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聖道化師襲来編

少年、託される

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 70-①

 天照武刃団は京三が指定した廃村にやって来た。
 
 村の入り口には一体の剣影兵が立っていた。身構える武光達だったが、武光達に気付いた剣影兵は武光達のすぐ近くまで歩み寄ると、右手を胸の前に持ってきてお辞儀をし、『どうぞあちらへ』とでも言わんばかりに、右の剣腕の切っ先で村の入り口の方を指し示した。

「……行こう、皆!!」

 フリードを先頭に天照武刃団は村の中に入った。
 村の大通りには猫の子一匹見当たらないが、大通りの両脇の建物の中からは不穏な気配が漂っている。
 たして、建物の中から人型影魔獣が次々と飛び出して来た。天照武刃団は武光とナジミを守るように、即座に円陣を組んで武器を構えたが、フリード達をグルリと取り囲んだ二十体近い影魔獣達は一向に襲い掛かって来る気配を見せない。

 天照武刃団と影魔獣達の睨み合いが続く中、影魔獣達が一歩前に進み出た。それを見たフリードが叫ぶ。

「来るぞっ!! 皆、気を付け……えっ!?」

 影魔獣達が腕の形状を次々と変化させてゆく……が、様子がおかしい、変化した腕の形状は、剣や槍や弓ではなく、笛や太鼓、ラッパに竪琴、バイオリンなど、様々な楽器へと形を変えた。

「何なのよ一体!?」
「楽器だと……?」
「な、何をするつもりなんでしょう?」

 “ジャーーーーーン!!” 

 影魔獣達が一斉に音を発した。影魔獣達は戸惑う天照武刃団の周囲をぐるぐると回りながら、盛大に音楽を奏で、踊る。

 そして、音楽がクライマックスを迎えたその時、白黒の仮面を装着した男が、天照武刃団の前にフワリと舞い降りた。
 
「ようこそ、天照武刃団の皆様!!」

 仮面の男は天照武刃団に向かって見事なボー・アンド・スクレープのお辞儀を披露した。

「フフフ……唐観武光とアスタトの巫女以外は、はじめましてだね? ボクは暗黒教団・六幹部が一人、聖道化師の月之前京三だよ。どうだい、歓迎セレモニーは楽しんでもらえたかな?」

 フリードと三人娘は、京三を睨みつけた。

「お前が……アニキと姐さんの魂を入れ替えたんだな!?」
「フフフ……そうだよ、この《操影刀・双頭蛇》を使ってね!!」

 京三はコートのポケットの中から、柄頭同士を鎖で繋いだ二本の双影刀を取り出すと、両手に一本ずつ握った操影刀の切っ先で、武光とナジミを指し示した。

「そこの二人から話は聞いているだろう? そのままにしておいたら、そこの二人はあと数時間で肉体と魂が拒絶反応を起こして死に至る。それが嫌なら、吸命剣・妖月と聖剣イットー・リョーダンを大人しく渡す事だね。さぁ……このボクにひざまずけ!!」

 だが、京三の脅迫に対し、天照武刃団の面々は不敵に笑った。

「な、何がおかしい!?」
「残念でしたね、聖道化師さん?」

 円陣の中から、ナジミと武光が前に進み出た。

「……私達は既に、元に戻っていますっ!!」
「な、何ぃっ!?」

 ドヤ顔のナジミに指を差されて、京三は動揺した。

「ふふん……アスタトの巫女は代々伝わる秘術中の秘術によって、魂を入れ替える事が出来るんですよっ!!」
「ばっ、馬鹿な!? そんな事出来る訳が──」
「どうしてそう思うんです? 現に、暗黒教団は魂を入れ替える力を貴方に授けたのでしょう? 同じ事を出来る人間が他にいてもおかしくはないと思わなかったんですか?」
「グッ……そ、それは……」

 ナジミは仁王立ちで、京三を “ビシィッ!!” と指差した。

「大人しく降伏して下さい!! もはや貴方如きの『魂を入れ替える力』なんて、私達には通用しません!!」

 降伏勧告を聞いて、京三は怒りで両肩をぶるぶると震わせた。

「貴方『如き』だと……? ボクの力が『通用しない』だと……? このボクに『跪け』だとぉぉぉぉぉっ!? ふざけるな……元に戻ったと言うのなら、もう一度魂を入れ替えてやるまでだ!!」
「出来るものならやってみなさい!! アスタトの巫女の秘術は……伊達じゃありません!!」
「後悔するなよ……ボクのスキルが本当に通用しないかどうか、その身で──」

 激昂げきこうした京三は、操影刀・双頭蛇をナジミと武光の影に向かって投げつけようとした……が、寸前でその手を止めた。

「な、何をしてるんですか!? 早くやりなさい!!」
「ククク……危ない危ない。もう少しで騙される所だったよ」
「な、何を訳の分からない事を言って──」

 京三は、ナジミの後ろに立っているフリード達に問うた。

「キミ達!! キミ達は……伊達政宗を知っているかい?」

 京三の問いに、フリードと三人娘は怪訝な顔をした。

「ああん!? 何だソレ!?」
「知らないわよ、そんなの!!」
「そんなもの、聞いた事もない!!」
「ひ、響きから察するに、人名……でしょうか……?」

 フリード達の反応を見た京三は満足そうに頷いた。

「フフフ……やっぱりね。『伊達だてじゃない』って言葉は、戦国武将の伊達政宗に由来する言葉だ……つまり、伊達政宗が存在しないこの世界で、生まれるはずのない言い回しなんだよ」
「うっ……」
「この場にいる人間で『伊達じゃない』という言葉の意味を知っているのは、このボクと、そしてボクと同じ日本人である…………唐観武光、お前だけだ!!」

 今度はナジミが京三に指を差される番だった。

「…………チッ!!」

 京三に指摘されたナジミ(中身は武光)は、盛大に舌打ちした。

「…………バレたらしゃーないな!! 皆、作戦その2や……力ずくでブチのめ……ぐっ!?」
「ううっ!?」

 ナジミ(中身は武光)と武光(中身はナジミ)が突然ガクリと膝を着いてしまった。フリードが慌てて二人に話しかける。

「どうしたの!? アニキ、姐さん!?」
「はぁ……はぁ……くっ、これがアイツの言うてた肉体と魂の拒絶反応って奴なんか……!?」
「うぅぅ……」

 武光もナジミも、呼吸が乱れ、ダラダラと脂汗あぶらあせをかいている。

「大丈夫!? アニキ!!」
「俺とナジミはまともに動かれへん……フリード、お前が指揮を取れ!!」

 突然指揮を託されたフリードは慌てた。

「ええっ!? お、俺!? 無理だよ!?」
「大丈夫や!! 俺なんか初めてこの世界に来た時、隣のドジ巫女に『魔王を倒してくれ!!』とか訳の分からん無茶振りされてんねんぞ、それに比べたらあんな奴シバき倒すくらい余裕や!! お前なら出来る!! 頼んだぞ……弟!!」

 真っ直ぐな視線を受け止め、フリードは頷いた。

「分かったよ、アニキ達は隠れてて!!」
「……すまん」
「……気をつけてね、みんな」

 フリードは武光とナジミが建物の陰に隠れたのを確認すると、吸命剣・妖月を構えた。

「よし、皆……行くぞッッッ!!」

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