言ノ葉怪盗部～八駒宙の喪失譚～

隣には、いつも

三十八

「そろそろ力尽きる頃かと思ってな。寝れば多少は妖力が戻るのだろうが、腹が減っては寝れもしないだろう」
さとりの声が遠ざかっていくように聞こえる。相槌を打つ元気もなく、顔を俯かせた。袋が動く音だけを聞き取る。
不意に香ばしい匂いが立ち込め、顔を上げると目の前にチーズバーガーが現れた。反射的に口を開けて顔を突き出した。口内にソースの味とハンバーガーとパン、チーズを潰した感触が広がる。座り直してさとりから貰い受けると恥ずかしげもなくがっついた。
「すっかりお腹空いてたんだね。ごめんね、らつき、和食の方が好きって聞いたんだけど、さとりが自分の好物を押し付けたかったみたい」
「人聞きの悪い言い方をするな。私は世界一美味しいものを」
「ポテトもあるし、テリヤキバーガーとか、他にもね」
「無視するな」
二人は言い争いながらも、机の上に料理を広げていってくれ、全部食べ尽くした頃にはチャイムが鳴って授業が始まっていた。
ようやく正気を取り戻したらつきが「ありがとう」と罰が悪そうに口を尖らせたのを見て笑九が微笑む。その顔は晴れ晴れとしていて、最後に会ったときの笑九を思い出して安堵した。
「盗んでもらったんだね」
素直な子は素直でいるべきだ。頷いたのを見て、笑みが零れる。
「こうまでなって家に帰る気にならないのか」
穏やかな時間を遮って、心外にもさとりに呆れられてしまう。しかし言い分は最もなのだから言い返せないでいると、らつき、と笑九が呼んだ。
「私のスマホ知らない？」
「スマホ？　家じゃないの？」
「ううん。金曜日にここに来てからずっとないの。だからここで落としたのかなって思ったんだけど」
「いや、見てないよ。それに、馬鹿狸に渡したと思うけど……」
さとりに視線を向けると目を逸らされてしまう。不可解に思い、机から降りて詰め寄るが不自然なくらい目を合わそうとしない。
「笑九のスマホどこやったのさ」
「し、知らない。自分でなくしたんだろ」
「あのとき、お前に渡したよね。まさかどっかで落としたんじゃないだろうね」
「それは違う！」