り継いで約2週間。
Sランク初の任務は、その馬車たちの護衛だった。
受付の人が気を利かせて俺たちの乗る馬車から依頼を取ってくれたらしい。
乗合馬車には一緒に荷馬車もついてくるので、魔物のほかに盗賊に襲われる危険がある。
俺とニコラで絶対任務を達成して、いいスタートを切りたいと思う。
そして、待ってろ優月、俺、お前の力になりに行くよ!
剣を握りしめ、俺たちは乗合馬車の後部座席に乗り込んだ。
一昨日、Sランクに昇格した俺はニコラにご褒美をもらったのに、さらなるご褒美をもらっていた。
それはこの町一番(と俺は思っている)の料理屋さん、「満陽亭」で、俺の大好物の牛ヒレ肉のステーキを奢ってもらっている。
「本当に、シュリはそれが好きなんだな。」
ははっと笑い、ニコラは白身魚のポアレを食べている。その食べ方は本当に綺麗で、気品すら感じさせる。流石は元王宮騎士の部隊長クラス(と勝手に思っている)だ。
俺がじっと見つめていると、ニコラはこちらをちらりと見て、ポアレを切り分け、付け合わせのソースを付けた後、俺の口元に差し出してきた。
俺はそれを口に入れ、咀嚼する。
お・美味しい♡外はカリカリ中はふわふわ、魚自体についたソースと、付け合わせのソースの味の相性も抜群で、最高♡
「美味しかった♡ありがとう!ニコラも、あーん。」
俺はステーキを食べやすい大きさに切ると、ニコラの口元に差し出した。ニコラはそれをぱくりと食べる。
「うん、流石にシュリの好物なだけあるな。とても旨いよ。」
ふわりとした笑顔にキュンキュンと胸が高鳴る。
さらにじーっと見つめていると、ニコラは不思議そうにした。
「どうした?欲しいものでもあるのか?私にできる範囲なら何でも買ってやるぞ?」
それを聞いて、俺は慌ててぶんぶんと顔を横に振る。
「い…いいよ!そう言うんじゃなくって、ニコラの食べ方綺麗だなって思って…。」
するとニコラが『ああ』と
「王宮騎士になるとき、最低限のマナーを覚えるようにと、教え込まされてな。それのせいだろう。」
なんでもない事のように言った。
「か…格好いい♡」
思わず本音が口からこぼれると、
「こんなことでもシュリの関心を誘えるなら、覚えておいてよかった。」
と、ニコラは笑った。
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「ねえ、今度はどこ行くの?」
満陽亭を出て、シルヴェストルの街を歩く。街の人たちは皆、冒険者によって守られているこの場所を安心して生活している。
店で物を売るおじさんやおばさんたち、それを買っている人、欲しいおもちゃが買ってもらえなくて駄々をこねてる子供までいる。
わいわいがやがや。
2年もお世話になったこの街を離れるのは寂しいが、俺には優月を助けるって自分で決めた使命がある。
皆さんお世話になりました。
そういう気持ちを込めながらニコラの後をついていくと、ある武器屋にたどり着いた。
「ニコラ、ここって…。」
この街一番の職人さんたちが集う人気の武器屋だ。ただし、本当に腕がいいため、予約は1か月先まで埋まっている。でも、もしかして…。
「シュリの防具を頼んでおいたんだ。もう、ボロボロだろう?武器はまだ状態がよかったが、防具はもう寿命だ。私から贈らせてくれ。」
そう言って、店の中にどんどんと入っていく。
ニコラが予約番号を言うと、レジカウンターにいる店員さんが、
「ひと月ほど前にご予約いただきましたニコラ様ですね?もちろんご用意できております。フィッティングルームにお越しください。」
と案内を始めた。
「ああ、その防具は彼のものなんです。…シュリ、身体に合うか見てもらってきてくれ。」
ニコラは俺を促す。店員さんはにこりと笑い、
「では、こちらへ。」
と案内してくれた。
出来た防具を着ると、なんでこんなに?って思うくらい俺の体にフィットしている。
試しに身体を曲げたり伸ばしたりしていると、すごく動きやすい。それに、軽い。けど頑丈そうなのが見て取れた。胸元の中心部にはダークブルーの石が付いた魔道具が付いている。魔道具入りなんてすっごく高いんじゃないのか?
「お客様、いかがでしょうか?お直しするところなどございませんか?」
店員さんがにこやかに尋ねてくる。
「い、いえ!すっごく着やすいです!ありがとうございます!!」
「それはよろしゅうございました。では、胸元の魔道具についてご説明いたします。こちらは、魔物や他者からの一定以上の攻撃に対して、自動的にシールドを張ります。魔力充填石に1回の魔力完全充填で最高5回は使えますので、ご活用なさってください。」
ひえっ!
「また、補修サービスも受け付けております。お時間はいただきますが、3年以内なら1度のみ無償で修理いたしますので、いつでもお気軽にご来店ください。」
ひええええええっ!
説明が終わり次第、俺はニコラの元に戻る。
ニコラは俺を認めると、にこやかに笑って手招きした。
俺はニコラにぴったりとくっついて、
「あの…これ…あの…俺、こんなの払えないかも…。」
とひそひそ話をした。
「では、お会計です。」
俺はびくりと身体を震わす。すると、するりとニコラがレジカウンターへ行き、
「180万レオノールとなります。」
「わかった。ここから引いてくれ。」
と、さらりと通帳の役割も果たしている冒険者証を渡し、簡単に支払ってしまった。
「ニコッ…ニッ…ニコラさん???!!!」
俺は思わずニコラに駆け寄り、彼の衣服を引っ張る。
よく見れば、ニコラの防具も変わっている。こちらに魔道具はついていなかったけど。
「心配するな。ちゃんと払えるし、まだまだ蓄えはある。」
そーいう問題だけど、そーいう問題じゃないんですが⁉
「Sランク、改めておめでとう。私からのお祝いだ。受け取ってくれ。」
かああああっっっっっこいいいいい!!!
じゃない!
俺はニコラを引っ張って、店を出る。そして店の裏手で彼に詰め寄る。
「い…いくらなんでも、これはもらいすぎなんですが!!!」
すると彼は俺の身体を抱き寄せ、
「私はそうは思わない。私にとってシュリは私の命よりも大切なんだ。君に対してやってあげたいことは、これでも足りないぐらいだ。どうか、これくらいは受け取ってほしい。」
そう祈るように俺に説いた。
…どうしよう。こんな立派なもの貰ってるのに。そんなことより、ニコラの愛情がずっとずーっと嬉しい。
俺はニコラを抱きしめ返して、すりすりと彼の胸の中で擦り寄り、彼の顔を見上げる。
「…わかった。ありがとう。本当はすごく嬉しいよ。この防具、大切に使わせてもらうね。」
そうしたら、ニコラは本当にうれしそうに笑って、俺の頭にキスを落とした。
「シュリ。改めて言う。Sランク昇格おめでとう。」
「うん、ありがとう!!」
俺たちは笑い合う。お互いを強く出し決め合ったまま。
*****
「デュドネにしばらく拠点を移される…。ですか。」
受付の人は残念そうに言った。
「私としては、このシルヴェストルでもっとご活躍をされてほしかったのですが。…しかし、仕方ありませんね。冒険者の方のゆく道を縛ることなどできません。デュドネのギルドには私から連絡をしておきますね。ご武運をお祈りしております。」
そうして俺たちは、十日分の食料と水と、ポーションや魔道具などを買い込んで、旅立つ準備を整えた。
デュドネの王宮まで乗合馬車を乗り継いで約2週間。
Sランク初の任務は、その馬車たちの護衛だった。
受付の人が気を利かせて俺たちの乗る馬車から依頼を取ってくれたらしい。
乗合馬車には一緒に荷馬車もついてくるので、魔物のほかに盗賊に襲われる危険がある。
俺とニコラで絶対任務を達成して、いいスタートを切りたいと思う。
そして、待ってろ優月、俺、お前の力になりに行くよ!
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