ずっと、君を探してた。

さひこ

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1章:まっさらな旅

Sランク!!

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次の日の朝、準備を整えた俺たちはグールのいる村はずれの墓へとたどり着いた。
魔物は夜目が利くものが多い。グールは普通に村を作り社会生活をしている者たちもいると聞くから、昼夜に弱点などはない。むしろ不利になるのは夜になった時の俺たち。陽の高いうちに奇襲をかける!!

墓場に着くと、グールが2体いるのが見えた。木に隠れ周りを見渡すが、仲間らしい他の3体はいない。よし、ねらい目だ!!
俺は腐乱した遺体が乱雑に打ち捨てられ、悪臭漂う墓場になるべく音を立てないようにつっこんだ。
そして、後ろを向き、ちょうど食事をしていたグールを一体、後ろから切り捨てた。
ぼとり。と、グールの頭が吹き飛ぶ。…よし、1体撃破だ。
「あんたああああ!!」
顔色のないと言えるほど白い肌の綺麗な女性の容姿の存在が叫ぶ。
女のグール、グーラーだ。
グーラーは旦那と思われるグールを殺されたことに激高して、俺にその鋭い牙を向けた。
が、剣でそれを受け止めるとそのまま力を込めて素早く振りきり、口から上を切って落とした。
これで2体目。残るは3体だ。

剣についた血を払い落とし、布で拭く。
するとグーラーの声に気づいただろう残りの3体が駆け寄ってきた。グール2体にグーラー1体だ。
そして、先ほど屠った2体の死骸を見つけると、
「貴様、冒険者か…!よくも2人を…。殺す。喰い殺す!!」
俺に向かって一斉に飛びかかってきた。




*****



「一斉に襲われた場合に、3体以上倒す方法?」
昨夜のこと、俺はニコラにくっついてベッドに寝ころびながら、彼の経験を聞いてみた。
「そうだな。Aランクの時には、私は「聖」以外のほぼ全ての属性の魔法が使えるから、そのうちのどれかで1体以外を足止めして1体ずつ確実に倒していたな。」

がくり。

そうだった。ニコラは剣でも強いけど、魔法が使える魔法騎士だった。魔法の使えない俺には無理なアドバイスだ。
俺がそのことに絶望していると、
「だが、そうだな。もしAクラス当時、私が魔法を使わず倒すとすれば…。」



*****




ニコラの意見でちょっとズルだけど…。
俺は襲ってくるグールたちから背を向けた。そしてダッシュで走り出す。
「うわああああああああ!!」

・・・・・・・・・。

「に…逃げたぞ、あの冒険者!!」
「捕まえるわよ!今のうちに嬲り殺さなくっちゃ!!」
「おう!!」

グールたちが俺を捕まえようと森の中に入った。よし!

森の中を俺は出鱈目に見えるように走り逃げるふりをする。すると
「うわっ!」
どさっと音がして、グールが転んだ。
「大丈夫か⁉」
「ああ、石かなんかに躓いたみてーだ。そんなことよりあの冒険者を逃がすな!」
「わかったわ!!」

そうこう話しているところに、さっと近づき、グーラーを幹の陰に引き込み…。
「ぎゃああああああ!!」
心臓を一突きにした。そして同時に、村で借りた短剣で喉をかき切る。

「おい、お前⁉」
グールがまた一人近づいてくる。

俺はグーラーをさっと投げ捨て、その陰に入る。
「お前!!」
グールはグーラーが殺されたことに気づいているのかいないのか、その体を抱きとめる。
俺は後ろに回り込み、その後ろからグーラーごとグールの心臓を突き刺した。
「ぐはっ…!」
グールはグーラーを抱きしめたまま絶命した。俺はその様子を見て、何とも言えない気持ちになったが、まだ気を抜いてはいけない。最後の1体が残っている。

辺りを見渡すと、俺が作った草を結んだ罠から起き上がったグールは、この状況を見て呆然としていた。
「は…?お前ら???」
俺はそれをすかさず、一気に駆け寄り最後の1体のグールの首を落とした。




*****




「罠?」
俺はちょっと驚く。
「ああ、大体シュリはいかに強くなろうとしているとは知っていても、すぎる。命をかけた戦いなのだから、もっと罠や魔道具などを使って自分に有利に戦うべきだ。」
ニコラが額を合わせて「めっ」って怒っている。

でも…って思っていると、さらに
「例えばバジリスクやコカトリスなどはどうだ?毒をまき散らされたらひとたまりもない。剣だけで戦うには無謀な魔物だ。バジリスクは視線を鏡で跳ね返し、コカトリスは兵糧攻めにしたりするという方法が昔からとられているだろう?まさかシュリ、そいつらと戦うときも突っ込んだりしたのか?」
ギクリとする。けど、バジリスクもコカトリスもA+の冒険者2人組以上で倒すことを推奨されたので、俺は他の冒険者に助けられて、なんとか奴らを倒すことに成功している。その時には確かにそんな戦い方してたなー…ってうっすら覚えている。

「シュリ、Sランクは魔法が使えない者はパーティーを組んだり、魔道具や罠などを使って戦わないと危ない任務ばかりだ。仲間と力を合わせることをもっときちんと学べ。魔道具などを使うことを覚えろ。そうでないと、ユヅキ様との冒険は私が許さない。」
「ええええええええ!!」
そんなあ、と俺はがっくりしながらも、ニコラの話をきちんと聞くことにした。




*****



「…そろそろだろうな。」
その時私は墓地の入り口でシュリの帰りを待っていた。
グールは人の死肉を喰う化け物という反面、人間のように社会活動を営んでいる、人に近い魔物だ。
そのことで彼が心痛めることが起きていないといいが。

そのことに落ち着かないでいると、急にふわりと甘ったるい花のような香りが香ってきた。
「お兄さん、おひとり?ここは危ないわ。グールが出るって村で騒がれているのよ。」
見ると、そこには世間で美しいと言われる類の女が立っていた。
肌は白く、体は折れそうなほど細い、しかし胸は体に似合わず大きい。男が好きそうな要素を込められているような容姿だった。
「私もね、ここに恋人だった人の亡骸が埋まっているの。幸い化け物に食べられていないようで、お墓参りに来たのだけれど…。冒険者さんがどうやら退治してくれたようだし、よかったわ。」
女はひとりでべらべらとしゃべるのを止めない。
「けど、彼が亡くなってもう数か月。一人じゃそろそろ寂しくなってきたの。…お兄さん、良かったら私に少し?」
私は溜息を吐き、
「いや、断る。」
そう言った。すると女は目を見開き、その後顔を舌に俯かせ。
「素直にくればをさせてやったものを…!」
と、本性を見せ、襲ってきた。やはりグーラーだな。もう1体いたのか。
「私にはなど要らない。」
すっと剣を握ると、ある気配に気づいてすぐにしまった。

「こんの阿婆擦れがあああああああ!!!」
ザシュッ。と後ろからグーラーの胴体と足が離れる。
全力を込めたのか、今までで一番の攻撃力だな。ああ、嫉妬なんてなんて嬉しいことを。
グーラーはぱくぱくと何度か呼吸をしようとした後、絶命した。
剣を布で拭いた後、カチンとしまう音が聞こえる。

「ただいま。ニコラ!」
シュリは私に向かって飛びついてきた。それをふわりと受け止める。ああ、可愛い。
「おかえり。シュリ。Sランク到達おめでとう。」






*****




俺たちは無事依頼を終えることができたので、村を後にした。
村長をはじめ、村人の人たちにはとても感謝された。
これで、少しでも大切な人の身体を蹂躙された傷が癒えるといいんだけれど。




そして俺たちはギルドにたどり着いた。
ドキドキしながら受付の人に依頼達成の報告をすると、
「おめでとうございます。Sランク到達ですね。次の依頼までしっかり身体を休めてください。」
そう、声をかけてもらえた。冒険者の登録証がSランクのものに変わる。これで、世界中どこでも俺はSランクとして行動できる。
俺がSランクを目指してたのは、優月のサポートのためでもあるが、Sランク冒険者の行動範囲だ。この登録証は世界を渡り歩くときのパスポートのような役割も持っている。これで優月にどこにでもついていける。

今回の報奨金を受け取り、俺は俺たちの泊まっている宿へと戻った。
すると、ニコラが待っているのかと思ったのに、いない。荷物もない。…何で⁉

もしかして、俺に飽きた?…いや、本当はもっと前から愛想つかしていたのに、俺がSランクに上がるまで面倒見てくれてた⁉不安と悲しさで涙が出てくる。
俺がさめざめと泣いていると、ドアが開いた。

「…⁉シュリ⁉なんで泣いているんだ⁉」
俺はニコラを認めると、直ぐに彼の胸に飛び込んだ。
ニコラは真っ蒼になっている。

「うえええええ。ニコラ、帰ってきてくれた。良かったよぉぉおおお!!」
それですべてを理解してくれたのか、ニコラは俺を抱き上げて、ベッドまで運んで腰を下ろした。…俺を抱き上げたまま。

「荷物がなかったから、心配させたんだな。すまない。私がシュリを置いていくなんて何が起こってもあり得ないよ。」
ちゅっちゅっと、俺の涙を吸って舐めとる。正直くすぐったいけど、俺はそれも嬉しくってされるがままになっている。
「ところで、今まで何してたの?」
「いや、…内緒だ。また、明日行こう。」
ニコラが俺の額に口づける。?いったい何だろう。でも、きっといいことっぽいから、明日を楽しみにしてよう。

「じゃあシュリ、先にシャワーを浴びておいで。ゆっくりしてきていいからな。」
俺はドキリとする。
「う・うん。」
そして、身体を隅々まできれいに洗って、ゆっくり湯船につかった。

バスルームを出ると、ニコラが武器の手入れを終わらせていたところだった。
「ニコラ、空いたよ。次どうぞ。」
ニコラは俺にいつもの柔らかい笑顔を向け、
「ああ、ありがとう。油でベタベタなんだ。ちょうどよかった。」
そう言って、バスルームへ向かった。
「ゆ…してね。」

すごくドキドキする。でも、いいって言ってたもんね。
そして俺はそわそわしながらニコラを待った。


「シュリ、あがったよ。風呂は3日ぶりだからすごくスッキリした。」
髪を乾かしながらニコラが俺の座っているベッドの横に座った。
俺はタオルをニコラから受け取って、髪を拭いてあげる。ニコラはキモチそうにしている。

髪を乾かしながら、俺はあのことをついに言うことにした。

「あのさ…ニコラ。俺がSランクになったらご褒美欲しいって言ったの、覚えてる?」
ニコラは微笑みながら
「忘れるわけないだろう?…けど、本当に何なんだ?私にしか叶えられないこと…。」
俺は、キュッとニコラの来ているバスローブを掴む。そして胸の中にそっと入り込んで、腕を回す。
「うん、ニコラにしか…ニコラとしか叶えたくないことだよ。あのね…あの…。」
「???」
ニコラは普段は察しがいいのに、こういう時察しがよくない。俺は頑張って言うことにした。

「あのね、俺、ニコラとえっちしたい。さ…最初にしたときみたいに朝までずっと。」
そう、俺たちは5回えっちしてるけど、最初の時以外はニコラがセーブしてくれて、ニコラが1回したら終わっている。それでも幸せだけど、実は俺、自分が思ってたよりもエッチみたいだ。

「ねえ、叶えてくれる?」
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