119 / 180
勇者編
勇者達、水竜塞へ向かう
しおりを挟む119-①
四竜塞は、北の地竜塞を始めとして、東の水竜塞、南の風竜塞、西の火竜塞の四つの砦で構成されており、隣り合う砦同士の距離はおよそ二十里(約8km)程で、菱形を描くように築かれている。
地竜塞を陥落させたリヴァル戦士団は、僅か数時間滞在しただけで、即座に地竜塞を出発し、夜の闇に紛れて隣の水竜塞へと向かっていた。
水竜塞までおよそ五里程の地点、塞と塞とを結ぶ軍用道路から少し離れた所にある雑木林……リヴァル達は、そこに身を潜めた。
林の中は背の高い木々に覆われてかなり暗いが、火は焚かない、敵に見つかる恐れがあるからだ。
「よし、ここで敵が動くのを待とう」
リヴァルは少し開けた場所を見つけて腰を下ろした。
「……うむ」
「ふー、やっと一息つけますねー」
「はい」
リヴァルに続いてヴァンプ達も腰を下ろす。しばらくして、ダントがキサンに聞いた。
「しかし、せっかく陥した地竜塞を放棄してしまうなんて……本当に良かったのですか?」
ダントのもっともな疑問にキサンが答える。
「いいんですよー、あれでー。あそこに留まったって、たった四人であの大きな砦を守り抜くなんて無理ですよー……多分」
「多分って……」
ダントは、(いや、普通に考えて無理だろ……)と思ったが、その一方で、(この人達ならあるいは……)とも思った。彼は、リヴァル戦士団の強さを一番近くで見てきた男なのだ。
「うーん、でもやっぱりダメですねー、囲まれて長期戦に持ち込まれたら詰んじゃいます。いかに私達が強くても、人間である以上……お腹も空きますし眠くなっちゃいますからねー」
「な……なるほど」
「それにー……奪われた物は取り返したくなるのが人情ってものです。指揮官が有能な者ならば、明日にでも地竜塞を奪還する為に各砦から兵が出るでしょう。そして、奪還した地竜塞を確保しておく為には、守備兵を置いておかざるを得ません……私の読みが正しければー、今向かっている水竜塞からも多くの兵が出るはずです……」
「なるほど……その隙を突いて、今度は手薄になった水竜塞を攻略するんですね!? それでせっかく奪った地竜塞をそのままにして……」
「ダントさんご名答です-!! ま、ちょっとだけ罠を仕掛けさせてもらいましたけどねー……ふふふ」
ダントは内心、少しビビっていた。普段のキサンはおっとりした穏やかな性格の女性なのだが、戦いの時には、時々これが同一人物なのかと思ってしまうほど、氷のように冷たい目をする事がある。
それにしても……とダントは思う。この人達と旅をして、自分も大分感覚が麻痺している。
普通に考えて、たった四人で竜人族がひしめく砦に殴り込みをかけるなど正気の沙汰ではない。しかしながら、ダントは水竜塞への奇襲を無茶や無謀だとは思えなくなっていた。
目の前の三人は……地竜塞で既にそれをやってのけている。
(つくづく、私も感覚が麻痺しているなあ)
そんなダントにヴァンプが声をかけた。
「……二人共、休める内に休んでおけ。お前ら二人が一番疲労度が高そうだ。見張りは俺とリヴァルで交代してやる」
「分かりました」
「……キサンにイタズラするなよ?」
「し、しませんよ!!」
「……フッ、冗談だ」
ヴァンプは逆に、普段は口数は少なく、険しい顔をしている事が多いが、実は常に周囲に気を配っていて、そして……意外とお茶目な所がある。
「すみません、では……」
「おやすみなさーい」
疲労を回復させるべく、ダントとキサンは眠りについた。
それからしばらくして夜が明け始めた頃……ダントはリヴァルにそっと起こされた。
果たしてキサンの読み通り……地竜塞奪還に向けて、水竜塞の軍勢が動き始めたのだ。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
離愁のベゼ~転生して悪役になる~
ビタードール
ファンタジー
この物語の主人公『マレフィクス.ベゼ.ラズル』は悪役である。
彼の正体は、前世の記憶を持って生まれ変わった転生者。
生まれついての冷酷残忍のサイコパスで、人の皮をかぶった悪魔のような男だったが、前世では一切悪行をしなかった。
しかしそれは、決して人間としての心を持った訳ではなく、邪悪な心を押し殺し、ただ我慢していただけ。
彼の死は70歳、死因はガンである。
彼が最後に思ったことは、「映画の悪役のように破壊と殺戮をしてみたかった」である。
彼はただ、自分らしく生きてみたかったのだ。
前世の記憶を持って生まれ変わり、異世界に誕生したマレフィクスは、この世界の悪役として人生を楽しむことを決意する。
これは、後悔から始まる悪役の物語である。
※この物語は残酷な描写が多く、胸糞悪い展開も多いです。
苦手な人は読まないで下さい。
破壊神《デストロイヤー》と呼ばないで
吉行ヤマト
ファンタジー
魔法をうまく覚える事ができなかった少年の体に転生してしまった主人公。魔法を信じ、魔法を学ぶ世界で異端として恐れられ、そして本人の意に反してその世界の秩序や概念を破壊してしまう事になる主人公が使うのは魔法ではなく、己の肉体ただ一つ。
筋トレが好きすぎて命を落とした主人公が魔法世界で巻き起こす破壊の数々をお楽しみください。
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
王子様を放送します
竹 美津
ファンタジー
竜樹は32歳、家事が得意な事務職。異世界に転移してギフトの御方という地位を得て、王宮住みの自由業となった。異世界に、元の世界の色々なやり方を伝えるだけでいいんだって。皆が、参考にして、色々やってくれるよ。
異世界でもスマホが使えるのは便利。家族とも連絡とれたよ。スマホを参考に、色々な魔道具を作ってくれるって?
母が亡くなり、放置された平民側妃の子、ニリヤ王子(5歳)と出会い、貴族側妃からのイジメをやめさせる。
よし、魔道具で、TVを作ろう。そしてニリヤ王子を放送して、国民のアイドルにしちゃおう。
何だって?ニリヤ王子にオランネージュ王子とネクター王子の異母兄弟、2人もいるって?まとめて面倒みたろうじゃん。仲良く力を合わせてな!
放送事業と日常のごちゃごちゃしたふれあい。出会い。旅もする予定ですが、まだなかなかそこまで話が到達しません。
ニリヤ王子と兄弟王子、3王子でわちゃわちゃ仲良し。孤児の子供達や、獣人の国ワイルドウルフのアルディ王子、車椅子の貴族エフォール君、視力の弱い貴族のピティエ、プレイヤードなど、友達いっぱいできたよ!
教会の孤児達をテレビ電話で繋いだし、なんと転移魔法陣も!皆と会ってお話できるよ!
優しく見守る神様たちに、スマホで使えるいいねをもらいながら、竜樹は異世界で、みんなの頼れるお父さんやししょうになっていく。
小説家になろうでも投稿しています。
なろうが先行していましたが、追いつきました。
自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ
饕餮
ファンタジー
書籍発売中!
詳しくは近況ノートをご覧ください。
桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。
お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。
途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。
自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。
旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。
訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。
リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。
★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。
★本人は自重しません。
★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。
黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。
★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる