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殴り込み編
斬られ役、試される(後編)
しおりを挟む136-①
武光とヴィゴロウスの二人は互いに胸倉を掴み合わんばかりの至近距離で睨み合っていた。
「てめぇ……ソフィア様のお召し物の裾を捲るとか……何考えてんだ!! ぶっ飛ばすぞこの野郎!!」
「ヴィゴロウス……そんなガッチリ握手をしながら言っても説得力は皆無ですよっ……!!」
「す……すみませんソフィア様」
ソフィアに刺すような視線を向けられたヴィゴロウスは慌てて武光の両手を離した。
「では改めて……ヴィゴロウス、武光さんに四神の力は宿っていましたか?」
「ううむ、難しいところです……もう一回神風術を……」
「ヴィゴロウス!!」
「ハイ!! すみませんっっっ!!」
ヴィゴロウスはめっっっっっちゃくちゃ悩んだ末に結論を出した。
「……白です。確かにコイツは四つの属性の術を操り、その全てに神々の力が宿っていました。大賢者様の予言と一致します。ただ……」
「ただ?」
「コイツに宿る神々の力……めちゃくちゃ弱いんです。宿っているにはいるんですが……カスみたいなもんなんです」
「誰がカスやねん!! かみかぜ波喰らわすぞコラァ!!」
「上等だ!! やってみろコノヤロー!!」
「ヴィゴロウス、さりげなく私の隣に立つのはおやめなさい」
「す、すみません……でもな、言っとくぞコノヤロー!!」
ヴィゴロウスは武光を勢い良く指差した。
「大賢者様の予言と一応は一致してたからお情けで白にしてやったけどなぁ……俺にはお前に俺達を救える程の力があるとは思えねぇ!!」
「ぐぬぬ……」
「まぁ良いさ、お前が本物かどうかは次の試練で兄上が決めてくれる……あと、これも言っとくぞコノヤロー!!」
「まだ何かあるんかい!!」
「俺は……お前に俺達を救える程の力があるとはどうしても思えねぇ、だが……俺にはお前が悪い奴だとはどうしても思えねぇ……頑張れよ!!」
「おうよ、任せとけ!!」
武光達はヴィゴロウスが開けた門をくぐり、先に進んだ。
136-②
ヴィゴロウスの課した試練を何とかギリギリ及第点で突破した武光達が歩みを進めてゆくと、今度は重厚な石造りの門がその姿を現した。
門の前では、ヴィゴロウスの兄、セリオウスが仁王立ちで立っていた。
セリオウスは門の前に辿り着いた武光の姿を見てフッと笑った。
「ボロボロじゃないか……弟の試練、よほど激しく、厳しいものだったと見える……お前だけではなく仲間の術士までボロボロではないか」
「い、いや……これはソフィアさん達に……」
「ソフィア様が……何だ?」
「な……何でもあらへんっっっ!!」
ニコニコしているが、目が全く笑っていない女子一同の無言の威圧感を前に、武光は口をつぐむしかなかった。
「次の試練……かかって来いやーーー!!」
「良かろう……大賢者様の予言によれば、我らを救う救世主は聖剣の使い手という事だ。貴様のその剣、本物の聖剣なのかどうか……試させてもらう!!」
〔よし、行こう!! 武光!!〕
「よっしゃ!! 行く……ぞ……イットー……」
〔た、武光!? どうした!?〕
武光が突如として、 “ばたーん!!” とぶっ倒れた。ナジミ、ミト、リョエンの三人が慌てて武光に駆け寄る。
「武光様!?」
「どうしたの、武光!?」
リョエンは武光の様子を見て呟いた。
「ううむ……これは、術の使い過ぎですね」
「分かりました!! 私の癒やしの力で…………ううっ!?」
「ナジミさん!?」
今度は、武光に癒やしの力を使ったナジミが目を回して “ばたーん!!” とぶっ倒れた。
癒やしの力によって立ち上がった武光は大慌てでナジミの上半身を抱き起こした。
「大丈夫か、ナジミ!?」
「わ、私は大丈夫です……武光様、頑張って下さいね」
そう言ってナジミは笑ったが、明らかに無理をしている。
「ああ……へのつっぱりはいらんですよ!!」
「ふふ……相変わらず言葉の意味は分かりませんが、とにかく凄い自信ですね……ううっ」
どういうわけか、この森に迷い込んでからというもの、癒やしの力を使う度にナジミは苦痛に襲われている……一体何がどうなっているというのか。
「無理せんでええ!! ……ジャイナ、先生、ナジミを頼みます」
「分かったわ!!」
「ああ、任せてくれ!!」
苦しむナジミを見て、武光は気を引き締めた。次の試練を突破出来なければ、自分達は即座に魔王軍に突き出される、自分を回復させたせいで苦しんでいるナジミの為にも、それだけは避けねばならない。
「よっしゃ!! 行くぞイットー!!」
〔ああ!!〕
ナジミの介抱をミト達に任せた武光はスッと立ち上がると、セリオウスを見据えた。
「その門ぶち破ってでも、突破させてもらう!!」
「うむ、やれ」
「へっ?」
「それが私の課す試練だからな、貴様の腰の剣が真に聖剣であれば、あの門を破れるはずだ」
「……よっしゃ分かった!!」
武光はイットー・リョーダンを鞘から抜き放つと、分厚い石門の前で正眼に構えた。
目を閉じ、呼吸を整え、精神を集中する。
「…………でやぁぁぁぁぁっ!!」
〔…………でやぁぁぁぁぁっ!!〕
“すん!!”
「なんと……!!」
武光がイットー・リョーダンで分厚い石造りの門を易々と斬り裂いたのを見たセリオウスは声を上げた。
「まさかあの門を破るとは……その剣、確かに聖剣のようだな」
〔フッ……違うな!!〕
感嘆の声を上げたセリオウスに対し、イットー・リョーダンが声を上げた。
〔我は、聖剣として生み出され……当代随一の刀匠達と!! 掛け替えのない仲間達の友情で生まれ変わった、聖剣を超えた《超聖剣》ぞ、我に断ち斬れぬものなどない!!〕
「それは言い過ぎやわ、お前にも断ち斬られへんもんがあるやろ? たとえば、そう……『俺との絆』とかな!!」
そう言って武光は『上手い事言うたった感』爆発のドヤ顔をした。
〔武光……お前は本当にそういうクサイ台詞が似合わんなぁ〕
「や、やかましわっ!! まぁ、実は自分でもちょっと恥ずかしいかなって思てたんやけど……へへ」
〔恥ずかしがるくらいなら言わなきゃ良いだろう……〕
〔ご主人様、私は!? 私との絆は!?〕
「もちろん魔っつんとの絆も切れへんよ」
〔やったぁ!! へへへ……〕
「フッ……」
〔フッ……〕
笑い合う武光とイットー・リョーダン、魔穿鉄剣を見て、セリオウスとソフィアは思わずクスリと笑ってしまった。
「ふふ……良いだろう……合格だ。大賢者様の所へ行くがいい」
「やりましたね、武光さん」
「ソフィアさん、これで残る試練はあと一つですね!!」
武光にそう聞かれたソフィアは首を横に振った。
「いいえ、これで試練は三つとも終了です」
「へっ!? 三つ目は?」
「ヴィゴロウスとセリオウスの試練が第二と第三の試練です。第一の試練は武光さん達がカライ・ミツナに来た時から始まっていました……失礼ながら、あなた達がどのような振る舞いをするか、密かに監視させて頂いていました」
「ぜ、全然気付かんかった……どないしよ……俺、ナジミの看病と里の人達の仕事の手伝いくらいしかしてへん!!」
「それで良いのです、たとえその身に神々の力を宿し、聖剣を扱えたとしても、見境なく暴れ回るような獣では困ります。その点、武光さんは全く問題ありませんでした。まぁ……苦しむ仲間の為に敵前で堂々と頭を下げるような人ですから、最初から大丈夫だとは思っていました……子供達も喜んでいましたしね?」
「ソフィアさん……」
「さぁ、それでは行きましょうか、この門をくぐれば、神殿はすぐそこです」
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