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用心棒編

悪党達、頭を下げる

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 38-①

 武光、そして武光と合流したミトはあんぐりと口を開けていた。

 無理もない、少し見ない間に、ナジミが巫女からヤクザの女組長にジョブチェンジしているのだ。

「ジャイナ、こいつワルモノか……?」
「ええと……彼女はワルモノではありません……よ?」

 ミトはかたわらに立つベンからの問いに答えたものの、すこぶる歯切れが悪かった。

 ……何かもう、とにかく絵面えづらが凄い。四十人もの屈強な男達を従えるナジミの姿は神に仕える巫女などではない……見れば見る程荒くれ者共の女頭領である。

 ナジミが引き連れている男達に武光とミトは見覚えがあった。自分達が潜入していたタイラーファミリーと幻璽党の連中だ。男達は皆、手や頭にピンク色の布を巻いている。

「えっと……何でやねん!!」

 事態が飲み込めず、思わずツッコんでしまった武光に対し、一人の男が答えた。

「俺達は皆、抗争で傷付き、生死の境を彷徨さまよっていた所をナジミのあねさんに助けて貰ったんです」

 ナジミに……助けられた?

 男達の話によれば、武光達がタイラーファミリーと幻璽党を潰す為に奔走ほんそうしていた頃、ナジミは、タスマの紹介で、無人になってしまった街の診療所を借りて、抗争に巻き込まれて怪我をした街の人達を見つけては運び込み、治療をしていたのだという。

 ……そして、その中にはタイラーファミリーや幻璽党の構成員までもが含まれていたのだ。

「ナジミ……お前正気か!? こんな凶悪な連中まで!!」

 こいつらは凶暴な極悪人だ、助けた所で再び悪事を働くかもしれない。それどころか助けてくれたナジミに牙をくかもしれないのだ。武光は思わず声を荒げた。

「ごめんなさい……でも、例え悪人であろうとも、私には……目の前で苦しむ人を見捨てる事が出来ませんでした」
「せやかてなぁ……!!」
「待って下さい!! ナジミの姐さんを責めないでやって下さい。姐さんは、こんな粗暴で馬鹿でどうしようもない俺達を、必死に看病してくれたんです!!」
「姐さんは……俺達にやり直す機会を与えてくれた!!」
「今まで俺達がしてきた事の罪滅ぼしにはこれっぽっちも足りませんが……俺達にも魔王軍からこの街を守る手伝いをさせて下さい!!」

 男達が武光に土下座する。

「何でやねん……この中には俺に斬られて殺されかけた奴もおるやろ!? 何でそこまで……」
「確かに俺達の中にはアンタに斬られた奴もいる……俺もその内の一人だ。でも、アンタは俺達の命の恩人の命の恩人だって聞いた……だから!!」

 武光は目を閉じ、腕を組んでしばらく考えた後、顔を上げた。

「……よし、分かった。お前らの力……俺に貸してくれ!!」
「へい!! 俺達に任せて下さい……《最強神聖可憐巫女ナジミ軍》に!!」

 武光達は 固まった。

「何ちゅうネーミングや……」
〔うわぁ……何と言うか、これは……その……うわぁ〕
「カヤ、やはり私には……庶民の感覚を理解する事が出来ないのかしら?」
〔大丈夫です、姫様の御心は民と共にあります。庶民視点でも……これは無いです〕

 武光達にジトッとした視線を向けられたナジミは、慌てて首を左右にぶんぶんと振った。

「ち、違いますよ!! 私が名付けたんじゃないですからね!? 皆さんっ、お願いですからその恥ずかしい名前はやめて下さい!!」
「まぁええわ!! 時間が惜しい……とにかく街の守りを固めんぞ、最強神聖可憐巫女ナジミ軍っ!!」
「だからその名前はやめてぇぇぇぇぇー!!」

 羞恥のあまり、耳まで真っ赤になった顔を両手で覆いしゃがみ込んでしまったナジミをよそに、武光達は魔王軍迎撃に向けて動き出した。
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