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第2章 司のあわただしい二週間

第9話 コロナ来襲

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 ▽

「コロナ! アルフリートさん、僕の従魔です!!」
「あれは君の従魔か? 外で呼ぶと言っていたが勝手に来てしまったのか?」

 そんな、呼ばないと召喚されないはずなのにどうしてと混乱していると、コロナの上空に武器を携えた防衛隊と言われる人たちが数名滞空していた。

 コロナのあまりの情けない鳴き声にどうするべきか困惑しているのかもしれない。

 “つかさー、じゃまだなこれー”

 やっぱりこの声は僕にしか聞こえていないコロナの声だ。OTLでは従魔と思念通話なんかできなかったから気づくのが遅れた。

 コロナが結界に干渉しようとしている。飽和させる気か。

 不用意にぶっぱなしちゃいけません! と教えたらぶっぱなさなきゃいいんでしょ? 目立たないなら叱られにくい! と学習されてしまい、大体魔力流せばどうにかなると理解していた様に思う。
 操作精度は魔力量にしては破格の正確さで、コロナはお茶目で賢い子だと思い込んでいた。

 それがこんな子だったなんて! 間の抜けた話しっぷりは気が抜けるけど、今は非常事態。
 コロナが結界に干渉しようとしているのに気が付いた隊員たちは統制のとれた動きでコロナを包囲していく。

 魔石に呼び戻そうとするができない。どうなってるのこれ。
 えーい、一か八かやるしかない!

『コロナ、伏せ! 魔力収めなさい!』
『え、つかさ? いた!』

 なにかしら繋がった感覚があり、コロナは魔力操作をやめ大人しくなった。伏せた状態でこちらを見下ろし嬉しそうに鳴き、尻尾をぶんぶん振り回す。

『つかさ、この結界じゃま! 見にくいしひといっぱいいて見つけるのたいへんだった』

『とりあえず、腹を上にして待ってなさい。そっちにいったら撫でてあげるから!』
『わーい!』

 ごろんと寝転がったらしく、翼のある背中が晒される。周囲がどよめく。

 隊員よ! 腹を晒すドラゴンはどうかね?! 攻撃できないだろう! まあコロナの防殻は簡単に突き破られまいという信用があるからこその手ではある。

 アルフリートさんは事態がまだ呑み込めていないのか上を見上げて呆けている。今気づいたが手首がけっこうな強さで掴まれていて少し痛い。

「アルフリートさん、事情を説明しに上に行こうと思うので付いてきてくれますか?」
 来て数日の身元不明の自分だけより神殿騎士がいた方が絶対話が通り易いだろう。

「あ、ああ。大人しくさせたのか。もう大丈夫なのだな?」
「とにかく、コロナを保護しないと。まだ警戒は解かれていません。アルフリートさん、浮遊の加護と飛翔魔術付けていいですか?」

 自分が持っている加護は人にも弱くなるが付与できる。しかし同意がないと付けられない。魔術もアルフリートさんは獣人だし許可とったほうが安牌(あんぱい)。

 獣人は魔力と魔術耐久力が低い傾向にあり、そのままだと魔術の影響を受けやすい。
 それを嫌がってオドへの高い操作力を利用しオドを常に活性化して、魔術が通りにくい様にしている人がいる。僕も普段からやっている。目的は違うけど。

 これは誰でもだが、事前に許可を取れば魔術はかかりやすくなる。相手の魔力を受け入れる事に慣れて行く事で徐々に効率が良くなり、これを相性が良くなると言ったりする。
「わかった」

 加護が発動する。加護に関しては与えた私に感謝してよね? アピールなのか発動エフェクトが共通で存在する。
 僕の頭上に羽と鳥のモチーフの緑と白の陣が発現し、ほどけてアルフリートさんにするすると絡んで解ける。加護は一日持つし便利なんだよねー。ちょっとエフェクトいつもよりキラキラしてるけど気のせいかな。

 ついでに魔術もぽいっと投げる。これは白い弾をぺいっとしただけの簡素な感じ。

「じゃあ行きましょう」
 掴まれていた手が外される。飛翔が苦手なら掴んだままでいいですよーと言ったら大丈夫だと言って先に飛んで行った。

 ▽

「そのドラゴンの主人です! うちの従魔がご迷惑をおかけし大変申し訳ございません!」

 結界越しに隊員さんたちに声をかける。

『つかさまだー?』
「コロナはまだそうしていなさい」
『はーい。はやくきてね』
 ごろごろ。

 隊員の一人がこちらに近づいてくる。
「よおアル、この龍は神殿のか?」
「まだはっきりとした決定がないので私からは言えない。確かなのはその龍の主人はこの司だ」
「ご迷惑をおかけしました。すぐに保護しますので結界を解いていただけますか?」
「簡単に解けるもんじゃねえし、市民に龍が飛び去るところを見せた方がいい。街の外に誘導できるか?」
「わかりました、どこに連れていけばいいですか?」
「西の草原でいいだろ」
 OTLと同じなら多分あそこかなと思うが確信はない。コロナが飽きたのかごろんと寝返りを打ってこちらを見てくる。色々飛ばしてくるが無視。

「ごめんなさい、地理に疎くて場所がわからないんです。案内してもらえますか?」

 地理情報なんて真っ先に知っておくべきだったんだろうけどそれどころじゃなかったり、授業が流れたりでその知識不足が露呈している。

「司はこちらに来て日が浅い。悪いが案内を頼む」
「しゃーねーな、おい! あとは俺が面倒みるから他のやつは解散!」
「隊長、報告書から逃げようたってそうはいきませんからね」
「そうだそうだ、こんな大人しいドラゴンにかわいこちゃんなんて役得すぎますよー」
  美女にそう言われると微妙な気分になる。
「うるせぇ! 解散つったら解散だ」
「副長が非番だからって・・・後であることあること言いつけてやろ」
「おまえ、減給な」
「そんなぁー!」

 隊員たちはいつのまにか近づいており、がやがやとにぎやかに話す様子はさっきの規律の取れた姿とは全く違い呆気にとられる。

「コロナ、撫でてあげるのは街の外に出てからね」
『えええ』
 グルルと不満の声を上げる。
「こんな結界の上だとゆっくりできないでしょ? そこの隊長さんが草原に案内してくれるみたいだからそこなら遊んであげるよ?」
『行く!』
 ぐぁおんとわかりやすく機嫌を上向かせる。

 結界はあくまで対空防御用らしく街の上空を覆うのみなので、普通に地上付近なら出入りできる。魔道具補助無しで結界越し転移とか専門職でもなければしない方がいい。待たせるのは申し訳ないのでさっさと行こう。

 ▽

 隊長さんの名前はザカールと言うらしくってザーカと呼んでくれと人懐っこそうな笑みを浮かべる。

 ごつめの気のいいあんちゃんという風情。神経質そうな人じゃなくて助かった。
 アルフリートさんとは冒険者時代からの知り合いで飲み仲間だと肩を組んで言っていたが、アルフリートさんはお前が勝手に飲んで酔ってるだけだろうと零していた。

 西の草原は飛翔して30分ほどある草原地帯で、雨季には草原を求めて様々な草食魔獣が集まってくる場所であり、ゲームではお手軽な肉集め兼初心者の経験値稼ぎの場所だった。
 今の時期は特に気を付けた方がいい魔獣はいないそうだ。

 さて、今僕は白柴と遊んでいます・・・

「そーら! とってこい!」

 きゃうん! と喜びながらフリスビーを追い駆ける白柴。

 取られそうになったら風を起こし軌道をずらす。追いかける大型犬サイズの白柴。質量操作魔術を当てフリスビーを軽くしさらに煽ると紙切れのように飛んでいく。
 速度向上付与魔術(ヘイスト)をコロナに当て維持。これをやらないと拗ねる。

 結界を構築し足場にして飛び跳ねながら白柴はフリスビーを追う。見事キャッチ。上空でくるくると回転しながら地面にしゅたっと着地。身体能力は確実に僕以上です。だって中身ドラゴンですから。

 持ってきたコロナを撫でまわし、数セット繰り返しす。満足したかと思ったら飛びつかれじゃれつかれ、顔を舐めまわされ、ようやく話を聞く気になってくれた。

 いや、ほんとアルフリートさん、ザーカさんすみません。

 コロナは大変ご機嫌です。
『つかさとおはなしできてうれしい!』
 そうか、そうか僕もすっごく嬉しい。この世界に来てから一番嬉しいよ。人の言語の発声はいつかできるようになってくれるかな。あんな街を騒ぎに突き落とす再会じゃなきゃもっと良かったんだけど。

『ねえつかさラクリマは? ラクリマとも遊びたい。そこにいるよね?』
「そうだね、呼ぼうか」
 一難去ってまた一難。いや去ってないので泣き面に蜂か。

「ザーカさん、アルフリートさん契約精霊呼んでもいいですか? そろそろ呼ばないと本当にまずいんです、ごめんなさい」

 断りを入れ、溜息を我慢しながらラクリマの気に入った精霊石を使ったピアス型召喚魔石を起動した。
 目の前に騎乗用の馬具と装備を付けた水でできた半透明なユニコーンが顕現する。

 つーんと不機嫌そうにそっぽを向かれた。
「言いたいことがあるなら聞く」

「申し訳ございませんでしたぁ!!!」
 勢いよく最敬礼。

『見ていたので経緯は把握している』
 え?
『ラクリマとも思念通話できてる?』
「できている。会話も今まで通り」
 どういうことなんだろう。

「アルフリートさん、ザーカさん、従魔や精霊と思念通話できるものなんですか?」
「できるようになるぞー」
「距離による制約を受けるが、相手との関係が良好になれば少しずつできるようになると言われている」

 なんてこった。

「この世界に来てからとても調子が良い。今の私であれば精霊石の中にいながら思念を伝えられるだろう。私に合わせ石も変質した。これからは勝手に出入りすることにする」
「・・・・あれ、それって、許可なく出てこれたってことじゃ」
「そうだ」
 ふふんっと鼻で笑い飛ばされる。鼻ないけど。
「どうした、泣いても怒っても良いぞ? 司ちゃんが何も知らずに申し訳なさそうにしている姿は大層面白かった」

 契約した当初からラクリマは僕をからかう事が大好きで、魔力も涙(ラクリマ)払いでよろしくという鬼畜っぷり。血液頂戴よりましとはいえ普段から必要分はあげてるでしょ?
 こんな時どんな顔をすれば良いか分からないよ。

「なんだかすげぇ精霊だなおい」
「ああ、言葉にならない」

 褒め言葉として受け取っておきます。

 ▽

 ラクリマ遊ぼう! という元気すぎる白柴の要望はひとまずスルー。コロナがなぜ外にいたのか話を聞かないといけない。えー遊びたいと不満を言うコロナをラクリマが窘める。先輩の言う事はよく聞くんだよね、この子・・・

 コロナはめがみ、しろいぴかぴか、みんなと空で遊んだ、と吠えながら伝える。
 女神と創造神様が絡んでいることは確定として、朝に出て昼までかかっている。コロナの速度でそれだけかかるなら別の大陸のに降ろされた可能性が高いか。

 さっきは魔石へ呼び戻すことができなかった。召喚を起動すると白い光がいくつかコロナの周辺を飛び回る。上下に陣がくるくると現れコロナを挟み込んで狭まり重なったところでコロナごと消えた。
 僕の前でまた白い光が周辺を確認する様に舞う、さっき重なって消えた陣が現れ上下に展開し、その間に白柴が召喚される。エフェクトが違うけど召喚自体は問題ないみたいです。

 次に送還。召喚したところと同じ位置にまた現れる。何度か試したが呼んだ場所に戻されるみたいだ。これは便利なのか不便なのか図りづらい。

 コロナに詳しく話を聞いてみよう。

『いままでとのちがい?』
「うん、何かある?」
『えっとね、前は魔石の中におうちがあって、そこから出てたの』
「おうち?」
『おうち! とっても広かったけどひとりじゃつまんないし、だからあんまり入りたくなかった』
「じゃあ今おうちないの」
『ないけど、べつにいらないよ』
「そっかー」

 そういえば外にいる方が圧倒的に多かったなー。というかコロナもラクリマも基本は外に出っ放しだった。
 僕もコロナも家無しかと言ったらお揃い! と喜ばれた。そんなお揃い遠慮させてもらいたい。

 この世界でのルールが分からない以上、これからは街に入る場合は基本白柴になり、送還された場合は周囲を確認し、食事などは周りに迷惑をかけない程度で狩りをしていいと言い含めておいた。また今回みたいに事になったら命がいくらあっても足りない。
  この世界の従魔のルールは登録時に教えてもらえるよね。

 色々考えたが推測の域は出ないのでとりあえず、召喚魔石のピアスを外して観察してみた。コロナの魔力を感じる。
 これはガチャペットを売るために運営がガチャを引いた人限定で配布した超高性能召喚魔石で・・・・

 よし、あの女神殴ろう。

 僕は女神との再会に思いを馳せた。
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