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星降る丘で

思いつく聖女様。

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神殿預かりとなった『ヒロイン』…日向ひむかい亜莉透ありすは焦っていた。
尋問と言う言葉にも驚いて固まったが、レオンがまさか自分にあんなにも冷たい眼差しを送ってくるとは思ってもみなかったのだ。
しかも、王城ではなく神殿預かりになってしまっては、レオンと会える確率はどんどんと減ってゆく。
何故だろう。私は『ヒロイン』ではなかったのか。
本当なら彼とお城で愛を育めていたはずなのに…。

そう、彼女も『転生者』であった。
事故死してしまった後に、この世界へ生まれてきたのだ。
ちなみに名前の『日向亜莉透』は『星降る丘で』のヒロインのデフォルトネームである。
だから自分が『ヒロイン』であると気づけた。

この国の第一王子であるレオンや数々の攻略対象者たちはヒロインに甘かったはずだ。
レオンともあの城の中庭で出会い、直ぐにヒロインを聖女と認め、打ち解ける。
それなのに、事もあろうかあの悪役令嬢のアドリーヌと一緒に居、彼女をかばってヒロインである自分を威嚇した。

「あーもう!何でなのよ!!」
彼女はイライラとしながら、今、自分が通されている豪華な特別室のソファの上でクッションを抱きしめた。



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くりっとした大きな瞳、濡れ羽色の髪は長く艶々で、手足もスラリとしていた。
誰がどう見ても美少女だった。

それなのに、目の前の彼はそんな彼女に目もくれず、自分を第一に動いてくれた。
それだけでアドリーヌは泣きそうなほど嬉しかった。

けれどレオンは怒っていた。
せっかくのアドリーヌとのお茶の…いや、彼女との愛を確かめ合う大切な時間を余所者に邪魔されてしまった。
もうあの不審者には近付かまいと心に決めた。
たとえ彼女が聖女であっても、だ。
我ながら心が狭いと思うが、そんなことよりもアドリーヌを愛でていたいと思うのであった。
何せ、アドリーヌは美しさも人柄も女神のようだ。
そんな彼女に出会えた自分はなんという幸福者だろう。
レオンは彼女ただ1人を生涯愛しぬくと決意しなおした。



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日はそうして流れてゆく。
一向に自分を迎えに来ないレオンに、亜莉透はやきもきしていた。
神殿での生活は何不自由ない高待遇だったが、何せせっかくヒロインに生まれ変わったのに、ときめきがない。
本来なら今頃彼に愛を囁かれ、ラブラブルートを辿っているところであったはずだったのに…。
そして亜莉透は考えた。

ーーーそうだ。きっと彼女のせいだ。
本来悪役令嬢で自分が来たときからレオンに見向きもされなくなるはずのアドリーヌが何かをしたのだ。

何かって?
決まっている。

彼女も『転生者』でレオンから見放されないように回避をするように動いたのだ。

「おかしいと思ったのよね。ヒロインである私が見向きもされないなんて!きっとあの女がレオンをたらし込んでいたのよ!」
だとしたらとんだ悪女である。

「仕方ないわね。私がレオンの目を覚させてあげる!そして彼と結婚するのは私よ!」

亜莉透はにっこりと微笑み、この後の行動について考えた。
明日からが楽しみで長い夜になった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「授業の前に、今日から特別にこの学園に通うことになった者を紹介する!」

今日もぴったりとクライヴの隣に座り、授業を受けようとしていたアルヴィアは驚くことになった。

「彼女の名前はアリス・ヒムカイ。この国で正式に神殿預かりとなっている聖女様であるが、学園に通っているときは一生徒として対等に扱う。皆もそのつもりで接するように。」

「亜莉透です。よろしくお願いします。」

黒髪の美少女がにっこりと笑う。クラス中の…とくに男子は目の色を変えて喜びの声を上げた。

(うふふ、こうでなくっちゃね。やっぱり私って美少女なんだわ!)
亜莉透は心の中で不敵に笑う。だがしかし、これは序の口。もしかすれば彼との薔薇色の学園生活が待っているのかもしれないのだ。
(ああ~楽しみ!待っててね、レオン。すぐに私があの悪役令嬢から引き離してあげる!)


亜莉透がそう1人でほくそ笑んでいる頃、アルヴィアは焦っていた。
(どうしよう、姉さま。聖女様ヒロインが乗り込んできちゃったよ!)
あのレオンに限って姉から離れることはないと思うが、この聖女様が引っ掻き回す可能性は大いにある。せっかくの平穏を乱されたくないアルヴィアにとっては正直勘弁してほしい。しかもこの聖女、大変な美少女だ。
もし、もしもクライヴが彼女に惚れでもしたら…。

………。

(ぼ…僕は悪魔になってしまうかもしれない。)

アルヴィアはクライヴに意を決して聞いてみる。

「ねえ、クライヴ。彼女のことどう思う?」
「え、すごく面倒なことになりそうだと思います。」

………。よし。

「駄目ですよ。アルヴィア様。あんな面倒そうなことに自分から突っ込んでいっちゃ。」
「だ…だよね!うん。僕もそう思う!」

アルヴィアはほっと一安心して、授業を真面目に受けることにした。
したのだけれど…。


「ねえ、隣空いているかしら。」

面倒ごとというものは突っ込んでくるものである。
アルヴィアもクライヴもにこりと笑い、「どうぞ。」と言った。
せめて、授業くらい静かに受けたかったから。
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