言ノ葉怪盗部～八駒宙の喪失譚～

だから一緒に

四

いつにも増して、真摯な瞳を向けてきたさとりに思わず息を飲み、笑九は持っていたおにぎりを置くと見つめ返した。らつきも同じようで、神妙な顔で耳を傾けている。
「実は宙の母親は四人目でな、今の母親は実母の妹なんだ。原因は父上の浮気性にあるらしかった」
「浮気……」
「ああ。宙が女の好意を受け取れないのはそこにあるんだろう。父上の不倫を見つけた宙はその都度妻になった女に告げ口をしていたそうだ。そこまでしたのは子どもながらに、実母以外の女を母と認めたくなかったからだが、実母の妹と結婚が決まったとき、久しぶりに顔を合わせた実母に言われたんだ。あんたなんか産むんじゃなかった、あんたが私の幸せを奪ったんだ、この狼少年が、とな」
「そんなの責任転嫁じゃん」
口を尖らせて抗議するらつきに、頷いて賛同した。
「宙はそのとき初めて正直者が馬鹿を見る、と思い知ったと言っていた。同時に女たちに酷いことをした拭い切れようのない罪悪感も自覚し始めたと話してくれた。……これが、私と出会う前にあった、女を信じられない理由と、嘘をつくようになった理由だと私は踏んでいる。その二つが、宙を自殺にまで追い詰めたんだ」
「自殺っ？」
笑九は思わず立ち上がって大きな声を上げてしまった。慌てて座り直し、さとりを下から覗き込んだ。
記憶を思い起こしているのか、彼は遠くの方に視線を投げかけ、その出会った日のことを、話し始めたのだ。


高校から少し離れた場所にある山頂、そこによく宙は来ていた。四年前の話だから、彼がまだ中学二年生のときだ。街を見渡せる頂上は開けた場所で、小さな柵もあったため危険も少なく、登山者の休憩エリアとして使われることが多い場所なのだが、それは日中の話で、夕方にもなると人は全然通らなくなった。
それを見越して宙はよく来ていた。頂上で何をしていた、というわけではない。夕焼け空を眺める宙の隣に、一匹の狸が近付く。
「何だ、お前、また来たのか」
切り株に座った宙の隣に行けば、決まって笑顔で見下ろしてきて、魚やら、パンやらとご飯をくれた。