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両雄邂逅編

斬られ役(影)、巫女に叫ぶ

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 45-①

 突如として戦場に乱入し、百体もの影魔獣を蹴散らした天驚魔刃団てんきょうまじんだんを前に、武光達は息を呑んだ。

「お、お前……一体、何者なにもんや!!」

 武光の問いに対して、影光はニヤリと笑った。

「ふっふっふ……お初にお目にかかるッッッ!! 俺の名は、影魔獣・影光!! そして俺達は……《天驚魔刃団》、この国を……制覇する者だぁぁぁぁぁッッッ!!」
「天驚魔刃団やと……!?」

 影光は背後に立つ四天王に言った。

「行くぞ野郎共!! 奴らに見せつけてやれ!!」

 影光は小声で、『……練習通りにな!!』と言うと、 “シュバッ!!” とポーズを取った。

「シャドーブラック!! 影魔獣、影光ッッッ!!」

 影光に続いて、四天王も “シュババッ!!” とポーズを取る。

「ウルフブルー!! 魔狼族、ガロウッッッ!!」
「ゴォ…レム……イエロー!! レム……のすけッッッ!!」
「オーガグリーン!! オーガ一族、キサイッッッ!!」
「とりもも!! 妖禽族、ヨミッッッ!!」

 更に、岩陰に隠れていた二体の妖禽族の子供もやってきて、影光に教えてもらった仮面ラ◯ダー1号・2号のポーズを取った。

「つばめっ!!」
「すずめっ!!」

 影光は右手を天に向かって高々と突き上げ、拳を強く握った!!

「天も驚く魔人戦団ッッッ!!」

 影光と四天王は、高らかに叫んだ。

「「「「「天驚魔刃団、参上ッッッ!!」」」」」

 キサイの妖術によって、背後で五色の爆発が起きた。

「フッ……キマったぜ!!」

 ドヤ顔の影光に、『色がかぶる』という理由で、ショッキングピンクのミディアムドレスを着せられているヨミが話しかけた。

「……ねぇ、何か私の時だけ、めっちゃ笑われてた気がするんだけど!?」
「……気のせいだ!!」
「しょーぐん、かわいい!!」
「かわいい、ももいろ!!」
「つばめとすずめもこう言ってる事だし、部下達を信じろ!! き……気のせいだッッッ!! ぷぷぷ……っ」
「いや、明らかに笑いをこらえてるじゃない!?」


 一方の武光達はと言うと……


「た、隊長……双子だったんですか!?」

 クレナの問いに、武光は首をブンブンと左右に振った。

「いやいやいや、弟と妹はおるけど……双子の兄弟なんかおらへんて!!」
〔そうだ、武光には本当に武光の兄弟か疑わしい程、真面目な弟と、可愛らしい妹がいるけど……〕
「イットー、お前……やかましわっ!!」
「いや、でも他人の空似にしては……隊長に似過ぎてません⁉」
「クレナ、あの隊長殿にそっくりの男が自分で言っていただろう、奴は……影魔獣だ!!」
「いや、でも、影魔獣にしては知能が高すぎる……!!」

 ミナハの言葉をフリードが否定した。

「確かに影魔獣は、簡単な命令を理解して実行に移せる程度の知能はあるけど……あんなにハッキリと喋って……感情もあるみたいだし……!!」
「いや、仮に影魔獣やったとしても……なんであんなに俺に似とんねん!? 男前過ぎるやろ……!!」


「……………………それでだな、問題は──」


「スルーすんなや!? 新選組やったら士道不覚悟で切腹やぞ!?」


 ……言うまでもないかもしれないが、新選組に『ボケをスルーは士道不覚悟で切腹』などという掟は存在しない。

「武光様ーーー!! バカな事言ってる場合じゃありませんよーーー!!」
「た、武光隊長ーーーー!! あ、あれをーーー!!」

 防壁の上のナジミとキクチナが叫ぶ。
 四天王達に『そこで待ってろ』と言い渡した影光が一人で防壁に近付いて来る。
 接近してくる影光に、天照武刃団と防衛隊は身構えたが、影光はそれを意にも介さず、武光達とわずか数mの距離まで近付き、防壁を見上げ……そして、叫んだ!!

「ナジミーーーーー!! 俺と一緒に来ーーーーーい!!」

「え……? ですっっっ!!」

「おう!! お前ならそう言ってくれると…………って、何ぃぃぃ-----っ!?」

 ナジミの返答を聞いて、影光はよろめいた。

「な、何でだ……!? あの時、魔王城で……五十体以上の魔物に囲まれながら……魔王の眼前で互いの気持ちを伝え合ったのに!! 俺は……『お前が……めっっっちゃ好きやねーーーーーんっ!!』って叫んで……お前は俺の事を……『大大大大大好き!!』だって言ってくれたのに……っ!!」
「おまぁぁぁっ!?」
「い、言わないでぇぇぇ……」

 痛恨の いちげき!!
 武光と ナジミは ド赤面した!!

「あ、アニキ……ま、魔王軍の本拠地で……」
「魔族に囲まれながら、魔王シンの眼前で愛の告白って、隊長……」
「どういう状況なのですか隊長殿……!?」
「そんなん色々あってとしか言いようがあらへんわ!! web小説やったら162話くらいかかるくらい色々あったんや!!」
「な、ナジミ副隊長……あの……」
「き……キクチナちゃん、違うのよ!?」

 防壁の上で悶絶するナジミに対して、影光は声を荒げた。

「違わねぇよ!! 何でだ!? 何で……」
「な、何でって……初対面の怪しい人にホイホイ付いて行けるわけないじゃないですか!?」

 それを聞いた影光は、武光を勢い良く指差した。

「俺はコイツの人格と記憶を引き継いで作られた!! 姿形も一緒だし、初めてお前に会った日の事や、お前やイットーや魔っつん、ミトとカヤに、先生とテンガイ、皆と旅をした記憶や思い出もちゃんと持ってる!! だから……俺と共に来い…………頼む」

 防壁の上に向けて手を伸ばす影光を見て、ナジミは、悲しげな表情を浮かべた後、静かに首を左右に振った。

「ごめんなさい……それでも、貴方に付いて行く事は出来ません」
「くっ……やはり俺は “ドガァァァッ!!” ほげぇぇぇっ!?」

 ヨミのドロップキック!!
 会心の一撃!!
 影光は 吹っ飛んだ!!

「……ったく、ダラダラと下らない事くっちゃべってんじゃないわよ!!」

 ヨミはゆっくりと武光の方を向いた。

「久し振りねぇ……唐観武光!!」
「お前は……ヨミ!!」
「ねぇ、アンタ……私の吸命剣・妖月知らない?」
「し、知るかそんなもん!!」
「…………ふぅん、そっか」

 読心能力を持つヨミに隠し事をするのは不可能に近い。読心能力で、武光が本当に何も知らないと知ったヨミは、その場にいた他の人間の思考も読んだが、結果はやはり同様だった。

「ここはハズレっぽいわね……って、うわっ!?」


 ヨミの足元にボウガンの矢が撃ち込まれた。


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