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星降る丘で

お友達になりました

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「グウェン~!!」

魔導騎士コースの訓練場に亜莉透の声が響き渡った。

「アリス!!」
グウェナエルは駆け寄ってくる彼女を笑顔で迎え、両手を握った。
「きゃっ!グウェン!!」
「すみません。アリスがあまりに可愛くて。」
ぼふっと音が鳴るかのように亜莉透の顔が赤く染まる。
―――ああ、食べてしまいたい。
そう言う思いを抱えながら、グウェナエルは必死に我慢した。まだ自分は13歳だ。彼女も同い年。そう言うことはまだ早い…。そう、心の中に狼を住まわせながら。

「あの、差し入れの回復薬です。試飲したから大丈夫です。お疲れでしょう?飲んでください!」

すると、亜莉透はピンク色の液体が入った瓶を空間圧縮袋カバンから取り出し、グウェナエルに差し出した。
受け取った薬を手にしたままじっと見つめる。
「あの、苦くないです。試飲したので。甘いものが苦手でなければ…。」
彼はまずい、心配させてしまった。と、彼女に笑顔を見せ、答えた。
「いえ、甘いものは大好きですよ。ただ、もったいないなと思っただけなので。…いただきます。」
コクリと飲む。…美味しい。しかも、回復量が並じゃない。これは上級薬だ。そう思いながら最後の一滴まで飲み干した。

「ふう、疲れが身体から吹き飛びました。ありがとう。…美味しかった。」
そう言って、グウェナエルは唇をぺろりと舐めた。
亜莉透の顔がまた赤く染まる。…これは、やはり食べてもいいのではないか?
いや、しかしやっぱり早いと己を律する。
なんだ。これではクライヴのことをとやかく言えないじゃないか。
本当に愛する人には自分の我慢くらい何てことはない。相手に笑っていてほしい。自分の近くで安心していてほしい。…自分の欲望で汚したくはない。
愛を知って、グウェナエルは一つ心の成長ができた気がした。



一方そのころアルヴィアとクライヴはというと、こちらもアルヴィアが回復薬を渡し、クライヴにお疲れさまと言っていた。
「あのね。アリス嬢のレシピを横で見ていたから、僕もフルーティな味の薬を作ってみたんだ。飲んでみてくれる?」
今日も今日とて上目遣いで見上げてくる己のに、内心悟りを開きながらもありがたく受け取った。
飲んでみると確かにいつもと違う。甘くて、まるでジュースの様である。
「確かにこれは美味しいですね。」
一瞬ぱあっと喜びの顔を見せたアルヴィアだったが、直ぐにしゅんと顔を曇らせる。
きっと、悔しかったのだろう。自分が出来れば発見したかったとありありと顔に描いてある。だから、正直に言った。
「ですが、俺はいつもアルヴィア様がくれる薬の味の方が好きですよ。爽やかでスッとした、甘すぎないあの味が。」
心からの感想だ。
瞬間、アルヴィアの顔がぱあっと華やぐ。
「じゃあ、これからはいつもの味のものを持ってくるね!もちろん、効能はもっと上を目指して!!」

―――ああ、可愛い。
彼はこんなにも自分を想ってくれている。
その気持ちに応えることはできないけれど、どうかずっと幸せであってほしい。その姿を誰より近くで見届けさせてほしい。

クライヴは、この天使のような人の笑顔を誰にも壊させたくはないと願っていた。
それが矛盾していることだと、心のどこかでは感じているものの。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そうこうしているうちに、他の生徒たちが帰り支度を始めていた。
自分も帰ろうと、アルヴィアはクライヴの帰り支度を待つ。そんな中、亜莉透はアルヴィアに話しかけてきた。

「ねえ、アルヴィア君。…あなたのお姉さんのことなんだけど…。お姉さんって本当に優しい人?」
どういうことだろう。しかし、午前の時とは違ってなんだかしょんぼりしている。
「優しい人ですよ。誰にでも分け隔てなく接していて、自慢の姉です。」
そう言うと今度は肩を落とした。
「…そうよね。私が勝手に決めつけちゃっただけで、彼女とお話しもしていないのに、私ったら…。」
何だか深刻そうである。アルヴィアが困っていると、亜莉透は深々と頭を下げてきた。
「お願い、アルヴィア君。お姉さんに私を会わせてくれないかな。」
「えっ…。」
「私どうもレオン殿下に嫌われてるみたいなの。だから3年生クラスに上がりにくくって…。それに、アドリーヌさんにコンタクトってどうとったらいいか分かんないし…!」
レオン殿下の姉への溺愛っぷりは目を覆いたくなるほどだった。甘い。とにかく甘い。砂糖の上に蜂蜜を掛けたかのように甘すぎる。
そんな彼を怒らせる方法とすれば、姉との逢瀬を邪魔されることか、姉自身を傷つけることだ。
でも、今日1日関わって、亜莉透が姉を傷つけるような人間ではないと思ったアルヴィアは、そういえば『聖女』が現れた日は姉は殿下とお茶会を楽しむ、土曜日だったと思った。きっとそれだ。我が義兄になるであろう人ながらに、心の狭い人(姉に対してに限り)だと思う。
仕方ないと思い、アドリーヌの住む王都邸へ彼女を招くことにした。

「いいですよ。姉さまの住んでいる我が家へご案内いたします。」
アルヴィアがそう言うと、亜莉透は嬉しそうに手を握って来た。
「ありがとう、アルヴィア君!ねえ、よかったらお友達になってくれない?」
アルヴィアはいきなりのことにびっくりしたが、了承した。
「もちろん。よろしくお願いしますね。アリス嬢。」
「やだ、『アリス』でいいわよ!もちろん敬語もなし、ね?」

そして、そんな和やかなムードであった2人に声がかかる。
2人は自分の愛おしい人の元へと駆け出していった。
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