斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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第二回・殴り込み編

虎娘達、思い返す(前編)

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 125-①

 天驚魔刃団は、トポンツ砦を占拠していた影魔獣とそれを操っていた暗黒教団の信徒達を排除して砦を奪還した。

 魔王軍到着まで砦を見回る影光と四天王達の後に、天驚魔刃団に新たに加わったフォルトゥナと《ヨミ様を愛でる会》のドルォータ、シンジャー、ネッツレッツの竜人三人組が続く。

「ねぇ……団長達、何だか元気が無いね?」

 フォルトゥナの言葉にノッポの竜人、ドルォータが頷く。

「確かに……あれ程鮮やかに勝利したと言うのに……」

 小太りの竜人、シンジャーも前を歩く影光達にちらりと視線をると、心配そうに言った。

「影光氏や四天王の方々が元気が無いのも気になるが……先程からヨミ様の姿が見えないのも気になる……一体、どこに行かれたというのでありましょう? 我々、ヨミ様からのおめの言葉をまだ頂戴していないと言うのに……!!」

 シンジャーの言葉に小柄な竜人、ネッツレッツも深く頷く。

「「「「それにしても……何が原因なんだ……?」」」」

 四人は魔王城到着から先程の戦いに至るまでの過程を思い返した……

 125-②

 魔王軍を乗っ取るべく、双竜塞そうりゅうさいを出発した天驚魔刃団一行は、魔王城に到着し、魔王軍総大将、《キョウユウ》に拝謁はいえつした。

 天驚魔刃団の面々がキョウユウに抱いた印象は、とにかく尊大で傲慢、こんなのが現在の魔王軍の総大将かというものだった。

 ただ……人望がまるで無さそうなのに魔王軍残党を従えていられるという事は、それだけ腕っぷしが強いという事だろう……三年前まで魔王シンが座っていた玉座にり返っている、ワニのような頭部を持つ巨漢を見て、影光はそう思った。

 そのキョウユウが天驚魔刃団に魔王軍参陣の条件として出したのが、『お前らだけで、影魔獣共に奪われたトポンツ砦を奪い返せ』というものだった。

 影光は流石に俳優である武光の記憶を受け継いでいる事もあって、キョウユウが薄ら笑いを浮かべながら条件を突き付けてきた時も涼しい表情を作って平伏していたのだが、四天王を始めとした団員達が怒りを爆発させそうになったのを見て、条件をんでそそくさと魔王城からトポンツ砦に向けて出立したのだった。

 後で影光がヨミに聞いたところ、ガロウとフォルトゥナは頭の中でキョウユウを八つ裂きにし、レムのすけは頭の中でキョウユウを叩き潰し、竜人三人組は頭の中でキョウユウをボコボコにしていたらしく、当のヨミ自身もキョウユウを頭の中で滅多刺しにしていたらしい。

「へっ……何だよお前ら、大人気おとなげないなー」
「よく言うわ、アンタだって頭の中でキョウユウに『アロガントなんとか』と『神威のなんとか台』とかいうエグい技かけてたじゃない?」
「だってアイツ、言動がいちいち腹立つし……はぁ……冷静なのはキサイだけか……」
「いや、ガリ鬼が一番エグい事考えてたからね? やっぱ、ああいう普段大人しい奴ほどキレたらヤバイのよ……ドン引きよ、私」
「それにしても……援軍の一人も寄越よこさないとは、図体の割に器量の小さい魔王様だ。ド◯クエの王様ですら、『ひのきのぼう』とか『ぬののふく』とかくれるのに……」
「しょうがないわね、キョウユウの心を読んだけど、アンタの事をめちゃくちゃ警戒してたもの」
「そうかー? 俺めちゃくちゃ弱そうに見えるように演技してただろー?」

 それを聞いて、ヨミは肩をすくめた。

「ふん……自分の演技力を過信したわね。そんなどこからどう見ても弱そうな奴が三年前の大戦で大暴れした『蒼きまがつ風』や『破城の岩石魔人』や『オーガ一族の若き俊英』、そして『超絶強くてとびきり可憐であり得ないほど美し過ぎる妖禽族の姫』まで引き連れているんだもの、完全に逆効果だったわよ? これほどの豪傑達を従え、しかもこれほどまでにバラバラな種族をまとめ上げるとは只者ではない……ってね」
「うわーマジかー、やっぱお前らスゴイんだな」

 ガロウ、キサイ、レムのすけの三人は無言で右の親指を  “ビッ!!” と立てた。 

「影光アンタ、キョウユウに(もしかしたら自分の地位を脅かすかもしれない)って警戒されてたわよ」
「なるほど、それで……」

 あわよくば暗黒教団も俺達も共倒れにという事か……影魔獣の脅威がジワジワと喉元のどもとに迫りつつあるというのに、自分の地位の心配とは……どうにもこうにも、やる事なす事いちいち小物こもの過ぎて、影光は変な笑いが込み上げてきた。


「仕方ない、お望み通り砦を奪還してやるとするか……魔王様(笑)の為に!!」


 そうして、天驚魔刃団はトポンツ砦を強襲したのだった。

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