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星降る丘で

学園に入学します。(僕たちが)

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かくして、『互いの愛を深め合おう大作戦』は功を奏した。
時に王都までアドリーヌが足を運び、そのことが余程嬉しいのか、暇を見つけてはレオンはアドリーヌにルロア領まで会いに来た。
そして彼らは両家の親に、学園の卒業と同時に結婚させてほしいとまで言い出して、大変な騒ぎ(いい意味で)となった。

何だやっぱり心配することなかったじゃないか。いい迷惑だよね。
とは、アルヴィア談である。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「へえ~。ここがアレクサンドラ学園かあ。」
「流石王都。大きく立派な建物ですね。」
アドリーヌの告白から3年が過ぎ、アルヴィアとクライヴは13歳になった。
貴族や学業・剣術・魔術が優秀な平民はこの学園へ通い、己の才能を高め、将来に役立つ知識や力を手に入れることができるようになっている。
ちなみに、長兄のフェリクスはもう卒業してルロア領で父のサポートをしている。そして2つ上の姉、アドリーヌは今年3年生。先輩になる。

「では、部屋へ参りましょうか。」
「うん。」
二人して荷物を運びこむ。必要なものは王都で買えばよいと、父はお金を多めに持たせてくれたが、それでも荷物はアルヴィアにとって重かった。自分よりも多く荷物を持っているのに、それを軽々と運ぶクライヴの背中を見る。
2年前は頭半分だった身長差は、気が付けば頭1個分になっていた。従者として領で働いていたから、筋肉もある。
領内の騎士たちに頼んで剣術の稽古をしていたところも見たことがある。それだけじゃない。彼が魔導騎士コースを選択しているのは知っている。誰でもない、アルヴィアのために。

彼…クライヴは主にアルヴィアの友人としてルロア家へ連れてこられた。アルヴィアの父が路頭を迷っていた少年を拾って帰ってきたのだ。
アルヴィアはあの日のことを今でも鮮明に覚えている。だって、彼に出会って…初めて恋を知った日なのだから。
そしてこの主従関係が始まったのもその日。
『友人』と言う待遇を彼は断り、『アルヴィア』の従者になりたいと彼は答えた。
何故だかは分からない。友人なら対等でいられるのに、従者ではいつでもアルヴィアを優先させ、自分のことは後回しにしなければならない。アルヴィアの『命令』には従わなければならない。こういう風に重い荷物を持つのだって気を利かせてやらなければならない。
そこにはいつだって隔たりがあって、アルヴィアはそれが嫌だった。だから、決めたのだ。


「アルヴィア様のお部屋は、ここですね。」
男子寮の5階建ての中で、3階の角部屋。なかなか大きく、贅沢な造りの部屋だ。
アルヴィアの家は王都に別邸を構えている。実際、入寮制度は無いし、姉はそこで暮らしている。
けれど、それではいつもと同じ。メイドや執事たちに甘え、いつまで経ってもクライヴと同じ位置には立てない。
だから、なるべく自分のことは自分でしようと彼なりに考え、入寮することにした。
でも…。

「なんでベッドが2つもあるんですか。しかもくっついて。」
「えへ。」

クライヴはその場に荷物を下ろし、部屋の地図を見て、廊下を挟んだ隣の部屋を見た。
そして信じられないものを見たかのように、
「使用人部屋に、ベッドがない。どういうことです…?」
「だって、使用人居ないじゃない。今はいらないよ。」
その言葉に唖然とし、そしてアルヴィアの肩を掴んだ。
「なら、あの2つのベッドは?片方は貴方として、もう片方は誰が使うんです?」
「もちろんクラ…。」
「あー!!!すみません。俺も部屋に行かないと。自分のことは自分でなさるんでしたよね。荷物、置いていきますからあとは…」
ごゆるりと…。そう言い切る前にクライヴは自分のコートの裾をぎゅっと引っ張る感覚を覚えた。
振り向くと、上目遣いのうるうるとした瞳で見上げてくる、天使がいた。

「ここ、だよ。クライヴの部屋。父さまにお願いして一緒の部屋にしてもらったの…。」
クライヴは眩暈がした。こんな扇情的な顔をして、自分じゃなかったら襲われていたかもしれないんだぞ。と。

彼は気を静め、自分の主へと向き直った。
「駄目でしょう。こんなことでお父上のお力をお借りしては。それに、自分で何でもしたかったんじゃないんですか?俺がいたら意味ないでしょう。」
するとアルヴィアは慌てふためいて訴えてくる。
「違うんだよ!自分のことはちゃんと自分でするから!だから、クライヴには僕を友人として対等に接してほしいんだ!!」
顔が真っ赤だ。相当焦っているのか、もしくは…。そう考えて、クライヴは思考を停止した。

「分かりました。貴方がそこまで言うのなら、なるべく頑張ります。…口調は長年染みついてしまったので変えることはできませんが、それでもいいなら。」
伝えると、相手は花が咲くように笑顔になる。
「本当に?ありがとう!じゃあ、この学園生活でもよろしくね!クライヴ!!」
そう言って、アルヴィアはクライヴに抱き着く。多分の下心も込めて。
クライヴはこのの暴走をどこまで止めれるかに今後悩まされることとなる。
そう。彼は、アルヴィアは『互いの愛を深め合おう大作戦』を今度は自分で起こそうとしていた。
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