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鎮魂祭を催す理由、信長信仰、鎮魂祭前日
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信長鎮魂祭とは6月21日の命日に『第六天魔王』織田信長の魂を鎮める為の儀式である。
と言うのも、実は鎮魂祭をやらないと『とある現象』が必ず起きる事が判明しているのだ。
ズバリ、
『余は『第六天魔王』織田信長なるぞ』
『オレは織田信長の生まれ変わりだ』
等々のおかしな発言する連中が現れるという困った現象が。
頭のおかしな奴がおかしな発言をする程度なら気にする必要はなかったが、異能力のある世界だ。
本当に『織田信長の亡霊』に取り憑かれ、亡霊に精神を眠らされて身体を奪われ、織田信長ほどじゃないにしても異能力『第六天魔王』が使える奴が出現する現象が起こった。
それも1人だけではなく複数同時に。
『本能寺の変』直後は、豊臣秀吉や徳川家康が織田信長の怖さを知っており過剰なほど恐れていたので毎年ちゃんと鎮魂祭をやったが、江戸時代初期には鎮魂祭を怠った結果、島原で天草四郎の乱が起きて大惨事となっている。
大きな声では言えないが、世界大戦時では日本軍が故意に『織田信長の亡霊』を軍事利用していた(記録は総て抹消されていたが)口伝で残っていた。
だが、今は平和な時代だ。
『織田信長の亡霊か怨念か』は知らないがお呼びじゃない。
そんな訳で、そんな現象が起きないように鎮魂祭が催される訳だが・・・
問題は場所にあった。
『第六天魔王』織田信長が死んだ場所は『本能寺』だ。
これは有名で、実際にそうだった。
後の聖女ガラシャ(討伐時も片鱗あり)や密かに明智光秀が復活させた比叡山延暦寺の聖域を発動し、その他、京都の神社仏閣、季節外れの五山の送り火まで動員し、更には日本中から強者達を招集してようやく討伐したのだから。
だが他にも織田信長にゆかりのある場所は多々あった。
歴史的にも有名なので行動は記録として残っており、
桶狭間の戦い。
美濃制圧。
足利義昭を奉じての上洛。
比叡山の焼き打ち。
将軍追放。
長篠の戦い。
石山本願寺との講和。
甲州征伐(帰りは東海道)。
本能寺の変。
と色々な場所に出没している訳だが、異能力のある世界だ。
その裏で色々と『第六天魔王』織田信長はやらかしていた。
そもそもこれほどの有名人ながら生誕地すら断定出来ない男だ。
桶狭間の戦い前まででも、
三河国から人質となった将来の東照大権現(後の徳川家康)を眷属化。
父親、織田信秀の葬儀での冥福祈願の妨害による霊魂の吸収。
正徳寺で会見した斎藤道三の眷族化。
尾張国の城下町に居た将来の豊国大明神(豊臣秀吉)の眷族化。
弟、信勝殺しの際の心臓強奪。
桶狭間の戦い直前の熱田神宮での聖域破壊。
これだけの事をやらかしてる。
それ以降はもう散々で、
美濃国を『鬼府』と改名。
足利義昭を眷族化しての上洛と自我を取り戻した将軍が起こす信長包囲網。
金ヶ崎撤退時の比叡山北側の鯖街道での聖域破壊の下準備。
比叡山の聖域破壊による『第六天魔王』完全覚醒。
浅井長政、久政、朝倉義景の薄濃による鬼の異能力譲渡の儀式。
長島一向一揆の虐殺と悪霊化。
切り取った蘭奢待での黄泉軍召喚。
高野山や諏訪大社等々の聖域破壊。
もう上げればきりがない。
やらかしまくりだ。
その為、鎮魂祭をする場所も広域で百以上に及んだ。
皇居吽軍の担当は愛知県、岐阜県、三重県、滋賀県、福井県、長野県、山梨県、静岡県、(京都府は阿軍と合同だが)これだけある。
因みに皇居阿軍の担当は大阪府、奈良県、和歌山県と吽軍と合同で京都府もだったが。
それが毎年6月21日だ。
結構な皇軍の動員と労力となった。
◇
その一方で『第六天魔王』織田信長を崇拝する連中も居た。
第六天魔王信仰、または信長信仰である。
とは言え、本気で織田信長の復活を企んだりする連中は実は殆ど居ない。
よっぽど仏教系の異能力者に怨みがあるので無ければ。
その反面、『信長の力』が欲しいという奴は結構居た。
異能界の底辺に居る力の弱い異能力者ほどその傾向が強かった。
つまりは誰もが強くなりたかったのだ。
それこそ『悪魔に魂を売ってでも』。
しかし、実際に『悪魔』と契約してまで強くなりたい奴というのは稀だ。
少数派どころか異端の考えとさえ言ってもいい。
1000人に1人も居ないはずだ。
なのに、その『悪魔』が『織田信長の亡霊』になると、その名前が放つ魔力なのか、ブランド名なのか、それとも日本人だからなのか、ハードルがグッと下がって、
『信長の亡霊になら身体を乗っ取られてもいい』
『信長の亡霊に憑依されるのなら別にいいかも』
と思うのが50人に1人くらい居たりするのが昨今の日本国の異能界の現状だった。
そして、世界大戦で日本軍が『第六天魔王』織田信長の亡霊を運用してた情報がどこからか漏れて、皇軍が毎年6月21日になると必死になって本能寺や安土城跡や岐阜城や名古屋城や清洲城跡を警備して鎮魂祭をやるのだから、それはもう『信長の力が貰える』との真実味が増す訳で、
『あれ、本当に信長の亡霊って信長の旧暦の命日に出るの?』
『信長の亡霊なら憑依されてもいいな』
『どうやるんだ? えっ? 皇軍が守ってる織田信長ゆかりの場所を邪気で穢すだけ?』
という具合にやり方まで異能界に広まってしまっていた。
皇軍も当然、網を張っている。
そのテの怪しいサイトや集会を主催してヤバイ連中を集めて『そういう事はしちゃいけませんよ』と半殺しにして身体に分からせたり、スパイを放って狩り出したりして。
そうなのだ。
『信長鎮魂祭』のこの時期だけではなく、皇軍は一年中、信長信仰の連中を狩りに狩って狩りまくっていた。
それでも狩り尽くせずにボウフラのように湧く連中が信長を信仰する連中なのだ。
これに日本の国力を下げさせようという目的の他国勢力が手を貸すと、それはもう大変で、皇軍が信長鎮魂祭を頑張ってるのに、あの手この手で妨害し、
去年は2人。
一昨年は1人。
3年前は5人。
4年前は0人。
5年前は1人。
過去の5年だけでも、これだけの人間に『織田信長の怨念』が憑依して、その都度、皇軍が全力で『第六天魔王の劣化版』を狩る破目になっていたのだった。
◇
本能寺の変があった日の前日の現暦の6月20日、皇居吽軍の最高司令官の田中青夜は京都に居た。
正確には京都には2日前に入っており、もう鎮魂祭が始まる前からグッタリだった。
山梨県、静岡県、長野県、愛知県、岐阜県、三重県、滋賀県を回って、京都府に2日前に入った訳だが、それはもう若き東条院の副宗家の青夜を接待漬けにしてくれたお陰で。
当然、各地の名士の一族の年頃の令嬢を紹介してだ。
気持ちいいくらい相手の思惑が透けていた訳だが、青夜は食指も動かなかった。
青夜は接待どころではなかったからだ。
今年の信長鎮魂祭は本当にヤバくて。
過去の書物にも『『日本神話ヤマタノオロチ』が出た次の信長鎮魂祭はヤバイ』と警告の意味を込めて先人達が多数の書物を残しているのだから。
それなのに『毎年の恒例行事』とでも思っているのか、名士どもがユルイ心構えで接待などをしてくれて、その温度差に青夜を始め、皇居吽軍の幹部達はかなりピリ付いていた。
京都御所の迎賓館にて、本日到着の阿軍の司令官、吉備桃矢と合流した。
「よう、久しぶりだな、青夜。どうだった、東国の方は?」
「地方の名士どもがヌルい考えで大変でしたよ」
「それは阿軍が担当する大阪、奈良、和歌山も同じだったぞ。祭り程度に思ってやがってな。気軽に自分の一族の綺麗どころをオレに紹介して。まあ、役得だったが」
「? 役得って?」
青夜が聞き咎めると、桃矢がさも当然と言った口調で、
「青夜も女の味見をしただろ?」
「する訳ないでしょ」
「まだまだお子様だねぇ~、青夜は」
「ええっと、じゃあ結婚するんですか?」
「する訳ないだろ、一夜限りの夢なのに」
「うわ、最低」
「向こうもオレに抱かれて喜んでたんだからいいだろうが。こちとら乱暴者の『スサノオ』なんだぜ? まあ、覚醒前からヤッてたけど」
と笑った。
青夜が呆れながら、
「桃矢さんもユルく考えてませんか? 『日本神話ヤマタノオロチ』が出た直後の鎮魂祭だってのに?」
「まあ、そう言うな」
桃矢のそのリアクションに、青夜は『3時間チョイで『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』を討伐出来た弊害がモロに出てるな。『第六天魔王の亡霊』を舐め過ぎだし。まあ、『日本神話スサノオ』を覚醒してるから亡霊なんて実際余裕だろうけど』と思いながら、
「現場のチェックはしましたか、桃矢さん? 東はかなりヤバかったですよ。岐阜城、千草越え、安土城跡、それに京都の旧本能寺跡。去年までとは段違いで邪気が渦巻いてて。こりゃあ、今年は相当な数の怨霊が集まりますよ」
「ああ、西も大阪府の天王寺砦跡はかなり・・・ん? 青夜は鎮魂祭、今年が初めてじゃなかったか?」
桃矢の指摘に、キョトンとした青夜が思い出したように白々しく、
「あっ・・・も、もちろんそうですよ」
「そうか、去年の2人を静岡県で狩ったのって本当は・・・いや、3年前の5人中2人も、もしかして・・・」
「あれれ、何の事を言ってるんですかぁ~、桃矢さん? ヤダな。柄にもなく頭を使ったりなんかして」
「誰が『柄にもなく頭を使ったりなんかして』だっ! ったく、マジで青夜って『やらかし系』だよな? まあいいや。知ってるのなら話は早い。日付が変わった0時ジャストから24時間だからな。頼んだぞ」
「了解です」
と最終確認をしたのだった。
迎賓館の吽軍司令室に入った青夜は定刻のリモート会議で吽軍担当の各地の様子を確認した。
『滋賀県は比叡山延暦寺の聖域が甲賀の里まで覆うので何の問題もありませんよ』
と言ったのはナンバー2の杜若擬天馬だった。
43歳。181センチ。黒髪の爽やか中年である。外面の良さと比例するような腹黒で、性格はかなり悪い。公家や重鎮嫌いでもある。
杜若擬家も東条院と同じで信長討伐で興った家の1つだったが、明治維新や高度経済成長の波に乗り遅れてとっくに没落していた。
「確かに」
青夜も頷いた。
滋賀県は織田信長が恐れた比叡山延暦寺がある関係で安土城跡さえ死守すれば信長の亡霊に憑依される奴が出る事はない。
だが、それでも不測の事態に備えて、滋賀県にはナンバー2の天馬が布陣していた。
『岐阜県は今年も拙そうです』
そう報告したのは北天川国持だった。
66歳。169センチ。苦労した人生だったのか頭は真っ白の総髪のオカッパで、眉間に皺があるものの異能系の公家らしく気品ある顔付きだった。眼も悪く眼鏡を掛けてる。
北天川家の異能力は『星見』なので笑えない発言でもあった。
「そうなの?」
『はい、今年も岐阜県が大当たりっぽいですから』
「はぁ~。頭痛の種だな」
岐阜県は京都府や滋賀県や三重県と比べて神社仏閣が弱く、聖域が小さい。
他にも皇居吽軍は、
愛知県には吉野桜太郎。
三重県には筑紫毅久雄。
長野県には八幡原武雄。
山梨県には黄泉小路愛之助。
静岡県には白鳳院鎌安。
を配置していた。
金斗石明唐は京都府で青夜の補佐だ。
「全員、気合いを入れてね。今年は『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』が出た最初の鎮魂祭だから。絶対に例年以上の問題が起きるから」
青夜はそう指揮したのだった。
と言うのも、実は鎮魂祭をやらないと『とある現象』が必ず起きる事が判明しているのだ。
ズバリ、
『余は『第六天魔王』織田信長なるぞ』
『オレは織田信長の生まれ変わりだ』
等々のおかしな発言する連中が現れるという困った現象が。
頭のおかしな奴がおかしな発言をする程度なら気にする必要はなかったが、異能力のある世界だ。
本当に『織田信長の亡霊』に取り憑かれ、亡霊に精神を眠らされて身体を奪われ、織田信長ほどじゃないにしても異能力『第六天魔王』が使える奴が出現する現象が起こった。
それも1人だけではなく複数同時に。
『本能寺の変』直後は、豊臣秀吉や徳川家康が織田信長の怖さを知っており過剰なほど恐れていたので毎年ちゃんと鎮魂祭をやったが、江戸時代初期には鎮魂祭を怠った結果、島原で天草四郎の乱が起きて大惨事となっている。
大きな声では言えないが、世界大戦時では日本軍が故意に『織田信長の亡霊』を軍事利用していた(記録は総て抹消されていたが)口伝で残っていた。
だが、今は平和な時代だ。
『織田信長の亡霊か怨念か』は知らないがお呼びじゃない。
そんな訳で、そんな現象が起きないように鎮魂祭が催される訳だが・・・
問題は場所にあった。
『第六天魔王』織田信長が死んだ場所は『本能寺』だ。
これは有名で、実際にそうだった。
後の聖女ガラシャ(討伐時も片鱗あり)や密かに明智光秀が復活させた比叡山延暦寺の聖域を発動し、その他、京都の神社仏閣、季節外れの五山の送り火まで動員し、更には日本中から強者達を招集してようやく討伐したのだから。
だが他にも織田信長にゆかりのある場所は多々あった。
歴史的にも有名なので行動は記録として残っており、
桶狭間の戦い。
美濃制圧。
足利義昭を奉じての上洛。
比叡山の焼き打ち。
将軍追放。
長篠の戦い。
石山本願寺との講和。
甲州征伐(帰りは東海道)。
本能寺の変。
と色々な場所に出没している訳だが、異能力のある世界だ。
その裏で色々と『第六天魔王』織田信長はやらかしていた。
そもそもこれほどの有名人ながら生誕地すら断定出来ない男だ。
桶狭間の戦い前まででも、
三河国から人質となった将来の東照大権現(後の徳川家康)を眷属化。
父親、織田信秀の葬儀での冥福祈願の妨害による霊魂の吸収。
正徳寺で会見した斎藤道三の眷族化。
尾張国の城下町に居た将来の豊国大明神(豊臣秀吉)の眷族化。
弟、信勝殺しの際の心臓強奪。
桶狭間の戦い直前の熱田神宮での聖域破壊。
これだけの事をやらかしてる。
それ以降はもう散々で、
美濃国を『鬼府』と改名。
足利義昭を眷族化しての上洛と自我を取り戻した将軍が起こす信長包囲網。
金ヶ崎撤退時の比叡山北側の鯖街道での聖域破壊の下準備。
比叡山の聖域破壊による『第六天魔王』完全覚醒。
浅井長政、久政、朝倉義景の薄濃による鬼の異能力譲渡の儀式。
長島一向一揆の虐殺と悪霊化。
切り取った蘭奢待での黄泉軍召喚。
高野山や諏訪大社等々の聖域破壊。
もう上げればきりがない。
やらかしまくりだ。
その為、鎮魂祭をする場所も広域で百以上に及んだ。
皇居吽軍の担当は愛知県、岐阜県、三重県、滋賀県、福井県、長野県、山梨県、静岡県、(京都府は阿軍と合同だが)これだけある。
因みに皇居阿軍の担当は大阪府、奈良県、和歌山県と吽軍と合同で京都府もだったが。
それが毎年6月21日だ。
結構な皇軍の動員と労力となった。
◇
その一方で『第六天魔王』織田信長を崇拝する連中も居た。
第六天魔王信仰、または信長信仰である。
とは言え、本気で織田信長の復活を企んだりする連中は実は殆ど居ない。
よっぽど仏教系の異能力者に怨みがあるので無ければ。
その反面、『信長の力』が欲しいという奴は結構居た。
異能界の底辺に居る力の弱い異能力者ほどその傾向が強かった。
つまりは誰もが強くなりたかったのだ。
それこそ『悪魔に魂を売ってでも』。
しかし、実際に『悪魔』と契約してまで強くなりたい奴というのは稀だ。
少数派どころか異端の考えとさえ言ってもいい。
1000人に1人も居ないはずだ。
なのに、その『悪魔』が『織田信長の亡霊』になると、その名前が放つ魔力なのか、ブランド名なのか、それとも日本人だからなのか、ハードルがグッと下がって、
『信長の亡霊になら身体を乗っ取られてもいい』
『信長の亡霊に憑依されるのなら別にいいかも』
と思うのが50人に1人くらい居たりするのが昨今の日本国の異能界の現状だった。
そして、世界大戦で日本軍が『第六天魔王』織田信長の亡霊を運用してた情報がどこからか漏れて、皇軍が毎年6月21日になると必死になって本能寺や安土城跡や岐阜城や名古屋城や清洲城跡を警備して鎮魂祭をやるのだから、それはもう『信長の力が貰える』との真実味が増す訳で、
『あれ、本当に信長の亡霊って信長の旧暦の命日に出るの?』
『信長の亡霊なら憑依されてもいいな』
『どうやるんだ? えっ? 皇軍が守ってる織田信長ゆかりの場所を邪気で穢すだけ?』
という具合にやり方まで異能界に広まってしまっていた。
皇軍も当然、網を張っている。
そのテの怪しいサイトや集会を主催してヤバイ連中を集めて『そういう事はしちゃいけませんよ』と半殺しにして身体に分からせたり、スパイを放って狩り出したりして。
そうなのだ。
『信長鎮魂祭』のこの時期だけではなく、皇軍は一年中、信長信仰の連中を狩りに狩って狩りまくっていた。
それでも狩り尽くせずにボウフラのように湧く連中が信長を信仰する連中なのだ。
これに日本の国力を下げさせようという目的の他国勢力が手を貸すと、それはもう大変で、皇軍が信長鎮魂祭を頑張ってるのに、あの手この手で妨害し、
去年は2人。
一昨年は1人。
3年前は5人。
4年前は0人。
5年前は1人。
過去の5年だけでも、これだけの人間に『織田信長の怨念』が憑依して、その都度、皇軍が全力で『第六天魔王の劣化版』を狩る破目になっていたのだった。
◇
本能寺の変があった日の前日の現暦の6月20日、皇居吽軍の最高司令官の田中青夜は京都に居た。
正確には京都には2日前に入っており、もう鎮魂祭が始まる前からグッタリだった。
山梨県、静岡県、長野県、愛知県、岐阜県、三重県、滋賀県を回って、京都府に2日前に入った訳だが、それはもう若き東条院の副宗家の青夜を接待漬けにしてくれたお陰で。
当然、各地の名士の一族の年頃の令嬢を紹介してだ。
気持ちいいくらい相手の思惑が透けていた訳だが、青夜は食指も動かなかった。
青夜は接待どころではなかったからだ。
今年の信長鎮魂祭は本当にヤバくて。
過去の書物にも『『日本神話ヤマタノオロチ』が出た次の信長鎮魂祭はヤバイ』と警告の意味を込めて先人達が多数の書物を残しているのだから。
それなのに『毎年の恒例行事』とでも思っているのか、名士どもがユルイ心構えで接待などをしてくれて、その温度差に青夜を始め、皇居吽軍の幹部達はかなりピリ付いていた。
京都御所の迎賓館にて、本日到着の阿軍の司令官、吉備桃矢と合流した。
「よう、久しぶりだな、青夜。どうだった、東国の方は?」
「地方の名士どもがヌルい考えで大変でしたよ」
「それは阿軍が担当する大阪、奈良、和歌山も同じだったぞ。祭り程度に思ってやがってな。気軽に自分の一族の綺麗どころをオレに紹介して。まあ、役得だったが」
「? 役得って?」
青夜が聞き咎めると、桃矢がさも当然と言った口調で、
「青夜も女の味見をしただろ?」
「する訳ないでしょ」
「まだまだお子様だねぇ~、青夜は」
「ええっと、じゃあ結婚するんですか?」
「する訳ないだろ、一夜限りの夢なのに」
「うわ、最低」
「向こうもオレに抱かれて喜んでたんだからいいだろうが。こちとら乱暴者の『スサノオ』なんだぜ? まあ、覚醒前からヤッてたけど」
と笑った。
青夜が呆れながら、
「桃矢さんもユルく考えてませんか? 『日本神話ヤマタノオロチ』が出た直後の鎮魂祭だってのに?」
「まあ、そう言うな」
桃矢のそのリアクションに、青夜は『3時間チョイで『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』を討伐出来た弊害がモロに出てるな。『第六天魔王の亡霊』を舐め過ぎだし。まあ、『日本神話スサノオ』を覚醒してるから亡霊なんて実際余裕だろうけど』と思いながら、
「現場のチェックはしましたか、桃矢さん? 東はかなりヤバかったですよ。岐阜城、千草越え、安土城跡、それに京都の旧本能寺跡。去年までとは段違いで邪気が渦巻いてて。こりゃあ、今年は相当な数の怨霊が集まりますよ」
「ああ、西も大阪府の天王寺砦跡はかなり・・・ん? 青夜は鎮魂祭、今年が初めてじゃなかったか?」
桃矢の指摘に、キョトンとした青夜が思い出したように白々しく、
「あっ・・・も、もちろんそうですよ」
「そうか、去年の2人を静岡県で狩ったのって本当は・・・いや、3年前の5人中2人も、もしかして・・・」
「あれれ、何の事を言ってるんですかぁ~、桃矢さん? ヤダな。柄にもなく頭を使ったりなんかして」
「誰が『柄にもなく頭を使ったりなんかして』だっ! ったく、マジで青夜って『やらかし系』だよな? まあいいや。知ってるのなら話は早い。日付が変わった0時ジャストから24時間だからな。頼んだぞ」
「了解です」
と最終確認をしたのだった。
迎賓館の吽軍司令室に入った青夜は定刻のリモート会議で吽軍担当の各地の様子を確認した。
『滋賀県は比叡山延暦寺の聖域が甲賀の里まで覆うので何の問題もありませんよ』
と言ったのはナンバー2の杜若擬天馬だった。
43歳。181センチ。黒髪の爽やか中年である。外面の良さと比例するような腹黒で、性格はかなり悪い。公家や重鎮嫌いでもある。
杜若擬家も東条院と同じで信長討伐で興った家の1つだったが、明治維新や高度経済成長の波に乗り遅れてとっくに没落していた。
「確かに」
青夜も頷いた。
滋賀県は織田信長が恐れた比叡山延暦寺がある関係で安土城跡さえ死守すれば信長の亡霊に憑依される奴が出る事はない。
だが、それでも不測の事態に備えて、滋賀県にはナンバー2の天馬が布陣していた。
『岐阜県は今年も拙そうです』
そう報告したのは北天川国持だった。
66歳。169センチ。苦労した人生だったのか頭は真っ白の総髪のオカッパで、眉間に皺があるものの異能系の公家らしく気品ある顔付きだった。眼も悪く眼鏡を掛けてる。
北天川家の異能力は『星見』なので笑えない発言でもあった。
「そうなの?」
『はい、今年も岐阜県が大当たりっぽいですから』
「はぁ~。頭痛の種だな」
岐阜県は京都府や滋賀県や三重県と比べて神社仏閣が弱く、聖域が小さい。
他にも皇居吽軍は、
愛知県には吉野桜太郎。
三重県には筑紫毅久雄。
長野県には八幡原武雄。
山梨県には黄泉小路愛之助。
静岡県には白鳳院鎌安。
を配置していた。
金斗石明唐は京都府で青夜の補佐だ。
「全員、気合いを入れてね。今年は『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』が出た最初の鎮魂祭だから。絶対に例年以上の問題が起きるから」
青夜はそう指揮したのだった。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
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カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
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