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忘れないで

十一

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――もうすぐで会えるね、宙。
他にも言いたいことがあるのに、どう言えばいいのか、何を言えばいいのか、今の気持ちを表すのに最適な言葉を忘れてしまっていた。ただ、言葉にならない昂りを覚えて。
――そうだね。会おう、笑九。ネットの世界じゃなくて、このリアルの世界で。
ずっと思い描いていた。画面に触れると感慨深い気持ちになってしまう。
この画面の向こうの人と会いたいといつから思っていただろう、もう覚えていないが、電波を伝ってではなく、お互いを瞳で認識し、そのためなら旅に出たって、生まれ変わって鳥になっても構わなかった。そんな馬鹿げたことを考えるくらいには宙と一緒に生きたかったのだ。
彼の言葉に惹かれた。
彼の言葉に体温を感じて、人間を感じて、スマートフォンの画面の向こうで、表情を感じ取れた。
私たちはそこから抜け出そうとしたのだ。インターネットではこの関係があまりにも重いから肌身で感じようとしていたのに。
なのに、死ぬなんておかしいに決まっている。
中庭に飛び出すと、杏の言う通り葉が伸びた草むらの中に弁当箱が捨てられていた。茶色い弁当箱が無残にも中身を飛び散らせている。
「勿体ない……」
弁当箱を持ち上げ、母が作ったおにぎりや卵焼きが形を崩しているのを見つめる。秋という肌寒い季節が不幸中の幸いだったようだ。蟻が集っていないことを確認して、口に運んだ。
「美味しい。お母さんは天才だなあ」
草がついても砂がついても味が衰えない。僅かに食べづらいが。
不意に影が落ちてくる。
見上げると、太陽を遮って青年が見下ろしてきていた。
頭部に丸い耳をつけた青いニット帽、その下はオレンジ色の髪をして、癖毛なのか外に跳ねている。茶色い色をした垂れた目は彼の気前の良さを際立たせるが、着崩した制服がヤンキーみたいだ。
「美味しいか?」
青年は笑九の横に座ると、落ちている卵焼きを手に取った。
「美味しいよ」
その言葉を信じたようで口に運び、うんうんと頷いて美味しそうに食べている姿を見て、笑九は笑みを零し、おにぎりを食べ始めた。
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