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【日常編】養子4日目、田中ビルのご近所事情、初めてのチンピラ
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青夜は最近、暇さえあれば鏡で自分の顔を見ている。
一応断っておくが、ナルシストだからではない。
そもそもナルシストになろうにも悲しいかな、青夜は父親似だ。
まあ、それでも容姿は悪くなかったが。
問題はうっすらと青夜の顔に出ている死相にあった。
死相とは人が死ぬ前に予兆として顔に現れる独特の雰囲気みたいなものだ。
異能力者は『それ』が分かる訳だが、青夜はこれが消えないのが気に入らなかった。
今は15歳の3月中旬。
母親に言われた通り、16歳になるまでに東条院の宗家屋敷を出たのに、まだ死相が消えない。
どういうカラクリなんだか。
もしや宗家屋敷に呼び戻される可能性がある?
はぁん、絶対にゴメンだね。
この際、韓国に逃げるか?
渡航の準備は万端だから。
いや韓国に行って、もし死相が濃くなったら洒落にならない。
ここはじっくりと田中ビルに籠もるのが一番だな。
と青夜は思っていたのに、
10分後には田中ビルの近所の街喫茶『八千草』に来ていた。
オシャレなカフェじゃない。
昔ながらの喫茶店だ。
無論、1人ではなく次女の葉月が一緒だった。
というか、連れ出されていた。
「高見のお爺ちゃん。この子、今度、弟になった青夜よ、よろしくね」
「ああ。よろしく、高見だよ」
と挨拶したのはお爺さんという割にはシャンとした老人だった。
71歳、166センチ、白髪白髭で『老紳士』の言葉が似合う喫茶店のマスターだ。
エプロン姿だったが。
「どうも、青夜です」
青夜は挨拶した後、葉月の誘導で店内の奥の2人用のテーブル席に座った。
無論、向かい合ってだ。
「どう、青夜、この喫茶店? 落ち着くでしょ?」
「ええっと・・・風情があっていいというか」
青夜はそう言いながら、
(・・・・・・落ち着くのは異能仕様だからか。入店を告げるドアに付いた鈴からして。ふむ)
と店内を見渡した。
ドアの鈴。
壁に掛かった小さな絵(内容は3人の赤ちゃんの天使)。
店内の風水。
異能ハーブの鉢。
総てが浄化作用と、回復促進の作用がある。
つまり、異能界の回復スポットという訳だ。微量ではあるが他よりもこの場所の方が回復が早かった。
「あのお爺ちゃんは子供の頃からお世話になってるから困った事があったら頼ってね」
「うん」
「こうして対面に座るとデートみたいね。嬉しい?」
葉月がテーブルの下で足を青夜の足に絡めてきた。
「ちょ、葉月さん」
「エッチな事してあげましょうか?」
「いや、いいよ」
青夜が真顔で拒否したので葉月が探るように、
「あら、女の人が嫌いなの?」
問いながら左腕1本で両胸を掬って弾ませて見せた。
「と言うよりも、許嫁が怖い女の人でね、オレの場合」
「そうなの?」
「うん、すぐにビンタするし」
「どうしてそんな事を?」
「みんな、愛情表現とか言ってたけど・・・・・・多分、未来が見えたんでしょ」
青夜がそう笑って、葉月が故意に強調する胸を見ながら、
「オレがあっちこっちの女に手を出してその他大勢の女と同じ扱いを受ける」
「青夜ってモテるの?」
「全然。みんな、オレの許嫁の家の凄さに怖がってて近付かないから」
「ふ~ん」
運ばれてきたのは青夜が注文したカフェオレだったが、青夜はお坊ちゃんだ。
「どうしたの、飲まないの?」
「ええっと・・・」
「何?」
「毒見役がいつも確認するから」
「ったく」
葉月がストローに口を付けて飲んだ。
「うん、美味しいわよ。どうぞ」
と言われたので青夜も同じストローで気軽に飲んだ。
葉月が、
「間接キスね」
照れながら言ったが、
「そう?」
青夜は微塵も感激しなかった。
◇
次に出向いた先は近所の裏通りにある小汚い漢方薬屋『金八戒』だった。
「いらっしゃいアルぅ」
と出迎えたのはパンツが見えそうなくらい超ミニスカのチャイナドレスを着た14歳、157センチ、黒髪のお団子2つの髪型で切れ長の一重の将来美人になりそうな看板娘だった。
胸はまだ成長中だったが、美脚の方はもう男の視線を誘うだけの色香を放っていた。
「何だ、葉月さんか」
満面の営業スタイルから一転、ガッカリした顔をする中、葉月も呆れながら、
「麻衣、アナタ、日本人でしょ? 何よ、今のカタコトの『いらっしゃいアルぅ』って」
「葉月さん、雰囲気ってのはお客さんの財布の紐を緩くするものなのよ。『アルアル』言って中国人のフリをしただけで漢方薬だって良く売れるんだから。ウチのパパなんて店に出る時、胡散臭い鯰の付け髭までしてるんだからね」
「はいはい、言ってなさい」
と葉月は適当に相槌を打った後、
「こっちは今度私の弟になった青夜よ、よろしくね。青夜、ここの漢方薬屋さんは田中家の御用達だから。軽い怪我や打ち身、プロテインに入れる怪しげな薬もここで買ってるから。覚えておいてね。この子は河野麻衣、れっきとした日本人よ」
「酷い、怪しげな薬って。ちゃんと調合した回復薬なのに」
葉月の紹介に傷付く中、麻衣が青夜の顔をじっと見て、
「死相が出てるの気付いてます?」
と言ってきて、ポーカーフェイスながら滅茶苦茶気にしてた青夜は『嫌な事を言う女だ』と思いながら、
「まあね」
「死相にはこれを買うといいネ」
ドヤ顔の麻衣が片言の中国人っぽい口調で漢方薬を勧めてきた。
『死相を消す漢方なんてあるのか』と青夜が注目して、
「何、これ?」
「精力剤。これで死ぬ前に子孫を作るといいアルヨ」
と言われて青夜はすぐに興味を失った。
「何なら私と使ってみます? 私、生娘ですけどお兄さんならいいですよ」
麻衣は更に青夜の左腕を取って、更に下半身に片足を上げて絡めてきた。
「ちょ、麻衣、アナタ何を言って・・・」
青夜を狙ってる葉月が焦る中、青夜はと言えば、
「なるほど、優秀なんだな。オレの素性を知ってるとは・・・」
「みんな知ってますよ。四柱家の動きはその日の内に伝わりますから」
「ふ~ん」
「で、どうされます?」
明らかに股間を押し付けてくる麻衣に、青夜は、
「悪いね。自分の命にしかまだ興味がないから」
冷徹に言い放ったが、フラれた麻衣は気にせず営業トークで、
「これ、1回分プレゼントするネ。使ってみてネ」
「いや、要らないけど」
飲食すら警戒する青夜だ。
胡散臭い店の薬など飲む訳がない。
それで断ったのだが、麻衣が、
「じゃあ、田中のパパさんにあげるといいアル。時々使ってるから」
「こらぁ~、麻衣。娘の私の前でパパのそんな生々しい話をするんじゃないわよ」
「だって本当だから」
「本当なら尚更よ」
その後、葉月と麻衣が口論する中、青夜は店内を見て回り、
(異能系の下級の薬屋ってところか)
と納得したのだった。
◇
最後に出向いた先は、何故か個人がやってる不動産屋『谷町』だった。
「ええっと?」
青夜が不思議がる中、
「分かってるわ、入って」
という訳で、不動産屋『谷町』に入り、
「お手洗いを借りるわね」
と葉月がそのまま奥に入っていき、
「ほら、青夜もよ」
「えっ?」
青夜が面を喰らう中、そのまま一緒に狭いトイレに入ってドアをちゃんと締めると、トイレのタンクのある壁がガゴッと動いて隙間が出来て、奥の隠し部屋に移動すると、
店だった。
異能用の武器屋らしい。
破魔札。
手裏剣やクナイ。
日本刀。
鎖帷子。
護符や呪符の効果が込められたアクセサリー類も多数あった。
「ここは異能系の武具屋だから。必要になった時は来てね。支払は田中家はツケが効くから」
「うん、わかった」
と青夜は返事しながら、
(低級の武器屋だな)
武具を一瞥して軽く鑑定したのだった。
◇
その帰りの事である。
青夜は東条院宗家のお坊ちゃんだ。
その為、移動には護衛がワンサカ。
1人で出歩く事など生まれてこの方した事がない。
まあ、『表向きの話』だが。
こっそりと宗家屋敷を抜け出した事は多数ある。
だが目的地まで一直線の跳躍移動なので『街をブラブラ』はない。
今、こうして葉月と2人で住宅路を歩く事さえ新鮮な訳だが、そこに、
「ようよう、彼女、お茶しない?」
「そうだぜ、オレ達といい事しようぜ」
と頭の悪そうな昭和のヤンキー漫画を匂わせる台詞と共に4人のチンピラが道を塞いだ。
青夜は嫌がるどころか眼を輝かせた。
『街でチンピラに絡まれた』事がこれまで一度もなかったからだ。
だが、すぐに4人が異能力者だと気付き、青夜はガッカリした。
葉月がナンパされてるのではなく、青夜が目的だったと知って。
現に葉月を見ながら青夜をチラ見してくる。
(一般人のチンピラが良かったのになぁ~)
変な美学のある青夜であった。
対する葉月の方も気の毒そうな顔で、
「アナタ達、知らないのね、私の事?」
「何が?」
「有名人なの?」
とチンピラが聞き咎め、
「私の妹、結構凄いらしくてね。何故か強いボディーガードが私にも付けてるのよ」
葉月がそう言った時には、ドゴッとの音と共にチンピラの1人が宙を舞った。
22歳。179センチ、ドレッドヘアのポニーテールでサングラスを掛けたクールなアフリカ系アメリカ人の黒服美女が飛び蹴りを喰らわしたからだ。
体型はアスリート系だが、アメリカ人なので胸はあった。
「うわ? 何だ、この女?」
「このっ!」
1人が『炎』を出て攻撃したが護符でも持ってたのか簡単に炎を打ち消して突き進み、黒人美女が2人目のチンピラをバク転アッパーカットキックで蹴り飛ばす。
青夜が、
(このスピードとバネーー恐竜因子手術を受けてる? 在日米軍異能部隊『クラリス』?)
と異能力の正体に気付き、素性を探る中、
「ひっ、冗談じゃねえぞっ!」
「そうだっ! 聞いてねえぞ、こんなのっ!」
とかチンピラ達が喚きながら逃げようとしたが追撃されて、あっという間に黒人美女に潰されたのだった。
「御苦労さま、ジェニスさん」
「イエス、シスター」
日本語が喋れないのか、そう英語で返事した。
「そっちのボーヤもまたね」
と英語で言われた。
英語が喋れる青夜が、
「ありがとうございました」
英語でお礼を言って歩き出し、ジェニスが見守る中、ワゴン車から出てきた清掃作業服の日本人2人が潰されたチンピラ4人を車内に放り込むのを1度振り返って確認してから、青夜が葉月に、
「誰なの、今の人?」
「アンの友達よ」
『リストに居たっけ? サングラスをしてるから分からなかったのかな?』と思いながら、
「アンって三女のアンジェリカさんの事だよね?」
「ええ」
「何してる人なの、アンジェリカさんって?」
「さあ、古美術を集めてるらしいわ」
なんて葉月が大雑把な説明をするから、
「へぇ~」
青夜はオークションに出品する為の日本美術品を買い漁ってるバイヤーだと勘違いする破目になったのだった。
◇
田中ビルに帰宅した際、3階へ向かう階段で一狼と一緒になり、
「どこに行っていたんだ、2人して?」
「八千草と金八戒と谷町を青夜に紹介してきただけよ」
葉月が言い、青夜が小さな紙袋を、
「そうだ。はい、パパ、お土産」
「何、これ?」
「精力剤だって。漢方薬屋が使わないならパパに上げろって」
「ははは、ありがと。一応誤解がないように言っとくけど、こんなのに頼らなくてもまだまだ現役だからね、パパは」
男としての見栄なのかプライドなのかは知らないが一狼がそう青夜に言い訳し、
「娘の前でそんな話をしないでよね」
葉月が怒ったのだった。
この漢方薬屋の精力剤が義父の一狼の寿命を縮めたのは言うまでもない。
というか、家族団欒で階段を上っていた時から青夜は気付いていたが、4階の青夜の自室に誰かが居り、3階に葉月が入る中、5階に向かう一狼と一緒に階段を上がる際、
「パパ、田中家は清掃業者を雇ってるの?」
「まさか、そんな余裕はないさ。どうしてそんな事を? もしかしてこのビル、汚いかい?」
「そうじゃなくて、今、オレの部屋に家族じゃない誰かが居るっぽいんだけど・・・・・・」
「まさか、泥棒?」
「そんなの居るの?」
「ああ、最近近所でやられたって・・・」
青夜と一狼が顔を見合わせた後、2人して急いで階段を駆け上がり、4階の玄関を潜って青夜の部屋へと直行して(青夜は宗家からの大切な預かり物なので)一狼がノブを握ってドアをガチャッと開くと、
「へ?」
真っ裸の女がパンツを穿こうとしており、前屈みになってお尻を突き出していた。
パンツを穿こうとしたポーズのまま顔を向けたのは青夜も見知った顔だった。
確か1階の空手道場に出入りしてる17歳の女子高生で、身長171センチ、茶髪のショートで切れ長の瞳をしたの涼やかな美貌をし、モデル体型で足も長かった。肌は白肌だ。
「美月ちゃん?」
一狼も見知った顔で名前まで呼んだが、次の瞬間には、
「キィヤアアアアアアアアアア」
との悲鳴を上げられて、
「ゴメン、泥棒かと思って」
一狼は謝罪してドアを閉めたが、その悲鳴で田中家の葉月や愛が集まってきて、
「どうしたの?」
「いや、青夜の部屋に誰か居ると思って確認にきたら、美月ちゃんが着替えてて・・・」
一狼が事情を説明し、
「ああ、青夜の部屋って更衣室代わりに提供してたものね」
「えっ、そうなの?」
青夜は自分の部屋がそんな事に使われていた過去を田中ビルに来て4日目にして初めて知ったのだった。
一応断っておくが、ナルシストだからではない。
そもそもナルシストになろうにも悲しいかな、青夜は父親似だ。
まあ、それでも容姿は悪くなかったが。
問題はうっすらと青夜の顔に出ている死相にあった。
死相とは人が死ぬ前に予兆として顔に現れる独特の雰囲気みたいなものだ。
異能力者は『それ』が分かる訳だが、青夜はこれが消えないのが気に入らなかった。
今は15歳の3月中旬。
母親に言われた通り、16歳になるまでに東条院の宗家屋敷を出たのに、まだ死相が消えない。
どういうカラクリなんだか。
もしや宗家屋敷に呼び戻される可能性がある?
はぁん、絶対にゴメンだね。
この際、韓国に逃げるか?
渡航の準備は万端だから。
いや韓国に行って、もし死相が濃くなったら洒落にならない。
ここはじっくりと田中ビルに籠もるのが一番だな。
と青夜は思っていたのに、
10分後には田中ビルの近所の街喫茶『八千草』に来ていた。
オシャレなカフェじゃない。
昔ながらの喫茶店だ。
無論、1人ではなく次女の葉月が一緒だった。
というか、連れ出されていた。
「高見のお爺ちゃん。この子、今度、弟になった青夜よ、よろしくね」
「ああ。よろしく、高見だよ」
と挨拶したのはお爺さんという割にはシャンとした老人だった。
71歳、166センチ、白髪白髭で『老紳士』の言葉が似合う喫茶店のマスターだ。
エプロン姿だったが。
「どうも、青夜です」
青夜は挨拶した後、葉月の誘導で店内の奥の2人用のテーブル席に座った。
無論、向かい合ってだ。
「どう、青夜、この喫茶店? 落ち着くでしょ?」
「ええっと・・・風情があっていいというか」
青夜はそう言いながら、
(・・・・・・落ち着くのは異能仕様だからか。入店を告げるドアに付いた鈴からして。ふむ)
と店内を見渡した。
ドアの鈴。
壁に掛かった小さな絵(内容は3人の赤ちゃんの天使)。
店内の風水。
異能ハーブの鉢。
総てが浄化作用と、回復促進の作用がある。
つまり、異能界の回復スポットという訳だ。微量ではあるが他よりもこの場所の方が回復が早かった。
「あのお爺ちゃんは子供の頃からお世話になってるから困った事があったら頼ってね」
「うん」
「こうして対面に座るとデートみたいね。嬉しい?」
葉月がテーブルの下で足を青夜の足に絡めてきた。
「ちょ、葉月さん」
「エッチな事してあげましょうか?」
「いや、いいよ」
青夜が真顔で拒否したので葉月が探るように、
「あら、女の人が嫌いなの?」
問いながら左腕1本で両胸を掬って弾ませて見せた。
「と言うよりも、許嫁が怖い女の人でね、オレの場合」
「そうなの?」
「うん、すぐにビンタするし」
「どうしてそんな事を?」
「みんな、愛情表現とか言ってたけど・・・・・・多分、未来が見えたんでしょ」
青夜がそう笑って、葉月が故意に強調する胸を見ながら、
「オレがあっちこっちの女に手を出してその他大勢の女と同じ扱いを受ける」
「青夜ってモテるの?」
「全然。みんな、オレの許嫁の家の凄さに怖がってて近付かないから」
「ふ~ん」
運ばれてきたのは青夜が注文したカフェオレだったが、青夜はお坊ちゃんだ。
「どうしたの、飲まないの?」
「ええっと・・・」
「何?」
「毒見役がいつも確認するから」
「ったく」
葉月がストローに口を付けて飲んだ。
「うん、美味しいわよ。どうぞ」
と言われたので青夜も同じストローで気軽に飲んだ。
葉月が、
「間接キスね」
照れながら言ったが、
「そう?」
青夜は微塵も感激しなかった。
◇
次に出向いた先は近所の裏通りにある小汚い漢方薬屋『金八戒』だった。
「いらっしゃいアルぅ」
と出迎えたのはパンツが見えそうなくらい超ミニスカのチャイナドレスを着た14歳、157センチ、黒髪のお団子2つの髪型で切れ長の一重の将来美人になりそうな看板娘だった。
胸はまだ成長中だったが、美脚の方はもう男の視線を誘うだけの色香を放っていた。
「何だ、葉月さんか」
満面の営業スタイルから一転、ガッカリした顔をする中、葉月も呆れながら、
「麻衣、アナタ、日本人でしょ? 何よ、今のカタコトの『いらっしゃいアルぅ』って」
「葉月さん、雰囲気ってのはお客さんの財布の紐を緩くするものなのよ。『アルアル』言って中国人のフリをしただけで漢方薬だって良く売れるんだから。ウチのパパなんて店に出る時、胡散臭い鯰の付け髭までしてるんだからね」
「はいはい、言ってなさい」
と葉月は適当に相槌を打った後、
「こっちは今度私の弟になった青夜よ、よろしくね。青夜、ここの漢方薬屋さんは田中家の御用達だから。軽い怪我や打ち身、プロテインに入れる怪しげな薬もここで買ってるから。覚えておいてね。この子は河野麻衣、れっきとした日本人よ」
「酷い、怪しげな薬って。ちゃんと調合した回復薬なのに」
葉月の紹介に傷付く中、麻衣が青夜の顔をじっと見て、
「死相が出てるの気付いてます?」
と言ってきて、ポーカーフェイスながら滅茶苦茶気にしてた青夜は『嫌な事を言う女だ』と思いながら、
「まあね」
「死相にはこれを買うといいネ」
ドヤ顔の麻衣が片言の中国人っぽい口調で漢方薬を勧めてきた。
『死相を消す漢方なんてあるのか』と青夜が注目して、
「何、これ?」
「精力剤。これで死ぬ前に子孫を作るといいアルヨ」
と言われて青夜はすぐに興味を失った。
「何なら私と使ってみます? 私、生娘ですけどお兄さんならいいですよ」
麻衣は更に青夜の左腕を取って、更に下半身に片足を上げて絡めてきた。
「ちょ、麻衣、アナタ何を言って・・・」
青夜を狙ってる葉月が焦る中、青夜はと言えば、
「なるほど、優秀なんだな。オレの素性を知ってるとは・・・」
「みんな知ってますよ。四柱家の動きはその日の内に伝わりますから」
「ふ~ん」
「で、どうされます?」
明らかに股間を押し付けてくる麻衣に、青夜は、
「悪いね。自分の命にしかまだ興味がないから」
冷徹に言い放ったが、フラれた麻衣は気にせず営業トークで、
「これ、1回分プレゼントするネ。使ってみてネ」
「いや、要らないけど」
飲食すら警戒する青夜だ。
胡散臭い店の薬など飲む訳がない。
それで断ったのだが、麻衣が、
「じゃあ、田中のパパさんにあげるといいアル。時々使ってるから」
「こらぁ~、麻衣。娘の私の前でパパのそんな生々しい話をするんじゃないわよ」
「だって本当だから」
「本当なら尚更よ」
その後、葉月と麻衣が口論する中、青夜は店内を見て回り、
(異能系の下級の薬屋ってところか)
と納得したのだった。
◇
最後に出向いた先は、何故か個人がやってる不動産屋『谷町』だった。
「ええっと?」
青夜が不思議がる中、
「分かってるわ、入って」
という訳で、不動産屋『谷町』に入り、
「お手洗いを借りるわね」
と葉月がそのまま奥に入っていき、
「ほら、青夜もよ」
「えっ?」
青夜が面を喰らう中、そのまま一緒に狭いトイレに入ってドアをちゃんと締めると、トイレのタンクのある壁がガゴッと動いて隙間が出来て、奥の隠し部屋に移動すると、
店だった。
異能用の武器屋らしい。
破魔札。
手裏剣やクナイ。
日本刀。
鎖帷子。
護符や呪符の効果が込められたアクセサリー類も多数あった。
「ここは異能系の武具屋だから。必要になった時は来てね。支払は田中家はツケが効くから」
「うん、わかった」
と青夜は返事しながら、
(低級の武器屋だな)
武具を一瞥して軽く鑑定したのだった。
◇
その帰りの事である。
青夜は東条院宗家のお坊ちゃんだ。
その為、移動には護衛がワンサカ。
1人で出歩く事など生まれてこの方した事がない。
まあ、『表向きの話』だが。
こっそりと宗家屋敷を抜け出した事は多数ある。
だが目的地まで一直線の跳躍移動なので『街をブラブラ』はない。
今、こうして葉月と2人で住宅路を歩く事さえ新鮮な訳だが、そこに、
「ようよう、彼女、お茶しない?」
「そうだぜ、オレ達といい事しようぜ」
と頭の悪そうな昭和のヤンキー漫画を匂わせる台詞と共に4人のチンピラが道を塞いだ。
青夜は嫌がるどころか眼を輝かせた。
『街でチンピラに絡まれた』事がこれまで一度もなかったからだ。
だが、すぐに4人が異能力者だと気付き、青夜はガッカリした。
葉月がナンパされてるのではなく、青夜が目的だったと知って。
現に葉月を見ながら青夜をチラ見してくる。
(一般人のチンピラが良かったのになぁ~)
変な美学のある青夜であった。
対する葉月の方も気の毒そうな顔で、
「アナタ達、知らないのね、私の事?」
「何が?」
「有名人なの?」
とチンピラが聞き咎め、
「私の妹、結構凄いらしくてね。何故か強いボディーガードが私にも付けてるのよ」
葉月がそう言った時には、ドゴッとの音と共にチンピラの1人が宙を舞った。
22歳。179センチ、ドレッドヘアのポニーテールでサングラスを掛けたクールなアフリカ系アメリカ人の黒服美女が飛び蹴りを喰らわしたからだ。
体型はアスリート系だが、アメリカ人なので胸はあった。
「うわ? 何だ、この女?」
「このっ!」
1人が『炎』を出て攻撃したが護符でも持ってたのか簡単に炎を打ち消して突き進み、黒人美女が2人目のチンピラをバク転アッパーカットキックで蹴り飛ばす。
青夜が、
(このスピードとバネーー恐竜因子手術を受けてる? 在日米軍異能部隊『クラリス』?)
と異能力の正体に気付き、素性を探る中、
「ひっ、冗談じゃねえぞっ!」
「そうだっ! 聞いてねえぞ、こんなのっ!」
とかチンピラ達が喚きながら逃げようとしたが追撃されて、あっという間に黒人美女に潰されたのだった。
「御苦労さま、ジェニスさん」
「イエス、シスター」
日本語が喋れないのか、そう英語で返事した。
「そっちのボーヤもまたね」
と英語で言われた。
英語が喋れる青夜が、
「ありがとうございました」
英語でお礼を言って歩き出し、ジェニスが見守る中、ワゴン車から出てきた清掃作業服の日本人2人が潰されたチンピラ4人を車内に放り込むのを1度振り返って確認してから、青夜が葉月に、
「誰なの、今の人?」
「アンの友達よ」
『リストに居たっけ? サングラスをしてるから分からなかったのかな?』と思いながら、
「アンって三女のアンジェリカさんの事だよね?」
「ええ」
「何してる人なの、アンジェリカさんって?」
「さあ、古美術を集めてるらしいわ」
なんて葉月が大雑把な説明をするから、
「へぇ~」
青夜はオークションに出品する為の日本美術品を買い漁ってるバイヤーだと勘違いする破目になったのだった。
◇
田中ビルに帰宅した際、3階へ向かう階段で一狼と一緒になり、
「どこに行っていたんだ、2人して?」
「八千草と金八戒と谷町を青夜に紹介してきただけよ」
葉月が言い、青夜が小さな紙袋を、
「そうだ。はい、パパ、お土産」
「何、これ?」
「精力剤だって。漢方薬屋が使わないならパパに上げろって」
「ははは、ありがと。一応誤解がないように言っとくけど、こんなのに頼らなくてもまだまだ現役だからね、パパは」
男としての見栄なのかプライドなのかは知らないが一狼がそう青夜に言い訳し、
「娘の前でそんな話をしないでよね」
葉月が怒ったのだった。
この漢方薬屋の精力剤が義父の一狼の寿命を縮めたのは言うまでもない。
というか、家族団欒で階段を上っていた時から青夜は気付いていたが、4階の青夜の自室に誰かが居り、3階に葉月が入る中、5階に向かう一狼と一緒に階段を上がる際、
「パパ、田中家は清掃業者を雇ってるの?」
「まさか、そんな余裕はないさ。どうしてそんな事を? もしかしてこのビル、汚いかい?」
「そうじゃなくて、今、オレの部屋に家族じゃない誰かが居るっぽいんだけど・・・・・・」
「まさか、泥棒?」
「そんなの居るの?」
「ああ、最近近所でやられたって・・・」
青夜と一狼が顔を見合わせた後、2人して急いで階段を駆け上がり、4階の玄関を潜って青夜の部屋へと直行して(青夜は宗家からの大切な預かり物なので)一狼がノブを握ってドアをガチャッと開くと、
「へ?」
真っ裸の女がパンツを穿こうとしており、前屈みになってお尻を突き出していた。
パンツを穿こうとしたポーズのまま顔を向けたのは青夜も見知った顔だった。
確か1階の空手道場に出入りしてる17歳の女子高生で、身長171センチ、茶髪のショートで切れ長の瞳をしたの涼やかな美貌をし、モデル体型で足も長かった。肌は白肌だ。
「美月ちゃん?」
一狼も見知った顔で名前まで呼んだが、次の瞬間には、
「キィヤアアアアアアアアアア」
との悲鳴を上げられて、
「ゴメン、泥棒かと思って」
一狼は謝罪してドアを閉めたが、その悲鳴で田中家の葉月や愛が集まってきて、
「どうしたの?」
「いや、青夜の部屋に誰か居ると思って確認にきたら、美月ちゃんが着替えてて・・・」
一狼が事情を説明し、
「ああ、青夜の部屋って更衣室代わりに提供してたものね」
「えっ、そうなの?」
青夜は自分の部屋がそんな事に使われていた過去を田中ビルに来て4日目にして初めて知ったのだった。
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
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一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
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そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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