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嘆きの聖女編
ひさく、披露される
しおりを挟む231-①
「核を破壊するのです」
シルエッタが告げた、あまりにも今更な暗黒樹の倒し方に、影光は椅子からズリ落ちそうになった。
「いや、そんな事は分かってんだよ!!」
「話は最後まで聞きなさい14号」
シルエッタは呆れたように小さく溜め息を吐くと、話を続けた。
「暗黒樹の核はそう簡単に破壊する事は出来ません。何故なら、暗黒教団の信徒達が各地に打ち込んだ楔が、その地に宿る生命の力を吸収し、核に送り込み続けているからです。楔の力がある限り、暗黒樹の核は多少の傷をものともせずに瞬時に再生し、暗黒樹も成長し続けます」
「シルエッタ、その楔とやらを打ち込んだ場所を教えろ」
「分かりました……」
影光に促され、シルエッタは暗黒教団の信徒達に命じて、楔を打ち込ませた場所を挙げてゆく。
その場所を聞いたリョエンは隣に座っているミトに報告した。
「姫様、先程彼女が口にした場所や地域では、家畜や野生動物の謎の大量死や、作物や森林が突然枯れてゆくといった現象が報告されており、住民達の気力や体力が著しく低下するという原因不明の疫病が広がっているという報告も上がっています」
「それは……その地域に住む動植物が、楔の力によってジワジワと生命力を吸われているのです」
それを聞いたフリードは声を荒げた。
「だったら今すぐにその楔ってのを停止させろよ!! 制御出来るんだろ!?」
「それが……先程からずっと制御を試みているのですが……楔と暗黒樹が繋がっている事によって楔の制御も乗っ取られてしまったようです」
「なっ!? それってつまり……」
「……ごめんなさい」
「ふ……ふざけんなよ!! ゴメンで済んだら天照武刃団は要らねーんだコノヤロー!!」
フリードは激怒して立ち上がったが……
「騒ぐな、座れ」
「わ、分かったよ……ハッ!? つ、つい座っちまった。くそー、アニキに似過ぎだろ……アイツ」
思わず座ってしまったフリードに対し、影光が声をかける。
「なぁ、お前……本体の弟分なんだろう?」
「お、おう!! だったらどうだってんだ、アニキの影ヤロー!!」
「だったら……? だったら兄貴分を信じてドンと構えてろ。アイツはしぶとい、アイツは、この俺の本体なんだぞ?」
「は、はぁ!? ふ、ふざけんな!! 俺は最初っっっからアニキの事めちゃくちゃ信じてるっつーの!?」
「そうかそうか、だったらシルエッタを責める前にやるべき事があるだろう?」
「楔を……ぶっ潰す」
フリードの答えを聞いた影光は満足げに頷くと、シルエッタの方に向き直った。
「で? 楔をぶっ潰して核の再生能力を封じた後は?」
「内部に侵入して核を破壊する事が出来れば……しかし、暗黒樹の最外殻、つまり木の幹にあたる部分の硬度は、恐らく鋼鉄の何倍もの硬度に達しているはず。そう簡単には……」
シルエッタの言葉を聞いて、軍議の間にいた全員から思わず溜め息が漏れた。
その後も暗黒樹を滅する為に、侃侃諤諤、百家争鳴、意見と意見の金網電流爆破鉄条網デスマッチといった様相で対策会議が繰り広げられたものの、有効と思われる策が一向に出ず、皆の疲労と脳汁の沸騰が隠し切れなくなってきたその時だった。
「はーい!!」
「はいはーい!!」
つばめが 現れた!!
すずめが 現れた!!
机の下に隠れていたつばめとすずめが元気良く飛び出した。
「お前達、そんな所にいたのか……」
「あのね、かげみつさま」
「あのおっきな き をやっつけるんでしょう?」
「お、おう」
それを聞いたつばめとすずめは自慢げに胸を張った。
「ふっふっふー、『ひさく』があります!!」
「ひさくがあります!!」
「こらっ!! チビ共、今は大事な話の最中なの!!」
「まぁまぁ、そう言うなって」
つばめとすずめを摘み出そうと立ち上がったヨミを影光は手で制した。
「ふふ……二人とも、それキサイの真似か? 上手いぞ、で……秘策って何だ?」
つばめとすずめは両腕を目一杯伸ばして大きな丸を描いた。
「ふふん、こーーーーーんな、おっきな『けん』をつくるの!! すごく、すーーーっごくおおきいの!!」
「うんうん、それで?」
「それでね、その『けん』で “ぐさーっ!!” ってやって “ずばーっ!!” ってやるの!!」
つばめとすずめの『ひさく』を聞いて、女性陣からは微笑みが、野郎共からは失笑が漏れ、場の空気が和んだ。
だが、そんな中でたった三人……たった三人だけ大真面目な顔をしている者達がいた。その三人とは……
天驚魔刃団の誇る知将枠である、キサイ。
術士としてだけでなく、技師としての優れた技能を持つ、宮廷術士リョエン=ボウシン。
そして、つばめとすずめを溺愛しまくっている親バカ、影光。
三人は同時に立ち上がり、そして叫んだ。
「「「そっ……それだーーーーー!!」」」
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