上 下
9 / 180
勇者(?)召喚編

斬られ役、対決させられる

しおりを挟む

 9-①

(ヤバい……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!)

 武光は焦りまくった。何とか…何とか誤魔化さなければ!!

「恐れながら……例え手合わせと言えど、おそれ多くも姫様に刃を向けるなど、それがしには出来ませぬ!! ひらに、ひらにご容赦ようしゃをー!!」

 床に頭をりつけんばかりに平伏する武光をミトは嘲笑あざわらった。

「あらあら、先程までの堂々とした態度は何処どこへ行ってしまったのかしら? それに今から私達が行うのは、手合わせではなく、真剣を使った決闘よ?」
「し、真剣!? (アホかっ!! こっちの刀は木の刀身に100均でうた台所補修用アルミテープっ付けただけの竹光たけみつやぞ!?)」
「そうよ」
「なれば、尚更なおさらお受け出来ませぬ!!」
「どうしてかしら? やはりあなたは国王陛下を騙そうとした偽物なのかしら?」

 アカン、誤魔化しきれへん。武光はナジミに助けを求めようとチラリと視線をやったが……

「かえるがおさるに体当たり~♪ へへへ……」

 ナジミは、虚ろな目で、謎の歌を小声で口ずさんでいた。

(何やねんその歌!? 何か現実逃避し始めてるし……こ、こうなったら娘を思うオトンの愛に賭けるしかあらへん!!)

 武光は意を決して言った。

「某、武骨者ぶこつものなれば……手加減を誤り、大切な姫様の玉体ぎょくたいに傷を付けてしまうやもしれませぬ!!」

 (さぁ、早よ娘を止めたらんかい、オトン!!)……と、祈るような気持ちで武光は国王に視線を送ったが……

「……構わぬ。もしこのじゃじゃ馬を傷付けたとしても罪には問わぬ」
「おとーーーーーーーーーん!? あっ、いや何でもありませんっ!!」
「お父様のお許しも出た事だし、早速始めましょうか?」
「い、致し方ありませぬ」

 こうなってしまっては、もはや死中に活を求めるしかない。武光は腹を括って立ち上がった。
 武光は、隣で固まっているナジミを優しく立たせると、邪魔にならないように壁際に移動させ、小声で話しかけた。

「危ないからここでじっとしとけよ?」
「武光様……短い付き合いでしたが、貴方様の魂は私が生涯をかけて弔いますっ」
「アホか、縁起でもない事言うなや!?」
「で、でも……相手は剣術の天才と名高きミト姫様、しかも武光様の刀は木で出来た偽物、それに何より……武光様は斬られてばっかりの斬られ役じゃないですか!?」
「大丈夫や、作戦は……ある」

 そう言うと武光はミトの前に立った。

「……お待たせ致した。では1・2の3で、互いに刀を抜いて、勝負という事でよろしいか?」
「ええ。お父様……決闘の合図を」
「うむ」

 アナザワルドは頷き、玉座から立ち上がった。

「……ひとぉーーーーーつッッッ!!」

 武光は右足を少し前に出し、床を踏みしめると、腰を深く落とした。地面に根を下ろすように、しかし力み過ぎないように。

「……ふたぁーーーーーつッッッ!!」

 左手でさや鯉口こいくちを握り、ゆっくりと身体を左に引く。

「……みっつッッッ!!」

 脚の踏み込み、腰のひねり、上半身の発条ばね、そしてひたすら前へと向かう意識……あと気合!!

 それらを総動員して武光の鞘から抜き放たれた刃は、剣の柄に手をかけたミトの首筋にピタリと当てられていた。
 首筋に刃を当てられたミトは、剣の柄に手をかけたまま動けずにいたが、アナザワルドが『それまで!!』と宣言すると、その場にへたり込んだ。

 武光の作戦とは至って単純なものだった。刃を交えては1mmたりとも勝ち目がない以上、勝つ方法はただ一つ、『相手が剣を抜く前に勝つ!!』という事だ。
 それ故《ゆえ》に、武光はわざわざ『1・2の3で刀を抜いて勝負』という状態に持ち込んのだ。

 そうなれば十分に勝機はあると武光は思っていた。なぜなら、日本刀は抜刀に非常に適した形になっているし、何より武光の刀の刀身は、鉄よりもはるかに軽い “かしの木” で出来ている、そこから繰り出される抜刀のスピードはかなりのものだ。
 対して、相手は抜刀に向かない直剣、しかも重たい甲冑を身に纏っているのだ。

 果たして、武光は賭けに勝った。

 アナザワルドが『それまで!!』と言ったのを聞いた武光は、刀身が木で出来た偽物だとバレる前に大急ぎで刀を鞘に収めた。

「姫様、ご無礼の段……ひらにご容赦ようしゃを……って痛っっっ!?」

 武光はへたり込んでいるミトに手を差し出したが、乱暴にその手を払われた。

「……納得いきません!! 今一度……今一度私と勝負しなさい!!」

 ミトの言葉に武光は焦った。これ以上やったら流石にボロが出てしまう、何とか……何とかして言いくるめねば!!

「しょ……笑止ッッッ!!」

 武光はミトを怒鳴りつけた。

「これが実戦なれば、姫様の首は飛ばされておりまする!! 首を落とされた者に、今一度もやり直しもあるものか!!」

 とにかく必死だった。絶対に、どうしても、何が何でも再戦は避けねばならない。

「で、でも……」
「言い訳無用!! そのような甘い考えと半端な覚悟で戦に臨むなど言語道断!!」

 自分も実戦になんて出た事無いくせに何を言ってるのかと思いつつも、武光は畳み掛けた。しつこいようだが、何としても再戦は避けねばならない、バレたらきっと、それはもうえげつない方法で殺されるに違いない。

「姫様が、首をねられてもなお戦えると仰られるのであれば、もう一戦いっせんつかまつる!!」

 武光の放った言葉に、ミトは顔を真っ赤にして俯いた。肩が小刻みに震え、ボタボタと悔し涙を流している。

(ゲェーッ!? アカン……やり過ぎた!! 泣かしてもうたやんけ!!)

 武光はめちゃくちゃ焦った。黙らせるだけで良かったのに、もし今目の前で泣いている姫がたった一言『この無礼者を捕らえろ』などと言おうものなら、あっと言う間に捕らえられた後、それはもうとんでもなくどギツい方法で処刑されるに違いない。

「あ、あの姫様? そのー、何と言いますか……少し口が過ぎました。も、申し訳ありま……オウッッッ!?」

 ミトは、膝で武光に金的を食らわすと何も言わずに走り去ってしまった。股間を押さえながらうずくまって悶絶する武光を目の当たりにしたアナザワルド以下、謁見の間の男達は、思わず内股になった。

「た、武光様ー!?」

 ナジミが駆け寄り、武光の背中をさする。流石のアナザワルドも心配そうに武光に声をかけた。

「た、武光よ……大丈夫か?」
「……む、無理かもしれませぬ」
「……うむ、さぞや苦しいであろうな。そのままで構わぬ。異世界の戦士唐観武光、そしてアスタトの巫女ナジミ、改めて、そなたたちに魔王シンの討伐を命じる!!」
「あ、有難ありがたき幸せ……」

 何とも間抜けな拝命となったが、にもかくにも武光とナジミは打首の危機を乗り切った。

「アスタトに戻り出立の支度をせよ。数日の内に《監査武官《監査武官かんさぶかん》を一人選んで派遣するゆえ、その者と合流した後に出立するのだ」
「……は」
「は、はいっ!!」

 武光は金的の激痛で、ナジミは限界を超えた緊張感で、二人共フラフラになりながら謁見の間を後にした。
 二人が謁見の間を退出してしばらくした後、大臣がアナザワルドに告げた。

「次の者が国王陛下への拝謁を待っております。リヴァル=シューエンです」

 9-②
 
 武光はナジミに肩を支えてもらいながら、城の外に出た。

「……な? 何とかなったやろ?」
「……はい」

 国王が馬車を用意してくれている駐車所ちゅうしゃしょまで歩いてゆく。 

「……なぁ、ちょっとそこの草むらに入ってくれへん?」
「……はい、私も丁度ちょうどそうしたいと思ってたんです」

 二人は駐車所への道の脇にある草むらに入り、そして……

「「うっ…………ゔおえええええええええええっ!!」」

 二人は思いっきり嘔吐えずいた。

「はぁ……はぁ……な、何だ武光様もめちゃくちゃビビってたんじゃないですか」
「あ、当たり前やろ、あんなもん誰でも緊張するっちゅうねん、あのオッサンめちゃくちゃ顔怖いしやな……うぇっ」
「だって行く前はあんなに自信満々だったじゃないですか!?」
「それはアレや、本番直前に 『無理や~』って言うてテンション下げる奴があるかいな」
「じゃ……じゃあアレ、何の根拠も無いカラ元気だったんですか!?」
「何か文句あるか?」
「…………ふふっ」
「…………へへへ」

 二人は顔を見合わせた後、高らかに笑い、そして嘔吐えずいた。今更ながら、よくもまあ無事に乗り切れたものだ。思い出しただけで、背筋がぞくりとする。

「さてと……帰るか!!」
「はいっ!!」
 
 二人は草むらを出た。この時、駐車所に向かう二人の背中に、厳しい視線を送る影があった事に二人は気付いていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士

ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。 国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。 王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。 そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。 そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。 彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。 心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。 アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。 王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。 少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

最強幼女は惰眠を求む! 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜

フウ
ファンタジー
※30話あたりで、タイトルにあるお節介があります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー これは、最強な幼女が気の赴くままに自堕落ライフを手に入を手に入れる物語。 「……そこまでテンプレ守らなくていいんだよ!?」 絶叫から始まる異世界暗躍! レッツ裏世界の頂点へ!! 異世界に召喚されながらも神様達の思い込みから巻き込まれた事が発覚、お詫びにユニークスキルを授けて貰ったのだが… 「このスキル、チートすぎじゃないですか?」 ちょろ神様が力を込めすぎた結果ユニークスキルは、神の域へ昇格していた!! これは、そんな公式チートスキルを駆使し異世界で成り上が……らない!? 「圧倒的な力で復讐を成し遂げる?メンド臭いんで結構です。 そんな事なら怠惰に毎日を過ごす為に金の力で裏から世界を支配します!」 そんな唐突に発想が飛躍した主人公が裏から世界を牛耳る物語です。 ※やっぱり成り上がってるじゃねぇか。 と思われたそこの方……そこは見なかった事にした下さい。 この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。 上記サイトでは完結済みです。 上記サイトでの総PV1000万越え!

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

処理中です...