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自分らしく

五十

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笑九は間もなく捕まえられ、生徒たちに掴まれてしまう。羽交い締めにされた後、一人の男子生徒がマッチを持ち出してきて、自身の服を脱ぎ始めるとそれに火を付け始めた。
「なに……何してるのっ?」
「死んだお前を葬ってやろうとしてるんだよ」
黒銀に視線を向けると、至極楽しそうに顔を歪めていた。嫌だ。怖い。目の前で続々と放り投げられる服の山が大きな炎へと変貌する。
人一人飲み込めるほどの大きな炎になったとき、羽交い締めしてきていた男と女が歩き始めた。
「やだ、やだっ! 助けてー!」
その叫びと共に、突然、身が軽くなった。目の前の炎も消え、周りに生徒がいなくなる。夕日がすっかり沈み、黄昏時が笑九をただ一人取り残した。
そう思っていたが、振り向くと、男が立っていた。肩まで伸びた黒い髪を結んだ、赤い瞳の男。その男の顔が、あの日の宙と重なる。色は違えど、そっくりだった。
何より、魂が、彼だと叫んでいた。ずっと会いたいと思っていた彼がそこにいて、身体が無意識に反応して血流がぶわりと湧き上がった。顔が熱くなり、紛れもなく、彼なのだと思い知る。
「宙……。宙、私だよ、笑九だよっ」
遠くの方で星が瞬き、月が僅かに光を宿す。宙は背を向けた。
「忘れた」
「宙!」
「誰だか知らないが、今の内に逃げるんだな。俺の幻覚もそう長くは保たない」
宙は柵の上に足をかけると、笑九を一瞥する。その瞳は優しくて、あの日見た優しさが灯っていた。
「宙……。お腹が、空いたよ」
精一杯の笑顔を作って、笑九は呟いた。
宙は目を伏せ、俺もだ、と呟き、棚を足蹴にして、月に向かって飛躍した。
「忘れてないじゃん……」
目頭が熱くなってしまい、涙が溢れ出た。それは、二人の合言葉のような、愛に変わる言葉で、忘れたなんて宙らしい嘘を残していった。
突然周りが騒がしくなって、振り向くと大きな木はなくなっていた。嘘ノ葉を溢れさせていた生徒たちはそれぞれ脱力し、泣く者や、自分の手を見つめる者、怒り出す者や、目の前の炎に気が狂ったように笑い始める者までいた。
黒銀帝音はいなくなっていた。
その代わり、黒いフードの男だけが横たわっていて、笑九は駆け寄り、フードを脱がし、目を見張った。
神上らつきが、穏やかな寝息を立てて眠っていたのだ。

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