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用心棒編

斬られ役、魔将を迎え撃つ(前編)

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 40-①

 ボゥ・インレの南から進軍してくるコウカツ軍主力部隊およそ百八十に対し、武光率いるボゥ・インレ守備隊二十名は打って出た。

 ボゥ・インレの南、およそ一里(約400m)の地点、武光達は街道脇の小高い丘に身を潜め、コウカツ軍の到来を待った。

 待つことおよそ30分、コウカツ軍の先鋒部隊が姿を現した。武光は物凄い数のオークの群れに内心めちゃくちゃビビりながら、ヤケクソ気味に絶叫した。

「……投げまくれぇぇぇっ!!」

 眼下の敵目掛けて、昨日のうちに、あらかじめ丘に運び込んで隠しておいたびんを投げまくる。投擲とうてきされたびんがオークの頭上に降り注ぎ、中の液体をぶち撒ける。
 武光達に気付いた敵は、頭上から雨よあられよと降り注ぐ瓶をものともせず、丘の上目掛けて進軍してくる。

「……たる!!」

 武光の合図で、ナジミ軍の男達が、びん同様、荷車で運んでおいた樽を次々と丘の上から転がした。樽は、丘を駆け上ろうとするオークに直撃して、中に入っていた液体を盛大にぶちけたが、やはりオークはそれをものともせず突き進んでくる。

「よっしゃ……喰らえぇぇぇっっっ!! 秘技……荒ぶる自由の女神!!」

 武光は火をつけた松明たいまつを頭上に高々と掲げると、油にまみれた敵軍目掛けて放り投げた。

 40-②

『先鋒部隊、敵の火計により壊滅』

 知らせを聞いたコウカツは、伝令の小悪魔を蹴り飛ばした。

「くっ、小癪こしゃく真似まねを……!!」

 正直な所、コウカツは敵が打って出てくるとは思っていなかった。

 ある時はタイラーファミリーの兵に、またある時は幻璽党の兵に、そしてまたある時は町人にと、乗り移る相手を転々としながら、ボゥ・インレを監視していたコウカツの目には、タイラーファミリーの人間も幻璽党の人間も、自分より弱い者を平然としいたげ、強い者には易々と尻尾を振るクズだと映っていた。

 ボゥ・インレに『三日後に攻め入る』とあの男に言ってわざと進軍を遅らせたのも、逃げ出す猶予ゆうよを与えてやったのだ。

 助かる道があるならば、飛び付かずにいられないのが脆弱ぜいじゃくなる人間のさがというものだ……少なく見積もっても自分達の十倍もの軍勢を前に、タイラーファミリーや幻璽党の残党共は今頃我先にと逃げ出して、防備は無いに等しいものとたかくくっていたのだが……

「この三日の間に防備を固め、徹底抗戦の構えを取るとはな……唐観武光……あの男の仕業か……!!」

 コウカツは拳を握り締め、後続部隊に追撃命令を下した。

 40-③

 コウカツが先鋒部隊壊滅の報を受けている頃、武光達はヒィヒィ言いながら、全力ダッシュで逃げ帰っていた。

防塁ぼうるいまで走れーーーー!!」

 武光達の行く手には、街の住人総出で、街の南口前方、10mほどの地点に築いた土塁があった。土塁は成人男性の背丈よりも少し高いくらいで、梯子はしごが立てかけてある。
 武光達は土塁にかけてあった梯子はしごを駆け上がり、全員がのぼりきったのを確認すると梯子はしごを引き上げた。
 防塁の裏では奇襲から戻ってくる武光達の為に、ナジミが水の入った瓶を大量に用意して待っていた。ナジミが次々と瓶を手渡してゆく。

「あ……姐さん……み、水をくれ……」
「は、ハイッ!!」
「んぐっ……んぐっ……ぷはーっ!! うめえ!!」
「姐さん、こっちにも水を……」
「ハイッ、水です!!」
「んぐっ……んぐっ……ふぅー!! 生き返るぜ!!」

 用意してあった水瓶をナジミが次々と配ってゆく。

「ナジミ!! 俺にも水くれ!!」
「ハイッ、武光様!!」
「……んぐっ」
「あっ、ごめんなさい!! それ油瓶あぶらびんです!!」
「ぶはぁっ!? おえええええ!!」
「水はこっちです!!」

 武光はナジミから水の入った瓶を受け取り、中身を一気に飲み干した。

「よし、ナジミ。お前は下がって街の中央で待機や、怪我人が出たら治したってくれ!!」
「分かりました!! 無茶しないで下さいね!!」
「おう!!」

 武光は防塁の上に登ると、背後を振り向き、呟いた。

「気ぃつけろよ、ナジ……あっ、あいつまたコケとるやんけ……おー、起き上がった。よし、ええぞ……走れーーー!!」

 再び、正面を向いた。砂塵を巻き上げ、敵の軍勢が迫っている。
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