博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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 ネコ耳・ウサ耳をしっかりと抹消まっしょうして、ちょっとだけ落ち着いた私たちは、元のソファーに腰掛けた。
 避難していた白カラスさんはこそこそと戻ってきて、しっかりと私の肩にとまる。

『残念だよ、博士……僕はカワイイの新たな歴史を作れると思ったのにな』
「仕方あるまい、儂も残念じゃ」

 別にね、対象を自動的に追尾したうえで、頭蓋骨に穴開けて脳と機械を直接つなぐ構造じゃなきゃ、勝手にどうぞと言えるんですよ……。
 どっちにしても私、着けるつもりもないし。
 ただねー……問題点を伝えても、問題だと思わないってのはもう、本当にもどかしい。
 常識が通じないっていうのだろうか? 素人と専門家の違い? うーむむむ……。

『しかし、問題点は何だったんだろう?』

 まだ言ってるよ……。
 私は大きなため息と共に言った。

「はぁー……脳に機械を埋め込むという、構造が問題です……」

 私の言葉を受けて白カラスさんは一瞬で机まで移動し、こちらに向き直る。そして言った。

『なぜだい? ちかって安全だと、言っているだろう?』
「それを自分に使えますか?」
『僕が着けてもカワイイが足りないじゃないか!?』
「そういう問題じゃないから! 自分で着けれるの?」
『麗しの君専用のものは着けれないね。まあ、僕がつけるなら専用にチューニングする必要があるよ。意味がないからやらないけどね!』

 それで、どうやって信頼を得ることができるというのだ?

「安全って意味、知ってますか?」
『当然さ! だから安全だといってるじゃないか!』
「根拠レスだし、仮に根拠があったとしても普通にNGよ!?」

 妹も追撃してくれる。

『おう……でも、うーん、問題ないんだよ、たとえば……』

 それからご友人は様々な理屈を並べていく。
 穿頭せんとうの際に用いるなんたらコーティングのテクノロジードリルがどうとか、同時に用いている局所麻酔の有用性とか、計算上の失敗確率は今の時点で1.32%という妙に具体的な数字!?

 いや、シミュレーション段階でその確率な本来の失敗率はもっと大きいでしょうが!?
 想定外って言葉、知ってますか!?
 私は貴方たちが想定外です!!
 友人さんが言葉を放つたびに、何というかもう余計に危うさが積み重ねられていく。

 私たちの塩対応に憤慨ふんがいしたご友人は、なぜか数字を羅列しだした。
 これ知ってる!
 わけわかんなくするために、わざと考えさせないようにする、詐欺サギの手口だよ!!
 私は耳をふさいじゃうから!
 どうせ見られてないんだもん!!

 てかさ、こんなことをするヒトだからこそ、私たちの不振はずんずん積み上がるのだ。
 ここまで不安にしておいて、だれがその言葉を信じるだろうか!?

『つまり、最高のテクノロジーと、最強のカワイイが合わさった、至高のオシャレなのさ!!』

 熱弁であるのだが、私は一言で切って捨てた。

「取り返しのつかないお洒落しゃれはいりません」
「失敗したらシャレじゃ済まないし」
『おう……そうかい……』
「ちなみに、失敗したらどうなります?」
『……たいしたことは無いよ』
「具体的には?」
『……大したことは無いさ』

 …………えっと、タイシタコトナイ? えーっと?
 私はちょっと絶句してしまう。

「うん、無理」

 妹の一言で、私も言葉を返す。

「それでどうやって安心しろというんですか!?」
『そうか……それじゃあ僕は、説得する言葉を持たないな……残念だ』 

 なんだか哀れに落ち込む様子を見せているであろうご友人の姿を、白カラスさんはトレースしてるっぽい。
 感受性豊かな私は、ちょびーっと、哀れさがわいてしまう……だがしかし!! 騙されてはいけない!
 被害予定者は私たちであり、白カラスさんの先にいる人は、認定加害者なのだ!!

「仕方あるまい。ハードウェアに関する部分はお主の専門ではなかろう?」
『まあね、だからソフトにこだわったのさ! 感情に合わせたネコ耳の動きとか完璧なんだぜ!!』
「ふむ……それはちょっと見てみたいのう」

 あの……人体に作用する医療機器(?)ですからね?
 安全性こそこだわっていただけませんか!?
 それを言ってしまえば、『そこは博士に任すぜ!』とかになりそうだから口には出さない。
 ただ、ソフトってことはやはりプログラム的なアレが得意な人なのかな?

『やれやれ、仕方ないなぁクライアントの意向には沿うからね、動物耳アニマルイヤー型の補聴機能付きアクセサリの開発は打ち切るよ』
「はい、そうしてください」
「ああ……良かったぁ……」

 妹もようやく息を吐いた。
 上げていた肩がさがり……目元も柔らかくなる。そして一口紅茶を頂く。私もつられて一口舐めて、温かさもちょうど良いと確かめる。そのまま頂き、口の中に広がる上品な芳香ほうこうを楽しんだ。
 落ち着いてみると、今回の話は笑い話にできるだろうか?
 それは、まあ、脚色なしでもできホラ話ならできるかな?
 というか、アクセサリーに一生もんのリスクケアがいるって話、信じられます?
 私たちにはムリだ。

 ふと、ご友人が気が付いたように言う。

『というか翻訳AI、うまい具合に行ってるじゃないか!』
「それこそ、お主のおかげじゃよ」
『そうかい? でも、つまらん仕事だよ。AIの基礎さえつくれば、あとは学習させるだけだからね!』
「初期はひどかったじゃろ?」
『ああ、あれはすまなかったね。学習が進むまでは、ちょろっとアクシデントもあるのさ』

 話が白カラスさんに移行したのかな?
 ……しかし、んー? AIって人工知能だっけ?
 というか、この翻訳部分を作ったのが友人さんってことなのかな?
 そういえばこのカラスさん、ものすごく流暢りゅうちょうに会話ができているよね?
 あっれ、これ技術的にすごくない!?
 ほぼ同時に変換してるってことでしょう?

 やはりご友人はプログラマさんってことになるんだろうが……しっかし、プログラマさんってこんな性格のひとって珍しいよなぁ?
 私の知り合いにも本職の方が何名かいるのだが、こんな感じではなかった気がする……。
 もしかして、私の知人は猫さんをいっぱいかぶっているのかな?
 それとも、ご友人が異質なのか? ちょびっと気になる。

 まあ知人は私と打ち解けていることもあり、毒と事実を会話に添えて、ちょっとドン引かれる人たちではあるのだが、人の痛みには敏感びんかんではある。
 こんど会った時には聞いてみたい気もするなぁ。

「あー紅茶美味しいわね」

 妹の言葉で、私は考えにふけっていることに気が付いた。
 もう少し頂こうか。ティーカップのハンドルをまんで一口いただく。
 口の中で柔らかな香気が膨らみ、鼻と舌を楽しませてくれる。とっても幸せ。

「本当、良い香りだね」

 私と妹が紅茶の風味に気を取られ、二人のやり取りを聞き流していると、気になるフレーズが出る。

『それでだ、博士……。羽の運動に関しては時間がかかるよ。生体からの信号操作がどうも手さぐりでね』
「仕方あるまい、エンジェルひみっちゃんとデビルいもっちゃんは完璧でなければいかん」
『資料は無いのかい?』
「研究縛りじゃからの!」

 はて……? いま、なんて言ったの?
 妹も、目を見開いてカップを置くとき音を立ててしまっている。

「えと……あの、なんの話です?」
「二人に天使の羽と悪魔の6枚羽をつける話じゃろ?」
「はっ!?」
「ええっ!?」

 えっと、あれ!? あー!?
 さっき壊したの、ネコ耳だけか!
 何で忘れてたんだろう!?
 そして、なんで開発してる感じになってるんだ!?
 作ったら研究所燃やすまであるって、脅してなかったっけ!?
 なんで、博士乗り気で、しかもご友人まで引っ張ってきて、えっと、ええ!?

「あの、どういう事ですか! 博士!?」
「つ、作らないんじゃなかったの!?」
「んー? 研究しちゃいかんと言われたからの。インスピレーションだよりで作っとるんじゃ! こういうのも斬新ざんしんじゃな! なかなか楽しいぞ」
「……は!?」
「……え!?」

 うっわ、私も妹も思考が飛んだ間抜けな返し方をしてしまった。

「どういうこと? 研究しばりって何よ!?」
「どういう……ことです?」
「ひみっちゃんが言ったのじゃろ? 『研究するな』とな! 仕方ないからインスピレーションだよりで作っとるのじゃ」
「はい!? 私は作るなと言ったつもりでしたが!?」
「いやいや! 研究するなと言ったじゃろ!?」
「……ぐぅ!?」

 これは、いや、まずいまずいまずい!!
 えーっと、要約すると博士がいまフィーリングで作ってるってことでしょ!?
 今までの発明って、かなり分厚い研究の積み重ねから、訳の分からない事象を導き出してたじゃないですか!?
 その積み重ねをすっ飛ばして、博士のヤマ勘によって、私たちのお体へアプローチするたぐいのものを作ってるってこですよね!?

 博士、ちゃんと私の言葉を守って!
 いや、守ったの!?
 というか、始めっから拒否している姿勢を汲み取って!
 お願い! 私たちをモルモットにしないで!!
 研究縛りとか訳の分からない方への律義りちぎさはいらないの!!
 そもそも研究をあきらめて!!!

「ちょっと!! なんで、そんなことになってるのよ!?」
「博士、開発をやめてと言ったはずですが?」
「だからネコ耳・ウサ耳はやめたじゃろ? 翼の場合、脳へのアプローチは……なんとかするぞ!」
「そこそこってどういうことですか!? てか、ちょっとでもダメ―!!」
「やっばい! あたしたち、何かよく解んない感じで人生のピンチじゃない!?」

 私が頭を抱え、妹が青ざめている。そんなことを気にせず、博士はにっこにこで胸を張る。

「しかし、発想だけで作るってのはやってみると楽しいぞ! なかなか素晴らしいものが出来そうじゃ!」
「そんな方向でやる気出さないで!」
「もう本当、やめてください!!」

 私たちが尋常でない気迫をもっての言葉は、博士たちに伝わっているだろうか?

「なぜじゃ? 天使の翼はぬくぬくじゃし、悪魔の6枚羽は、それぞれが自在に動かせるようになっておって……」

 何故か博士は思案顔になって、言葉を探している。そして続けた

「んー、むー、脳の負荷が大変じゃったが、それを20%まで減らせそうじゃ!」

 ああ、しまったー!!
 目をキラキラさせて語る博士をみて、私は気が付いてしまう。これは博士が作る楽しさを噛みしめているではないか!?
 考えながら何かするというゲームの縛りプレイ的な楽しさと、作るのが難しくてチャレンジ精神旺盛の部分が相乗効果を生み、テンションがやばいことになっているっぽい!?

 今の博士を分析するに、人の制止が聞こえなくなっていたり、話を都合の良いように解釈したりを敢行かんこうしてでも作成に当たる、情熱激燃えハイテンション状態といえる。
 これを放置してしまったら、あさっての方向へ突き抜ける悪夢となってしまうじゃないか!?

 というか、トライアンドエラーが基本の縛りプレイにおいて、このエラーの部分を全て引き受ける感じになるのって、私たちでしょ!?

「……えと、えっと……それに関しては……」

 言葉を探しつつ、私ははポケットのハンマーをしっかりとぜる。
 これは、いまの段階で何が何でも破壊しなきゃ!!!
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