言ノ葉怪盗部～八駒宙の喪失譚～

自分らしく

二十三

なのに、どうして、認めた途端、終わりへ向かっていくのだろうか。恋心が落ち着いていき、宙はまたどこかで生きて、ひょっこり帰ってくるのではないかという怠惰に支配されていた。
スマートフォンまで返されたのに、いったいどうやって帰ってくるのか。その自問自答は無駄でしかなく、認めたせいで、恋心が急速に萎んでいっている不安に苛まれてしまう。
チャイムが鳴った。机の下から顔を覗かせると、窓の外で雄大な青空が広がり、雲が流れていっていた。


昼食は杏、黒銀と摂った。二人は思いのほか少食だった。杏はパン一つと元々だが、黒銀はささみサラダのみと、お腹の足しにならなそうなものだった。
対して笑九は母に作ってもらった弁当だが、その二人より三倍多い量を軽く食べ終えると二人は目を丸くした。
「なんか……前より、笑九、食べるようになったよね」
僅かに離れたときを覆すような笑みで杏は口にした。実のところ、杏と食べるのは久しぶりで、緊張していたのだが眼鏡の奥の瞳は優しく、こっそりと安堵した。
「食べるの凄い好きだもん」
「確かに笑九さんの食べっぷりは見ててとても気持ちがいいわ」
控えめに笑ったのも束の間、扉の方で黒銀を呼ぶ声がした。見ると顔を赤くした男子生徒が彼女を待っている。ごめんね、と可愛いウインクを残して彼の元へ向かった後ろ姿を見つめ、教室を後にした後も視線が外せられなかった。
「いいなあ、たぶん告白だよね。杏もたまにされてるもんね」
思わずぽろっと零してしまい、しかも気安く杏と呼んでしまったことに気付き、どぎまぎしてしまったが、杏は気にする様子もなく、買ってきたコーラを飲んだ。
「好きな人と結ばれなきゃ意味ないわよ」
ギクリと、した。教室内でした喧嘩を思い出して、身体を硬直させるが、杏はそれに気付くとため息混じりに笑った。
「そんな顔しないで。あたし、もう八駒先輩のことは終わったと思ってるの。告白したこともあったのよ、あの人の卒業式のときにね。振られちゃったけど」
「それからもずっと、好きだったんでしょ？」
恐る恐る聞くが、肩を竦められた。