斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
上 下
194 / 282
魔王軍進撃編

新生魔王軍、突入する

しおりを挟む
「何で王太子様とあんなに親しげなの?」

レイラちゃんが不思議に思うのは当然の事だ。貴族科の生徒でもない私が王太子様と普通に話していたら気になってしかたがないだろう。
当人の私だって、不思議なんだから。
そもそも、王太子様と会うのは謁見の時以来だし、その初対面ではラブュ様に土下座をさせたり、モスたちを説教したりと印象は最悪だったと思うのだ。

「えっと、加護を授かった事の報告をするために、国王様ご一家とお会いする機会が会って、王太子様とはその時にお会いしたの。でも、会ったのはその一度きりだよ」

よくわからないことには蓋をして、王太子様となぜ知り合いなのかを説明する。


「サラはその時に国王様たちとご飯も一緒に食べたんだって!」
「なんで、キャシーが自慢げなのよ」

キャシーちゃんが自慢げに胸をそらして話すのを、アミーちゃんが呆れた様子でたしなめる。

「へーっ!凄いなぁ!国王様ってどんな人だった?」
「王女様にもお会いしたのぉ?」
「えっと、国王様は優しそうな方だったよ。うん。王女様にもお会いしたよ。」

国王様との謁見の話は三人にしか話していなかったので、フィン君とエミリちゃんも興味津々なようだ。

「じゃあ、さっき会ったので二度目ってこと?」
「うん」

レイラちゃんは信じられないといった目でこちらを見つめるけど、本当の事だから!
アミーちゃんたちも一緒になってレイラちゃんを説得してくれて、レイラちゃんも渋々だけど納得してくれた。




「あっ、良かった!帰ってきたっ!リチャード先輩!みんな帰ってきましたっ!」

聞きなれた声に振り向くと、ヒューイ先輩たちがこちらへ走ってくるところだった。
その後ろにはリチャード先輩もいて、私たちの姿を見てホッとしたような顔を浮かべている。

「玄関で話し声が聞こえたから、もしかしてと思って、無事に解放されたんだね。良かった!」
「みんな無事っ!?」
「私、マリアさんを呼んでくる!」


ミーナ先輩がマリアさんを呼びに寮母室に向かったので、マリアさんが来るのを大人しく待っていると、談話室で私たちの帰りを待っていた同級生や先輩方がやって来て、あっという間に囲まれてしまう。

「助けてあげられなくって、ごめんなっ」
「キャシーちゃん、怪我はない?」
「大変だったね!」


みんなに囲まれて、戸惑う私たちにリチャード先輩がこの大騒ぎの理由を教えてくれた。

「貴族科の一年に絡まれたんだって?その場にいた他の一年が血相を変えて寮に飛び込んできて、教えてくれたんだ。すぐにマリアさんに伝えて、王太子様が仲裁にはいったのなら下手に動かない方が良いって事になったんだが、あまりにも遅いから俺だけでも様子を見に行こうかと話してたところだったんだ」
「そうだったんですね」
「とにかく無事で良かったよ」
「マリアさん、早く早く!」
「お待ちなさい、ミーナ。廊下を走っては行けませんよ」

ミーナ先輩がマリアさんの手を引っ張って、早足でこちらに戻ってきた。

「王太子様の事情聴取は終わったようね」
「はい。後の事は王太子様たちに任せるように言われました」

マリアさんの質問に、アミーちゃんが私たちの代表として答える。

「授業の初日から大変な目にあったわね。親の身分を自分のものと勘違いした子が多くて困ったものだわ。すぐにその愚かな考え方は改められることでしょうけど。念のため、私からもガスト校長に話しておかないとね」

マリアさんは屈んで私たち一人一人の頭を優しく撫でてくれた後、立ち上がり、リチャード先輩に声をかける。

「リチャード、六人の事を頼みましたよ。私は少し出掛けてくるわ」
「はいっ」

マリアさんはそのまま学生寮を出て行ってしまった。
どうやら、早速校長先生に会いに行くみたい。

「さあ、早く食堂に行こうぜ。じゃないと、夕飯を食べる時間がなくなるぞ」
「「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」」

既に時刻は19時をゆうにすぎていた。

「ほら、食事をしてないやつは急いで食堂に行くんだぞー」


リチャード先輩の号令で、私たちを囲んでいたみんなが慌てたように一斉に食堂に向かう。

「私たちも急がなきゃ」
「うん!」
「そうね」
「腹へった」
「確かに!ホッとしたらお腹が空いてきたなー」
「レイラちゃん、今日のご飯はなんだと思う?楽しみだねぇ」
「僕たちは先にご飯を食べたから、ここでお別れだね」

ヒューイ先輩たちは既にご飯を食べ終わっていたようで、このまま部屋に戻るそうだ。
私たちはリチャード先輩と一緒に食堂に向かい、リチャード先輩の見守る中、仲良くご飯を食べた。その際に、レイラちゃんともお話しすることができて、少しは仲良くなれたと喜んでたんだけど…。

「今回はエミリのために付き合ったけど、これ以上私に話しかけないでね。私は馴れ合う気はないの。エミリ、行くわよ」
「あ、待ってぇ!みんな、またねぇ」

ご飯を食べ終わった後、一緒にお風呂に入りにいこうと誘ったら、断られてしまった。
まだまだ、レイラちゃんと仲良くなる道のりは長そうだ。




バフンッ

「疲れたぁ~っ」
「ふに~」

部屋に戻ってすぐにマーブルと一緒にベッドに体を投げ出す。

「にっ!にっ!」

体の軽いマーブルはベットの上で何度も弾んで、目を回している。

「あっ!マーブル大丈夫?」
「にゃん」

上半身だけ起こした状態で弾むマーブルの体をすくい上げると、落ち着くためか私の手のひらで毛をペロペロと整え始めた。

『サラ様、室内着に着替えた方がよろしいかと』
「あ。そうだね。モス、ありがとう」

マーブルを今度はそっとベットの上に乗せると、疲れた体を無理矢理引き起こし、室内着に着替える。
着替え終わった頃には力尽きて、そのままベットに倒れこんでしまった。

『サラ様、毛布が下敷きになってます。そのままでは風邪を引いてしまう』
「んー」

夢心地でなんとか返事をするけど、既に体を動かすのは億劫で、このまま眠ってしまいたかった。
あ、そうだ。モスに王太子様の事を話しておかないと…。

「モス、王太子様は…、悪気ない…、怒っちゃダメ…だ…よ」

何とかモスにそれだけは話すと、モスの返事を待たずに力尽きてしまった。

『やれやれ。サラ様には他人の事より、まずご自分の事を考えて欲しいものだ』

私はいつだって自分の事しか考えてないよ。
そう、モスに言えたかどうかは記憶になかった。
深い眠りについた私は、モスが魔法でゴーレムを出して毛布を体の上にかけてくれた事も、マーブルがそれを見届けた後、どこかに出掛けていった事にも気づくことなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...