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鬼退治編

巫女、持ち帰る

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 102-①

 武光はミトに肩を借りながら、ジャトレーの工房へと続く隠し坑道を進んでいた。

「武光……そう言えば、ナジミさんはどうしたの?」

「あいつには……俺とは別行動するように言うてある。一緒におったら、俺があいつを襲いかねへんかったからな……痛たた……」
「分かったわ、ナジミさんの捜索は私に任せなさい。それにしても……人一倍ヘタレで臆病者のクセに、どうしてそんな血だらけになるまで無茶をしたのよ!?」
「バカヤロー……ヘタレでも、臆病でも、無茶を承知で行かなあかん時が男にはあんねんて……って言うか、普段のお前の猪突猛進ぶりに比べたら俺なんか瓜坊うりぼうみたいなもんやろが……」
「うるさいこのバカ!! 私は貴方なんかよりもずぅぅぅぅぅっと強いから良いの!!」
「へっ……よう言うわ、俺に負けて、ぴーぴー泣いてたくせに」
「な、泣いてないわよ!!」
「いいや、アレは完全に泣いてたな」
「泣いてない!!」
「泣いてた!!」
「泣いてない!!」
「泣いてた!!」
「泣いてない!!」
「絶対泣いてたな!!」
「絶対泣いてない!!」

 いつになくしつこい武光だったが、ひたすら喋り続けて気を紛らわさなければ、全身の激痛で意識が飛んでしまいそうなのだ。
 二人は延々と言い争いながら足を進めてゆく。

「うっ……ぐすっ……私……泣いてないもん!! ばかぁぁぁぁぁ!!」
〔あー、もー!! 武光さんが姫様泣かしたーーー!!〕
「うっ……ごめん、カヤ……」
〔こうなっちゃったらめちゃくちゃ面倒臭いんですからね!?〕
「ミト、俺が悪かったって!! 泣いてへん泣いてへん、うん……よう考えたら全然泣いてへんかったわ!! ほらー、一国の姫君がそんな鼻水ドバドバ出して泣くなって、この手拭いでけ……あっ、あかんコレ血まみれやわ……」

 血まみれの手拭いを見て、ミトは我に返った。

「ひ、酷い出血……大丈夫なの!?」
「いや……全然……大丈夫ちゃう……けど……今は……とにかくジャトレーさんに鬼の角を……」

 その後、武光とミトは坑道を歩き続けてようやくジャトレーの工房に辿り着いた。そして、工房に辿り着いた瞬間に、安堵感から “ばたーん!!” とぶっ倒れた血まみれの武光を見て、リョエンや職人達は慌てて武光に駆け寄った。

「酷い傷だ……大丈夫ですか、武光君!?」
「せ……先生、ジャトレーさん……ジャトレーさんはどこです!?」
「ここにおるぞ!!」
「ジャトレー……さん……イットー、イットーはどうなんです!?」
「うむ……剣に宿った魂が、どうも折れた傷口から急速に流れ出ているようなのじゃ……今すぐにでも打ち直しを始めねば手遅れになるじゃろう。オーガの角は!?」
「こ……これを……」

 武光は腰に吊るしていたオーガの角の入った革袋をジャトレーに手渡した。

「ジャトレーさん、これも使って下さい。この工房を占拠していたオーガ達の角です」

 そう言って、リョエンも腰に吊るしていた革袋を渡す。
 ジャトレーは二人から受け取った革袋の中を確認して苦い表情を浮かべた。

「ぬぅ……武光殿と姫様達が集めたオーガの角を足しても必要数の半分にも満たんか……これではイットー・リョーダンを復元出来る可能性は限りなく低いが……」
「はあっ……はあっ……くそっ……俺、もっぺん鬼の角集めてきま……うっ!?」

 ジャトレーの言葉を聞いた武光は立ち上がろうとしたが、再び倒れ込んでしまった。

「そんな傷で……無理じゃ!! それに……必要な数が集まるのを待っていては、刀身を修復出来たとしてもイットー・リョーダンの魂は戻らぬ。今すぐ修復作業を始めねば……完全に手遅れになる」
「そ、そんな……」
「……全力は尽くす」
「くっ……分かりました、お願いしま──」

 その時だった。

「ま、待って!! ちょっと待って下さい!!」

 ぱんぱんに膨らんだ風呂敷を背負い、ナジミがジャトレーの工房に現れた。

「ジャトレーさん、これを!!」

 そう言いながら、ナジミは背負っていた風呂敷をジャトレーに手渡した。
 ジャトレーが受け取った風呂敷を広げると、風呂敷の中には、百を優に超える数のオーガの角が包まれていた。

「す、凄い数だ。これだけあれば……修復出来る可能性は五分五分にまで上がったと言っても良かろう。武光殿……時間が惜しい、儂らは今すぐ作業に入る!!」
「た……頼みます!!」

 武光達から受け取ったオーガの角を抱えて、ジャトレーを始めとする職人達が慌ただしく作業場に向かったのを見届けたナジミは、地面にぺたんと座り込んだ。

「はあっ……はあっ……良かった……何とか間に合いましたね。つ、疲れたぁーーー」
「ナジミ……お前、あんな大量のオーガの角を一体どこから……?」

「あれは武光様と離れた直後の事でした……」

 ナジミは角の出処でどころを語り始めた。

 102-②

 武光から離れた直後、ナジミの前に赤い体色をした一体の若いオーガが現れた。

「あん? こんな所に人間の女……?」
「あわわわわ……」

 怯えるナジミを見てオーガは下卑た笑いを浮かべた。

「ふん、まぁ良い……ちょうど腹が減って……」

 “バンッ!!”

「うげぇっ!?」

 “バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン……”

「痛だだだだ!? ちょっ、やめ……!!」
「きゃああああ!! こ、来ないでえええええ!!」

 “……バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッ!!”

 気付けば、ナジミはオーガをスイ・ミタタリオでボッコボコに殴り倒していた。
 ボッコボコに殴り倒されて気を失っているオーガを見て、生来の慈悲深さから、憐憫れんびんの情を抱いてしまったナジミは、スイ・ミタタリオによってへし折られた角を拾い上げると、念の為に、たまたま近くに落ちていたロープでオーガの両手両足をきつく縛り上げてから、癒しの力を使った。
 ナジミの癒しの力によって、オーガの傷がみるみると治ってゆく。そして……

 “……にょき”

 ……折れた角が再び生えた。
 ナジミはそれを見て、思わず “ぽん” と手を打った。

「そうか……その手がありましたか!!」
「ひっ……た、助けて……」

 意識を取り戻したオーガが何とか逃れようともがく。

「……大人しくしてくれれば命までは奪いませんよ……うへへ……」
「ひっ……ひぃぃぃっ!?」

 ……そう、ナジミは拘束こうそくしたオーガの角をスイ・ミタタリオでへし折っては癒しの力で治し、治してはまたへし折り、またへし折ってはまた治しという作業をひたすらに繰り返して角を大量にゲットしたのだ。



 余談ではあるが……これ以降、オーガ達の世界において、何十世代にも渡って、オーガの子供達をぎゃん泣きさせる事となる童話『つのちぎりババア』は、この時、ナジミの隙を突いて逃げ出したオーガの体験を元に書かれたとも言われているが……真相は定かではない。
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