博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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 妹とご友人が、例のゲームに関して意気投合しだした。
 私と博士は遠巻きに聞いている。

「あのさ、街の片隅にあるじゃん、雑貨屋さん! あれどうにかなんないの?」
『あれ最強だし、無理だね……初期配置でミスってるのさ! あの果物ナイフは世界を滅ぼすんだぜ』

 えと、意味が解んない。妹が好きなゲームって剣と魔法とかいってなかったっけ?
 果物ナイフと雑貨屋さんがどうやって世界にアプローチするんだ?
 どうも……私の認識と違う感じの世界を語っているようだ。

 まあ、私と博士はゲームはちょっとな人である。
 会社の名前を言われても、覚えられないんだよなぁ。
 ゲームタイトルも、なんか変な略されて意味が解んないし、聞いてて何が面白いのか解んないよ……。

 あ、でもね、ファンタジーに抵抗はないんですよ?
 私はこうみえて結構本を読むし、歴史小説もファンタジーはもちろん、漫画だって大好きだから、さまざまなジャンルがいけるんです。
 ただ、妹が楽しんでる感じのゲームは、携わる機会チャンスがほぼなくて……。

 妹の様子を見るに面白そうだと思うんだけど、集中して遊ぶ余裕よゆうもなかったよなあ……たぶん、私にとっては興味の沸かないコンテンツなのだと思います。

 そして妹ってば、これがまあ、びっくりするほどハマってるんですよね……。
 ときどきアヤシイ学会的な話題を嬉々として語るし、なんていうんですか?
 『歩数』とか、『苦痛を伴う縛り』とか、『改造』とか!?
 ちょっと引いちゃう感じのワードの数々、やめてくれませんかねぇ?

 そういった私の想いをよそに、ご友人と妹の話はさらに過熱し盛り上がる。

『レベルを上げて、物理を中心にすれば……』
「まってよ、レベル上げるための許可と認定試験で1時間かかるじゃん!」

 なんだろう? それ、同じゲームの話なんだろうか?

「どういうこと? レベルに試験って何? 遊びなのに試験があるの?」

 私の問いに、妹は首を傾げた。

「えっと、強くなるにためにはレベルを上げる必要があるの! その手続きが大変って話!」
「んー?」
『おや、麗しの君はゲームした事ないのかい?』
「えっと、ゲームはほとんどないんだっけ?」
「うん。そんな時間と興味が無かったよ」
『ふむ? なら、根底から説明がいるね』

 白カラスさんはおそらくご友人がとったであろうポーズをとる。
 そのあおり具合がイラっとくるが、白カラスさんがダンディなので……まあ、許してあげましょうかね?

『僕たちがやってるゲームはね、人の能力を数値で表すものなのさ! そして、ステータスを上げると強くなる!』

 そのへんは、まあ問題ないですよ?
 ただ、ちょっと気になる部分もあったので、突っ込んで聞いてみる。

「えっと、強くなってどうするんですか?」
『おう、そこからかい?』

 あの、白カラスさんが先ほどよりも結構な感じでリアクションをとっているんですが?
 そういうのも、トレースできるの?
 てか、なんかそのポーズ、さきほどよりもイラッと来るのでつつしんでほしいのですが!?

 私の怒気に気付いた妹が、ちょいちょいっと、肘をつついてから、抑えるようにと目くばせし、補足する。

「……あの、その、えっとね、より強い敵が倒せるのよ?」

 仕方なく、私は息を吐いて更に質問を加えた。

「なんで敵がいるの? そもそも、なんで倒しちゃうの? 捕まっちゃうよ?」
「いや、えーっと、その、敵が襲って来るからね!? まあ、やらなきゃやられちゃうよね?」

 妹の言葉に反応したのは博士の方である。

「む? それはかなり、物騒な世界なんかのお?」
「うん、まあ、物騒? だと思うわ」
『補足するけど、クリア目的は魔王討伐だよ! 魔王は異常に強いのさ!』

 魔王か……私は少し眉をしかめて疑問をそのまま言葉にする。

「いつも思うんですけど、何で魔王なんてもんがいるんでしょう? 悪いことするんですか?」

 妹とご友人(白カラスさん)は目を見合わせた。

「えーっと、最近は……魔王もいろいろだけど……」
『ゲームは、だいたい、ラスボスがいるんだよ? そして、魔王ってのが一般的だね』

 ふむ? ここ、おかしいでしょ!?
 まず、王さまなのに強いって意味が解んない!
 王さまってさ、闘うひまとかないじゃん!
 てか、ちゃんとしたリーダーって、仕事がいっぱいあるんだよ!?

 知り合いの社長さんとかも異様に働いててね?
 給料決めたり、会社の方針やら社員の教育やらを決めて、あとは他の社長さんとの付き合いなんかも含めて、やることがいーっぱいあるのだよ!?

 そして、国はもっと広い範囲になるじゃん!

 それだけの広い範囲を治めるんだから、裁判とか、税金とかから始まって、公共事業に国交などなどなどなど、お仕事は山積みでしょう!?

 えっと、魔王も王さまなんだから国とかあるんでしょ?
 国民の未来を決めるのがお仕事でしょう!?

 いろんな情報を集め、その上で正しい判断をする必要があって、必要なのは判断力、情報収集力、人材登用能力と人材育成能力あたりかな?

 それに強さまで求めるって、ちょっと可哀そうじゃない!?
 そもそも、王さまなら政治交渉とかで解決しないの!?

 あ、いや、私もファンタジー小説や漫画は読みますよ?
 武人の王さまってのも覇気があって、オラオラで素敵だとは思います。
 でも、やっぱりこの王さまが倒れちゃったら国がヤバイだろ!
 って、つい思っちゃってさ、違和感もあるのですよ!

 …………と、まあ思いつくままに浮かべましたが、これらは個人的な意見です。楽しんでる人には申し訳ないから、表立って言うつもりはありません。

 それに、仮に妹へ伝えたら『そういうもんだからしゃあないじゃん』って切って捨てられてしまうし、その通りだと思う。

 今思い浮かんだ思考は胸の奥へとしまい込み、私は言った。

「……まあ、主人公の血塗ちぬられた目的はわかりました。で、その手段で強くなるってことですかね?」
「ちょっと、とげあるわね」

 妹がじとりと睨む。私は視線をそらした。

「ふむ……儂なら、兵器をつくるかの? そうじゃ! 最近、ちょっとおもしろい構造式を……」
「駄目です! 博士は兵器開発に目を向けちゃダメ!!!」
「そうよ!! 博士!! 兵器はダメ!!!」

 私と二人が勢い込んで止めた。博士は怪訝けげんな顔をしている。

「な、なんじゃ? ちょびーっと……興味のある……」
「いいですか! その方面に手を出したら、私でも止められなくなるんですからね!? 別のナニカに知られたら大変なことになります!!」
「本当よ! この人は躊躇ちゅうちょするかもだけど、あたしは構わず通報するから!!」
『おおー、博士、愛されてるね』

 ……ご友人は本当、耳がただれてるんじゃないかな?

「ま、まあ、開発したいもんは他にもあるし、すぐに開発することはないが……」
『大丈夫さ、お二人さん。博士のジョークだよ! 麗しの君も妹ちゃんも、お茶でも飲んで落ち着くと良いさ』
「……はい」
「むぅ……」

 ご友人にそういわれるとなんかに落ちないのは何でだろうね?
 妹もふくれっ面している。
 しかし、私たちは言葉に従い紅茶を一口含んだ。そして、二人そろってほっと一息重なった。

「ふぅ」
「えと、話がずれたわね」
『そうだね、要約するとステータスが増すのは成長なのさ! 成長すると出来ることが増えるだろう!』

 おや、ご友人が言葉を選んでくれたみたいである。成長という言葉であれば私も納得できるだろう。

「ほほう? なるほど」
『ゲームってのはある一部分へフォーカスをするものさ! そして、今回の焦点は戦いがメインってことになる』

 フォーカスってのは焦点を合わせるとかそういった意味があったはずだ。具体的には、注目するって感じかな?
 コンサルタントとかやってる人は、結構使いたがるんだよねー。
 ただ、私は普段からあまり使わないから、急に出てくるとなんだっけ? ってなってしまう。

『そして、それをわかりやすくするために、数値化するのさ!』
「なるほど?」

 そういや、「ちから」とか、「すばやさ」だよね?
 これを英語読みにするとおしゃれっぽいかんじであり、妹もなんか時々「うっわ、でっくすが足りないー!」とか叫んでいる。
 でもさ、数字にしてしまうから、私の忌避感きひかんが仕事しちゃうんじゃないかな? 
 てか、この数値が低いとクリア不可能ってのは、テストで赤点とるかんじに似ているでしょう?
 そうなると、昔の赤点でおろおろわたわたしていた人たちを思い出して、心にぐっときてしまう。

 そんなことを考えていると、博士がうんうんと首肯している。

「たしかに、数値化するとわかりやすいの!」
「私、数字は苦手です」

 バッサリと切って捨てたつもりだったが、ご友人はさらに解説しようとしている。

『おう、麗しの君、数値ってのはだね……』
「駄目よ、数字に関して詳しくしたら、聞いてないのに聞いてるふりするから!」

 おや、妹さん、全くもってその通りですが、あまり公言することじゃないんですよ?
 何とか言いくるめようと私は言葉を探すが、今回は思いつかなかった。

「あの、なんというか、その、えっと」
「博士もご友人も、無駄はやめた方が良いと思うわ!」
「ええっ? あの、えー!?」
「むう……じゃあいもっちゃん、ひみっちゃんにはどういうべきじゃろ?」
『えと、数値以外で……むずかしいわね』

 あーなんだろう!?
 博士もご友人も言葉を探して困っているじゃないか!
 酷い風評被害ふうひょうひがいじゃないかな!?
 よし妹よ、いずれお返しするからな! 覚えててよ!

 復讐を誓った後に、私は自分自信をフォローする。

「えっとさ、聞いてないふりじゃないんだよ? ちゃんと聞いてはいるの。ただ、記憶にとどめることができないだけで……」
「それは、気の毒じゃのぉ……」
「うん……これはね、生まれ持った弱点だから優しくしたげて!」
『おおう……麗しの君……なんといえばいいか、その、頑張って生きてくれ』

 なんていうか、その、妹が真摯しんしに頼み込む感じを見せている。
 えと、えとえと、それでさぁ、博士だけじゃなく、ご友人(白カラスさん)にまで生暖なまあたたかい目でみられているんですがね!?
 私は軽く息を吐いた。

「おしわかった! こんどカラシ仕込む!」
「え!? 何で怒ってるのよ!? あたしフォローしたじゃん! というか、前自爆したの、忘れちゃったの!?」

 いや、自爆ではないぞ?
 どの程度のダメージか計っただけで……。
 ただ、それが思いのほか効いてしまい、悶絶もんぜつした姿を大笑いされただけだ。
 しかも指さしでっ!
 覚えてる。けど、私は忘れたい。

「あ、あれはテスト! そして自爆じゃないもん!!」
「そーーですかぁ?」
「ひみっちゃん……」
『麗しの君……』

 やめて! そんな目で見ないで!
 妹に罠仕掛けるヒトとか、それを自分で喰らって倒れるヒトとか、変な印象持たないで!
 うっわ、というか、白カラスさん!?
 その表情は何なんですかね!?
 父性? 憐憫れんびん
 どっちにしても、ご友人はいつか処しますね!

「でねでね……」

 少しの時間、さまざまな視線を向けた妹たちは、強引に話題を戻していく。
 そして妹とご友人、さらには興味しんしんの博士によるゲームの雑談は、私を置いて続いくのだった。
 ぐぬぬ……。
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