上 下
149 / 180
殴り込み編

妖姫、倒れる

しおりを挟む

 149-①

「行くぞぉぉぉぉぉっ!!」
「来なさい……惨殺ざんさつしてやるわ!!」

 魔穿鉄剣を再びさやに納め、イットー・リョーダンを八双に構えて突進してくる武光を、ヨミが四本の尻尾で迎撃する。
 四本の尻尾の内の一本が、鋭い槍の如く武光の心臓目掛けて真っ直ぐに伸びてきた。

「くっ……でやぁぁぁっ!!」

 武光は再び超動体視力を発動し、身体を半身によじって尻尾をやり過ごすのと同時に、袈裟懸けにイットー・リョーダンを振るって、尻尾を斬り落とした。

「グッ……このぉぉぉっ!!」
「だぁっっっ!! せいっっっ!!」

 返す刀で、迫っていた二本目の尻尾を逆袈裟に斬り飛ばし、三本目の尻尾を真っ向から斬り落とす。

「に……人間風情がぁぁぁっ!!」
「な……なんのぉぉぉっっっ!!」
「なっ!?」

 武光は顔面目掛けて伸びてきた最後の尻尾の先端を躱して、左手で側面を掴むと、捕まえた尻尾を脇に抱え込みつつ回転し、裏拳を放つ要領でヨミの首を狙って水平にイットー・リョーダンを振るった。
 だが、武光の一撃は、思考を読んでいたヨミに上体を反らして回避され、続けて真っ向から振り下ろしたイットー・リョーダンも真剣白刃取りで防がれてしまった。

「ふふふ……捕まえたわ!! はさみ潰して……ギャッ!?」

 ヨミは巨大な悪魔の翼で左右から武光を挟み潰そうとしたが、左右の翼に突如として走った激痛に翼を閉じる事が出来なかった。
 右の翼はミトの宝剣カヤ・ビラキに刺し貫かれ、左の翼はリョエンの機槍テンガイの石突に仕込まれた送雷鋼縄そうらいこうじょうからめ取られていた。

「武光に気を取られ過ぎよ!!」
「武光君は……殺らせない!!」
「お……お前らぁぁぁっ!?」
「カヤ、アレをやるわよ!!」
〔ゲッ!? あ……アレをやるんですか……こ、心の準備が……〕
「秘剣……業火剣乱ッッッ!!」
〔ちょっ、姫さ……熱っあああああ!?〕

 “ザンッッッ!!”

「うあああああっ!?」

 焔を纏った宝剣が右の翼を斬り落とす。

「武光君、離れろ!!」
「お、応ッ!! ……ぐうっ!?」
「に……逃すかぁぁぁっ!!」

 武光が脇に抱え込んでいた最後の尻尾が、胴に巻きつき武光を締め上げる。

「こんの……野郎ッッッ!!」
「ぎゃっ!?」

 武光は左逆手で魔穿鉄剣を抜き放ち、胴に巻きつく最後の尻尾を斬り落とすと、ヨミが痛みで思わずイットー・リョーダンを離した隙を突いて、後方に跳び退いた。

「行くぞテンガイ!!」
〔ハイヨロコンデー!!〕
「雷術……走電閃そうでんせん!!」

「ぐあああああっ!?」

 電撃が鋼縄を伝ってヨミの全身を駆け抜ける。ヨミはリョエンの雷術から逃れようとしたが、翼に絡まった送雷鋼縄を解く事が出来ない。

「観念しろ、私の走電閃からは逃げられない!!」
〔オトナシクシロィ!!〕
「ふふ……それは……どうかな? ぐっ……うううっ……うあああああっ!!」
「なっ!?」

 “メキメキメキ…………ブチィッ!!” 

 リョエンの走電閃から逃れる為に、ヨミは右手を左の翼にかけると、襲い来る激痛に凄まじい叫びを上げながらも、オーガの剛力に任せて翼を引きちぎった。

「う、嘘やろ……!!」

 あまりにも凄惨せいさんな光景に武光は戦慄せんりつした。

「はぁっ……はぁっ……これで自由になった……唐観武光っっっ!! お前だけは……絶っっっ対に……ぶち殺すっっっ!!」

 もはや『生け捕りにする』という当初の目的も忘れ、ヨミは死力を振り絞って武光に突進した。背中からは凄まじい量の血が噴出し、それはあたかも、真っ赤な翼のようだった。

「死ねぇぇぇぇぇっ!!」
「わっ、来んなっっっ!!」

 鮮血の翼を広げながら迫るヨミに対し、武光は魔穿鉄剣を鞘に納め、渾身の力でイットー・リョーダンを上段から真っ向に振り下ろしたが、武光の思考を読んでいたヨミは、それを再び真剣白刃取りで防御した。

「フン!! アンタの動きなんか全部読み切ってやるわ……!!」

 ヨミは武光の次の動きを読むべく意識を集中した。

(おぇぇ……また反動が……ううっ……あ、あかん……めっちゃ気分悪い…………は、吐きそう……)

「ハァァァァッ!? ちょっ……絶対に吐かないでよ!! 吐いたら殺すわよ!!」

 ヨミは焦った。迂闊うかつに手を離したら斬られる、しかし手を離さなければゲ◯まみれである。

(くっ……あかん……も、もう限界や……うぷっ……は、吐いてまう!!)

「ちょっ!? ヤダヤダヤダ!! まだいけるって!! 頑張れ、超頑張れ!!」

 魔王の妻が人間にゲ◯まみれにされたなどと、絶対にあってはならない事態だ。ここは、一旦跳び下がって間合いを取る!!

 そう決めたヨミは離脱のタイミングを見計らった。

「ようし……1……2の……さ──」
オーガ死すべし……ヒャッハァァァァァ!!〕

 “ゴスッ!!”

「おぶっ!?」

 武光の腰のさやに納まっていた魔穿鉄剣が突如として鞘から飛び出した。

「ぐ……ぅ……ふぎゅう」

 柄頭つかがしらでの痛打を顎先あごさきに受けて、脳震盪のうしんとうを起こしたヨミは、意識を失い昏倒こんとうした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー

浅木夢見道
ファンタジー
 アルファポリス版は、現在連載を停止しております。 =================================== 【カクヨム総合1位(日間、週間、月間)獲得!】 【カクヨム現代ファンタジー1位(日間、週間、月間)獲得! 年間9位!】  流されやすい現代っ子の間宮真也は中3の冬に、くしゃみと共に異世界の日本へと転移した。  転移して最初に見つけたのは、自分の死体と青い目をした軍服少女。  混乱の中、真也は世界に12人しかいないとされる最上級の異能者、その13人目として覚醒する。  『殻獣』と呼ばれる虫の化け物と、それに対抗しうる異能者『オーバード』が社会に根付いた世界で、彼は異能者士官高校に通うことに。  普通の高校とは違う、異能者士官高校の日々は目新しさと危険に満ちている。  不思議ちゃんなロシア美女、ヤンデレ風味な妹分、生意気な男の娘etc……ドタバタとした学園生活と、世界を守る軍人としての生活。さらには、特別部隊にも参加することに。  意志の弱い真也を放っておかない社会に振り回されながら、それでも彼は日々を過ごす。 ※1章は導入、学園モノは2章から。そこのみを読みたいという方向けあらすじが第2章冒頭にあります。 ※2019/10/12 タイトルを変更しました。 ※小説家になろう、カクヨムで連載中。

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

現代に転生した勇者は過去の記憶を取り戻し、再び聖剣を持って戦いへ赴く

八神 凪
ファンタジー
神緒 修(しゅう)はどこにでもいる普通の男子高校生。  しかし彼は小さいころからおかしな夢……自分が別の人間として過ごす夢を見ることが多かった。 〝自分〟は勇者と名乗り、仲間と旅をするおかしな夢を。  だがある日、修の夢に最後の瞬間が訪れる。凄惨な自分の死と大切な人を守れなかったという後悔の中で息絶える‟彼„の人生の終わり――  それは修にとって遠い出来事、自分には関係のない世界……それでも不思議と気になる夢だったが、その日を境に夢を見なくなる。  また平穏な毎日が繰り返される。  そう、思っていた――

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

聖女マストダイ

深山セーラ
ファンタジー
あたし、レイディーン・マリアライト。エスパダス王国の城で仕える侍女。性格は、人よりちょーっと喧嘩っ早くて、お調子者ってとこかな。 あるとき城の倉庫で見つかった聖剣と契約して聖女になっちゃった。 しかしその聖剣がエスパダス王族を消したいらしくて、このままだと操られたあたしが王女様たちを惨殺してしまう恐れがあり、ちょー危険。 国家転覆の危機を避けるため渋々城を出たあたしは、聖剣一振りと森で出会ったやたら訛ってる獣人クンと旅をすることになるのだった。 『女、私から逃げられると思うな』 「ご主人! おれ一生ご主人について行くけぇのぉ!」 「……いつになったら城に帰れるのかなあ」 お調子者聖女と方言訛り獣人と喋る聖剣います!

異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ
ファンタジー
 突然亡くなった親父が残した錆びれた精肉店。このまんま継いでも余計、借金が増えるだけ。ならいっそ建物をつぶして、その土地を売ろうとえ考える。  だが地下室の壊れた保冷庫から聞こえる謎の音。ひかれるように壊れた保冷庫の扉を開けると、そこは異世界につながっていた。  これは異世界から魅力あふれる品物や食品を持ち込み、異世界で知り合った仲間と共に、自分のお店や商店街全体を立て直していく物語。  物語の序盤は、違法奴隷や欠損奴隷、無理やり娼館で働かせられているエルフや人族、AV出演を迫られている女性などを助けていく話がメインです。中盤(100話以降)ぐらいからやっと、商店街を立て直していきます。長い目でお付き合いして頂けるとありがたいです。  また、この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業、地名などとは一切関係ありません。また、物語の中で描かれる行為や状況は、著者の想像によるもので、実際の法律、倫理、社会常識とは異なる場合があります。読者の皆様には、これらをご理解の上、物語としてお楽しみいただけますと幸いです。

処理中です...