上 下
147 / 180
殴り込み編

斬られ役、妖姫と再戦する(後編)

しおりを挟む

 147-①

 勇ましく『強くなったのはお前だけではない!!』と啖呵たんかを切った武光に対し、ヨミは舌打ちした。

「チッ……人間風情が……調子に乗るなっっっ!! って……おっと!!」

 武光と距離を取ったヨミに対し、エルフ達が再び矢を射掛いかけたが、またしてもヨミは九本の尻尾を駆使して、全ての矢を叩き落とした。

「馬鹿な!?」
「何て奴だ……」
「気を付けろ、セリさん、ヴィゴやん!! コイツは……相手の思考が読める!!」

 武光の『相手の思考が読める』という一言だけで、聡明そうめいなセリオウスは全てを理解した。

 なるほど、敵は自分達が狙っている場所と矢を放つ瞬間を読み取り、そこから逆算して、飛来する矢を叩き落としているという事か……だが、口で言うほど容易たやすい事ではない、武光の言う通り、やはりコイツは只者ではない。

「当たりだよ、頭いいね、エルフのおにーさん♪」

  セリオウスの思考を読み取ったヨミがニコリと笑う。

「みんなビックリするくらい正確に狙った所に矢が飛んで来てるわ、おかげでこっちもやりやすい……よーく訓練されておる、感心感心!! なんちゃって♪」

 やはり……正確無比を誇るエルフの弓術は、かえって命中地点を予測しやすいという事か……ならば!!

 セリオウスは味方に命令を下した。

「皆……弓を右手に持ち替えろ!!」
「あ、兄上!?」
「急げ!!」

 弓術では左手に弓、右手に矢が基本だが、セリオウスはえてそれを逆にさせた。

「よし、 “しっかりと” 狙え……放てっ!!」

 三度、矢が放たれた。 “ひょうっ!!” と風を切りながら数多あまたの矢がヨミに向かって飛翔する。

「……チッ!!」

 ヨミは今度は飛来した矢を叩き落とさずに、横に跳躍して回避した。
 利き腕ではない方の腕で放たれているのだ、弓術を得意とするエルフと言えど、放たれた矢は、本人達の狙いから多少のズレがあったが、それこそがセリオウスの狙いだった。
 矢を放った本人ですら正確な命中地点を予測出来ないのだ、ましてやヨミに逆算など出来ようはずもない。
 そして、流れ矢を警戒して跳躍したヨミが着地しようとしていた先には、ジューン・サンプの時と同様、《斬られ役の勘》で先回りした武光がイットー・リョーダンを頭上に振りかぶって待ち構えていた。

「もらったぁぁぁっっっ!!」
「させるかぁぁぁっっっ!!」

 “ガシィッ!!”

 真っ向から唐竹割りに振り下ろされた一撃を、ヨミはオーガの剛力を用いた真剣白刃取りで防いだ。武光は何とかヨミを斬ろうと、両腕に力を込めたが、ヨミの剛力の前に、武光はそれ以上イットー・リョーダンを動かす事が出来なかった

「くっ……このっ!!」
「アンタの考えてる事なんて、こちとら読心能力でお見通しなのよ!!」
「なら……これでも喰らえっ!! 《妄想・安来節ターボ・ゴールデンっっっ!!》」

 武光は もうそうした!
 しかし ヨミにはきかなかった!

「な、何ぃ!? 俺の《妄想・安来節ターボ・ゴールデン》が効かへん!?」
「そう何度も同じ手は喰わないわ!! それに、アンタ達のせいで地獄を見て来た今の私に……その程度の妄想が通用するか!!」

 武光は苦渋の表情をした。

「くそっ……こうなったら『R18』のセルフレイティング不可避の禁断の妄想、《アンダー・エイティーン・プロヒビション》を使うしか……!!」

 それを聞いて流石さすがのヨミも少し動揺し、ナジミは武光に小石をぶつけた。

「痛っ!? ナジミお前何すんねん!!」
「それは絶対にダメですっっっ!!」
「いや……せやかて、お前この身動きでけへん状況どうすんねん!?」
「そ、それは……」

 その時、森の木の陰から二つの影が飛び出した。

「はぁぁぁっ!!」
「せいっ!!」

 ヨミは、真剣白刃取りを解除し、繰り出された宝剣と機槍による一撃をかわした。

「お前達は……!!」

「待たせたわね、武光!!」
「無事かい、武光君!?」

 ミトが かけつけた!
 リョエンが かけつけた!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...