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1 博士は刻(とき)をみたようです

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「あたし、博士のお友達が気になるわ!」

 反射神経でしゃべる妹は、ご友人についズバリと尋ねた。

「何が気になるんじゃ?」
「んーっと、お仕事とか、そもそもあんな良く解らない機能がなんで必要なのよ?」
「ふむ? あやつは若造じゃが趣味が合ってのぉ、仕事は……なんか国の機関からさまざまな依頼を受けているらしいの」
「国!? 他国の人? 機関?」
「あの、博士……その依頼ってどんなものですか?」

 同時に疑問点をあげるのだが、博士は眉をしかめる。

「内容は守秘義務とやらで語らんし、聞きもせぬ。ただ人を地獄じごくまで追尾する何かがほしいと言ってきおった」
「え?」
「どゆこと?」
「あやつは機能を欲して負った。後はやるからっての! だから儂は誕生日に向けてこいつに機能をつけたのじゃ!」
「それをあげちゃうの?」
「うむ! 儂の発明はすべからく人のためにある! 自分で使うのは最後でええ!」
「それって……」
「えーっと」

 聞いた感じでは人を害するために使われそうなんですが!?

 私は妹と顔を見合わせる。そうだ、一つ確かめておこうか。

「博士……その人の所属とか部署とか、解ります?」
「いや、あやつは個人でやっとる。ただ、クライアントは、企業よりも団体? が多いと言っとったぞ」
「マジなの!?」

 どうやら妹もアヤシイ想像したようだ。

「博士は嘘、言わないよ」

 私の補足で、妹は丸くなった目をさらに丸くしている。 

「なんじゃ? 変な顔して」
「そのー、ご友人て、どんなお役目なんですか?」
「知らぬ。奴もプログラムの分野では化け物じゃが、そもそも趣味の友人なのじゃ。あまり突っ込んでは聞かんな」
「そうですか」
「博士、その人の誕生日っていつ?」
「もうすぐじゃよ?」
「ふむ……」

 妹と博士のやり取りを聞きつつ、私は考えていた。本当はあまり好みではないが、ネガティブな思考となる。

 そう、すっっっっっごい穿った見方をした場合の悪用法だ。
 これは、ちょっと触れただけで個人認識ができて、時間に合わせて静かに地獄の果てまで自動追尾し、爆発したのちに蒸発するようなびっくりどっきり目覚ましである。
 そんな使い方次第ではいくらでも悪用できる品を、何らかの組織が入手するかも……? これ、大丈夫か!?

「博士、この発明品がどんな使われ方するかわかります?」
「そりゃ、目を覚ますためのものじゃ! 友人は一度寝たら泥みたいに寝るからの! 打撲してでも起きたいのじゃろう!」

 だめだ、ご友人を信じ切っている……残念ながら私は今までの情報から、良い判断が出来ない。

「えっと、どんなやり取りか、教えてください」
「えっとじゃのう……」

 そのやり取りとは、趣味の話をしているときに、ふと、ご友人がこぼしたらしい。
 今、抱えている案件で、どうも人を追尾するための何かがいるらしい。
 そこで、博士はプレゼントする予定だった目覚ましに、その機能をつけようと思ったのだ。

 ちなみにご友人が放ったワードから、作製は難しいと感じた博士は、逆にえらいやる気をだしたらしい。
 ・静かにひとを追尾するもの。
 ・ぶつかっていくことができるもの。
 ・音量調節がかのうであること。
 ・何かが起きた時、痕跡を残さず消え去るもの。
 ・消える時は蒸発するように、周りへ影響を与えないもの。
 ・何かを搭載できるものであればなおベター。
 ・スカートの中身へ入って行くならエクセレントをあげる!
 ・どっちにしてもステルス機能でご婦人には認識できなくしてね!

 あのぉ……このワードを並べただけで、アウトな想像しかできないんですけど!? どっちだろう!? うーむむ……私は、考え込む。これの使われ方を、である。

 もう具体的に言ってしまおう。
 私は博士の発明品が『組織に有害な人物を排除するために使われる可能性』を考えている。ついでに、『18歳未満禁止的な案件』の可能性もだ。
 そういった観点から考えると、これはとても有効活用できるのではないか?

 だってね、どうやって飛んだのかわかんない感じで飛び上がって、ぶつかって爆発するのだよ!?
 それにうちでの大爆発は、私と妹を叩き起こしてはいる。
 しかし、その音や光も決めた範囲で収まるようになっていて、さらに爆発した痕跡は無く、きれいに蒸発していたのだ!!

 あ……そうそう、それに加えて、私の声で饒舌じょうぜつにしゃべるってのも、背筋が冷えちゃう案件じゃないか!!

「ああ、ちょっと、腫れてるじゃない!?」

 ぼんやりとした表情でそんなことを考えていたら、妹が私の手を取り上げた。

「うあ、いったぁ!?」

 なんか結構響くような痛みが走る。

「ひみっちゃん大丈夫かの?」
「これ、もしかして打撲じゃすまないレベルとかあるんじゃないの!?」
「ほう、そんなのが良いのかいもっちゃん。儂は使わんが、機能を足すこともできるぞ!」
「ダメです!というか、危なすぎる!!」
「そうかの?」
「私、被害者ですって!」
「ああ、そうじゃったの……すまんかったの……ちょっと冷やすもん持ってくるぞ」

 博士が立ち上がって研究室へと走る。
 妹はその目覚ましを拾い上げた。

「ねえ、これさあ……ダメなんじゃないの?」
「うーん……これ自体を、博士が個人で使うには良いかもだけど、ご友人って人が、どう使うかだね」
「どうする?」
悪い事セクハラに使うのか、もっと悪いことサイレント・キラーに使うのか……むむむ」
「悪いことにしか使わないじゃん」

 妹は私を見た。多分、壊すかどうか、だと思う。あー、うー、どうなんだろう!?
 でも、なあ、博士は良いとしても、ご友人に使われるというのだから、その、黒い感じの想像しか浮かんでこないんだよなぁ。
 私、ご友人とお話ししたわけじゃないし……。

「あたしさ、これ映画みたいな悪い使われ方する気がすっごくするんだけど? どう思う?」
「……私も、同じ」
「どうしよう?」

 人様がせっかく作ったものを壊すのは良くない。けどねぇ、それが博士に業を負わせるものであれば、私は非情な決断をせねばなるまい。
 私たちは目覚ましを睨みつける。

『おや? 自爆をお望みですか? 自爆、いきますかね!! うふふふ!』

 しかし、饒舌だったんだなぁ……。あれ? これ私の声で変なマネされるとしたら……厄介ごとが起きる!? まあ一番、危ういのは製作者の博士だろうけどさ。

「ねえ、あたしが判断していい?」
「……いや、壊そう」

 妹の言葉に、私は軽く頷いた。

「おまたせー! ひみっちゃん、これ氷持ってきたぞい! 儂も前にたんこぶできたとき……」

 戻ってきた博士の軽い声が聞こえる。

「あたしがやるわよ」
「良いの?」
「手、痛いでしょ?」
「……うん」

 私は妹にアイコンタクトでポケットをさす。
 すると妹は、私のポケットからハンマーを取りだし、博士特製目覚ましを拾って机に置いた。

『脅威確認。ゆるしてね♪』
「えいっ!」

 時計の私が放った命乞いに、ちょっとだけだが躊躇ちゅうちょしつつも非情な行動もできる妹は、その目覚ましを叩いて、打って、壊してしまった。

「なにゅっ!? の、のぉーーーーー!? いもっちゃんまで、何をするんじゃあああああ!?」
「ごめんなさいね、うちのダメな人でも怪我ケガさせちゃったから、あたし仇討あだうちしなきゃだわ……」

 残念だが、私はまだ生きている。過剰防衛だろう。

「博士すみません。 起床時にトラウマを植えつけるだけならまだ許せましたが、心身ともにとなると見逃せません……」

 ばらばらになった部品をさらに叩いている。あ、妹ってば、私よりも容赦ようしゃない……しかし、あやつだけに業を背負わせてはならない。

「あと、博士、これはとても悪いことに使えてしまいます。だから、きっちり処分しなきゃいけません」

 ご友人との関係が解らないし、判断が正しいかはわからない。だが、今回は緊急性があると思ったのだ。

「設計図は何番ですか?」
「おお……あう……323……じゃな」

 そうか、世界の静止装置と世界の退化を作っている途中に、これを挟んだか……私は勝手知ったる人の家といった感じで、設計図入れまで行きその設計図を取り出す。
 中には結構びっしり書き込みがある部分と、かなり適当に書かれた部分のある図面を確かめて、添えつけの暖炉にて、痛む手を無理に動かし、しっかりと細かくちぎって投げ入れ、妹が借りてきてくれた卓上ライターで火をつけた。
 起床トラウマの製造も兼ねた、要人追尾型時限式爆弾の設計図は、炎に巻かれて消えていく。

「……うん、火は良いなあ」
「ああ、なるほどね。なんか、いいわねぇ……」

 二人してその『私っぽい自動追尾型の悪夢・外傷製造装置』の設計図が、灰になっていく姿をしっかりと確認したのちに立ち上がり、落ち込んでいる博士に言った。

「博士、お小言のつもりで来ましたが、ここらへんで勘弁してあげます」
「そだ、あたしにもダイヤ下さい」

 ここでそれはないでしょうに……というか妹、まだあきらめてなかったのか?

「おぬしら、強盗か?」
「いいえ、ただの被害者家族です!」

 博士の言葉にくすっとしつつ、妹がなぜか胸を張る。まあ、いいや。うん。

「そうだ、ちょっと話が長引きそうだし、お茶を淹れましょうかね?」
「う、ううう……お茶は……好きにいれるとええ……ぐぅうう」

 博士は今だに落ち込んでいる。私はお茶を淹れようとした……が、やはり手に痛みが走ってしまう。

「いったぁ……むう」
「あ……。これで冷やすとええぞ……ひみっちゃん……」

 私が痛そうにしているのを見た博士は、持ってきたスポーツ用の氷嚢を手渡してくれる。

「ありがとうございます」
「あたしが淹れるわね」

 妹は弱っている者にはやさしい。どうやら気遣ってくれるらしい。お言葉に甘え、お茶は妹に任せた。

「あ、結構いい茶葉だ!」

 そんな事を呟きながら、急須をゆらしている。ちょこちょこ愛嬌を見せるよなぁ……。というか、博士結構来客あるのかな? 茶碗や急須は私の家ではキッチンに置いてるぞ。

「ポットお借りするね!」
「……うむ。ありがとな、いもっちゃん」
「そうだ、この和菓子をどうぞ」

 妹が満面の笑みを浮かべてお茶の用意をし、私は持ってきた和菓子を出した。
 そういえば妹って私には見せないけど、気遣いができる風にごまかしているらしい。謎の魅力があと親友ちゃんが言っていた。
 本性知らないからなぁ……だまされるかもだよなぁ……。そう思いつつ、私は妹の手際を見守る。
 手際よくお茶を出した妹は、胸を張って言った。

「おっし、本題ね! 博士!! ダイヤちょうだい!」

 やっぱ……騙されないか?
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