37 / 54
3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)
07
しおりを挟む
ネコ耳・ウサ耳をしっかりと抹消して、ちょっとだけ落ち着いた私たちは、元のソファーに腰掛けた。
避難していた白カラスさんはこそこそと戻ってきて、しっかりと私の肩にとまる。
『残念だよ、博士……僕はカワイイの新たな歴史を作れると思ったのにな』
「仕方あるまい、儂も残念じゃ」
別にね、対象を自動的に追尾したうえで、頭蓋骨に穴開けて脳と機械を直接つなぐ構造じゃなきゃ、勝手にどうぞと言えるんですよ……。
どっちにしても私、着けるつもりもないし。
ただねー……問題点を伝えても、問題だと思わないってのはもう、本当にもどかしい。
常識が通じないっていうのだろうか? 素人と専門家の違い? うーむむむ……。
『しかし、問題点は何だったんだろう?』
まだ言ってるよ……。
私は大きなため息と共に言った。
「はぁー……脳に機械を埋め込むという、構造が問題です……」
私の言葉を受けて白カラスさんは一瞬で机まで移動し、こちらに向き直る。そして言った。
『なぜだい? 誓って安全だと、言っているだろう?』
「それを自分に使えますか?」
『僕が着けてもカワイイが足りないじゃないか!?』
「そういう問題じゃないから! 自分で着けれるの?」
『麗しの君専用のものは着けれないね。まあ、僕がつけるなら専用にチューニングする必要があるよ。意味がないからやらないけどね!』
それで、どうやって信頼を得ることができるというのだ?
「安全って意味、知ってますか?」
『当然さ! だから安全だといってるじゃないか!』
「根拠レスだし、仮に根拠があったとしても普通にNGよ!?」
妹も追撃してくれる。
『おう……でも、うーん、問題ないんだよ、たとえば……』
それからご友人は様々な理屈を並べていく。
穿頭の際に用いるなんたらコーティングのテクノロジードリルがどうとか、同時に用いている局所麻酔の有用性とか、計算上の失敗確率は今の時点で1.32%という妙に具体的な数字!?
いや、シミュレーション段階でその確率な本来の失敗率はもっと大きいでしょうが!?
想定外って言葉、知ってますか!?
私は貴方たちが想定外です!!
友人さんが言葉を放つたびに、何というかもう余計に危うさが積み重ねられていく。
私たちの塩対応に憤慨したご友人は、なぜか数字を羅列しだした。
これ知ってる!
わけわかんなくするために、わざと考えさせないようにする、詐欺の手口だよ!!
私は耳をふさいじゃうから!
どうせ見られてないんだもん!!
てかさ、こんなことをするヒトだからこそ、私たちの不振はずんずん積み上がるのだ。
ここまで不安にしておいて、だれがその言葉を信じるだろうか!?
『つまり、最高のテクノロジーと、最強のカワイイが合わさった、至高のオシャレなのさ!!』
熱弁であるのだが、私は一言で切って捨てた。
「取り返しのつかないお洒落はいりません」
「失敗したらシャレじゃ済まないし」
『おう……そうかい……』
「ちなみに、失敗したらどうなります?」
『……たいしたことは無いよ』
「具体的には?」
『……大したことは無いさ』
…………えっと、タイシタコトナイ? えーっと?
私はちょっと絶句してしまう。
「うん、無理」
妹の一言で、私も言葉を返す。
「それでどうやって安心しろというんですか!?」
『そうか……それじゃあ僕は、説得する言葉を持たないな……残念だ』
なんだか哀れに落ち込む様子を見せているであろうご友人の姿を、白カラスさんはトレースしてるっぽい。
感受性豊かな私は、ちょびーっと、哀れさがわいてしまう……だがしかし!! 騙されてはいけない!
被害予定者は私たちであり、白カラスさんの先にいる人は、認定加害者なのだ!!
「仕方あるまい。ハードウェアに関する部分はお主の専門ではなかろう?」
『まあね、だからソフトにこだわったのさ! 感情に合わせたネコ耳の動きとか完璧なんだぜ!!』
「ふむ……それはちょっと見てみたいのう」
あの……人体に作用する医療機器(?)ですからね?
安全性こそこだわっていただけませんか!?
それを言ってしまえば、『そこは博士に任すぜ!』とかになりそうだから口には出さない。
ただ、ソフトってことはやはりプログラム的なアレが得意な人なのかな?
『やれやれ、仕方ないなぁクライアントの意向には沿うからね、動物耳型の補聴機能付きアクセサリの開発は打ち切るよ』
「はい、そうしてください」
「ああ……良かったぁ……」
妹もようやく息を吐いた。
上げていた肩がさがり……目元も柔らかくなる。そして一口紅茶を頂く。私もつられて一口舐めて、温かさもちょうど良いと確かめる。そのまま頂き、口の中に広がる上品な芳香を楽しんだ。
落ち着いてみると、今回の話は笑い話にできるだろうか?
それは、まあ、脚色なしでもできホラ話ならできるかな?
というか、アクセサリーに一生もんのリスクケアがいるって話、信じられます?
私たちにはムリだ。
ふと、ご友人が気が付いたように言う。
『というか翻訳AI、うまい具合に行ってるじゃないか!』
「それこそ、お主のおかげじゃよ」
『そうかい? でも、つまらん仕事だよ。AIの基礎さえつくれば、あとは学習させるだけだからね!』
「初期はひどかったじゃろ?」
『ああ、あれはすまなかったね。学習が進むまでは、ちょろっとアクシデントもあるのさ』
話が白カラスさんに移行したのかな?
……しかし、んー? AIって人工知能だっけ?
というか、この翻訳部分を作ったのが友人さんってことなのかな?
そういえばこのカラスさん、ものすごく流暢に会話ができているよね?
あっれ、これ技術的にすごくない!?
ほぼ同時に変換してるってことでしょう?
やはりご友人はプログラマさんってことになるんだろうが……しっかし、プログラマさんってこんな性格のひとって珍しいよなぁ?
私の知り合いにも本職の方が何名かいるのだが、こんな感じではなかった気がする……。
もしかして、私の知人は猫さんをいっぱいかぶっているのかな?
それとも、ご友人が異質なのか? ちょびっと気になる。
まあ知人は私と打ち解けていることもあり、毒と事実を会話に添えて、ちょっとドン引かれる人たちではあるのだが、人の痛みには敏感ではある。
こんど会った時には聞いてみたい気もするなぁ。
「あー紅茶美味しいわね」
妹の言葉で、私は考えに耽っていることに気が付いた。
もう少し頂こうか。ティーカップのハンドルを摘まんで一口いただく。
口の中で柔らかな香気が膨らみ、鼻と舌を楽しませてくれる。とっても幸せ。
「本当、良い香りだね」
私と妹が紅茶の風味に気を取られ、二人のやり取りを聞き流していると、気になるフレーズが出る。
『それでだ、博士……。羽の運動に関しては時間がかかるよ。生体からの信号操作がどうも手さぐりでね』
「仕方あるまい、エンジェルひみっちゃんとデビルいもっちゃんは完璧でなければいかん」
『資料は無いのかい?』
「研究縛りじゃからの!」
はて……? いま、なんて言ったの?
妹も、目を見開いてカップを置くとき音を立ててしまっている。
「えと……あの、なんの話です?」
「二人に天使の羽と悪魔の6枚羽をつける話じゃろ?」
「はっ!?」
「ええっ!?」
えっと、あれ!? あー!?
さっき壊したの、ネコ耳だけか!
何で忘れてたんだろう!?
そして、なんで開発してる感じになってるんだ!?
作ったら研究所燃やすまであるって、脅してなかったっけ!?
なんで、博士乗り気で、しかもご友人まで引っ張ってきて、えっと、ええ!?
「あの、どういう事ですか! 博士!?」
「つ、作らないんじゃなかったの!?」
「んー? 研究しちゃいかんと言われたからの。インスピレーションだよりで作っとるんじゃ! こういうのも斬新じゃな! なかなか楽しいぞ」
「……は!?」
「……え!?」
うっわ、私も妹も思考が飛んだ間抜けな返し方をしてしまった。
「どういうこと? 研究しばりって何よ!?」
「どういう……ことです?」
「ひみっちゃんが言ったのじゃろ? 『研究するな』とな! 仕方ないからインスピレーションだよりで作っとるのじゃ」
「はい!? 私は作るなと言ったつもりでしたが!?」
「いやいや! 研究するなと言ったじゃろ!?」
「……ぐぅ!?」
これは、いや、まずいまずいまずい!!
えーっと、要約すると博士がいまフィーリングで作ってるってことでしょ!?
今までの発明って、かなり分厚い研究の積み重ねから、訳の分からない事象を導き出してたじゃないですか!?
その積み重ねをすっ飛ばして、博士のヤマ勘によって、私たちのお体へアプローチする類のものを作ってるってこですよね!?
博士、ちゃんと私の言葉を守って!
いや、守ったの!?
というか、始めっから拒否している姿勢を汲み取って!
お願い! 私たちをモルモットにしないで!!
研究縛りとか訳の分からない方への律義さはいらないの!!
そもそも研究をあきらめて!!!
「ちょっと!! なんで、そんなことになってるのよ!?」
「博士、開発をやめてと言ったはずですが?」
「だからネコ耳・ウサ耳はやめたじゃろ? 翼の場合、脳へのアプローチは……そこそこでなんとかするぞ!」
「そこそこってどういうことですか!? てか、ちょっとでもダメ―!!」
「やっばい! あたしたち、何かよく解んない感じで人生のピンチじゃない!?」
私が頭を抱え、妹が青ざめている。そんなことを気にせず、博士はにっこにこで胸を張る。
「しかし、発想だけで作るってのはやってみると楽しいぞ! なかなか素晴らしいものが出来そうじゃ!」
「そんな方向でやる気出さないで!」
「もう本当、やめてください!!」
私たちが尋常でない気迫をもっての言葉は、博士たちに伝わっているだろうか?
「なぜじゃ? 天使の翼はぬくぬくじゃし、悪魔の6枚羽は、それぞれが自在に動かせるようになっておって……」
何故か博士は思案顔になって、言葉を探している。そして続けた
「んー、むー、脳の負荷が大変じゃったが、それを20%まで減らせそうじゃ!」
ああ、しまったー!!
目をキラキラさせて語る博士をみて、私は気が付いてしまう。これは博士が作る楽しさを噛みしめているではないか!?
考えながら何かするというゲームの縛りプレイ的な楽しさと、作るのが難しくてチャレンジ精神旺盛の部分が相乗効果を生み、テンションがやばいことになっているっぽい!?
今の博士を分析するに、人の制止が聞こえなくなっていたり、話を都合の良いように解釈したりを敢行してでも作成に当たる、情熱激燃え状態といえる。
これを放置してしまったら、あさっての方向へ突き抜ける悪夢となってしまうじゃないか!?
というか、トライアンドエラーが基本の縛りプレイにおいて、このエラーの部分を全て引き受ける感じになるのって、私たちでしょ!?
「……えと、えっと……それに関しては……」
言葉を探しつつ、私ははポケットのハンマーをしっかりと撫ぜる。
これは、いまの段階で何が何でも破壊しなきゃ!!!
避難していた白カラスさんはこそこそと戻ってきて、しっかりと私の肩にとまる。
『残念だよ、博士……僕はカワイイの新たな歴史を作れると思ったのにな』
「仕方あるまい、儂も残念じゃ」
別にね、対象を自動的に追尾したうえで、頭蓋骨に穴開けて脳と機械を直接つなぐ構造じゃなきゃ、勝手にどうぞと言えるんですよ……。
どっちにしても私、着けるつもりもないし。
ただねー……問題点を伝えても、問題だと思わないってのはもう、本当にもどかしい。
常識が通じないっていうのだろうか? 素人と専門家の違い? うーむむむ……。
『しかし、問題点は何だったんだろう?』
まだ言ってるよ……。
私は大きなため息と共に言った。
「はぁー……脳に機械を埋め込むという、構造が問題です……」
私の言葉を受けて白カラスさんは一瞬で机まで移動し、こちらに向き直る。そして言った。
『なぜだい? 誓って安全だと、言っているだろう?』
「それを自分に使えますか?」
『僕が着けてもカワイイが足りないじゃないか!?』
「そういう問題じゃないから! 自分で着けれるの?」
『麗しの君専用のものは着けれないね。まあ、僕がつけるなら専用にチューニングする必要があるよ。意味がないからやらないけどね!』
それで、どうやって信頼を得ることができるというのだ?
「安全って意味、知ってますか?」
『当然さ! だから安全だといってるじゃないか!』
「根拠レスだし、仮に根拠があったとしても普通にNGよ!?」
妹も追撃してくれる。
『おう……でも、うーん、問題ないんだよ、たとえば……』
それからご友人は様々な理屈を並べていく。
穿頭の際に用いるなんたらコーティングのテクノロジードリルがどうとか、同時に用いている局所麻酔の有用性とか、計算上の失敗確率は今の時点で1.32%という妙に具体的な数字!?
いや、シミュレーション段階でその確率な本来の失敗率はもっと大きいでしょうが!?
想定外って言葉、知ってますか!?
私は貴方たちが想定外です!!
友人さんが言葉を放つたびに、何というかもう余計に危うさが積み重ねられていく。
私たちの塩対応に憤慨したご友人は、なぜか数字を羅列しだした。
これ知ってる!
わけわかんなくするために、わざと考えさせないようにする、詐欺の手口だよ!!
私は耳をふさいじゃうから!
どうせ見られてないんだもん!!
てかさ、こんなことをするヒトだからこそ、私たちの不振はずんずん積み上がるのだ。
ここまで不安にしておいて、だれがその言葉を信じるだろうか!?
『つまり、最高のテクノロジーと、最強のカワイイが合わさった、至高のオシャレなのさ!!』
熱弁であるのだが、私は一言で切って捨てた。
「取り返しのつかないお洒落はいりません」
「失敗したらシャレじゃ済まないし」
『おう……そうかい……』
「ちなみに、失敗したらどうなります?」
『……たいしたことは無いよ』
「具体的には?」
『……大したことは無いさ』
…………えっと、タイシタコトナイ? えーっと?
私はちょっと絶句してしまう。
「うん、無理」
妹の一言で、私も言葉を返す。
「それでどうやって安心しろというんですか!?」
『そうか……それじゃあ僕は、説得する言葉を持たないな……残念だ』
なんだか哀れに落ち込む様子を見せているであろうご友人の姿を、白カラスさんはトレースしてるっぽい。
感受性豊かな私は、ちょびーっと、哀れさがわいてしまう……だがしかし!! 騙されてはいけない!
被害予定者は私たちであり、白カラスさんの先にいる人は、認定加害者なのだ!!
「仕方あるまい。ハードウェアに関する部分はお主の専門ではなかろう?」
『まあね、だからソフトにこだわったのさ! 感情に合わせたネコ耳の動きとか完璧なんだぜ!!』
「ふむ……それはちょっと見てみたいのう」
あの……人体に作用する医療機器(?)ですからね?
安全性こそこだわっていただけませんか!?
それを言ってしまえば、『そこは博士に任すぜ!』とかになりそうだから口には出さない。
ただ、ソフトってことはやはりプログラム的なアレが得意な人なのかな?
『やれやれ、仕方ないなぁクライアントの意向には沿うからね、動物耳型の補聴機能付きアクセサリの開発は打ち切るよ』
「はい、そうしてください」
「ああ……良かったぁ……」
妹もようやく息を吐いた。
上げていた肩がさがり……目元も柔らかくなる。そして一口紅茶を頂く。私もつられて一口舐めて、温かさもちょうど良いと確かめる。そのまま頂き、口の中に広がる上品な芳香を楽しんだ。
落ち着いてみると、今回の話は笑い話にできるだろうか?
それは、まあ、脚色なしでもできホラ話ならできるかな?
というか、アクセサリーに一生もんのリスクケアがいるって話、信じられます?
私たちにはムリだ。
ふと、ご友人が気が付いたように言う。
『というか翻訳AI、うまい具合に行ってるじゃないか!』
「それこそ、お主のおかげじゃよ」
『そうかい? でも、つまらん仕事だよ。AIの基礎さえつくれば、あとは学習させるだけだからね!』
「初期はひどかったじゃろ?」
『ああ、あれはすまなかったね。学習が進むまでは、ちょろっとアクシデントもあるのさ』
話が白カラスさんに移行したのかな?
……しかし、んー? AIって人工知能だっけ?
というか、この翻訳部分を作ったのが友人さんってことなのかな?
そういえばこのカラスさん、ものすごく流暢に会話ができているよね?
あっれ、これ技術的にすごくない!?
ほぼ同時に変換してるってことでしょう?
やはりご友人はプログラマさんってことになるんだろうが……しっかし、プログラマさんってこんな性格のひとって珍しいよなぁ?
私の知り合いにも本職の方が何名かいるのだが、こんな感じではなかった気がする……。
もしかして、私の知人は猫さんをいっぱいかぶっているのかな?
それとも、ご友人が異質なのか? ちょびっと気になる。
まあ知人は私と打ち解けていることもあり、毒と事実を会話に添えて、ちょっとドン引かれる人たちではあるのだが、人の痛みには敏感ではある。
こんど会った時には聞いてみたい気もするなぁ。
「あー紅茶美味しいわね」
妹の言葉で、私は考えに耽っていることに気が付いた。
もう少し頂こうか。ティーカップのハンドルを摘まんで一口いただく。
口の中で柔らかな香気が膨らみ、鼻と舌を楽しませてくれる。とっても幸せ。
「本当、良い香りだね」
私と妹が紅茶の風味に気を取られ、二人のやり取りを聞き流していると、気になるフレーズが出る。
『それでだ、博士……。羽の運動に関しては時間がかかるよ。生体からの信号操作がどうも手さぐりでね』
「仕方あるまい、エンジェルひみっちゃんとデビルいもっちゃんは完璧でなければいかん」
『資料は無いのかい?』
「研究縛りじゃからの!」
はて……? いま、なんて言ったの?
妹も、目を見開いてカップを置くとき音を立ててしまっている。
「えと……あの、なんの話です?」
「二人に天使の羽と悪魔の6枚羽をつける話じゃろ?」
「はっ!?」
「ええっ!?」
えっと、あれ!? あー!?
さっき壊したの、ネコ耳だけか!
何で忘れてたんだろう!?
そして、なんで開発してる感じになってるんだ!?
作ったら研究所燃やすまであるって、脅してなかったっけ!?
なんで、博士乗り気で、しかもご友人まで引っ張ってきて、えっと、ええ!?
「あの、どういう事ですか! 博士!?」
「つ、作らないんじゃなかったの!?」
「んー? 研究しちゃいかんと言われたからの。インスピレーションだよりで作っとるんじゃ! こういうのも斬新じゃな! なかなか楽しいぞ」
「……は!?」
「……え!?」
うっわ、私も妹も思考が飛んだ間抜けな返し方をしてしまった。
「どういうこと? 研究しばりって何よ!?」
「どういう……ことです?」
「ひみっちゃんが言ったのじゃろ? 『研究するな』とな! 仕方ないからインスピレーションだよりで作っとるのじゃ」
「はい!? 私は作るなと言ったつもりでしたが!?」
「いやいや! 研究するなと言ったじゃろ!?」
「……ぐぅ!?」
これは、いや、まずいまずいまずい!!
えーっと、要約すると博士がいまフィーリングで作ってるってことでしょ!?
今までの発明って、かなり分厚い研究の積み重ねから、訳の分からない事象を導き出してたじゃないですか!?
その積み重ねをすっ飛ばして、博士のヤマ勘によって、私たちのお体へアプローチする類のものを作ってるってこですよね!?
博士、ちゃんと私の言葉を守って!
いや、守ったの!?
というか、始めっから拒否している姿勢を汲み取って!
お願い! 私たちをモルモットにしないで!!
研究縛りとか訳の分からない方への律義さはいらないの!!
そもそも研究をあきらめて!!!
「ちょっと!! なんで、そんなことになってるのよ!?」
「博士、開発をやめてと言ったはずですが?」
「だからネコ耳・ウサ耳はやめたじゃろ? 翼の場合、脳へのアプローチは……そこそこでなんとかするぞ!」
「そこそこってどういうことですか!? てか、ちょっとでもダメ―!!」
「やっばい! あたしたち、何かよく解んない感じで人生のピンチじゃない!?」
私が頭を抱え、妹が青ざめている。そんなことを気にせず、博士はにっこにこで胸を張る。
「しかし、発想だけで作るってのはやってみると楽しいぞ! なかなか素晴らしいものが出来そうじゃ!」
「そんな方向でやる気出さないで!」
「もう本当、やめてください!!」
私たちが尋常でない気迫をもっての言葉は、博士たちに伝わっているだろうか?
「なぜじゃ? 天使の翼はぬくぬくじゃし、悪魔の6枚羽は、それぞれが自在に動かせるようになっておって……」
何故か博士は思案顔になって、言葉を探している。そして続けた
「んー、むー、脳の負荷が大変じゃったが、それを20%まで減らせそうじゃ!」
ああ、しまったー!!
目をキラキラさせて語る博士をみて、私は気が付いてしまう。これは博士が作る楽しさを噛みしめているではないか!?
考えながら何かするというゲームの縛りプレイ的な楽しさと、作るのが難しくてチャレンジ精神旺盛の部分が相乗効果を生み、テンションがやばいことになっているっぽい!?
今の博士を分析するに、人の制止が聞こえなくなっていたり、話を都合の良いように解釈したりを敢行してでも作成に当たる、情熱激燃え状態といえる。
これを放置してしまったら、あさっての方向へ突き抜ける悪夢となってしまうじゃないか!?
というか、トライアンドエラーが基本の縛りプレイにおいて、このエラーの部分を全て引き受ける感じになるのって、私たちでしょ!?
「……えと、えっと……それに関しては……」
言葉を探しつつ、私ははポケットのハンマーをしっかりと撫ぜる。
これは、いまの段階で何が何でも破壊しなきゃ!!!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる