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自分らしく

三十一

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「あれ、笑九も、帝音も帰らないの?」
杏が不思議そうにしていたが曖昧に笑みを返すだけの笑九を一瞥し、黒銀が答えた。
「ええ。笑九さんがアリス姿をもう一度確認をしたいと言うから」
「あ、そうなの。あたしは先に帰るね、またね」
特に疑う様子もなく、杏が教室を後にし、ついに黒銀が向かい合ってきた。
「さ、笑九さん。アリスにでも着替える?」
「デタラメ言わないで。いつものようにみんなと帰ればよかったのに」
黒銀は肩を竦め、笑九に手を伸ばした。思わず身体を硬直させるが、馬鹿にしたように、頭を軽く叩かれる。
「誰にも言わなかったんだね、偉いえらーい」
いつもの黒銀の優しい笑みだが、あの日の黒銀のようにも見え、笑九は悪寒がして手を払い除けた。
「どっちも本当のあなたなのね」
「ん? 俺はこっちが素だ。女でいる方が都合はいいからな」
「ううん。どっちもあなただよ」
「何を言うかと思いきや。反発のつもりか? それくらいの挑発、俺は乗らない」
「挑発じゃない。この会話にオチなんてないし、ただ思っただけ。どれも本当なのに、これは違うあれは違うと拒んで、本当はあなた、何になりたいんだろうって」
黒銀は目を見開くと、教壇に寄り添っていた笑九の横に手を飛ばした。勢いのいい音が鳴り、思わず肩が揺れる。咄嗟に瞑ってしまった目を開け、黒銀を上目に見返すと、目を見開いて怒る彼女と目が合った。
「お前は随分半妖怪と共にいたから勘違いをしてるようだな、俺は何かになる必要なんかない。もう完璧だからだ。中途半端なあいつらと一緒にするな」
「じゃあ、どうして嘘ノ葉を? さとりと同じ、妖怪になるための力が欲しいからじゃないの。それとも他になりたいものが」
突然、両頬を掴まれた。そのせいで言葉は阻まられてしまう。冷たい視線に射抜かれた。
「宙は生きている、という嘘ノ葉を言ノ葉にしてやろうか」
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