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一年1学期の終業式
しおりを挟む7月下旬の最初の日は青龍大学の高等部の終業式である。
青龍大学は異能力者養成機関なだけあり、夏休みの宿題などはない。
まあ、青夜を始めとした生徒達には『宿題が無くて有り難い』などという感情はない。
何故ならば夏休みは式典だらけ。
その上、幽霊が活性する期間。
異能力がある分、やる事だらけで遊ぶ時間など余りないのだから。
『寧ろ、宿題や課題があった方が、それを理由に家業を休めてラッキーなのに』
『初等部から思ってたが青龍大学は学生の事を何も考えていない』
そう生徒達は思ったのだった。
体育館内で行われた終業式では新たな高等部長の近藤政子という43歳、身長164センチ(+ハイヒール)、パーマを掛けた黒髪ロングに知的な眼差しで、泣きボクロが左眼の横にある妙に色気ムンムンのスーツとタイトスカートと黒ストッキング姿の、大手企業の女常務タイプが壇上から、
『明日からは夏休みですが、青龍大学の高等部の一員として自覚のある行動を・・・』
有り難いお言葉を長々と喋っていた訳だが、整列する中、三宝兎が、
「青夜、マジで招待してくれるんだよな、日本国内にある南国の島に?」
「もちろん」
「今日神奈川県に帰って長に了解を貰ったら速攻で向かうから横浜のヨットハーバーに水上機を用意しておいてくれよな」
浮かれている三宝兎の顔を見ながら青夜が、
「ギン様に一応言っておくけど」
「何?」
「ヘリやセスナは墜落するものだからな」
「青夜、縁起でもない事言うなよ」
「いや、マジだって。オレ、何回墜落した事があると思ってるんだよ」
「・・・何回なんだ?」
「8回」
嫌そうな顔をした三宝兎が、
「青夜は別の水上機で行けよ」
「オレは自家用フェリーで向かうからいいよ」
「フェリー? 船の事だよな? 船は沈まないのか?」
「海は沈んでも岸まで泳げるからね」
「泳げない設定はどこにいったんだ、青夜?」
「ああ、そんな設定もあったなぁ~」
青夜達は喋りながら終業式の高等部長の話を聞いたのだった。
終業式は8月に催される全国高等学校異能力選手権大会、ーー通称、インターハイ(異能)の壮行会も兼ねている。
十二傑生徒会執行部の全員が壇上に並び、高等部長の政子が、
『8月の上旬にある全国高等学校異能力選手権大会に出場する青龍大学高等部の代表選手達に拍手を』
との音頭で疎らな拍手がされる中、
「優勝お願いしますね、島津先輩っ!」
悪ノリした青夜が声援を送り、
「はいはい」
茨は軽く手を挙げて適当にあしらったが、
「オレ達の代表なんですから勝ち星を売って小遣い稼ぎしないで下さいよっ!」
「誰がそんな事するかっ!」
結局は茨も吠えて青夜を睨んだのだった。
◇
その後、終業式が終わって一年以組の教室でも真達羅通春菜が、
「みんな、明日からは夏休みね」
青夜を見ながら言った。
視線を浴びた青夜が『何当たり前の事を言ってるんだ?』ときょとんとしながら、
「? それが?」
「田中、夏休みで一番ムカつく事を言ってみて」
「暑い?」
「ハズレ」
「蝉が五月蠅い?」
「違うわ」
「アイスを食べ過ぎて太る?」
「私が太る訳ないでしょうがっ!」
「じゃあ、家に居ると親や上司が五月蠅い?」
「それもあるけど・・・一番じゃないでしょっ!」
と言ってから、
「一番ムカつく事はね、休み中に学校に生徒の事で呼び出される事よっ!」
ドヤ顔で春菜が正解を言って、青夜も、
「ああ、それは確かにムカつきますね」
「だから絶対に私が呼び出されるような事はしないようにね、みんな。特に田中」
「どうしてオレなんですか? オレほどの真人間は他には居ませんのに」
ぬけぬけと言う青夜に、
「真人間は異能力を隠したりしないわよっ!」
「隠しますよ、情報戦は異能力バトルの前哨戦なんですから」
「・・・・・・ロシア皇帝との面識を隠したりも・・・」
「隠しますよ。まだ直接会ってもいないんですから。確定情報でもないのに周囲に漏らすなんてあり得ませんから」
「ああ言えばこう言う」
と春菜が呆れる中、
「そうだ、春菜センセー」
青夜が思い出したように、
「実は夏休みの頭にオレ達、小笠原諸島に持ってる島に行く予定なんですが・・・・・・」
「東条院が小笠原諸島に持っている島? ああ、志村島ね?」
「ええ。なので、死人が出たらすみません。先に謝っておきますね」
しれっと青夜が言った。
「ちょっと待て。何をやる気なのよ?」
「普通に夏のバカンスを楽しむだけですよ」
「それでどうして死人が出るのよ?」
「東条院所有の無人島と言えば他国の非正規部隊の攻撃じゃないですか?」
「どういう発想よ」
春菜がツッコむ中、三宝兎が、
「そうなの?」
「まあね。志村島って結構襲いやすいから」
青夜が言い、良子が、
「冗談でしょ。ちゃんと警備してよね」
「うん」
青夜が答える中、春菜が、
「ちょっと待ちなさい。以組の全員で行くの?」
「はい」
「どうして私を呼ばないのよ?」
春菜がそう指摘すると、
「東条院所有の島で真達羅通家の人間がキズモノになったら洒落になりませんから」
「生徒達の方がそうよ。関や野々宮なんて特にっ!」
「大丈夫ですって。2人とも強いですから」
「本当に大丈夫なのよね?」
「・・・多分」
「頼むわよ、田中。マジで」
春菜はそう言って1学期最後のホームルームを終えたのだった。
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