35 / 282
魔刃団結成編
魔狼、吼える
しおりを挟む35-①
ここで、マイク・ターミスタに現れた《天驚魔刃団》について語らねばなるまい。
話は少し遡り、アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドの命により、暗黒教団特別調査隊、《天照武刃団》が結成されていたのと同時刻……聖女シルエッタによって、武光の影から武光の人格と記憶を(成功しているかどうかはともかく)コピーして生み出された武光型影魔獣、《影光》はあてもなく彷徨っていた。
とりあえず、自分を服従させようとしたシルエッタに越◯詩郎ばりのヒップアタックを一発喰らわせてアジトを飛び出したは良いものの、何をすれば良いのか。
「うーーーん、どうすっかなぁ……むむむ……そうだ、天下を奪ろう!!」
この男、『そうだ、京都に行こう』くらいのノリでとんでもない事を言い出した。
「よーし、じゃあまずは……仲間探しだな!! よし、とりあえず四天王を作ろう!!」
影光はウキウキで歩き始めた。影魔獣の肉体は疲れを知らない、丸一日ぶっ続けで歩き続けてたどり着いた荒野で……影光は見つけた。
「おっ、第一魔族発見!!」
影光の視線の先では三体の剣影兵と、何か狼男みたいなのが戦っている。
「四天王、ゲットだぜ!! どりゃーーーーー!!」
影光は、影醒刃をの柄を取り出すと、漆黒の刀身を形成し、戦いの真っ只中に突撃した。
35-②
《魔狼族》……その強靭な脚で戦場を風の如く駆け抜け、研ぎ澄まされた刃の如き牙と爪で敵を引き裂き、月夜に吼える、狼と人の姿を併せ持つ魔族である。
全身を蒼い毛に覆われた魔狼族の歴戦の戦士、ガロウは三体の剣影兵を相手に苦戦していた。
戦闘開始からおよそ20分、単純な戦闘力ではガロウの方が遥かに上だったが、疲れも痛みも知らぬ影魔獣を相手にガロウは徐々に追い詰められていた。
「グォアアアアアッ!!」
ガロウは刃物のように鋭い爪の生えた指を揃えて、右の貫手を繰り出した。今まで幾多の敵を屠ってきた必殺の一撃である。ガロウの一撃は剣影兵の腹部を貫いた。
「ハァ……ハァ……どうだっ!!」
そのあまりの威力に、ガロウの右腕は肘まで深々と突き刺さっていたが、核を破壊しない限り、影魔獣にダメージを与える事は出来ない。
腹を貫かれながらも、何事も無かったように、剣影兵は肘から先が剣と化した右腕を振り上げた。ガロウは慌てて右腕を抜こうとしたが……
「ぬ、抜けん!?」
自身の腹部を貫いた右腕を締めつけて剣影兵はガロウの動きを封じた。
「くっ!?」
ガロウは咄嗟に相手の肘を掴んで振り下ろされた剣腕を止めたが、両手が封じられてしまった。そして、その隙を突いて、残りの二体の剣影兵が背後から襲いかかる。
「し、しまっ──」
「おっと……四天王候補その1(仮)は……殺らせねぇっ!!」
影光が戦いの場に乱入し、ガロウに背後から襲いかかろうとしていた二体の剣影兵の背を影醒刃で斬りつけた。
背中からそれぞれ袈裟懸けと逆袈裟に斬りつけられた剣影兵は真っ二つに両断された後、もがき苦しみ消えた。
影光の影醒刃による一撃は、剣影兵の核を正確に捉え、両断していた。影醒刃を見ながら影光が呟く。
「フフン、イットー程じゃないが、なかなか良く斬れる……気に入った!!」
突然の乱入者に対し、呆気に取られるガロウを影光は叱咤激励した。
「頑張れ狼男!! そいつに勝てたら……お前は晴れて四天王オーデイション合格だッッッ!!」
「し、四天王!? おーでぃしょん? 一体何の事だ!? いや、そもそもお前は一体何者だ!!」
「諦めるなッッッ!! 前を見ろッッッ!! 限界を……超えろーーーーーッ!!」
「いや、話聞けよ!?」
全く話を聞かずに盛り上がる影光にガロウは苛立った。
「人間風情が……言わせておけば……!!」
『諦めるな』だと……このガロウ、戦において勝利を諦めた事など一度たりとも無い!!
『前を見ろ』だと……このガロウ、敵から目を背けた事など一度たりとも無い!!
『限界を超えろ』だと…………!!
「人間如きに……言われるまでも無いわぁぁぁっ!!」
怒りに任せて右腕を引き抜き、剣影兵を殴り飛ばしたガロウを見て、影光は拍手喝采した。
「良いぞー!! 頑張れ狼男ーーー!! 奴の弱点は右のふくらはぎだぞー!!」
「何……!?」
「油断すんな!! 敵が来てるぞ!!」
「チッ!?」
再び斬りかかって来た剣影兵のボディーに、ガロウは強烈な蹴りを叩き込んで吹っ飛ばした。
「人間の言いなりになるなど気に食わんが、試す価値はあるか……ガァウッッッ!!」
強靭な脚力でガロウは瞬時に敵との間合いを詰め、起き上がろうとしていた剣影兵の右の足首を掴んで、逆さ吊りに持ち上げると、研ぎ澄まされたナイフの如きその牙を影魔獣のふくらはぎに突き立て、食らいついた。
腹をブチ抜かれても平然としていた影魔獣がもがき苦しむのを見たガロウは首を左右に激しく振り、遂には剣影兵のふくらはぎを噛み千切った。
その瞬間、暴れていた剣影兵は糸の切れた操り人形の如く動きを止め、そして消滅した。
影魔獣を屠った魔狼族の戦士は、口の中の肉片を吐き捨て、踏み潰すと、天に向かって猛々しく吼えた。
「おおーい!! 狼男ーーー!!」
勝利の雄叫びを上げるガロウに、影光は笑顔で走り寄ったが……
「次はお前の番だ……覚悟しろ、人間!!」
ガロウが、影光に襲い掛かった!!
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
伏喰童子
七転ヤオキ
ファンタジー
「はー・・・くっしゅん!!」
それは誰かのくしゃみから始まった。
日本で落ちこぼれの『ざしきわらし』として過ごしていたフクは、気づくと何もない霧の中にいた。霧の中で出会った黒い神様(?)にキスされたり、霧から助けられたと思ったらキョンシー使いの導師に襲われたり、二重人格の主人に刺されかけたりして散々な目にあう。異世界に訪問してから散々な目に遭っているが、この世界の人からは別世界からの訪問者は、みんな『悪魔』として討伐されてしまう!
「僕って今『ざしきわらし』だよね?趣味の悪いって、有名な鬼じゃないよね??」
誰もが嫌う『ゴミ掃除』に明け暮れながらも、今日も天使の目から掻い潜って生活している。
フクの世界のお釈迦さま、神様、神様が治める国の悪魔討伐隊『討伐天使』から逃れる毎日に、怯えながらもどうにか過ごしています。
一ヶ月前から、子供が消える事件が発生した。目撃者もなく、痕跡もなく消えることから、『悪魔』もしくは『悪魔付き』の仕業として調査を続けている。しかし、進展はなく、1人、また1人と子供が各地で誘拐されていく。子供の身分はバラバラ、共通点もほとんどない。フクは、『友達』から誘拐された子供を心配されるが、天使の監視を避けるために、動けずにいたところを、霧の中で出会った神様とよく似た青年が現れて・・・?

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる