上 下
66 / 180
攻城編

斬られ役、逃走する

しおりを挟む
 
 66-①

 リヴァル達がクラフ・コーナン城塞北西の丘にて、破壊神砲を敵の手から守るべく防衛戦を繰り広げていたその頃、武光一行は二番稜堡りょうほと、三番稜堡りょうほの間の城門……南東門に向かって移動していた。

 現在、クツーフ・ウトフ城塞から進軍してきた主力軍は四番稜堡と五番稜堡の間の南西門に攻撃を仕掛け、ジューン・サンプ方面から進軍してきた別働隊は一番稜堡と二番稜堡の間の北東門に攻撃を仕掛けている。

 未だ結界は破られていないが、破壊神砲の初弾が北東門上部の城壁をごっそりと抉りとった事で、稜堡から稜堡への敵兵の移動がかなり制限されたようだ。
 ここで更に、南東門にも攻撃を仕掛けて、敵を釘付けにして連携を阻害すれば主力が対峙している南西門側と、別働隊が対峙している北東門側の負担がかなり減る。
 武光達を始めとする、魔王討伐に名乗りを上げた傭兵達で編成された攻撃部隊百人は、敵に気取られぬよう、戦場を大きく迂回して進軍していた。
 行軍の最中さなか、武光が列を離れようとしたのを、ミトが見咎みとがめた。

「ちょっと!! 何処へ行く気なの!? まさか……また逃げる気じゃないでしょうね?」
「アホか、ウ◯コくらいさせろ!! すぐ戻ってくるから!! 心配やったら見張っとくか!?」
「わ、分かったわよ……早く済ませて来なさい!!」
「すまん」

 そう言うと武光は近くの雑木林にそそくさと入って行った。

 ~ 待つことおよそ20分 ~


「…………戻ってこないわね、武光」
「…………戻ってきませんね、武光様」
「…………戻ってこないですね、武光君」


 ミト、ナジミ、リョエンの三人は、顔を見合わせた。

「「「……に、逃げたぁぁぁぁっ!?」」」

 三人は急いで雑木林の中に入った。案の定、武光の姿はどこにも無かった。

「た、武光様、またビビりぐせが……」
「あ、あの馬鹿……見つけたら処刑よ、処刑!!」
「姫様、こちらに武光君のものとおぼしき足跡が!!」
「追うのよ!! 首根っこ掴んででも引きずり戻してやるわ!!」

 ミト達は大慌てで武光の足跡を追った。

 66-②

「うわぁぁぁぁぁ、最低やーーーーー!! 逃げてしもたーーーーー!!」

 風速100〔m/s〕クラスの臆病風ハリケーンに吹かれ、武光は逃げ出した。
 そして、逃げて逃げて逃げまくって辿り着いた、クラフ・コーナン城塞の南にある森の中で、武光はしゃがみ込んで頭を抱えていた。

「俺最低やんけ……イットー、何で俺が逃げ出した時に止めへんかったんや!?」
〔いやいやいや、止めたって君は逃げるでしょう、どうせ〕
「ぐぬぬ……」
〔ま、僕はあんまり心配してないけどね……あっ!? ナジミ達が魔物に襲われてる!!〕
「何っ!? どこや!!」

 武光は慌てて周囲を見回したが、ナジミ達や魔物の姿など、どこにも無かった。

〔……ほらね? 仲間が魔物に襲われてるって聞いて、君は逃げるよりも……咄嗟とっさに僕のつかを握ったろう?〕

 言われて、武光は手元を見た。無意識の内に右手はイットー・リョーダンの柄をがっちりと握っていた。

〔君はそういう奴なんだよ。ビビりで、ヘタレで、足も臭いけど、最後の最後には誰かの為に勇気を振り絞っちゃうんだよ、どうせ〕
「ぬぅ……」
〔武光、もっと自分に自信を持て。確かに君は、めちゃくちゃ強いわけじゃないけど……決して弱くなんかない。セイ・サンゼン、ボゥ・インレ、そしてジューン・サンプ……君が震えながら必死こいてねじり出してきた勇気は、多くの人達を救ってきた。それに何より君は……この『無敵の聖剣』が主として選んだ男だよ?〕
「うん……何か、最後の一言で台無しやわ」
〔うそーん!?〕

「ははは、冗談や。そっか…………そやな。アイツらのトコ戻るわ」

 武光が立ち上がったその時だった。

 “ドゴォ!!”

「おわーーーっ!?」

 武光の足元に、突如として、長い鎖で繋がれたトゲ付き鉄球が撃ち込まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

悪役令嬢に転生してストーリー無視で商才が開花しましたが、恋に奥手はなおりません。

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】乙女ゲームの悪役令嬢である公爵令嬢カロリーナ・シュタールに転生した主人公。 だけど、元はといえば都会が苦手な港町生まれの田舎娘。しかも、まったくの生まれたての赤ん坊に転生してしまったため、公爵令嬢としての記憶も経験もなく、アイデンティティは完全に日本の田舎娘。 高慢で横暴で他を圧倒する美貌で学園に君臨する悪役令嬢……に、育つ訳もなく当たり障りのない〈ふつうの令嬢〉として、乙女ゲームの舞台であった王立学園へと進学。 ゲームでカロリーナが強引に婚約者にしていた第2王子とも「ちょっといい感じ」程度で特に進展はなし。当然、断罪イベントもなく、都会が苦手なので亡き母の遺してくれた辺境の領地に移住する日を夢見て過ごし、無事卒業。 ところが母の愛したミカン畑が、安く買い叩かれて廃業の危機!? 途方にくれたけど、目のまえには海。それも、天然の良港! 一念発起して、港湾開発と海上交易へと乗り出してゆく!! 乙女ゲームの世界を舞台に、原作ストーリー無視で商才を開花させるけど、恋はちょっと苦手。 なのに、グイグイくる軽薄男爵との軽い会話なら逆にいける! という不器用な主人公がおりなす、読み味軽快なサクセス&異世界恋愛ファンタジー! *女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.9.1-2)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます! *第17回ファンタジー小説大賞で奨励賞をいただきました!

異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ
ファンタジー
 突然亡くなった親父が残した錆びれた精肉店。このまんま継いでも余計、借金が増えるだけ。ならいっそ建物をつぶして、その土地を売ろうとえ考える。  だが地下室の壊れた保冷庫から聞こえる謎の音。ひかれるように壊れた保冷庫の扉を開けると、そこは異世界につながっていた。  これは異世界から魅力あふれる品物や食品を持ち込み、異世界で知り合った仲間と共に、自分のお店や商店街全体を立て直していく物語。  物語の序盤は、違法奴隷や欠損奴隷、無理やり娼館で働かせられているエルフや人族、AV出演を迫られている女性などを助けていく話がメインです。中盤(100話以降)ぐらいからやっと、商店街を立て直していきます。長い目でお付き合いして頂けるとありがたいです。  また、この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業、地名などとは一切関係ありません。また、物語の中で描かれる行為や状況は、著者の想像によるもので、実際の法律、倫理、社会常識とは異なる場合があります。読者の皆様には、これらをご理解の上、物語としてお楽しみいただけますと幸いです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士

ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。 国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。 王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。 そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。 そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。 彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。 心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。 アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。 王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。 少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。

最強幼女は惰眠を求む! 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜

フウ
ファンタジー
※30話あたりで、タイトルにあるお節介があります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー これは、最強な幼女が気の赴くままに自堕落ライフを手に入を手に入れる物語。 「……そこまでテンプレ守らなくていいんだよ!?」 絶叫から始まる異世界暗躍! レッツ裏世界の頂点へ!! 異世界に召喚されながらも神様達の思い込みから巻き込まれた事が発覚、お詫びにユニークスキルを授けて貰ったのだが… 「このスキル、チートすぎじゃないですか?」 ちょろ神様が力を込めすぎた結果ユニークスキルは、神の域へ昇格していた!! これは、そんな公式チートスキルを駆使し異世界で成り上が……らない!? 「圧倒的な力で復讐を成し遂げる?メンド臭いんで結構です。 そんな事なら怠惰に毎日を過ごす為に金の力で裏から世界を支配します!」 そんな唐突に発想が飛躍した主人公が裏から世界を牛耳る物語です。 ※やっぱり成り上がってるじゃねぇか。 と思われたそこの方……そこは見なかった事にした下さい。 この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。 上記サイトでは完結済みです。 上記サイトでの総PV1000万越え!

さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...