斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
上 下
114 / 282
本拠地突入編・1

斬られ役、応援する

しおりを挟む

 114-①

 パン屋での戦闘に巻き込まれた女性客……エネム=ワツリィを自宅まで送り届けようとしていた武光達の前に、影魔獣が現れた。数は5体、全員人型で右腕のひじから先が剣状になった剣影兵けんえいへいであった。

 現れた剣影兵を前に、アルジェは叫んだ。

「お前達、戦闘態勢を──」
「アルジェちゃん、気をつけて!! 敵が来るよ!!」
「油断するなよ、皆!!」
「ま、まだ他にも隠れているかもしれません、注意しましょう!!」

 既に戦闘態勢を取っているクレナ達を見てアルジェは呆気あっけに取られた。ついさっきまで楽しそうにお喋りして、緊張感など欠片かけらも無かったのに……

「おいアルジェ、ボーっとすんな、戦闘態勢だ!!」
「わ、分かっている!!」

 フリードに言われて、アルジェは武器を構えた。左腕に装備された楕円形の小型盾の先端に、刃渡りおよそ一尺三寸(約40cm)ほどのささの葉状の剣が取り付けられている、剣と盾が一体となった《剣盾ソードシールド》とでも言うべき特異な武器だ。
 
 アルジェは武光達の前へ進み出ると、武光達に背を向けたまま言い放った。

「お前達は手を出すな……王国軍最強部隊の強さを見せてやる!!」
「はぁ!? ふざけんなよ、お前何勝手なこと言って──」
「参る!!」
「オイ!?」

 フリードが止める間も無く、アルジェは剣影兵の群れに突っ込んだ。

 アルジェはまるでダンスのステップを踏むかのような足運びで、剣影兵の攻撃を最小限の動作で軽々と躱し、左手の剣盾による鋭い一撃を次々と叩き込んでゆく。

「スゲェ……!!」
「う……うん」
「流石はロイ将軍の部下だ……!!」
「す、凄いですアルジェさん」

 アルジェの華麗な戦いぶりに息を呑むフリード達だったが……

「アカンな、アレは……」
〔ああ……行こう武光!!〕
「ナジミ!! エネムさんを連れて安全な場所まで下がれ!!」
「分かりました、武光様!!」

 ナジミ達に指示を出すと、武光は駆け出した。

 確かに、アルジェの攻撃は剣影兵に全て当たってはいるものの、剣影兵のコアとらえられておらず、全くダメージを与えられていない。攻撃を物ともせずに反撃してくる剣影兵を前に、形勢は逆転しつつあった。

「くっ……」

 アルジェは真っ向から振り降ろされた剣影兵の剣腕をかわすと、地面にめり込んだ切っ先を踏みつけて相手の自由を奪いつつ、剣盾の持ち手を握る力を少し緩めた。
 すると、盾に取り付けられた剣が、ハサミのように、中心線から左右に分かれた。

「喰らうがいい……白狼のアギトを!!」

 アルジェは、左右に分かれた剣で剣影兵の首を挟み込むと、剣盾の持ち手を強く握り直した。すると、開いた剣が再び閉じられ、切断された剣影兵の首がポロリと落ちた。

「見たか……!! これが冥府の群狼の……『狼』の強さだ!!」

 そう吐き捨てたアルジェは、次の敵に対応しようと、首を落とした剣影兵に背を向けたが……

「ガアアアアアッ!!」
「なっ!?」

 首を落とされた剣影兵がアルジェに襲いかかった。振り降ろされた剣腕がアルジェの無防備な首筋を捉え──

「させるかアホが!!」

 間一髪で、武光が剣影兵をショルダータックルで吹っ飛ばした。

〔右だ武光!!〕
「応ッッッ!!」

 “すん!!”

 武光は右から飛びかかってきた別の剣影兵に対して、右足を踏み込み、身体の向きを変えながら抜刀し、敵の胴体を抜き打ちに斬り飛ばした。上半身が消滅したにも関わらず、未だに動いている下半身を真っ向唐竹割りに両断しながらアルジェに声をかける。

「大丈夫か、アルジェ!!」
「余計な事を!! 私は……一人でも十分じゅうぶんに戦える!!」
「そやな……でも、一人でも十分に戦えるんやったら……二人なら二十分にじゅうぶんに戦える!!」
「はぁ!? どういう計算だそれは!? 何を馬鹿な──」
「この任務を成功させて、シュワルツェネッ太に認めてもらいたいんやろ?」
「と、当然だ!!」
「せやったら……俺らにも仲間を応援させてくれや……なっ?」
「い……今は戦闘中だぞ!? ヘラヘラするんじゃない!!」
「……アカンか?」
「くっ……す、好きにしろ!! 但し、邪魔はするなよ?」

 それを聞いた武光はニヤリと笑った。

「安心せぇ、主役を存分に引き立てるのが俺の仕事……俺は、プロやぞ?」

 武光は、左手で魔穿鉄剣を鞘から抜き放ち、イットー・リョーダンと魔穿鉄剣を交差させるように、前に突き出して構えた。

「よっしゃ!! イットー!! 魔っつん!! 全力でアルジェを援護すんぞ!!」
〔よしきた!!〕
〔任せて下さいご主人様!!〕

 114-②

 ……一方その頃、エネムを連れて退避したフリード達の前にも刺客しかくが襲来していた。

「お、お前は……っ!?」

 フリード達は思わず息をんだ。目の前に現れたのは……因縁の相手だった。

「ククク……さぁて、斬り刻んでやるぜぇ、クソガキ共!!」

「……インサン=マリートっっっ!!」

 聖剣士が 現れた!! 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...