129 / 180
勇者編
監査武官、戦慄する
しおりを挟む129-①
ダントは戦慄していた。
辺り一面、見渡す限りの竜人達の屍の山である。
少なめに見積もっても、四人 対 千二百人だった。しかも、その千二百人の敵は、一人一人が並の魔族より遥かに強い竜人族なのである。
それが今ではリヴァル達によって屍の山を築いている。
今にして思えば、砦から出て来た三人の様子は明らかにおかしかった。三人共、身の毛もよだつような残忍で凶悪な気配を纏い、止める間も無く水竜塞を取り囲む敵兵の群れに突撃した。
『ちぎっては投げ、ちぎっては投げ』という表現がある。
……多数の敵を相手に大立ち回りを繰り広げる様を表した言葉である。
ヴァンプは、迫り来る竜人の大軍を相手に、その剛力で、(敵の手を、足を、首を)ちぎっては投げ、ちぎっては投げを実践した。
『血風吹き荒ぶ』という表現がある。
……血の匂いが混ざった風が、戦場を吹き抜けてゆく様を表した言葉である。
キサンは、攻め寄せる竜人の大軍を相手に、地術で圧し潰し、水術で呑み込み、火術で焼き尽くし、風術で引き裂いて……血風どころか、血の嵐を巻き起こした。
『無人の野を行くが如し』という表現がある。
……障害や妨害を物ともせずに、突き進む様を表した言葉である。
リヴァルは、襲い来る竜人の大軍を相手に、光を纏った獅子王鋼牙を振るい、視界に入った敵を片っ端から斬り伏せ、串刺しにし、首を刎ねながら突き進み……彼の通った後を無人の野へと変えていった。
そして……『目を覆うような』という表現がある。
……あまりの惨状に、思わず直視を避けてしまうような光景を表した言葉である。
リヴァル達が巻き起こしたあまりにも凄惨な殺戮劇を前に、ダントをなんとかその場に踏み留まらせたのは、戦場で起きた事をその目で見て記録するという、監査武官としての責任感だった。
そして、竜人族の軍勢を壊滅させたリヴァル達がダントのもとへ戻って来た。
「これだ……もっとこの力を使いこなせていれば……っ!!」
リヴァルは空を見上げ、絞り出すように呟いた。
「み……皆さん、一体どうしたっていうんですか!? こんな……こんな……」
「いやー、砦の中でとんでもない強敵と遭遇しちゃってですねー」
「……俺達の完敗だった」
「理由は分かりませんが、私達は戦いの最中、新たなる力を得ました。そして、私はその力に溺れ……傲り……敗れました。ですから、この力を使いこなす為に……いや、違いますね。みっともない話ですが……腹いせです、悔しくて仕方ありません」
「……全く、子供かお前は」
「えー、でもヴァンプさんも人の事言えないでしょー?」
「……まぁな」
苦笑する三人だったが、ダントの目の前に広がる光景は、『腹いせ』というにはあまりにも凄惨なものだった。
「さ、三人共……何かおかし──」
「この……化け物共がぁぁぁぁぁっ!!」
「ダントさん、危ないっ!!」
「え……?」
ダントの視界からリヴァルが消え、そして次の瞬間、ダントの背後で悲鳴が上がった。
瓦礫の陰から飛び出し、背後からダントに襲いかかろうとした竜人をリヴァルが袈裟懸けに斬り捨てたのだ。
竜人族の男は口からごぼりと血を溢れさせながら、地面に倒れ込んだ。
「ぐっ……無念……流石は……懸賞首第三位の……男……」
懸賞首第三位……自分が魔王軍内でそこまで警戒されていたとは……リヴァルは意外に思った。
竜人族の男は、息も絶え絶えに続ける。
「我らの無念は……魔王様が、きっと……」
「魔王・シンは……我々が討つ!! 四竜塞を抜けば、魔王の城はすぐそこ……我らの勝利は目前だ……!!」
それを聞いた竜人族の男はニヤリと笑った。
「それはどうかな? 我々は……懸賞首……第一位を既に……捕らえている」
「何……?」
《懸賞首第一位》……それ即ち、魔王軍において最も危険視されているという事だ。リヴァルには、思い当たる人物が一人いた、そして竜人族の男の言葉を一笑に付した。
「フッ……あのロイ=デスト将軍がお前達などに捕らえられるわけないだろう。言っておくが、あの人は今の私達でも勝てるかどうか……」
「白銀の死神か……奴は……第二位だ……」
あの人が……王国軍最強の将軍が第二位……? では、第一位とは一体誰なのか? リヴァルは竜人の男に問うた。
「わ……我々は既に捕らえている……懸賞首第一位……唐観武光率いる……傭兵団・武刃団をな!!」
そう言い残し、竜人族の男は息絶えた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~
テツみン
ファンタジー
**救国編完結!**
『鑑定——』
エリオット・ラングレー
種族 悪霊
HP 測定不能
MP 測定不能
スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数
アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数
次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた!
だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを!
彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ!
これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
王子様を放送します
竹 美津
ファンタジー
竜樹は32歳、家事が得意な事務職。異世界に転移してギフトの御方という地位を得て、王宮住みの自由業となった。異世界に、元の世界の色々なやり方を伝えるだけでいいんだって。皆が、参考にして、色々やってくれるよ。
異世界でもスマホが使えるのは便利。家族とも連絡とれたよ。スマホを参考に、色々な魔道具を作ってくれるって?
母が亡くなり、放置された平民側妃の子、ニリヤ王子(5歳)と出会い、貴族側妃からのイジメをやめさせる。
よし、魔道具で、TVを作ろう。そしてニリヤ王子を放送して、国民のアイドルにしちゃおう。
何だって?ニリヤ王子にオランネージュ王子とネクター王子の異母兄弟、2人もいるって?まとめて面倒みたろうじゃん。仲良く力を合わせてな!
放送事業と日常のごちゃごちゃしたふれあい。出会い。旅もする予定ですが、まだなかなかそこまで話が到達しません。
ニリヤ王子と兄弟王子、3王子でわちゃわちゃ仲良し。孤児の子供達や、獣人の国ワイルドウルフのアルディ王子、車椅子の貴族エフォール君、視力の弱い貴族のピティエ、プレイヤードなど、友達いっぱいできたよ!
教会の孤児達をテレビ電話で繋いだし、なんと転移魔法陣も!皆と会ってお話できるよ!
優しく見守る神様たちに、スマホで使えるいいねをもらいながら、竜樹は異世界で、みんなの頼れるお父さんやししょうになっていく。
小説家になろうでも投稿しています。
なろうが先行していましたが、追いつきました。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。
婚約破棄を成立させた侯爵令嬢~自己陶酔の勘違い~
鷲原ほの
ファンタジー
侯爵令嬢マリアベル・フロージニス主催のお茶会に咲いた婚約破棄騒動。
浮気な婚約者が婚約破棄を突き付けるところから喜劇の物語は動き出す。
『完結』
ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~
空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。
有するスキルは、『暴食の魔王』。
その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。
強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。
「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」
そう。
このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること!
毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる!
さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて――
「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」
コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく!
ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕!
※【第17回ファンタジー小説大賞】で『奨励賞』を受賞しました!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる