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用心棒編
勇者、ガンガン行く
しおりを挟む43-①
「武光殿、ご無事ですか!!」
「ふぅー、何とか間に合いましたねー」
武光の前に、リヴァルとキサンが現れた。
「ヴァっさん、あ……ありがとう、助かったわ」
「無事で何より。敵の大将は討ち取りました。東の敵もヴァンプが迎撃に向かっています……さぁ、残りの敵も一緒に蹴散らしましょう!!」
「おう!! 一緒に蹴散らし……って、待て待て待て!?」
武光は思わずノリツッコミをしてしまった。
「何です?」
「いやいやいやいや『何です?』やあるかいな!?」
キョトンとしているリヴァルを連れて、武光は防塁の上に登り、敵の軍勢を指差した。
「敵!! いっぱい!! 無理!! 死ぬ!! いのちだいじに!!」
興奮し過ぎてカタコトになりつつも、武光は敵の方を指差した。指差した先にはオークの群れが犇いている。
武光達は持てる力を全て振り絞り、全力で、必死こいて敵を倒したが、それでもなお、敵は七十匹以上も残っているのだ。しかも、どうやら混乱は治まったらしい、進軍の角笛が再び鳴り響く。
「大丈夫ですよ、私達ならきっとやれます!! ……よっと」
「ちょっ、ヴァっさーーーん!?」
何と、リヴァルが防塁から、ひょいと飛び降りてしまったのだ。武光もリヴァルを引き止めるべく慌てて防塁から飛び降りた。
「さぁ、ガンガンいきましょう!!」
「いやいやいやいや……行けるかいっ!! ひとまず防塁に戻って……」
「キサン、守りは任せた!!」
「はいはーい、任されましたー、地術……ランドウォール!!」
キサンが地面に手を翳すと、地響きと共に、防塁の下の地面が隆起し、防塁の高さが一気に倍近くになった。
その高さは、もはや防塁ではなく、防壁と言って差し支えない程であった。
「バッチリですー!! これで、敵はそう簡単にここを越えられませんよー!!」
防壁の上で二人に手を振るキサンを見て武光は愕然とした。前からは敵の大群、背後には敵が登れない程の高い壁。それ即ち……
「逃げ道あらへんやんけーーーーー!?」
「……参る!!」
「ちょっ……ヴァっさーーーん!? 危ないって!! ……く、くっそーーー!! な、南無三ーーーーーっ!!」
もはやヤケクソだ!! 半ば自暴自棄になりながらも、友を守るべく、武光はリヴァルを追って駆け出した。
43-②
「はぁぁぁっ!! たぁっ!! せいっ!!」
流麗にして鋭利!! 金色の光を纏った剣を手に、リヴァルが次々と敵を斬り捨ててゆく。
「わーっ!? 危なっ!! ひーっ!?」
ヤケクソにして必死。イットー・リョーダンを手に、武光がその後を追う。
武光は思い知らされていた。『ヴァっさんを守る』など、思い上がりも甚だしかった。
何かもう、守るとか守らないとかの騒ぎではない、リヴァルから離れないように後を追うので精一杯だ。
……置いて行かれたが最後、あっと言う間に敵に囲まれて……きっと、絶対に、間違いなく、嬲り殺しにされてしまう。
肺が破裂しそうになりながらも、武光はひたすらにリヴァルの背を追い、足を動かし続けたが、朝からずっと戦い続けて、武光の体力はもはや限界だった。
「……うおぁっ!?」
どれだけ走り続けたのか……とうとう、足が縺れて派手にすっ転んでしまった。
(ひぃぃ!? は、早よ立たな殺されてまう!!)
武光は焦ったが、敵の追撃はこなかった。
「大丈夫ですか?」
……不意に、武光の前に一本の手が差し伸べられた。リヴァルである。敵軍のど真ん中だというのに、超絶爽やかスマイルである。
「ヴァっさん、笑とる場合ちゃうて!! て、敵が……え!?」
後ろを振り向き、武光は言葉を失った。
……そこにあったのは、夥しい数の魔物の屍だった。いつの間にか武光は敵の軍勢を突破してしまっていたのだ。
更に驚くべき事があった。目の前に……壁がある。うつ伏せに突っ伏したまま視線を上に向けると、壁の上からキサンが二人をニコニコと見下ろしている。
「二人共お帰りなさーい」
必死過ぎて全く気付かなかったが、武光達は一度敵軍を突破した後すぐさま反転し、再び敵軍のど真ん中に突っ込み、暴れ回っていたのだ。
……正直な所、セイ・サンゼンでの論功行賞で、リヴァル達が『200匹以上の魔物を倒した』と言ったのを、武光はてっきりネタだと思っていた。ヴァっさんスベってるやんけ、などと思っていたのだが……
「マジやんか……はは……」
あまりの事に “ブッ” と屁をこいた後、武光は気を失った。
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