博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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「生体磁気の、測定装置……ですか?」

 なんだろう、言葉の響きに嫌な予感がする。私が『生体』って着くと身構えるようになってしまったたのは、おそらく博士たちのせいだ。

「まあ、こちらはプログラムが完成しておらんがの!」
「磁気ってのは、あの磁石がくっついたりはじいたりって奴ですよね?」
「その通り! 磁気にはN極とS極があることは知っとるじゃろ?」
「ええ、まあ」
「生体にもその磁石的なものがあるのじゃよ」
「誰かさんの体内磁石はまわりまくってるのよねー」
「だまらっしゃい!」

 本当、あのあだ名つけた斉藤さんは許さないからな!

「しかしの、そこと少し掘り下げてみるとじゃな……」

 そこから、磁気に関しての講義が始まる。
 うっわー!! 数学が、たくさん、そうたくさんだ!
 あー!? なんでベクトルとかでてくるんですか?
 アルなんとかやら、フェライトとか、急にいろいろ専門用語が出始めるの、なんで!? ここは日本語圏でしょう!?

 え、え!? なんで呪文みたいな数学が出てくるんですか!?
 やめてください! 本当、やめて!!
 もう! これ以上は無理です!!
 ってことで、私は先程使ったばかりの、聞き流しスキルを使うとしよう。

 多用しすぎると『実は話聞いてないよねー』といった悪印象を与えてしまうもろ刃の剣だが、ここでは自分の身を守ることが先決である。

 えーっと、なにが良いかな?
 ああ、そうそう、最近妹の親友ちゃんとお話しする機会があって、妹が学校でやらかした話を思い出す。

 昔の私ほどではないが、妹もちょっぴり、いや結構な感じで有名になりつつあり、その暴走は手がつけられない予感がある。
 が合う理系の子が、妹を色々たぶらかして連れまわすらしく、お弁当パーン事件のほかにも、公園で周囲にとどろくようなことをやらかして、大急ぎで逃げてきたとか!?

 どうもね、妹と親友ちゃんの危機管理能力は働いていたらしく、山の上にある小さな公園で引き起こしたその事件は、誰もいなかったから事なきを得たらしい……。

 というかさ、突っ込もうとした私に嬉々として報告するんじゃない!
 仕方なく説教したのだが、うーん、効果がねぇ……あんまり効いてなさそうである。
 あのね、いくら私でもさ、ニュースとかになったらかばえないんだぞ!?
 炎上とかだってあるしさ、もう本当にひかえてくれないかな!?

 今の内から『いつかやると思ってました……』とコメントする練習しておこうかな?
 さめざめとした表情は苦手だけど……。

「つまり!」

 おっと、結論らしい。ちゃんと聞かなくては。

「磁気にはN極とS極しか存在しない。しかし、磁力線には固有の波長があることを突き止めたのじゃ!」
「……ほう?」

 波長? えーっと、周波数的なあれですかね?
 ラジオって、FM・AMでポイントを合わせれば聞こえるってやつ?
 え、磁気もそういうのがあるって事?
 そんなん他の人が研究してないのかね?
 いや、独自理論てやつ!?

「……つまり、どういう事ですか?」
「……よく、解んないわ」
『この発見はさ、僕もちょっと懐疑的なのさ。実物をみるまで、ありえないと言い切ってたさ』
「なにをいう! ちゃんと再現できたじゃろうが!!」
『うん……だけどさ、再現できるのは博士だけだろう? ……論文にはできないぜ!』

 ご友人、それってトンデモ理論って奴じゃないですかね?
 てか、実現可能だけど、理解不能ってとても怖いんですが!?
 私の内心の変化に気を留めず、博士は嬉々として続ける。

「ええか? 人からは生体磁気とよばれるものが出とるのは既知じゃ。しかし、これが金属を引き寄せることは稀とされておったじゃろう?」

 まれ……でも起こるものなの!?
 いやいやいや、考えてみても変じゃん!
 人の身体を冷蔵庫にみたてて、マグネットをはっつけることはムリでしょ!?

「そこで、調べたところデマじゃった! しかし、儂はその生体磁気、並びに磁力の研究に関して、大いなる発見があったのじゃ!!」
『データは僕が集めたのさ。てか、ネット上には少ないね』
「そして、磁気がS極とN極の関係をつくる波長を特定したのじゃ! これを計測するのは非常に困難であり、少なくとも通常の計器では不可能じゃ!」

 ……話がよく解らない。
 そもそもの話、なんで磁気が関係あるんだろう?
 というかそれが、天使の輪と何の関係を持っているのだ?

 解らないことは残念さんと思われても聞く! というのが、私の長所であり短所である。特に博士に対しては、聞いてから後悔するのが常であったが、しかし、私は自分の習性を止められない。

「あの、ちょっと気になったんですけど、なんでその複雑怪奇なことしてるんですか? 遠回りすぎません?」
「……複雑、かのぉ?」
「はい。えっと、その、目的は何でしょう?」
「ひみっちゃんはリニア理論はしっとるか?」
「リニアって、リニアモーターカーでしょ? ……電磁力で走……え!?」
「そう! ひみっちゃんの頭を浮かぶ、天使の輪を完璧に表現するために、生体磁気応用のリニア理論をもちいてみたのじゃ!」
「おう……なる、ほど……」

 やりたい事はわかったので、頷きはした。だが、なんでそれを実現しようとしたのか、さっぱりわからない!

 えっとですね、言いたいことはたくさんあるんですが、天使の輪って絵とかに出てくる、何か高貴そうな美人さんの頭の上に浮いてるあれですよね?

 まず、第一に、誰も完璧なものって、だれも見たことないじゃん!!
 博士見たことあるの!?
 どうせ絵画でしょ!? 
 もしかしたら巷にあふれているCGとかですか?
 それでも、どう頑張ったって絵の再現は無理じゃないですか!?

 さらにですよ!?
 どれだけいろいろ頑張っても、ちょこっと周りを見回したら、まれによく見かけるくらいの容姿である私に、博士が言う完璧とやらの輪っかを乗せても、ごくたまに見かける、ちょっとオカシイ感じのひとになるだけじゃないですか!?

 それならば、昔のコントを検索したときに見かけるような、はりがね天使で良いじゃないですかね!
 どっちにしても私は着けないけどさ……。
 
 それにしたって、リニアモーターカーの理論でしょ!?
 伝記とかで浮く感じの!!
 それを頭の上でやるって正気なんですか!?

「えっと、その、ねえ博士……完璧って……天使の輪とか、見たことあるの?」

 あ、妹も同じことを思ったらしい。訪ねてみても博士はにやりと笑うだけであった。

「それについては問題ないぞ! 想像はすべての創造に繋がっておるからの!」
「あ、はい……」

 うわ、やっぱり妄想だった!!

「ゴールがあれば問題ない! 今回クリアするべき大きな課題は二点じゃ!」

 博士は立ち上がり、つかつかとホワイトボードに何かを書いた。たぶんなんかの絵なんだろうが、ゲジゲジがダンスしている感じになっている。
 計算式は綺麗に書けるのになんでだろう……。しかし、博士は楽しそうである。

「まず生体磁気と波長合わせられる、吸引力と反発力を生み出す軽量物質の追及が一つ目」

 指を立たせ、こちらにふんぞり返っている博士に、私は嫌な感情がちらりと渦巻く。

 というか、波長合わせってのを、ちょっと考えても……その人の生体磁気を計測して、分析して、それに引き合う何かを作り出すという、面倒な工程がいっぱいあるんじゃないですかね?
 出そうと思った疑問は、博士の声で出せなかった。

「そしてもう一つ! 超伝導ちょうでんどう効果こうかによる恒常的こうじょうてきな外部電磁線の遮断しゃだんじゃ!」

 へ……ちょう、でんどう!?
 え、えっと、なに? 何を言い出しているんですかね?

「えっと、うん、言ってる意味わかんない」
「博士……いま、何かとっっっっても嫌な言葉が聞こえましたが、そのすべての意味が解りません!!」
『おや? 麗しの君は超伝導理論を知らないのかい?』

 聞いたことがある気がするが、うーん、詳しく覚えてるわけじゃない。けど、電気的な抵抗がなくなってしまう夢の現象ですよね?

 でも、あれってすっごい冷やさないとダメなんじゃなかったっけ?
 たしか……何かの物質を冷やしまくるとかそんな感じにすると、電気の抵抗がなくなるから、『すっごいことができるよ!』とか、多分、電気代がすっごいお安くなるとか、こう、ふわっとした感じでは覚えてますよ。
 ただ、口に出すのがはばかられたのは、いっそう強くなっていく、嫌な予感のせいである。

「おや、ひみっちゃんもいもっちゃんも知らぬのか? 氷の上で浮く磁石の映像を?」
「……わかんないわ」
「……えーっと、どうなんでしょうか? 見たとしても覚えてない、ですね」
「そうか……ふむ」
『色々と有用だけど今回の件に関して、とても簡単にいうと、他の電磁力の影響をうけなくなる点に、使うのさ!』
「そう! つまり、今回の発明は二つで一つなのじゃ!」

「ひみっちゃんの生体磁気の波長を得て、天使の輪をかたどった媒体ばいたいへ同じ波長の磁気を帯びさせる装置」

 博士は指を立て、ホチキスみたいなものを指差す。

「そして、他の電磁波の影響を排除するため、、ひみっちゃんに取りつくお洒落ポイントがこれ!」

 信じられないことを言いつつも、博士は金の輪を指差してにこりと笑った。
 あれ!? いま、常温で、超伝導を引き起こすって、言ったんですかね?
 それ、世界が渇望かつぼうしているっぽい、ものすご技術じゃないですか!!

「二つの発明により、輪は一定のポイントで浮遊し、頭でとどまるためにSとNを切り替えを常時行い、激しい回転によって発光するのじゃ!」
「……かいてん? はっこう?」

 なんか、ちょびーっと、嫌なワードが聞こえてしまった。
 輝く? 発光!? それに激しい回転……!?
 それ、このサイズで私の頭に乗っけておいて大丈夫なんですかね?

「つまり、この発明品は天使なひみっちゃんを輝かせる、聖なる象徴しょうちょうとなるのじゃ!!」

 博士は、白衣を大きくはためかせ、力強く宣言した。

「ー……」
「えーっと? うん、いまいち理解できないけど……磁石頭にのせる感じ?」

 うーむ、なんていうか、うーん!?

「博士、いろいろと聞きたいのですが……」
「うむ! どんどんきいとくれ! 何が聞きたいんじゃ?」
「えと……回転……するんですよね?」
「うむ! この回転こそがこの機構の要訣ようけつでの。発光と浮遊ポイントの維持に使われておる!」
『しかし、ちょっと回転数がものすごいよね』

 何というか嫌な予感がする……。

「ねえ、あたしちょっと気になったんだけど、それってどれくらいの威力があるの?」

 威力って何だろう? でも、私の聞きたかった率直を、妹が聞いてくれた。

「たいしたことは無いぞ!」
『回転数としては……そうだな! 20mmの分厚い鉄板に穴を開ける、ドリルと同じくらいさ! 博士にしては控えめかな?』
「ほう?」

 ご友人の言葉を受けて、私は表情が固まった。
 どうやら博士は私の頭へ、なんかもう鉄板へ物理的に穴を空ける程度の発光物体をせる気らしい。
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