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おわり
新しい旅立ち
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「あの戦いから今日でもう一年が過ぎたのか……」
一年が過ぎたっていうのに余り実感が湧かないなぁ……何でだろう?
「律君、そろそろ休憩にしない? お茶菓子も用意してあるし、ちびっ子達も律君待ってるよ」
「うん、わかったよカノンさん! もう少ししたらそっちに行くよ」
「は~い!」
俺は今、カノンさん達とそれから孤児院のちびっ子達と一緒に村の復興を手伝いながら居候させてもらってるんだ。けど、手伝ってるとか言いながら俺はずっとうわの空で、実は余り役に立てていない。
そんな俺にカノンさん達は文句の一つも言わず、いつも優しい言葉をかけ励ましてくれる。
それなのに俺はカノンさん達に黙って時々一人でふらっと出かけては、KAGUYAが居そうな場所を探している。
でも、まだ全然KAGUYAを見つけられないでいるんだけどね……。
あの時KAGUYAが言った新しく生まれ変わるって不思議な言葉が俺とKAGUYAをこの世界に繋ぎとめていてくれるような気がした。
だから俺は、どんなに時間が掛かろうとも探す事を諦めないでいる。
もしも俺が探す事を諦めてしまったら、本当にKAGUYAがこの世界から消えてしまいそうで、それがとても怖いんだ。
「なぁーKAGUYA、やっぱりお前がいないと俺ダメダメな主人公にまだ戻っちゃうよ……」
あの日カグヤを自分達の手で殺めても、俺達は感傷に浸る間もなかった。
カグヤの死でゾンビは正気を取り戻し解放されたけど、抗ウィルス薬がなければ人間に戻る事は出来ない。
俺達は響や桜子さん達の力を借り、ゾンビになった人達を抗ウィルス薬で人間へと戻した。
中にはやっぱり腐敗が進行して人間に戻す事の出来ないゾンビもいた。
俺達は苦い後悔を噛み締めながら、ゾンビになった人達を元に戻した。
ようやく全てを終えた俺達は皆でカノンさんの家に帰ってきた。ただ一人を除いて……。
「ただいまカノンさん」
「おかえりなさい……。皆いっぱいいっぱい辛い体験をしてきたんだね。それなのに私達大人は貴方達に全てを背負わせてしまってごめんなさい」
「謝らなくていいんだカノンさん。これが俺達の選んだ道なんだから」
「律君……君は強いね。でも、もうここでは強がなくてもいいんだよ。君達が背負った痛みを私達も共に背負うから」
「あれ? 涙がどうして……。いや、この涙は違うんだ。
だって、俺達が最後にKAGUYAにした事はきっと世界にとっては正しい選択をしたんだと思う。けど、俺達が本当に救いたかったのは世界よりもたった一人の少女を救いたかっんだ。
なのに俺達には出来なかった。だから、俺には泣く資格がないと思って……泣けなかったはずなのに。どうして、今になって涙が溢れて止まらないんだ」
「律君が思っているように私達も本当に辛くて苦しい選択だった。私もKAGUYAちゃんを救えるなら救いたかった」
「律、僕達みんな同じ痛みを背負っ仲間だ。だから律、お前が全てを一人で背負うのはやめてくれ。この背負った痛みは一緒に皆で分かち合えるし分かち合いたいんだ」
「律さん、うわぁーん……」
「律のバカ! こんな結末辛いに決まってるじゃない」
俺が泣くのを我慢していたように、皆も俺と同じように泣くのを我慢してたんだ。俺が皆に無理させていたのかもしれないな。
俺達は皆で何日も何日もKAGUYAを思って、沢山たくさん泣いた。沢山泣いたら涙も声も出なくなって、段々皆落ち着きを取り戻していった。
皆の顔は目がパンパンに腫れていて、乾いた顔には涙の通った跡がはっきりわかった。
「皆で最後にやり残した事をやろう。
詩、悠音、奏太、アリア、皆をゾンビから人へ。これが最後だ」
「うん……」
仲間と一緒に最後の仕上げだ。
順番に皆で抗ウィルス薬を打とうとしたんだけど、皆がいきなり悠音の後ろに列を作った。
「何故みんな僕の後ろに着くんだよ?」
「いやー、特に理由はないんですけど……何となくッス」
「悠音、あんたなら一番最初を任せられるとわたしは思ってるよ。だから、頑張りなさい!」
「アリアちゃん…… 」
「そうだな! 新入りが言う通り僕が一番最初に決めるか…………。やっぱりイヤダァァァア!! やめろっ!」
「やっぱり悠音、注射怖いんだね」
「なぬ?! 新入りが何を言っいるか僕にはわからないな」
「わたしくらいになると注射ガン見出来るよ!」
「ヒィー! 化け物」
「誰が化け物ですって」
「皆落ち着くッスよ! ドヤッ……この巨大な注射が目に入らないッスか」
「ほう……つまり僕が奏太にこの注射を打てばいいのか」
「へっ?! ちょっと、悠音さん何でそうなるんッスか」
ハハハッ……。
皆、無理にでも明るく振舞おうとしてくれているんだな。いや、俺も皆のこと言えないか……。
けど、そうでもしないと簡単に心をが折れてしまいそうになるのが皆、痛いほどわかっている。わかっているからこそ、この痛みでさえ俺は忘れないよ。
「詩で最後だね」
「うん。律君あのね…………ううん、何でもないよ」
「詩ありがとうな……。詩や皆がいてくれて良かった。俺はもう大丈夫だから心配しなくていいんだ。いつかまた皆で会える日を信じて、今は前へ進もう」
「うん、私も皆で……律君に悠音に奏太君にアリアちゃん、そしてKAGUYAちゃんに会える日を信じたい」
全てを終えた仲間達は、いつか六人で会える日を信じて、それぞれ自分の故郷へと帰っていた。
本当の意味で俺達の旅は終わりを告げた。
今どの街にもゾンビはもういない。この世界から完全にいなくなってしまった。
幸い俺達がゾンビから人間へ戻した人達はゾンビだった時の記憶は覚えてなく、少しづつ失った日常を人々は取り戻していった。
けど、全てを受け入れるにはきっとまだまだ時間がかかるけど、皆たくさん大切な人達を失ったのにそれでも前へと歩みを進めた。
時々弱音も吐く事もあるけど、俺も俺なりに色々と折り合いを付けて今日まで何とか生きている。皆も、それぞれの場所でちゃんと生きている。
おっと、そうだった! 今日は久しぶりに皆に会うんだった。
アリアが皆に話したい事があるって言うから集まるんだけど、どんな話しだろう?
「ヤバ……もうすぐバスの出発時間じゃんかよ。これ逃したら集合時間に間に合わなくなっちゃう。じゃあ、カノンさんいってきまーす!」
「えっ?! 律君、そういう事は早く言ってよね。いってらっしゃい!」
そう言えば、あの日以来首都には来てなかったんだ。正確に言うと遠くから何度か見る機会があったけど、やっぱり気が向かなかった。
「意外と早く首都に着いたな」
「もぉ~律おそーい!」
「えっ?! ごめんごめん、アリア。って、皆集まってるの早くないか?」
「僕は集合時間の三時間前には到着していたがな!」
「善は急げって言うから、俺早く来ちゃたッスよ」
「皆、待ちきれなかったから早く着いちゃったんだよ。私もそうなんだけどね」
「へへっ! やっぱり、皆揃うと楽しいな」
皆に久しぶりに会ったけど、皆ちっとも変わらないな。変わらない……。
「あのね、ベル姉が言うには少し歩いた先に見た事も聞いた事もない知らない花があるんだって! せっかくだから皆で一緒に見てみようと思って呼んだんだよ」
「そうなんだ。所でアリア今何してるんだ?」
「わたしはねぇー、ミサ姉とベル姉の復刻プロジェクトのお手伝いをしてるんだ。そうだった律、ちびっ子達預かってくれてありがとうね」
「おう! お陰で毎日賑やかだよ」
「パチパチ!」
…………ん? うわぁ! 悠音が聞いてくれとばかりこっちを見てやがるよ。
「ハイハイ……で、悠音は今何してるんだ?」
「良くぞ聞いてくれた律! 僕は復興イベントで世界音ゲー大会が開かれていたからそこに出たんだ。結果はなんと、見事初代チャンピオンになったんだ」
「チャンピオン! スゲーじゃん悠音」
「そうだろそうだろ! 皆、僕を崇め奉ってもいいぞ。なんなら、今からチャンピオンになったその音ゲーをここで披露し」
「で、奏太は今何してるんだ?」
「俺っスか?」
「貴様ら、僕の話を聞けー!」
「悠音さんは相変わらずッスね。俺は自分のゲーム会社を立ち上げたいから、今その勉強をしてるんっス。目標は五年後以内出す。それが父さんとの約束なんです」
「奏太らしくていいな!」
「ハイッス!」
「最後になっちゃったけど、詩は今何してるんだ?」
「私は今ね、街の復興を響とがっくんと一緒に頑張ってるんだ。もう少し落ち着いたらお花屋さんもやりたいと思ってるから、お花もいっぱい育ててるんだよ」
「詩らしいな」
「ありがとう律君」
皆、頑張ってるんだな……。本当に良かった。
そう言えば、少し経った後に皆にフィーネの事で話したい事があったから話てみたんだけど、不思議な事に俺以外誰一人フィーネの事を覚えていなかった。
カノンさんにも聞いてみたけど、知らないと言われてしまった。
だから、俺はフィーネとカノンさんが写っている写真をもう一度見てみたけど、不自然なほどフィーネの写真は一枚も無く、フィーネが写っていた場所には知らない女性が写っていた。
そして、カズキ・タチバナ博士もこの世界から完全に消えてなくなってしまった。まるで二人が始めからこの世界にいなかったように消えてしまった。
この真実はどうやら俺の胸の中にしないらしい。だから、俺だけはちゃんとこの真実を覚えておこうと思う……。
「着いたよ」
「えっ?! ェエエ工ー!!」
アリアが言った通り、見た事も聞いた事もない花だけどちょっとデカすぎないか?! 俺としてはもう少し小さい花を想像してたからここまでデカいと何とも言えない。
「あれ? 昨日まではあんなにちっちゃかったはずなの、急におっきくなっちゃった。どうして?」
「いや、こっちの方が聞きたいよ」
「フムフム……この花凄いね!
アリアちゃんの言う通り、こんな何百もの羽織を思わせるような美しい花弁なんて見た事がないし、こんなのってありえないよ。これが本当に自然界に咲く花なの?」
「じゃあ! 一輪持って帰って、僕ん家のトロフィーの横に一緒に飾ろうかな」
「えっ、悠音さん本気ッスか?! 祟られても俺知りませんよ」
「皆が私を探し、見つけてくれる日をずっとずっと待っていました」
え? ちょっと待って、この声ってまさか……?
いや、その前に突然俺達の前に現れたこの小さな長い黒髪の女の子は一体誰?
「もう忘れちゃったんですか?」
「いや、お前本当にKAGUYAなのか?」
「はい! 正真正銘、皆様にあの時体を貫かれたカグヤです。なんてゆーか、その貫かれた体を修復するのに時間がかかってしまって、体にはそんなに時間がかけられなかったので小さな女の子になってしまいました」
「そう言われるとめちゃくちゃ心が痛いんですが」
「ごめんなさい。今のはジョークです」
「どこからどこまでがジョークなのかわかりずらいよ。けど、やっぱりこんな事言うのはKAGUYAだけだよな」
「律の言う通りだな。だか、僕のセンスには劣るぞKAGUYA」
「KAGUYAちゃん……私達がどれほど貴方に会いたかったか」
「もうKAGUYAは色々めちゃくちゃなんッスよ」
「わたしもよくわかんなくなってきたけど、とりあえずギューって抱きつく」
「うわぁ! ちょっと皆さん抱きつかないで下さい。重たいです」
「だって、KAGUYAが悪いんだぞ。あんな惨い事俺達に頼むから」
「ごめんなさい……。あの時はああするしかなかったです。
私の肉体は本物の魂と一つの存在になりたいのはわかっていました。だって、私自身ですからね。
でも、私の肉体は既に負の感情が自我を持ち、一つの肉体に二つの魂は共存する事は出来ないから私自身を倒す必要があったんです。
私自身は私を傷つける事が出来なかったから、皆様にあのような事しか頼めませんでした。色々と話せなかったのは、魂と肉体を切り離した代償とでもいうのでしょうか……。でも、この話は長いのでやめておきますね」
「やっぱり、聞いてもよくわかんないや。だけど、本当に良かった。おかえりKAGUYA」
「はい……ただいま」
俺達の新しい旅がまたここから始まるんだ。
-------------\★/--------------
【最後までお読みいただきありがとうございました】
書き上げるまでにかなり時間がかかってしまいましたが、初めて書いた小説を完結させる事が出来て本当に良かったです。
一年が過ぎたっていうのに余り実感が湧かないなぁ……何でだろう?
「律君、そろそろ休憩にしない? お茶菓子も用意してあるし、ちびっ子達も律君待ってるよ」
「うん、わかったよカノンさん! もう少ししたらそっちに行くよ」
「は~い!」
俺は今、カノンさん達とそれから孤児院のちびっ子達と一緒に村の復興を手伝いながら居候させてもらってるんだ。けど、手伝ってるとか言いながら俺はずっとうわの空で、実は余り役に立てていない。
そんな俺にカノンさん達は文句の一つも言わず、いつも優しい言葉をかけ励ましてくれる。
それなのに俺はカノンさん達に黙って時々一人でふらっと出かけては、KAGUYAが居そうな場所を探している。
でも、まだ全然KAGUYAを見つけられないでいるんだけどね……。
あの時KAGUYAが言った新しく生まれ変わるって不思議な言葉が俺とKAGUYAをこの世界に繋ぎとめていてくれるような気がした。
だから俺は、どんなに時間が掛かろうとも探す事を諦めないでいる。
もしも俺が探す事を諦めてしまったら、本当にKAGUYAがこの世界から消えてしまいそうで、それがとても怖いんだ。
「なぁーKAGUYA、やっぱりお前がいないと俺ダメダメな主人公にまだ戻っちゃうよ……」
あの日カグヤを自分達の手で殺めても、俺達は感傷に浸る間もなかった。
カグヤの死でゾンビは正気を取り戻し解放されたけど、抗ウィルス薬がなければ人間に戻る事は出来ない。
俺達は響や桜子さん達の力を借り、ゾンビになった人達を抗ウィルス薬で人間へと戻した。
中にはやっぱり腐敗が進行して人間に戻す事の出来ないゾンビもいた。
俺達は苦い後悔を噛み締めながら、ゾンビになった人達を元に戻した。
ようやく全てを終えた俺達は皆でカノンさんの家に帰ってきた。ただ一人を除いて……。
「ただいまカノンさん」
「おかえりなさい……。皆いっぱいいっぱい辛い体験をしてきたんだね。それなのに私達大人は貴方達に全てを背負わせてしまってごめんなさい」
「謝らなくていいんだカノンさん。これが俺達の選んだ道なんだから」
「律君……君は強いね。でも、もうここでは強がなくてもいいんだよ。君達が背負った痛みを私達も共に背負うから」
「あれ? 涙がどうして……。いや、この涙は違うんだ。
だって、俺達が最後にKAGUYAにした事はきっと世界にとっては正しい選択をしたんだと思う。けど、俺達が本当に救いたかったのは世界よりもたった一人の少女を救いたかっんだ。
なのに俺達には出来なかった。だから、俺には泣く資格がないと思って……泣けなかったはずなのに。どうして、今になって涙が溢れて止まらないんだ」
「律君が思っているように私達も本当に辛くて苦しい選択だった。私もKAGUYAちゃんを救えるなら救いたかった」
「律、僕達みんな同じ痛みを背負っ仲間だ。だから律、お前が全てを一人で背負うのはやめてくれ。この背負った痛みは一緒に皆で分かち合えるし分かち合いたいんだ」
「律さん、うわぁーん……」
「律のバカ! こんな結末辛いに決まってるじゃない」
俺が泣くのを我慢していたように、皆も俺と同じように泣くのを我慢してたんだ。俺が皆に無理させていたのかもしれないな。
俺達は皆で何日も何日もKAGUYAを思って、沢山たくさん泣いた。沢山泣いたら涙も声も出なくなって、段々皆落ち着きを取り戻していった。
皆の顔は目がパンパンに腫れていて、乾いた顔には涙の通った跡がはっきりわかった。
「皆で最後にやり残した事をやろう。
詩、悠音、奏太、アリア、皆をゾンビから人へ。これが最後だ」
「うん……」
仲間と一緒に最後の仕上げだ。
順番に皆で抗ウィルス薬を打とうとしたんだけど、皆がいきなり悠音の後ろに列を作った。
「何故みんな僕の後ろに着くんだよ?」
「いやー、特に理由はないんですけど……何となくッス」
「悠音、あんたなら一番最初を任せられるとわたしは思ってるよ。だから、頑張りなさい!」
「アリアちゃん…… 」
「そうだな! 新入りが言う通り僕が一番最初に決めるか…………。やっぱりイヤダァァァア!! やめろっ!」
「やっぱり悠音、注射怖いんだね」
「なぬ?! 新入りが何を言っいるか僕にはわからないな」
「わたしくらいになると注射ガン見出来るよ!」
「ヒィー! 化け物」
「誰が化け物ですって」
「皆落ち着くッスよ! ドヤッ……この巨大な注射が目に入らないッスか」
「ほう……つまり僕が奏太にこの注射を打てばいいのか」
「へっ?! ちょっと、悠音さん何でそうなるんッスか」
ハハハッ……。
皆、無理にでも明るく振舞おうとしてくれているんだな。いや、俺も皆のこと言えないか……。
けど、そうでもしないと簡単に心をが折れてしまいそうになるのが皆、痛いほどわかっている。わかっているからこそ、この痛みでさえ俺は忘れないよ。
「詩で最後だね」
「うん。律君あのね…………ううん、何でもないよ」
「詩ありがとうな……。詩や皆がいてくれて良かった。俺はもう大丈夫だから心配しなくていいんだ。いつかまた皆で会える日を信じて、今は前へ進もう」
「うん、私も皆で……律君に悠音に奏太君にアリアちゃん、そしてKAGUYAちゃんに会える日を信じたい」
全てを終えた仲間達は、いつか六人で会える日を信じて、それぞれ自分の故郷へと帰っていた。
本当の意味で俺達の旅は終わりを告げた。
今どの街にもゾンビはもういない。この世界から完全にいなくなってしまった。
幸い俺達がゾンビから人間へ戻した人達はゾンビだった時の記憶は覚えてなく、少しづつ失った日常を人々は取り戻していった。
けど、全てを受け入れるにはきっとまだまだ時間がかかるけど、皆たくさん大切な人達を失ったのにそれでも前へと歩みを進めた。
時々弱音も吐く事もあるけど、俺も俺なりに色々と折り合いを付けて今日まで何とか生きている。皆も、それぞれの場所でちゃんと生きている。
おっと、そうだった! 今日は久しぶりに皆に会うんだった。
アリアが皆に話したい事があるって言うから集まるんだけど、どんな話しだろう?
「ヤバ……もうすぐバスの出発時間じゃんかよ。これ逃したら集合時間に間に合わなくなっちゃう。じゃあ、カノンさんいってきまーす!」
「えっ?! 律君、そういう事は早く言ってよね。いってらっしゃい!」
そう言えば、あの日以来首都には来てなかったんだ。正確に言うと遠くから何度か見る機会があったけど、やっぱり気が向かなかった。
「意外と早く首都に着いたな」
「もぉ~律おそーい!」
「えっ?! ごめんごめん、アリア。って、皆集まってるの早くないか?」
「僕は集合時間の三時間前には到着していたがな!」
「善は急げって言うから、俺早く来ちゃたッスよ」
「皆、待ちきれなかったから早く着いちゃったんだよ。私もそうなんだけどね」
「へへっ! やっぱり、皆揃うと楽しいな」
皆に久しぶりに会ったけど、皆ちっとも変わらないな。変わらない……。
「あのね、ベル姉が言うには少し歩いた先に見た事も聞いた事もない知らない花があるんだって! せっかくだから皆で一緒に見てみようと思って呼んだんだよ」
「そうなんだ。所でアリア今何してるんだ?」
「わたしはねぇー、ミサ姉とベル姉の復刻プロジェクトのお手伝いをしてるんだ。そうだった律、ちびっ子達預かってくれてありがとうね」
「おう! お陰で毎日賑やかだよ」
「パチパチ!」
…………ん? うわぁ! 悠音が聞いてくれとばかりこっちを見てやがるよ。
「ハイハイ……で、悠音は今何してるんだ?」
「良くぞ聞いてくれた律! 僕は復興イベントで世界音ゲー大会が開かれていたからそこに出たんだ。結果はなんと、見事初代チャンピオンになったんだ」
「チャンピオン! スゲーじゃん悠音」
「そうだろそうだろ! 皆、僕を崇め奉ってもいいぞ。なんなら、今からチャンピオンになったその音ゲーをここで披露し」
「で、奏太は今何してるんだ?」
「俺っスか?」
「貴様ら、僕の話を聞けー!」
「悠音さんは相変わらずッスね。俺は自分のゲーム会社を立ち上げたいから、今その勉強をしてるんっス。目標は五年後以内出す。それが父さんとの約束なんです」
「奏太らしくていいな!」
「ハイッス!」
「最後になっちゃったけど、詩は今何してるんだ?」
「私は今ね、街の復興を響とがっくんと一緒に頑張ってるんだ。もう少し落ち着いたらお花屋さんもやりたいと思ってるから、お花もいっぱい育ててるんだよ」
「詩らしいな」
「ありがとう律君」
皆、頑張ってるんだな……。本当に良かった。
そう言えば、少し経った後に皆にフィーネの事で話したい事があったから話てみたんだけど、不思議な事に俺以外誰一人フィーネの事を覚えていなかった。
カノンさんにも聞いてみたけど、知らないと言われてしまった。
だから、俺はフィーネとカノンさんが写っている写真をもう一度見てみたけど、不自然なほどフィーネの写真は一枚も無く、フィーネが写っていた場所には知らない女性が写っていた。
そして、カズキ・タチバナ博士もこの世界から完全に消えてなくなってしまった。まるで二人が始めからこの世界にいなかったように消えてしまった。
この真実はどうやら俺の胸の中にしないらしい。だから、俺だけはちゃんとこの真実を覚えておこうと思う……。
「着いたよ」
「えっ?! ェエエ工ー!!」
アリアが言った通り、見た事も聞いた事もない花だけどちょっとデカすぎないか?! 俺としてはもう少し小さい花を想像してたからここまでデカいと何とも言えない。
「あれ? 昨日まではあんなにちっちゃかったはずなの、急におっきくなっちゃった。どうして?」
「いや、こっちの方が聞きたいよ」
「フムフム……この花凄いね!
アリアちゃんの言う通り、こんな何百もの羽織を思わせるような美しい花弁なんて見た事がないし、こんなのってありえないよ。これが本当に自然界に咲く花なの?」
「じゃあ! 一輪持って帰って、僕ん家のトロフィーの横に一緒に飾ろうかな」
「えっ、悠音さん本気ッスか?! 祟られても俺知りませんよ」
「皆が私を探し、見つけてくれる日をずっとずっと待っていました」
え? ちょっと待って、この声ってまさか……?
いや、その前に突然俺達の前に現れたこの小さな長い黒髪の女の子は一体誰?
「もう忘れちゃったんですか?」
「いや、お前本当にKAGUYAなのか?」
「はい! 正真正銘、皆様にあの時体を貫かれたカグヤです。なんてゆーか、その貫かれた体を修復するのに時間がかかってしまって、体にはそんなに時間がかけられなかったので小さな女の子になってしまいました」
「そう言われるとめちゃくちゃ心が痛いんですが」
「ごめんなさい。今のはジョークです」
「どこからどこまでがジョークなのかわかりずらいよ。けど、やっぱりこんな事言うのはKAGUYAだけだよな」
「律の言う通りだな。だか、僕のセンスには劣るぞKAGUYA」
「KAGUYAちゃん……私達がどれほど貴方に会いたかったか」
「もうKAGUYAは色々めちゃくちゃなんッスよ」
「わたしもよくわかんなくなってきたけど、とりあえずギューって抱きつく」
「うわぁ! ちょっと皆さん抱きつかないで下さい。重たいです」
「だって、KAGUYAが悪いんだぞ。あんな惨い事俺達に頼むから」
「ごめんなさい……。あの時はああするしかなかったです。
私の肉体は本物の魂と一つの存在になりたいのはわかっていました。だって、私自身ですからね。
でも、私の肉体は既に負の感情が自我を持ち、一つの肉体に二つの魂は共存する事は出来ないから私自身を倒す必要があったんです。
私自身は私を傷つける事が出来なかったから、皆様にあのような事しか頼めませんでした。色々と話せなかったのは、魂と肉体を切り離した代償とでもいうのでしょうか……。でも、この話は長いのでやめておきますね」
「やっぱり、聞いてもよくわかんないや。だけど、本当に良かった。おかえりKAGUYA」
「はい……ただいま」
俺達の新しい旅がまたここから始まるんだ。
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【最後までお読みいただきありがとうございました】
書き上げるまでにかなり時間がかかってしまいましたが、初めて書いた小説を完結させる事が出来て本当に良かったです。
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辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
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