70 / 282
聖道化師襲来編
少年、託される
しおりを挟む70-①
天照武刃団は京三が指定した廃村にやって来た。
村の入り口には一体の剣影兵が立っていた。身構える武光達だったが、武光達に気付いた剣影兵は武光達のすぐ近くまで歩み寄ると、右手を胸の前に持ってきてお辞儀をし、『どうぞあちらへ』とでも言わんばかりに、右の剣腕の切っ先で村の入り口の方を指し示した。
「……行こう、皆!!」
フリードを先頭に天照武刃団は村の中に入った。
村の大通りには猫の子一匹見当たらないが、大通りの両脇の建物の中からは不穏な気配が漂っている。
果たして、建物の中から人型影魔獣が次々と飛び出して来た。天照武刃団は武光とナジミを守るように、即座に円陣を組んで武器を構えたが、フリード達をグルリと取り囲んだ二十体近い影魔獣達は一向に襲い掛かって来る気配を見せない。
天照武刃団と影魔獣達の睨み合いが続く中、影魔獣達が一歩前に進み出た。それを見たフリードが叫ぶ。
「来るぞっ!! 皆、気を付け……えっ!?」
影魔獣達が腕の形状を次々と変化させてゆく……が、様子がおかしい、変化した腕の形状は、剣や槍や弓ではなく、笛や太鼓、ラッパに竪琴、バイオリンなど、様々な楽器へと形を変えた。
「何なのよ一体!?」
「楽器だと……?」
「な、何をするつもりなんでしょう?」
“ジャーーーーーン!!”
影魔獣達が一斉に音を発した。影魔獣達は戸惑う天照武刃団の周囲をぐるぐると回りながら、盛大に音楽を奏で、踊る。
そして、音楽がクライマックスを迎えたその時、白黒の仮面を装着した男が、天照武刃団の前にフワリと舞い降りた。
「ようこそ、天照武刃団の皆様!!」
仮面の男は天照武刃団に向かって見事なボー・アンド・スクレープのお辞儀を披露した。
「フフフ……唐観武光とアスタトの巫女以外は、はじめましてだね? ボクは暗黒教団・六幹部が一人、聖道化師の月之前京三だよ。どうだい、歓迎セレモニーは楽しんでもらえたかな?」
フリードと三人娘は、京三を睨みつけた。
「お前が……アニキと姐さんの魂を入れ替えたんだな!?」
「フフフ……そうだよ、この《操影刀・双頭蛇》を使ってね!!」
京三はコートのポケットの中から、柄頭同士を鎖で繋いだ二本の双影刀を取り出すと、両手に一本ずつ握った操影刀の切っ先で、武光とナジミを指し示した。
「そこの二人から話は聞いているだろう? そのままにしておいたら、そこの二人はあと数時間で肉体と魂が拒絶反応を起こして死に至る。それが嫌なら、吸命剣・妖月と聖剣イットー・リョーダンを大人しく渡す事だね。さぁ……このボクに跪け!!」
だが、京三の脅迫に対し、天照武刃団の面々は不敵に笑った。
「な、何がおかしい!?」
「残念でしたね、聖道化師さん?」
円陣の中から、ナジミと武光が前に進み出た。
「……私達は既に、元に戻っていますっ!!」
「な、何ぃっ!?」
ドヤ顔のナジミに指を差されて、京三は動揺した。
「ふふん……アスタトの巫女は代々伝わる秘術中の秘術によって、魂を入れ替える事が出来るんですよっ!!」
「ばっ、馬鹿な!? そんな事出来る訳が──」
「どうしてそう思うんです? 現に、暗黒教団は魂を入れ替える力を貴方に授けたのでしょう? 同じ事を出来る人間が他にいてもおかしくはないと思わなかったんですか?」
「グッ……そ、それは……」
ナジミは仁王立ちで、京三を “ビシィッ!!” と指差した。
「大人しく降伏して下さい!! もはや貴方如きの『魂を入れ替える力』なんて、私達には通用しません!!」
降伏勧告を聞いて、京三は怒りで両肩をぶるぶると震わせた。
「貴方『如き』だと……? ボクの力が『通用しない』だと……? このボクに『跪け』だとぉぉぉぉぉっ!? ふざけるな……元に戻ったと言うのなら、もう一度魂を入れ替えてやるまでだ!!」
「出来るものならやってみなさい!! アスタトの巫女の秘術は……伊達じゃありません!!」
「後悔するなよ……ボクのスキルが本当に通用しないかどうか、その身で──」
激昂した京三は、操影刀・双頭蛇をナジミと武光の影に向かって投げつけようとした……が、寸前でその手を止めた。
「な、何をしてるんですか!? 早くやりなさい!!」
「ククク……危ない危ない。もう少しで騙される所だったよ」
「な、何を訳の分からない事を言って──」
京三は、ナジミの後ろに立っているフリード達に問うた。
「キミ達!! キミ達は……伊達政宗を知っているかい?」
京三の問いに、フリードと三人娘は怪訝な顔をした。
「ああん!? 何だソレ!?」
「知らないわよ、そんなの!!」
「そんなもの、聞いた事もない!!」
「ひ、響きから察するに、人名……でしょうか……?」
フリード達の反応を見た京三は満足そうに頷いた。
「フフフ……やっぱりね。『伊達じゃない』って言葉は、戦国武将の伊達政宗に由来する言葉だ……つまり、伊達政宗が存在しないこの世界で、生まれるはずのない言い回しなんだよ」
「うっ……」
「この場にいる人間で『伊達じゃない』という言葉の意味を知っているのは、このボクと、そしてボクと同じ日本人である…………唐観武光、お前だけだ!!」
今度はナジミが京三に指を差される番だった。
「…………チッ!!」
京三に指摘されたナジミ(中身は武光)は、盛大に舌打ちした。
「…………バレたらしゃーないな!! 皆、作戦その2や……力ずくでブチのめ……ぐっ!?」
「ううっ!?」
ナジミ(中身は武光)と武光(中身はナジミ)が突然ガクリと膝を着いてしまった。フリードが慌てて二人に話しかける。
「どうしたの!? アニキ、姐さん!?」
「はぁ……はぁ……くっ、これがアイツの言うてた肉体と魂の拒絶反応って奴なんか……!?」
「うぅぅ……」
武光もナジミも、呼吸が乱れ、ダラダラと脂汗をかいている。
「大丈夫!? アニキ!!」
「俺とナジミはまともに動かれへん……フリード、お前が指揮を取れ!!」
突然指揮を託されたフリードは慌てた。
「ええっ!? お、俺!? 無理だよ!?」
「大丈夫や!! 俺なんか初めてこの世界に来た時、隣のドジ巫女に『魔王を倒してくれ!!』とか訳の分からん無茶振りされてんねんぞ、それに比べたらあんな奴シバき倒すくらい余裕や!! お前なら出来る!! 頼んだぞ……弟!!」
真っ直ぐな視線を受け止め、フリードは頷いた。
「分かったよ、アニキ達は隠れてて!!」
「……すまん」
「……気をつけてね、みんな」
フリードは武光とナジミが建物の陰に隠れたのを確認すると、吸命剣・妖月を構えた。
「よし、皆……行くぞッッッ!!」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる