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勇者編

魔剣、爆ぜる

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 122-①

 三竜将の攻撃をリヴァル達は三方向に散って回避した。

「……リュウヨクは任せろ」
「逃がさん!!」

 初撃を躱したヴァンプはリュウヨクがぶち破った壁の穴に飛び込んだ。ヴァンプを追ってリュウヨクも穴に飛び込む。

「リュウビは私に任せちゃって下さいー」
「逃げられると思うな!!」

 キサンは、ヴァンプと反対側、リュウズがぶち破った穴に飛び込み、リュウビもキサンを追って穴に飛び込んだ。

「二人共……油断するなよ」

 リヴァルはそう呟くと、真正面に立つリュウズに向かい、獅子王鋼牙を構え直した。

 122-②

「……フンッ!!」

 軍議の間の隣の部屋に飛び込んだヴァンプは、リュウヨクに真っ向から斬りかかったが、リュウヨクはそれを後方にふわりと飛び退いて躱した。叩き付けられた崩山改によって床に亀裂が入る。
 その光景を見たリュウヨクは、赤熱化している大剣を興味深げに見つめ、呟いた。

「貴様、その剣まさか……吸命剣・崩山か?」
「……だったらどうした!!」
「くっ!?」

 ヴァンプが横薙ぎに振るった崩山改がリュウヨクの左腕をわずかにかすめた。崩山改の刀身が更に赤熱化し、ガタガタと振動を始める。
 刀身に蓄えられている生命の力が、吸収できる限界を超え、爆発しようとしているのだ。

「間違いない……フフフ、私は古今の名剣の蒐集しゅうしゅう家でね……伝説の魔剣、吸命剣・崩山……私が貰い受ける!!」

 リュウヨクの繰り出した素早い突きを、ヴァンプは崩山改の切っ先を下に向けて受けた……だが!!

「……くっ、放出装置が!?」
「フフフ……その剣が吸命剣・崩山だとすれば……今破壊したのは、崩山が吸収した生命の力を制御する為の物だろう? それが破壊された今、その剣でほんの少しでも私を傷付けようものなら、崩山に蓄えられた生命の力はあふれ出して大爆発を起こし、貴様は死ぬ!!」

 リュウヨクの指摘した通りだった。先程の一撃によって崩山改の放出装置は破壊されてしまっている。

「……チッ」

 ヴァンプは仕方なく崩山改を背中の鞘に納めた。それを見たリュウヨクがわらう。

「くくく、図星のようだな。安心しろ……痛みを感じる間も無く殺してやる。はぁぁぁぁぁ…………フンッ!!」

 リュウヨクの背に一対の翼が生えた。竜人達の中でも一部の者が持つ、さらなる竜身化能力、《超竜身化ちょうりゅうじんか》である。

 リュウヨクは後方に飛び退いてヴァンプと一旦距離を取った後、槍を構えて、剛弓から放たれた矢のような凄まじい速度で突進した。それはまさに『疾風』の異名に恥じぬ、超高速の突撃であった。

「もはや貴様の最大の武器は完全に封じた……死ね!! 人げ……っ!?」

 飛翔能力による加速を加えたリュウヨクの超高速の刺突を、ヴァンプは左手で槍の太刀打ちを掴み、止めた。

「馬鹿な!? う、動かな……ぐあああっ!?」

 攻撃を止められたリュウヨクは、ヴァンプにもう片方の手で顔面を鷲掴わしづかみにされた。

「貴様……は、離せ!! がああああああああっ!?」

 ミシミシと頭蓋骨が軋む音が部屋に響く。リュウヨクは離脱しようと、渾身の力で羽ばたいたが、逃げ出す事が出来ない。

 ……リュウヨクは見誤っていた。

 ヴァンプの最大の武器は、吸命剣・崩山改ではない……凄まじい重量を誇る崩山改を軽々と振り回し、竜人達が十人がかりで開閉している城門をたった一人でこじ開けるその剛力ごうりきこそがヴァンプ=フトー最大の武器であるという事を!!

「……ぬぅおあああああっ!!」
「ぐはぁぁぁーーーっ!?」

 ヴァンプはリュウヨクの身体を持ち上げると、勢い良く床に叩き付けた。
 凄まじい力で叩き付けられたリュウヨクは、既に亀裂が入っていた三階の床に穴を開け、二階の床までぶち抜いて、一階の床に物凄い勢いで叩き付けられた。
 人間であれば即死である。しかし、竜人族……それも、超竜身化しているリュウヨクは、ふらつきながらも立ち上がった。

「ぐうっ……おのれ……っっっ!! 人間如きがぁぁぁぁぁっ!!」

 リュウヨクは翼を広げると、垂直に飛翔し、さっきまでいた三階をも超え、天井をぶち破って外に飛び出した。

「はぁっ……はぁっ……どうだ……組み合えなければ貴様の剛力も意味をすまい!! はぁっ!!」
「……くっ!?」

 リュウヨクの槍の先端から放たれた光弾を間一髪、ヴァンプは回避した。

「そぉら、逃げろ逃げろ!! ジワジワとなぶり殺しにしてくれる!!」
「……ぬうっ!?」

 上空から絶え間なく撃ち込まれる光弾を躱し続けていたヴァンプであったが、執拗な攻撃の前に、とうとう左足に被弾してしまった。
 思わず片膝を着いてしまったヴァンプを見下ろしながら、リュウヨクは狂悪な笑みを浮かべた。

「終わりだな……人間っ!!」

「……チッ、こうなれば最後の手段だ。この手は……この手だけは使いたくなかったが……!!」

 そう言って、ヴァンプは再び崩山の柄を握り、鞘から抜いた。

「最後の手段だと……まさかっ!?」

 リュウヨクは焦った。この男、崩山で自分を斬りつけることで水竜塞もろとも自爆するつもりなのか。

「そうはさせ──」

 “グサァッ!!”

「ガ……ハッ…!?」

 ……リュウヨクはまたもや見誤った。

 リュウヨクはヴァンプを殺そうとしたが、それより先に、崩山の長く分厚い刀身がリュウヨクの腹に深々と突き刺さっていた。
 ヴァンプが上空のリュウヨク目掛け、崩山をぶん投げたのだ。

「……出来れば、この手だけは使いたくなかった」

 そう言って、ヴァンプはリュウヨクに背を向けた。


「……爆発した後、探しに行くのが面倒臭い」


「し、しまっ──」

 “カッッッ!!” 

 眩い閃光と共に、崩山から蓄積量過多で噴出した生命の力が、空中で大爆発を起こした。
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