斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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双竜塞編

巫女、荒ぶりまくる

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 87-①

「貴方、まさみ君よね!? ながさわさん家の!!」

 ……『ながさわ まさみ』

 時代劇俳優・唐観武光からみたけみつの本名である。

「どうしてお前が俺の本名を……?」

 黒髪の女性に名を聞かれて、影光は戸惑ったが、そんな事はお構い無しに女性は自分を指差した。

「私です、私!!」
「ああん? 知らねーよ、誰だお前!?」
「思い出して下さい、5歳の時、オオサカのイズミシで!!」
「確かに5歳の時は和泉市に住んでたけどだな……んー?」

 首を傾げまくるばかりで、一向に自分の事を思い出してくれない影光に、黒髪の女性のもどかしさは爆発した。

「あー、もう!! 何で思い出してくれへんの!? ウチやん、ウチ!!」

 影光は記憶の糸を手繰り寄せ、子供の頃に出会った一人の少女の名を思い出した。

「お、お前もしかして…………オサナか!?」
「そう!! オサナ!! やっと思い出して…………はうあっ!?」

 影光に名前を呼ばれた黒髪の女性……オサナは、喜びを爆発させて影光に駆け寄ろうとしたものの、突如として糸の切れた操り人形のように、ガクリとうなだれた。

「ど、どうした!?」

 影光の呼びかけに対して、オサナはゆっくりと顔を上げたが、先程までとは違い、目の焦点がまるで合っていない、そして天井を見上げて、突然叫びを上げた。

「コラァァァァァ!! ユキヒトォォォォォ!!」

「は? 誰だよユキヒトって!?」

 影光はオサナに問うたが、影光の言葉は、オサナの耳には届かない。

「遅すぎるやろ!! ウチを出すのが!! えっ? 当初の予定やと第1部の三章辺りで出す予定やったのに、なんか出しそびれ続けている内に、気付いたら完結してしまってたぁぁぁ!? あ……アホかーーーっ!? そんなんウチ……負けヒロインどころか不戦敗ヒロインやん!?」
「怖えーよ!! さっきから誰と話してんだよ!?」

 影光はツッコんだが、やはり、オサナの耳には届かない。

「…………じゃあ、マナちゃんと同じくらい美人って事にしてくれたら許したるわ」

 そう言って、オサナは姫君を指差した。

「……ちょっ、嫌そうな顔すんなー!! 私もマナちゃんみたいに、『彼女は……ただ美しかった』とか書け、アホーーーーー!!」



 チッ……オサナはダダ美しかった。



「こ、コラー!! カタカナで書くなー!! 安売りみたいやん……って言うか誤字ってるし!! 誰が三面怪人やねん!? あっ、逃げるな…………ふへっ!?」

 オサナは夢から覚めたかのように周囲をキョロキョロと見回した。

「あ、あれっ!? ウチは一体何を……?」

 キョトンとしているオサナにゲンヨウが声を掛ける。
 
「オサナ様、この狼藉者は貴方様のお知り合いですかな?」

 ゲンヨウは鋭い視線を影光に向けた。影光が、主人の友人の知り合いだと知っても、微塵も戦闘態勢を緩めてはいない。

「んー、知り合いと言うか…………婚約者です!!」
「うおぃ!? いや、何モジモジしてんだよ!? ……えへへじゃねーよ!!」

 オサナの婚約者宣言に影光は思わずツッコみ、ゲンヨウはふむと頷いた。

「左様でございましたか……しかしながら、この男のお嬢様に対する狼藉、暴言は万死に値します!! 大変心苦しいのですが、この男には死んで頂きます」

 そう言うと、ゲンヨウはステッキを構えた。

「ケッ、何が『万死に値する』だ……俺がした事が万死なら、お前らがウチのマスコットにした事は億死……いや、兆死に値するってんだバカヤロー!!」

 対する影光も影醒刃シャドーセーバーの刀身を現出させると、半身はんみになりつつ、切っ先を相手に向けて中段のかすみに構えた。
 戦闘態勢を取った影光をゲンヨウは鼻で笑った。

「フン、愚かな……貴様は生きたまま全身の骨を砕き!! 内臓をすり潰し!! 四肢を斬り落として、苦しめに苦しめに苦しめ抜いて……お嬢様に対する数々の無礼と愚行と狼藉を後悔させてくれようぞ!!」
「ケッ、だったら俺はアンタをブチのめした後、そこの姫様だかお嬢様だかに鼻フック&ひよこぐちの刑を喰らわせてやるぜ!!」
「貴様……!!」

 一触即発の二人の間に、オサナが慌てて割って入る。

「二人共落ち着いて!! まさちゃんもゲンヨウさんも武器を下ろして!!」
「おどき下さいオサナ様、お嬢様のご友人の婚約者と言えど……私は執事として、主人への無礼を許すわけには──」
「……武器を下ろしなさい、ゲンヨウ」

 今にも影光に飛びかかりそうだったゲンヨウを、姫君が制止した。

「し、しかし……お嬢様」
「良いのです、この人はオサナさんの……私の恩人の婚約者です、客人として扱いなさい」
「ぐっ…………承知致しました」

 内心では1mmたりとも承知してないのがありありと分かるが、主の命令を受けて、ゲンヨウはステッキを引き、影光に一礼した。
 それを見て、胸をホッと撫で下ろしたオサナは、姫君に頭を下げた。

「助かったわ、ホンマにありがとう……マナちゃん!!」

 美しき姫君……マナは、静かに微笑んだ。

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