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隣には、いつも
四十八
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――別れは終わりじゃないよ、笑九。
頭の中で浮かぶ、明朝体の文字。それは浮かんでは消え、新しく形を成していく。
――所詮ネットだと今でも思うよ。だけどさ、俺、お前と出会えたからリアルでも頑張って生きていきたいと思ったんだ。この空の下で俺たちは生き合っているから。
――私も。あのね、三度の飯より宙と話すことが楽しかったよ。
――何だそれ。……お前のこと、見たことないけど想像出来ちゃうよ。心の中でがさつで食い意地を張りながら生きてる。
誰かの笑った顔が浮かぶ。私だって、想像出来ちゃうよ。私の中にも居着いている、静かで、優しくて、傷つきやすい誰かが。胸が痛い。何かが込み上げてきている。頭の中で浮かぶその文字が心を叩く。
笑九は四階の廊下を駆け抜けた。手を伸ばすが捕まえられない。
うさぎは屋上への階段を軽やかに走っていって、笑九もその後を、更にその後を、生徒たちが追いかけていた。
開け放たれた扉から風が吹き抜け、ついに立ち止まる。
――さあ、時間だ。笑九。
うさぎは柵の前で一度立ち止まり、振り返った。
青い瞳がくるりと光を回して輝く。まるで作り物のような瞳が、今度は波を立てて揺れる。
――時間を設けなきゃ、依存した俺たちはいつまでも離れられないだろ?
「待って!」
手を伸ばしたときだった。
――別れは終わりじゃないから。
うさぎは柵を越え、空に飛び込んだのだ。ちょうど、うさぎの瞳とよく似た空だけが視界に残った。
笑九が駆けていくのをさとりは偶然見つけた。二階に登ってきたときだ、さとりはらつきの元へ向かおうとしていたのだが、嬉しそうな笑九に惹かれて振り向く。その後をぶつかった男子生徒が追いかけた。気にすることもなく……むしろ、聞こえていないのかとさえ思えてしまうほどにただ走っていく異様な姿を追いかけずにはいられなかった。
笑九はそんな様子で次々に人にぶつかっていった。いつの間にか人集りが彼女を追いかけ、やがて屋上にたどり着き、ぞろぞろと笑九を先頭に広がった。
屋上は閉めていたはずだ。鍵は私とらつき、それから宙しか持っていないはずなのに。疑問を口に出来ないまま、前へ進んでいく笑九を見つめる。
頭の中で浮かぶ、明朝体の文字。それは浮かんでは消え、新しく形を成していく。
――所詮ネットだと今でも思うよ。だけどさ、俺、お前と出会えたからリアルでも頑張って生きていきたいと思ったんだ。この空の下で俺たちは生き合っているから。
――私も。あのね、三度の飯より宙と話すことが楽しかったよ。
――何だそれ。……お前のこと、見たことないけど想像出来ちゃうよ。心の中でがさつで食い意地を張りながら生きてる。
誰かの笑った顔が浮かぶ。私だって、想像出来ちゃうよ。私の中にも居着いている、静かで、優しくて、傷つきやすい誰かが。胸が痛い。何かが込み上げてきている。頭の中で浮かぶその文字が心を叩く。
笑九は四階の廊下を駆け抜けた。手を伸ばすが捕まえられない。
うさぎは屋上への階段を軽やかに走っていって、笑九もその後を、更にその後を、生徒たちが追いかけていた。
開け放たれた扉から風が吹き抜け、ついに立ち止まる。
――さあ、時間だ。笑九。
うさぎは柵の前で一度立ち止まり、振り返った。
青い瞳がくるりと光を回して輝く。まるで作り物のような瞳が、今度は波を立てて揺れる。
――時間を設けなきゃ、依存した俺たちはいつまでも離れられないだろ?
「待って!」
手を伸ばしたときだった。
――別れは終わりじゃないから。
うさぎは柵を越え、空に飛び込んだのだ。ちょうど、うさぎの瞳とよく似た空だけが視界に残った。
笑九が駆けていくのをさとりは偶然見つけた。二階に登ってきたときだ、さとりはらつきの元へ向かおうとしていたのだが、嬉しそうな笑九に惹かれて振り向く。その後をぶつかった男子生徒が追いかけた。気にすることもなく……むしろ、聞こえていないのかとさえ思えてしまうほどにただ走っていく異様な姿を追いかけずにはいられなかった。
笑九はそんな様子で次々に人にぶつかっていった。いつの間にか人集りが彼女を追いかけ、やがて屋上にたどり着き、ぞろぞろと笑九を先頭に広がった。
屋上は閉めていたはずだ。鍵は私とらつき、それから宙しか持っていないはずなのに。疑問を口に出来ないまま、前へ進んでいく笑九を見つめる。
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