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用心棒編
地の神、力を引き出す
しおりを挟む47-①
カラマク寺院本殿の地下深く……それはもう深ぁーーーーーくに地の神ラグドウンを祀る拝殿は存在する。
拝殿が何故こんなにアホみたいに地下深ぁーーーーーくにあるのかというと、およそ200年前、カラマク寺院建立にあたり、地の神は地の底にいると考えた当時の有名建築家、オスコ・スムス・クマルのホリ三兄弟が、地の神のおわす場所に少しでも近付けるようにと、地面を掘り起こし、掘り進み、掘りまくったらしい。
そしてその地下深くに作られた拝殿にて、武光とナジミは黄色い輝きを放つ光の玉と対面していた。この光の玉こそ、地の神《ラグドウン》である。
ナジミはラグドウンに武光がこの世界にやって来てから今日に至るまでの経緯を説明した。
「……なるほど。勘違いでこの者を連れてきてしまったと……そそっかしいのぉ、お主」
風の神ドルトーネに続き、地の神ラグドウンにもドジ巫女認定されてしまい、ナジミは激しくヘコんだ。
「うぅ……も、申し訳ございません。つきましては、この者を本来あるべき世界に還す為、畏れながら……ラグドウン様に異界渡りをする為の御力を授けて頂きたく存じます」
「宜しくお願いします!!」
武光とナジミの二人は地の神に平伏した。
「良かろう……そなたらに力を授けよう。異界渡りの書を出すが良い」
「ありがとうございます!! って……あれ? あれれ?」
異界渡りの書を探して全身を弄るナジミを見て、武光は何だか猛烈に嫌な予感がした。
「ま……まさか、おま……」
「異界渡りの書……宿屋に置いてきちゃったかもです……」
「あ……アホーーーーーっ!!」
武光は絶叫した。
「ご、ごめんなさい!! すぐに取って来ます!!」
「ええわ、俺が行ったる。お前の足やったらこのクソ長い階段また上って降りて来るのにどれだけ時間かかるか分かったもんちゃうし」
「本当にごめんなさい……異界渡りの書は私の部屋の机の引き出しの中です。これが部屋の鍵です……」
「……じゃあ行ってくるわ」
武光はナジミから鍵を受け取ると、屈伸と伸脚、アキレス腱を伸ばすストレッチをした後、地上と地下を結ぶ、長い長い螺旋階段を見据えた。
「よっしゃ……行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」
~5分経過~
「行くぞぉぉ……ぉ……ぉぉぉぉ……ぉぉぉ……ぉぉ……」
~更に5分経過~
「……あ、あかん……ペース……配分を…… 完全に……間違え……た……」
~更に5分経過~
「………………はぁっ……はぁっ……や、やっと地上に……ん、あれは……ミト!? オイオイオイオイ何で倒れとんねん!? 大丈夫か!? しっかりし……くっさぁぁぁっ!? えっ!? 何やコレ、酒臭っ!? 何しとってんコイツ……あーあー、ヘソ出してまぁ……でも、このままにしとくわけにもいかんし……しゃあない……背負うか……? ふんぬっ……ぐあー、あ、足がー!? ぐっ……重っ!? 酒臭っ!? 重っ!! ……ったく、足パンパンやんけくそー……っていうか酒臭っ!!」
47-②
武光がヒィヒィ言いながら異界渡りの書を取りに行っている間、ラグドウンはナジミに問うていた。
「ナジミよ……あの者、本当に唐観武光なのか?」
「はい、間違いありません」
「それにしては、あの者からは神々の力を感じぬが……」
「……ドルトーネ様も仰っておられました。異界渡りの書を使ってこちらの世界に渡って来たのに、武光様からは神々の力が全く感じられないって……実際、風の神殿で悪漢に襲われた時も、神風術で撃退しようとしましたが、武光様の手からはそよ風しか出ませんでしたし……」
「何……? それは本当か!?」
「は、はい……本当ですが、それが何か?」
驚くラグドウンに対して、ナジミは首を傾げた。
「ナジミよ……お主、風術や地術を学んだ事は?」
「い、いえ……ありませんが……」
「そもそも術の修得は誰にでも出来るようなものではない。更に言えば、風の術は他の三大属性に比べて特に習得の難易度は高いのだ……火や水、土とは違い、目に見えず形も持たぬ。例えそよ風であろうと、人間がそれが出せるようになるにはかなりの修練が必要なのだ。才有る者でもニ年、才無き者は十年修行しても出せぬ……それをたった一度で出したと……」
それを聞いたナジミはあんぐりと口を開けた。
「……え? ひょっとして……武光様って凄いんです……か?」
「うむ……それが可能という事は、やはりあの男には神の力が宿っておる。どういうわけか今は神々の力が体の奥底で眠っている状態らしいがな。む……戻って来たようだな」
「くっはー、や……やっと着いたーーー!!」
「ぬん!!」
「ぎゃあーーーーー!?」
戻って来るなり、ラグドウンは武光に光を浴びせた。
光を浴びせられた武光が激しくのたうち回る。
「ぬぅ……駄目か」
ラグドウンは光の照射をやめた。激痛から解放された武光がラグドウンに抗議する。
「ちょっ!? い、いきなり何するんですか!?」
「いや……お主の中に宿る力を引き出してやろうと思ったのだが……」
「いやいやいや、だからってそんないきな……ぎゃあーーーーー!?」
「ぬぅ……やはり駄目か……ほんの僅かしか力を引き出せぬ。一体何故だ……まぁ、良い。異界渡りをする為の力を授けよう」
「は、はいっ!!」
ナジミは白目を剥いてピクピクと痙攣している武光から異界渡りの書を取り上げると、片膝を着き、ラグドウンの前に恭しく掲げた。
「ぬん!!」
ラグドウンが、異界渡りの書に、黄色い光を照射すると、ドルトーネの時と同じく、異界渡りの書に文字が浮かび上がった。
風神ドルトーネと地神ラグドウンによって、異界渡りの書の上半分が埋まった。
「力は授けた……さらばだ」
地の神ラグドウンは、地面に吸い込まれるように姿を消した。
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