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忘れないで
九
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あのとき、杏はどんな顔をしていただろう。
そのまま時間ばかりが過ぎていった。
いつもは許してくれる杏だが、今回ばかりは尾を引き、話しかけても無視される。
つい一週間前までは笑九を中心に回っていたクラスだったのに、今では誰一人話しかけてこない。
そのまま四限目の体育に突入するのだが、ついに魔の手が身近に伸びてきていたことを思い知る。
五十メートル走を測っていると、到達点で、古典的にも足を伸ばされ、勢いよく転んでしまったのだ。
擦りむいた膝を一瞥してから振り向くとクラスメイトの二人がにやにやと笑っていた。
「気持ち悪。見ないでよ」
「愛しの八駒先輩にでも助けてもらえば? 死んでるけど!」
笑い声が上がり、既に走り終えた者達も聞いていたため、くすくすと笑われる。
笑九は立ち上がって二人の前に立った。
「生きてるよ。宙は生きてる」
「私たちの心の中にってか?」
似ても似つかない笑九の声真似で返され、小さかった笑い声が一際大きくなった。その中に杏を見つける。杏は気弱に笑い、笑九と視線が合うと真顔になって口をぱくぱくさせた。何を言っているのかは分からないが、目はまだ怒っていた。
大勢の中で杏と揉めたことがきっかけになったらしい。
出発地点にいる先生に促され、この時間はそれで済んだのだが、教室に戻ると笑九の制服がなくなっていることに気付く。制服を探し回っている傍らでクラスメイトたちはにやにやとまたも笑っていた。
「愛しの八駒先輩が持っていったんじゃない?」
「次はあんたの生身を持っていかれるかもねえ!」
ゴミ箱にも、机の中にも、ロッカーにも、ない。耳障りな笑い声が混在する中、別室で着替えていた男子生徒たちも戻ってきてしまって着替えるタイミングを失ってしまう。
仕方なく席に着き、弁当箱を取り出そうとするのだが、これもまたなかった。
「弁当は中庭だよ」
よく知った声に耳打ちされ、俯いていた顔を上げた。
そのまま時間ばかりが過ぎていった。
いつもは許してくれる杏だが、今回ばかりは尾を引き、話しかけても無視される。
つい一週間前までは笑九を中心に回っていたクラスだったのに、今では誰一人話しかけてこない。
そのまま四限目の体育に突入するのだが、ついに魔の手が身近に伸びてきていたことを思い知る。
五十メートル走を測っていると、到達点で、古典的にも足を伸ばされ、勢いよく転んでしまったのだ。
擦りむいた膝を一瞥してから振り向くとクラスメイトの二人がにやにやと笑っていた。
「気持ち悪。見ないでよ」
「愛しの八駒先輩にでも助けてもらえば? 死んでるけど!」
笑い声が上がり、既に走り終えた者達も聞いていたため、くすくすと笑われる。
笑九は立ち上がって二人の前に立った。
「生きてるよ。宙は生きてる」
「私たちの心の中にってか?」
似ても似つかない笑九の声真似で返され、小さかった笑い声が一際大きくなった。その中に杏を見つける。杏は気弱に笑い、笑九と視線が合うと真顔になって口をぱくぱくさせた。何を言っているのかは分からないが、目はまだ怒っていた。
大勢の中で杏と揉めたことがきっかけになったらしい。
出発地点にいる先生に促され、この時間はそれで済んだのだが、教室に戻ると笑九の制服がなくなっていることに気付く。制服を探し回っている傍らでクラスメイトたちはにやにやとまたも笑っていた。
「愛しの八駒先輩が持っていったんじゃない?」
「次はあんたの生身を持っていかれるかもねえ!」
ゴミ箱にも、机の中にも、ロッカーにも、ない。耳障りな笑い声が混在する中、別室で着替えていた男子生徒たちも戻ってきてしまって着替えるタイミングを失ってしまう。
仕方なく席に着き、弁当箱を取り出そうとするのだが、これもまたなかった。
「弁当は中庭だよ」
よく知った声に耳打ちされ、俯いていた顔を上げた。
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