上 下
121 / 282
本拠地突入編・1

仔犬、カミングアウトする

しおりを挟む

 121-①

 シスターズ02とリクシンオウを撃退し、危機を脱した武光達は武器を納めた。

「ふぅ……何とか乗り切ったなイットー」
〔ああ、手強い相手だった〕

 イットー・リョーダンをさやに納めた武光の所にナジミがやってきた。

「お疲れ様です、武光様。お怪我はありませんか?」
「おう、俺は大丈夫や!! 皆、怪我してへんか!?」
「怪我した人は治療するので私の所まで来て下さいねー?」
「大丈夫です隊長殿!!」
「だ、大丈夫です」
「何か出たけど……多分大丈夫だよ、アニキ!!」

 武光とナジミの呼びかけに答える隊員達だったが、クレナの返事がない。

「クレナ……?」
「クレナちゃん?」

 武光達が慌ててクレナの方を向くと、クレナはインサンが地面に突き立てた獅子王鋼牙ししおうこうがを拾い上げ、獅子王鋼牙のつかを一心不乱に服のすそでゴシゴシといていた。

「おい、クレナ……?」
「ひゃうっ!?」

 ミナハに声をかけられたクレナは、獅子王鋼牙を慌てて背後に隠した。

「クレナ……その剣をどうするつもりだ?」
「え……いや、これは……その……あはは……」
「笑って誤魔化そうとするんじゃない」
「だ……だって、この剣は勇者様の剣なんだよ!? 家宝にするんだもん!!」
「コラっ、『するんだもん!!』じゃない!! 窃盗だぞ、それは」

 ミナハはクレナから獅子王鋼牙を没収した。

「やーーーん!! 返してぇぇぇぇぇーーー!?」

 二人の小競り合いを見ていたアルジェがポツリと呟いた。

「獅子王鋼牙……確か昔、ロイ将軍が勇者様にお譲りになった愛用の斧薙刀を加工して完成した剣だと聞いているが──」
「よし!! 家宝にしよう!!」

 クレナは ズッコケた!!

「ちょっとミーナ!?」
「だ、だって……ロイ将軍が昔愛用していたんだぞ!?」
「お二人共、ダメですよ? それは窃盗です」
「「ハイッ!! すみませんでしたっっっ!!」」

 ボウガンを構えたキクチナを見て、クレナとミナハは即座に謝った。渋々ながら武光に獅子王鋼牙を預けるクレナ達を尻目に、ナジミはアルジェに近付いた。

「アルジェちゃんは大丈夫? 怪我してない?」
「べ……別に……」

 そう言ってそっぽを向いたアルジェを三人娘が見咎みとがめた。

「ちょっと!! 良くないと思うな、そういうの!!」

 そっぽを向いたアルジェの前にクレナが立ったが、アルジェはまたしてもそっぽを向いた。

「おい、失礼だろう」

 今度はミナハがアルジェの前に立ってアルジェの態度を注意したが、三度みたびそっぽを向いた。

「あ、アルジェさん……私達、何かお気にさわる事をしてしまったんでしょうか……?」
「う………………うぅ~~~!!」

 ナジミと三人娘に四方を囲まれ、そっぽの向きようが無くなってしまったアルジェは突然しゃがみ込んでしまった。

「どうしたのアルジェちゃん!?」
「大丈夫!? どこか痛いの!?」

 ナジミとクレナの問いかけに対し、アルジェは震える声でつぶやいた。

「────から」
「え……?」

「……四人共、可愛過ぎるから……おら直視できねぇ!!」

 アルジェはヤケクソ気味に叫んだ。

「へ……?」
「アルジェちゃん……?」

「三人共、貴族様のご令嬢でめちゃくちゃ可愛くてキラキラして……おらみてぇな、田舎者の猟師の娘には、おそれ多くてまぶし過ぎて……何か良い匂いもするし……とにかく、おら直視できね!!」

 まさかのカミングアウトに一同は唖然とした。

「そ、それに……あの魔王との最終決戦の場にいた、アスタトの巫女様もいるって言うでねぇか、巫女様もキレイで凄く優しくて……神々しいだ!!」
「えへへへ……いやー、そんな!! ねぇねぇ武光様、聞きました!? 私……キレイで神々しいんですって……くふふ」
「クネクネすんなや気色きしょくの悪い……おい、よく見ろアルジェ、こんなんが神々しいて……うげっ!?」

 武光は ナジミに 顔面を鷲掴わしづかみにされた。

「どうやら先程の戦いで目を負傷したみたいですね……?」
「神々しいっス!! マジ美人っス!!」
「ふふふ……分かればよろしい♪」
「いや、それにしたってお前、最初はそんなじゃなかったじゃねーか!?」

 フリードのツッコミにアルジェが気恥ずかしそうに答える。

「だって……栄光の王国軍第13騎馬軍団に……王国軍最強の『冥府の軍勢』におらみてぇな田舎者が混じってたら、その……隊の一員として恥ずかしくねぇ振舞いをせねばなんねぇと──」
「なぁ、アルジェ」

 任務を終えて、緊張の糸が切れてしまった事も重なり、ボロボロと涙を流すアルジェの前に武光は屈み込んだ。

「そういうのは良くないな」
「隊長さん……だども……」
「アルジェの故郷は酷い所か? そこに住む人らはヤバい奴だらけか?」
「そ、そんな事ねぇです!! おらの故郷は自然が豊かで、里の人は、皆良い人達です!!」

 それを聞いた武光はニコリと笑った。

「そっか……ほんならあんまり自分や故郷の事を卑下するもんやない、それは自分だけやなくて故郷の人達もおとしめる事になる」
〔いや、でも武光、君も自分の故郷の事をボロカスに言う事があるじゃないか?〕
「フフン、甘いなイットー・リョーダン君、オオサカの民はそれを自虐ではなく笑いに変える特殊能力を持っているのだよ!!」
〔いや、それは特殊能力って言わないだろ……〕
「まぁ、アレや。そんな下らん事でごちゃごちゃ言うてくる奴がおったらエルボーかましたったらええねん、エルボー!!」

 そう言って、武光は “シュッ!!” とひじ打ちの真似をした。

「そ、そんな事出来るわけねぇです!!」
「いいや、出来るね!! 俺はあのシュワルツェネッ太に一発ブチかましてやった事があるんやぞ?」

 そう言って武光は悪役っぽくニヤリと笑った。

「フフン……何なら俺が演技指導したろか? そしたら例え相手がシュワルツェネッ太であろうと “ガツン!!” やで “ガツン!!” 」


「ほう……? それは興味深い、私にも是非ぜひ教えてもらいたいものだ」


「おうよ、任せとけ……って」

 背後から声をかけられ、振り向いた武光は硬直した。

 ……そこには、鈍く輝く銀の鎧を装着し、紫の外套マントを羽織った白銀の死神の姿があった。

 ロイ=デストが 現れた!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...