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『聳狐』解禁、鈴か青花か
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昼時の富士の樹海の上空で、
「誰がなるかっ! 東条院流青龍拳、極太サイズっ!」
青夜が青龍拳を掌で放った。
巨大な200メートル級の青龍の拳圧(?)が出てくるはずだったが、戌子が間合いを詰めて伸びきる前に10メートルのところで、
「是非もなし」
鬼切恒次の一振りで簡単に青龍の拳圧を斬り裂いたばかりか更に突っ込んで間合いを詰めてきた。
「クソ、食事中に瓜切宗近を横に置いて呑気に鰻を食べてた自分の馬鹿さ加減が嫌になるっ!」
青夜は空中を後方に逃げながら青龍の拳圧を放ちまくる。
5本の青龍の拳圧を簡単に斬り伏せて迫る戌子が、
「どうしたっ? 逃げてばかりではないかっ? 本能寺の時の奴はもっと勇ましかったぞっ!」
『御先祖の開祖様と一緒にされてもねぇ~』と空中を逃げながら青夜は青龍の拳圧を放ち、強がるように、
「勝つ方法を今、考えてるんだからゴチャゴチャ言うなっ!」
「余に勝つぅ? あり得んなっ! さっさと余の走狗となる術式を受け入れよっ!」
「誰がっ!」
間合いを詰めた戌子が蹴りを放つ。
ミニスカのボディコン衣裳だったので美脚どころかパンチラだったが、蹴りに込められた邪気の密度が洒落にならず、青夜は接触どころか1メートルも離れて避けたのに、邪気の圧力だけで後方に15メートルも吹き飛ばされたのだった。
吹き飛ばされただけではなく、
「ぐおっ!」
1メートルも離れていたのにダメージまで受けていた。
『去年までの雑魚はもちろん、昨日の京都の奴と比べても段違いに強いぞ? 何でこんなに差が・・・そう言えば桃子さんが神気で傷を付けたって報告があったな。ついでに坂田先輩もあの時。京都では月御門の陰陽師衆や比叡山の聖域、瓜切宗近もあったが、今は何もない。そんな状態でコイツを倒したら何を言われるか・・・ってか、こんな亡霊ごときに『切り札』なんて使いたくないぞ。でも他に倒す方法が・・・』と青夜が心の中で手詰まりに気付く中、
「さあ、余の走狗となれっ!」
右掌に呪印を出現させて戌子が間合いを詰めてくる。
「クッ・・・」
『何だ、あの模様は? 鬼道と堕天使とエジプト系を使って組んだオリジナルか? 何の術式か皆目見当も付かないが、あれを喰らったら強制的に従わさせられるっ!』と本能的に戦慄した青夜は咄嗟に、
「助けて下さいっ!」
戌子ではなく上に向かって大声で叫び、戌子に取り憑いた『第六天魔王の亡霊』が、
「?」
誰に言ってるのか興味を抱いて動きを止める中、青夜はもう切羽詰まっていたので、
「1回だけなら何でもしますからっ!」
「さっきから何を・・・」
「1回がダメなら、特別に2回、何でもしますからっ!」
「誰か他に来るのか?」
『第六天魔王の亡霊』が憑依した戌子が警戒するように周囲を探った。
だが、人はもちろん、戌子が放つ強烈な邪気以前に『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の残り香の邪気を嫌って最初から富士の樹海には動物や鳥が1匹も居らず(邪気は集まってたが)、接近する気配は1つもないと断言出来た。
「じゃあ、3回っ! お願いですから勿体付けてないで助けて下さいっ!」
青夜の泣き声が富士の樹海に虚しく響き渡る。
「白々しいぞ、誰も視ていないのに。無意味な行動で余を謀ろうとするのは止めよっ!」
『誰も来ない』と断定した戌子が笑ったのに対して、青夜が何かを諦めた顔をしてボソッと、
「・・・ブス、ケチ」
と呟いた。
次の瞬間、戌子ではなく、戌子に憑依した『第六天魔王の亡霊』がゾクッとして身構えた。
強者が乱入したり、接近しているからではない。
そんな奴は1人も居ない。
『第六天魔王の亡霊』が警戒した相手はさっきまで大声で泣き言を叫び、今は俯いている青夜だった。
青夜は現在、明らかに膨大な青色の『神気』を無理矢理、圧縮した状態で薄く纏っていた。
富士の樹海に漂っていた『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の邪気の残り香が一瞬で完全に消え去るくらいの『高密度な神気』だった。
圧も凄い。
先程までとは段違いだった。
顔を上げた青夜が前髪を掻きあげながら、
「あぁ~あ、『中国神話・青龍』は『東条院流青龍拳』と『日本神話ワタツミ』で完全に隠せるけど『中国神話・青麒麟』は隠せないのに。まさか亡霊ごときに使う破目になるなんてな。生まれてこの方、『青麒麟』を使った事がない事が自慢だったのにぃ~。多分、御当主様は『日本神話ワタツミ』だけで『青麒麟』の事は何も知らないのに。今から皇居で御当主様に怒られるのが眼に浮かぶぜ」
さっきまで泣き言を叫んでいた人物とはまるで別人のように、アンニュイな表情を戌子に向けたのだった。
見られてゾクッとなった戌子に取り憑いた『第六天魔王の亡霊』が、
「・・・ここまで強いとは。拙い・・・・・・」
彼我の戦力差が勝敗を覆せないくらいまで開いている事を瞬時に見抜き、勝てないと悟って『桃鈴』を使って逃げようとしたが、
「・・・なっ?」
宝具が発動しなかった。
「ああ、術式に干渉したから『それ』は使えないぞ。ってか、逃がさないから、おまえはもう」
青夜が面倒臭そうに言って、
「行くぞ」
と言ったコンマ1秒後に間合いを詰めて蹴りを入れていた。
ドゴンッと腹を蹴られた戌子が身体を『く』の字に曲げてコンマ1秒で200メートルは吹き飛んだが、それよりも早く反対側の空中に回り込んでいた青夜が、
「これで終わりだ」
蹴りを放ち、戌子の首を故意にゴキッとへし折ったのだった。
青夜に蹴られた戌子が高速回転しながら飛んでいく中、戌子が死んで肉体が使い物にならなくなった『第六天魔王の亡霊』が身体を捨てて空中に出てくる。
その姿はイケメンだが負傷して怒りに満ちていた。
「貴様ぁぁぁぁぁっ! こうなったら、おまえに取り憑いて・・・・・・」
と言った時には青夜は剣を振っていた。
青夜の1発目の蹴りを受けて戌子が手放した国宝『鬼切恒次』を拾ってから青夜は回り込んで2発目の蹴りを繰り出していたのだ。
鬼切恒次を振って信長の亡霊を斬る。
『グギャアアアア』
「さすがは国宝。神気を乗せたら『信長の亡霊』も斬れるか。だが、さすがに一撃では倒せないみたいだな」
その後、4回剣を振り、
『グギャアアアアアアアアアアア・・・・・貴様、覚えておけよっ! 来年には必ず・・・』
「来年にはきっと忘れてるよ。去年も同じ事を言ってたし」
と笑った青夜はもう一振りして、
『グギャアアアアアアア』
と信長の亡霊を完全に消滅させたのだった。
「ふっ、虚しい勝利だ」
そう勝ち誇ってから、
「あっ、しまった・・・『薄濃』の在処を聞くのを忘れた。『青麒麟』を隠す為に犬飼戌子の記憶も破壊したし・・・・・・拙いかも」
やらかした事に気付いたのだった。
◇
今年の『第六天魔王の亡霊』2体の討伐を終えて、都内に戻り、その日の内に呼び出しを受けて皇居に出向くと、
「で?」
上座に陣取る白鳳院令が冷たく青夜に言葉を投げ掛けたのだった。
今回ばかりは、かなりの御立腹のようだ。
表情で分かる。
澄ましてる顔の方が令は怖いのだ。
「何がでしょうか、御当主様?」
「『日本神話ワタツミ』を持ってる事は枢から聞いて知っていたが『中国神話・聳狐』まで隠し持っていたのか?」
因みに『聳狐』とは青色の麒麟の事だ。
「ええっと・・・何の事を仰られているのかワタクシには皆目見当がーー」
青夜が往生際悪くとぼけようとして、令が、
「そうか。白鳳院に虚偽報告を――」
何か良くない事を言い出しそうだったので青夜が更に言葉を被せるように、
「違うんです・・・そう、『信長の亡霊』と戦ってる最中にピンチになって突如、潜在していた新たな力が覚醒したんです。そういう事にしましょう、御当主様」
青夜の下手過ぎる嘘に可愛げがあったのか、令が怒気を削がれながら、
「何が『そういう事にしましょう』だ。ったく・・・他には隠しておらんな?」
「他とは?」
「『ワタツミ』『聳狐』の他にだ」
『青龍は知られていない』と安堵した青夜が、
「東条院流青龍拳や陰陽術は使えますが、固有能力はさすがに神話が2つまでですよ」
しれっと嘘をついた。
「本当であろうな?」
「はい、御当主様」
「嘘臭いな。何を隠してる?」
「何も・・ああ、東条院が『龍穴』で気を上乗せしてる事は御存知ですよね?」
「それくらいはな」
「他にはありませんが」
青夜が嘘をつき通し、
「まあ、よかろう」
令も深くは追及せず、次の話題に移り、さらっと、
「この度の褒美をやろう。選べ、鈴か、青花か」
「何を選ぶのです?」
「孕ませる相手だ」
「青花は妹ですが?」
「血が繋がっていないのは知っているだろうが? それにもう『結婚しろ』とまでは言わん」
「・・・」
青夜は令の顔を見て『拙い、本気で選ばせる気だ』と悟り『まあ、神話級1つならともかく2つの異能力者を普通は手放さんわなぁ』と納得もしたが、
「鈴姫は絶対に嫌です」
「理由を聞いても?」
「だって『日本神話イザナミ・黄泉比良坂』の候補じゃないですか」
青夜が軽くさらっと言ったのに対して、真剣な顔をした令が鋭く、
「ーー誰に聞いた、それ? 枢じゃないよな?」
「東条院が保有する過去の記憶の中に『鈴姫と同じ顔の人物』が『日本神話イザナミ・黄泉比良坂』になったものがあり・・・」
「ったく、東条院も無駄に伝統が出てきたな。今のは他言せぬようにな」
と念を押してから、
「どちらを選ぶ?」
「鈴姫は絶対に嫌です」
「青花を選ぶのだな?」
「鈴姫は絶対に嫌です」
「分かった。そうしよう」
そう勝手に決めた令が、
「今回の『第六天魔王の亡霊』騒ぎが短期間で収拾したのだけが救いだな。『薄濃』もまだ完成していないだろうから」
ひとりごちると、青夜が可愛く『てへ』と笑って誤魔化そうとしたが誤魔化せる訳もなく、
「待て。まさか、回収に失敗したのか、『スサノオ』の頭蓋骨? まあ、憑依された遺体から記憶を読めばーー」
「それが『中国神話・青麒麟』を視られたくなくて・・・・・・あはははは」
青夜が記憶の破壊を匂わせると、
「・・・何をやっておるんだぁぁぁ。『薄濃』が世に出たら責任を取らせるからな、青夜」
そう顔を振りながら令は呻くように言ったのだった。
「誰がなるかっ! 東条院流青龍拳、極太サイズっ!」
青夜が青龍拳を掌で放った。
巨大な200メートル級の青龍の拳圧(?)が出てくるはずだったが、戌子が間合いを詰めて伸びきる前に10メートルのところで、
「是非もなし」
鬼切恒次の一振りで簡単に青龍の拳圧を斬り裂いたばかりか更に突っ込んで間合いを詰めてきた。
「クソ、食事中に瓜切宗近を横に置いて呑気に鰻を食べてた自分の馬鹿さ加減が嫌になるっ!」
青夜は空中を後方に逃げながら青龍の拳圧を放ちまくる。
5本の青龍の拳圧を簡単に斬り伏せて迫る戌子が、
「どうしたっ? 逃げてばかりではないかっ? 本能寺の時の奴はもっと勇ましかったぞっ!」
『御先祖の開祖様と一緒にされてもねぇ~』と空中を逃げながら青夜は青龍の拳圧を放ち、強がるように、
「勝つ方法を今、考えてるんだからゴチャゴチャ言うなっ!」
「余に勝つぅ? あり得んなっ! さっさと余の走狗となる術式を受け入れよっ!」
「誰がっ!」
間合いを詰めた戌子が蹴りを放つ。
ミニスカのボディコン衣裳だったので美脚どころかパンチラだったが、蹴りに込められた邪気の密度が洒落にならず、青夜は接触どころか1メートルも離れて避けたのに、邪気の圧力だけで後方に15メートルも吹き飛ばされたのだった。
吹き飛ばされただけではなく、
「ぐおっ!」
1メートルも離れていたのにダメージまで受けていた。
『去年までの雑魚はもちろん、昨日の京都の奴と比べても段違いに強いぞ? 何でこんなに差が・・・そう言えば桃子さんが神気で傷を付けたって報告があったな。ついでに坂田先輩もあの時。京都では月御門の陰陽師衆や比叡山の聖域、瓜切宗近もあったが、今は何もない。そんな状態でコイツを倒したら何を言われるか・・・ってか、こんな亡霊ごときに『切り札』なんて使いたくないぞ。でも他に倒す方法が・・・』と青夜が心の中で手詰まりに気付く中、
「さあ、余の走狗となれっ!」
右掌に呪印を出現させて戌子が間合いを詰めてくる。
「クッ・・・」
『何だ、あの模様は? 鬼道と堕天使とエジプト系を使って組んだオリジナルか? 何の術式か皆目見当も付かないが、あれを喰らったら強制的に従わさせられるっ!』と本能的に戦慄した青夜は咄嗟に、
「助けて下さいっ!」
戌子ではなく上に向かって大声で叫び、戌子に取り憑いた『第六天魔王の亡霊』が、
「?」
誰に言ってるのか興味を抱いて動きを止める中、青夜はもう切羽詰まっていたので、
「1回だけなら何でもしますからっ!」
「さっきから何を・・・」
「1回がダメなら、特別に2回、何でもしますからっ!」
「誰か他に来るのか?」
『第六天魔王の亡霊』が憑依した戌子が警戒するように周囲を探った。
だが、人はもちろん、戌子が放つ強烈な邪気以前に『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の残り香の邪気を嫌って最初から富士の樹海には動物や鳥が1匹も居らず(邪気は集まってたが)、接近する気配は1つもないと断言出来た。
「じゃあ、3回っ! お願いですから勿体付けてないで助けて下さいっ!」
青夜の泣き声が富士の樹海に虚しく響き渡る。
「白々しいぞ、誰も視ていないのに。無意味な行動で余を謀ろうとするのは止めよっ!」
『誰も来ない』と断定した戌子が笑ったのに対して、青夜が何かを諦めた顔をしてボソッと、
「・・・ブス、ケチ」
と呟いた。
次の瞬間、戌子ではなく、戌子に憑依した『第六天魔王の亡霊』がゾクッとして身構えた。
強者が乱入したり、接近しているからではない。
そんな奴は1人も居ない。
『第六天魔王の亡霊』が警戒した相手はさっきまで大声で泣き言を叫び、今は俯いている青夜だった。
青夜は現在、明らかに膨大な青色の『神気』を無理矢理、圧縮した状態で薄く纏っていた。
富士の樹海に漂っていた『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の邪気の残り香が一瞬で完全に消え去るくらいの『高密度な神気』だった。
圧も凄い。
先程までとは段違いだった。
顔を上げた青夜が前髪を掻きあげながら、
「あぁ~あ、『中国神話・青龍』は『東条院流青龍拳』と『日本神話ワタツミ』で完全に隠せるけど『中国神話・青麒麟』は隠せないのに。まさか亡霊ごときに使う破目になるなんてな。生まれてこの方、『青麒麟』を使った事がない事が自慢だったのにぃ~。多分、御当主様は『日本神話ワタツミ』だけで『青麒麟』の事は何も知らないのに。今から皇居で御当主様に怒られるのが眼に浮かぶぜ」
さっきまで泣き言を叫んでいた人物とはまるで別人のように、アンニュイな表情を戌子に向けたのだった。
見られてゾクッとなった戌子に取り憑いた『第六天魔王の亡霊』が、
「・・・ここまで強いとは。拙い・・・・・・」
彼我の戦力差が勝敗を覆せないくらいまで開いている事を瞬時に見抜き、勝てないと悟って『桃鈴』を使って逃げようとしたが、
「・・・なっ?」
宝具が発動しなかった。
「ああ、術式に干渉したから『それ』は使えないぞ。ってか、逃がさないから、おまえはもう」
青夜が面倒臭そうに言って、
「行くぞ」
と言ったコンマ1秒後に間合いを詰めて蹴りを入れていた。
ドゴンッと腹を蹴られた戌子が身体を『く』の字に曲げてコンマ1秒で200メートルは吹き飛んだが、それよりも早く反対側の空中に回り込んでいた青夜が、
「これで終わりだ」
蹴りを放ち、戌子の首を故意にゴキッとへし折ったのだった。
青夜に蹴られた戌子が高速回転しながら飛んでいく中、戌子が死んで肉体が使い物にならなくなった『第六天魔王の亡霊』が身体を捨てて空中に出てくる。
その姿はイケメンだが負傷して怒りに満ちていた。
「貴様ぁぁぁぁぁっ! こうなったら、おまえに取り憑いて・・・・・・」
と言った時には青夜は剣を振っていた。
青夜の1発目の蹴りを受けて戌子が手放した国宝『鬼切恒次』を拾ってから青夜は回り込んで2発目の蹴りを繰り出していたのだ。
鬼切恒次を振って信長の亡霊を斬る。
『グギャアアアア』
「さすがは国宝。神気を乗せたら『信長の亡霊』も斬れるか。だが、さすがに一撃では倒せないみたいだな」
その後、4回剣を振り、
『グギャアアアアアアアアアアア・・・・・貴様、覚えておけよっ! 来年には必ず・・・』
「来年にはきっと忘れてるよ。去年も同じ事を言ってたし」
と笑った青夜はもう一振りして、
『グギャアアアアアアア』
と信長の亡霊を完全に消滅させたのだった。
「ふっ、虚しい勝利だ」
そう勝ち誇ってから、
「あっ、しまった・・・『薄濃』の在処を聞くのを忘れた。『青麒麟』を隠す為に犬飼戌子の記憶も破壊したし・・・・・・拙いかも」
やらかした事に気付いたのだった。
◇
今年の『第六天魔王の亡霊』2体の討伐を終えて、都内に戻り、その日の内に呼び出しを受けて皇居に出向くと、
「で?」
上座に陣取る白鳳院令が冷たく青夜に言葉を投げ掛けたのだった。
今回ばかりは、かなりの御立腹のようだ。
表情で分かる。
澄ましてる顔の方が令は怖いのだ。
「何がでしょうか、御当主様?」
「『日本神話ワタツミ』を持ってる事は枢から聞いて知っていたが『中国神話・聳狐』まで隠し持っていたのか?」
因みに『聳狐』とは青色の麒麟の事だ。
「ええっと・・・何の事を仰られているのかワタクシには皆目見当がーー」
青夜が往生際悪くとぼけようとして、令が、
「そうか。白鳳院に虚偽報告を――」
何か良くない事を言い出しそうだったので青夜が更に言葉を被せるように、
「違うんです・・・そう、『信長の亡霊』と戦ってる最中にピンチになって突如、潜在していた新たな力が覚醒したんです。そういう事にしましょう、御当主様」
青夜の下手過ぎる嘘に可愛げがあったのか、令が怒気を削がれながら、
「何が『そういう事にしましょう』だ。ったく・・・他には隠しておらんな?」
「他とは?」
「『ワタツミ』『聳狐』の他にだ」
『青龍は知られていない』と安堵した青夜が、
「東条院流青龍拳や陰陽術は使えますが、固有能力はさすがに神話が2つまでですよ」
しれっと嘘をついた。
「本当であろうな?」
「はい、御当主様」
「嘘臭いな。何を隠してる?」
「何も・・ああ、東条院が『龍穴』で気を上乗せしてる事は御存知ですよね?」
「それくらいはな」
「他にはありませんが」
青夜が嘘をつき通し、
「まあ、よかろう」
令も深くは追及せず、次の話題に移り、さらっと、
「この度の褒美をやろう。選べ、鈴か、青花か」
「何を選ぶのです?」
「孕ませる相手だ」
「青花は妹ですが?」
「血が繋がっていないのは知っているだろうが? それにもう『結婚しろ』とまでは言わん」
「・・・」
青夜は令の顔を見て『拙い、本気で選ばせる気だ』と悟り『まあ、神話級1つならともかく2つの異能力者を普通は手放さんわなぁ』と納得もしたが、
「鈴姫は絶対に嫌です」
「理由を聞いても?」
「だって『日本神話イザナミ・黄泉比良坂』の候補じゃないですか」
青夜が軽くさらっと言ったのに対して、真剣な顔をした令が鋭く、
「ーー誰に聞いた、それ? 枢じゃないよな?」
「東条院が保有する過去の記憶の中に『鈴姫と同じ顔の人物』が『日本神話イザナミ・黄泉比良坂』になったものがあり・・・」
「ったく、東条院も無駄に伝統が出てきたな。今のは他言せぬようにな」
と念を押してから、
「どちらを選ぶ?」
「鈴姫は絶対に嫌です」
「青花を選ぶのだな?」
「鈴姫は絶対に嫌です」
「分かった。そうしよう」
そう勝手に決めた令が、
「今回の『第六天魔王の亡霊』騒ぎが短期間で収拾したのだけが救いだな。『薄濃』もまだ完成していないだろうから」
ひとりごちると、青夜が可愛く『てへ』と笑って誤魔化そうとしたが誤魔化せる訳もなく、
「待て。まさか、回収に失敗したのか、『スサノオ』の頭蓋骨? まあ、憑依された遺体から記憶を読めばーー」
「それが『中国神話・青麒麟』を視られたくなくて・・・・・・あはははは」
青夜が記憶の破壊を匂わせると、
「・・・何をやっておるんだぁぁぁ。『薄濃』が世に出たら責任を取らせるからな、青夜」
そう顔を振りながら令は呻くように言ったのだった。
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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