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白鳳院晴彦の捕縛、君清の当主代理継承、『皇赦』の訂正発表
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青龍大学の監査を途中で切り上げた白鳳院晴彦は急ぎ、仏蘭院医大へと向かった。
仏蘭院医大はその名の通り、白鳳院の傍系の仏蘭院家が経営する医大で、晴彦が向かった先は正確には『仏蘭院医大付属病院』だ。
当然、異能系の病院で、白鳳院の傍系の名に恥じぬ日本トップクラスの実力と実績を持っていた訳だが、それでも運ばれた天彦と君子は意識不明の重体だった。
当然だ。
匕首には毒が塗られていたのだから。
普通の毒ではない。
ジワジワと苦しみ、身体が腐ってもなお、死ねずに苦しみ抜くという特別な毒が塗られていた。
その毒を選んだのは晴彦で、実行犯の大鳳乱に狙わせた相手は東条院の副宗家の青夜の異母弟妹の青刃と青花だったのだが、因果応報とは良く言ったもので晴彦の実子の天彦が毒の餌食となっていた。
(どうして、こんな事に・・・)
晴彦は絶句して途方に暮れていた。
何故なら毒を用意した晴彦はその毒が中国製で解毒薬がない事を知っていたからだ。
正確には解毒薬がない毒を敢えて用意していた。逆らったらどうなるのか東条院の副宗家の青夜に身を持って教える為に。
つまりはもう天彦は助からない。
担当の医師が申し訳なさそうに、
「使用された毒は致死量ではなく微毒ですが、何分データに無い毒でして」
と晴彦に説明し、晴彦はベッドで眠る息子の天彦を見ながら、
(購入した中国サイドに接触して本当に解毒薬がないのか確かめねば)
と内心で考えていた。
「・・・ど、どうして・・・・・・あやつごときが天彦を用意出来る訳が・・・・・・」
集中治療室のベッドで寝込む天彦を見て晴彦が項垂れる。
項垂れ過ぎて思考が働かず、実の父親が黒幕との結論には達せなかった。
自分の手を毒で苦しむ息子の天彦に伸ばそうとして、躊躇した。
毒なので自分も害する可能性があったからだ。
それが晴彦の子を想う限界でもあった。
ベッドの横の丸椅子に座って項垂れる晴彦に更なる悪い知らせが届いた。
入室してきた与一が、
「本邸で尋問を受けた奸賊、大鳳乱が『晴彦様の命令でお2人を負傷させた』と証言しました」
「ふざけるなっ! 私が命令したのは――」
晴彦が言い訳を口にしようとしたが、聞く耳を持たない与一が、
「『当主代理の権限を剥脱。晴彦様を捕縛して直ちに本邸に連行してこい』と御前様より御命令がございましたので捕縛させていただきます」
そう通告すると、たった今まで部下だった全員が敵に回って晴彦を拘束し始めたのだった。
「なっ、ふざけるなっ! 当主には私から話すっ! 今は天彦の傍に居させてくれっ!」
逃げられないように後ろ手で手錠を嵌め、更には護符付きの鎖で身体を巻いて異能力を封印する。
誰一人、晴彦に手心を加えなかった。白鳳院の陪臣が当主の御前の命令に忠実な事もあったが、それ以上に晴彦が主人の器ではなく、陪臣達に内心嫌われていたからだ。
「おい、聞いているのか・・・・・・んぐっ!」
最後には布で猿轡まで噛まされて、その状態で晴彦は連行されて行き、医大病院の出口で離婚調停中の妻の玉串とすれ違い、蔑む眼で睨まれたのだった。
◇
そして晴彦が白鳳院本邸に連行された時には事態は更に面倒臭い事になっていた。
令の3歳年下の君清が居たからだ。
君清は誕生日が4月なので59歳。身長175センチ。灰色に染めた総髪で、令の弟だけあり似ており、令の顔に分厚い涙袋と顎髭を付けた風貌だった。
恰好は楽な作務衣だ。
普段は虎の威の借る狐に徹してるが、今回ばかりは(余り可愛がっていなかったが、それでも)孫娘の君子を害されて大激怒しており、捕縛されて連行された晴彦を睨んでいた。
令の方はもう興味も無さそうに上座から晴彦を見据えてる。
父親のこの視線が一番拙い事を晴彦も知っていた。
青夜を狙った賊の三族連座の処刑実行で公家達からはとうに見捨てられている。
その上、令に見捨てられたら、もう本当に終わりだ。
「大鳳の小倅を連れて来いっ!」
との君清の言葉で、別のドアが開き、顔が倍に腫れて青タンが出来た乱が連れてこられた。
どういう扱いを受けたのか、一目瞭然で分かる顔をしている。
「さっきの話をもう一度言ってみろ」
君清の冷え切った命令で、
「こちらの白鳳院晴彦様に『東条院の『白赦』となった鵜殿青刃と小巻園青花を毒で長く苦しむように殺さず傷付けるように』と毒の塗られた匕首を2本渡されました。その2人が天彦様と君子様だったとは誓って知りませんでした。本当ですっ! それだけは信じて下さいっ!」
「んんんんんっ」
猿轡をされてる晴彦が『それだと私が天彦達だと知っていて命令したみたいではないか。違う。私も知らなかったんだ』と答えたが声にはならなかった。
「兄上、言いたくはありませんが晴彦はもうダメです。白鳳院から籍を外す事を提案します」
『君付け』を止めた君清の言葉に、
「ふむ。そうだな」
軽く考えた素振りを見せた令が、
「君清、今から当主代理をやってみろ」
その言葉で白鳳院の当主代理の地位がたった今、君清に継承されたのだった。
「ははっ! 命ある限り務めさせていただきます」
君清が頭を下げて拝命を受ける中、令が、
「では、最初の仕事だ。それをどう裁く?」
自分の息子である晴彦を指差して君清に質問した。
「無論、厳罰に処すべきかと」
「何の罪で?」
「罪など必要ありません。これまでの不手際の数々から心の病での隔離で十分かと」
君清の言葉に『んんん』と晴彦は涙を浮かべて首を振ったが、
「ふむ。悪くはないな」
令が同意すると、
「罪人どもを別室へ連れて行け」
当主代理の君清の言葉で晴彦と乱の2人は部屋の外へと連れて行かれたのだった。
「・・・大鳳はどうする?」
「白鳳院に牙を剥いた羽虫は潰すのみです。例えそれが傍系であろうとも」
「羽虫の巣は?」
眼を冷徹に光らせて鋭く令が問う中、
「無論、潰しますよ」
「では任そう」
「はっ!」
采配に納得した令が、ふと君清を見て、
「このままでは男系男子が途切れる訳だが・・・」
「息子の君康に側室結婚をさせます。枢の喪中ですが、出来れば6月の今月中にでも・・・」
「ああ、仕方あるまい。死者よりも生者優先だ。それでその相手だが分かっておるな、君清? 嫡流ならば高位の公家の娘以外は認めぬぞ? 数は今年は2人で良かろう」
「はっ!」
白鳳院の後継者を約束されて君清は興奮気味に答えたのだった。
そして、その僅か10分後に、
白鳳院晴彦、病気で静養。
当主代理に白鳳院君清、就任。
この情報が異能界に公表されたのだった。
◇
東条院青蓮の四十九日法要があり、白鳳院晴彦が病気静養をしたその日の内だった。
白鳳院君清は長年、令の補佐をしていたからか、ちゃんと心得ており、皇居に田中青夜を呼び出していた。
「白鳳院の当主代理就任、おめでとうございます」
青夜もちゃんと祝いの挨拶を述べた訳だが、君清が、
「それよりも聞きたい事がある。吽近衛大将ほどの実力者がどうして大鳳乱ごときに後れを取って孫娘の君子に傷を負わせるという失態を犯したのだ?」
「東条院内の席次の所為です」
「?」
「私は副宗家として宗家を抱えた宗家代理の後ろを歩いており、私の後ろには分家頭の藤名の者達が続き、更にその後方での出来事でしたので」
「嘘ではないな?」
「嘘ではございません。母の墓が見えたが為におセンチな感傷に浸っていたという側面も否定はしませんが」
青夜は嘘臭い笑顔で返答した。
「そもそも何故、あの2人が東条院の親族席に紛れ込んでいたのだ?」
「『出席したい』との申し出があり、かといって白鳳院の御両名を下座の陪臣の列に立たせてる訳にもいかず、弟と妹が欠席する話をしてしまったが為に『ちょうどいいわ。その2人に変化しましょう』と君子様が仰られ・・・」
『ああ、その記憶も読んだな』と孫の悪巧みに呆れた君清が、
「吽近衛大将が止めてた記憶も見たが、もう少し強く言えなかったのか?」
「白鳳院の方々にですか? それはさすがに・・・」
「ふむ、確かにな。まあ、良かろう」
と青福寺の顛末に一応は納得した君清が、
「皇居に呼んだのには理由がある。前の当主代理が無能だったのでな」
そう前置きしてから、
「田中青夜、先の『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の第2戦功の褒美として、東条院の『先代落とし』の連座となった鵜殿青刃、小巻園青花に『皇赦』を追加で与える。励めよ」
『皇赦』とは無論『天皇の大赦』である。
つまりは青刃と青花はこれで完全に無罪放免となった。
予想外だったので青夜は背筋を軽く正して、
「ははっ、謹んでお受けいたしまするぅ」
芝居がかった返事をしてから、
「本当によろしかったのですか?」
意外そうに君清を見た。
「ああ、その代わり頼みがある」
「お断りします」
さらりと青夜は言った。
「? まだ何も言ってないだろうが?」
「白鳳院とは距離を取りたいので」
「それが『皇赦』を用意した私に対して言う言葉か?」
(何を恩着せがましく言ってるんだ? 『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の第2戦功の論功行賞の時に白鳳院晴彦が東条院を操ろうとアホな事を考えただけで、本当ならその時に出てたはずだろうが?)
と思いながらも青夜が、
「多分断ると思いますが、何をお望みなのです?」
「公家をもうこれ以上殺すな。私の評価に響くのでな」
「それくらいなら・・・喧嘩を売られぬ限りは」
青夜が承諾する中、君清が、
「そう言えばどうして白泉家が御前の不興を買ったか知っているか?」
「前々から白泉家の増長が眼に余っていたのか『よい機会だ』と仰られたのは直接耳にしました」
「確かに白泉家はな。他には?」
「『従三位の命を狙った賊の三族連座に『白赦』を貰えると考えてる者共の気が知れぬ』とも仰っておられました。本当は『島流し』も認める気はなかったようです、御当主様は。ですので私の方で『お願いですので公家は『島流し』にして下さい。黄泉小路に怨まれたくありませんので』と泣き付き、どうにか『島流し』を許していただいた次第です」
それには君清が意外そうに、
「・・・吽近衛大将の口添えだったのか、『島流し』は?」
「はい、こう見えて『お気に入り』なもので」
「ふむ。色々と参考になった。この調子で今後も友好的な関係を頼んだぞ」
「ははっ」
そう言って青夜は皇居の謁見の間から退室したのだった。
◇
その夜の内に『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』に関する論功行賞の訂正として、
第2戦功、東条院青夜に関する論功行賞の鵜殿青刃、小巻園青花の両名に与えた『白赦』を『皇赦』に変更。
との発表もされたのだった。
仏蘭院医大はその名の通り、白鳳院の傍系の仏蘭院家が経営する医大で、晴彦が向かった先は正確には『仏蘭院医大付属病院』だ。
当然、異能系の病院で、白鳳院の傍系の名に恥じぬ日本トップクラスの実力と実績を持っていた訳だが、それでも運ばれた天彦と君子は意識不明の重体だった。
当然だ。
匕首には毒が塗られていたのだから。
普通の毒ではない。
ジワジワと苦しみ、身体が腐ってもなお、死ねずに苦しみ抜くという特別な毒が塗られていた。
その毒を選んだのは晴彦で、実行犯の大鳳乱に狙わせた相手は東条院の副宗家の青夜の異母弟妹の青刃と青花だったのだが、因果応報とは良く言ったもので晴彦の実子の天彦が毒の餌食となっていた。
(どうして、こんな事に・・・)
晴彦は絶句して途方に暮れていた。
何故なら毒を用意した晴彦はその毒が中国製で解毒薬がない事を知っていたからだ。
正確には解毒薬がない毒を敢えて用意していた。逆らったらどうなるのか東条院の副宗家の青夜に身を持って教える為に。
つまりはもう天彦は助からない。
担当の医師が申し訳なさそうに、
「使用された毒は致死量ではなく微毒ですが、何分データに無い毒でして」
と晴彦に説明し、晴彦はベッドで眠る息子の天彦を見ながら、
(購入した中国サイドに接触して本当に解毒薬がないのか確かめねば)
と内心で考えていた。
「・・・ど、どうして・・・・・・あやつごときが天彦を用意出来る訳が・・・・・・」
集中治療室のベッドで寝込む天彦を見て晴彦が項垂れる。
項垂れ過ぎて思考が働かず、実の父親が黒幕との結論には達せなかった。
自分の手を毒で苦しむ息子の天彦に伸ばそうとして、躊躇した。
毒なので自分も害する可能性があったからだ。
それが晴彦の子を想う限界でもあった。
ベッドの横の丸椅子に座って項垂れる晴彦に更なる悪い知らせが届いた。
入室してきた与一が、
「本邸で尋問を受けた奸賊、大鳳乱が『晴彦様の命令でお2人を負傷させた』と証言しました」
「ふざけるなっ! 私が命令したのは――」
晴彦が言い訳を口にしようとしたが、聞く耳を持たない与一が、
「『当主代理の権限を剥脱。晴彦様を捕縛して直ちに本邸に連行してこい』と御前様より御命令がございましたので捕縛させていただきます」
そう通告すると、たった今まで部下だった全員が敵に回って晴彦を拘束し始めたのだった。
「なっ、ふざけるなっ! 当主には私から話すっ! 今は天彦の傍に居させてくれっ!」
逃げられないように後ろ手で手錠を嵌め、更には護符付きの鎖で身体を巻いて異能力を封印する。
誰一人、晴彦に手心を加えなかった。白鳳院の陪臣が当主の御前の命令に忠実な事もあったが、それ以上に晴彦が主人の器ではなく、陪臣達に内心嫌われていたからだ。
「おい、聞いているのか・・・・・・んぐっ!」
最後には布で猿轡まで噛まされて、その状態で晴彦は連行されて行き、医大病院の出口で離婚調停中の妻の玉串とすれ違い、蔑む眼で睨まれたのだった。
◇
そして晴彦が白鳳院本邸に連行された時には事態は更に面倒臭い事になっていた。
令の3歳年下の君清が居たからだ。
君清は誕生日が4月なので59歳。身長175センチ。灰色に染めた総髪で、令の弟だけあり似ており、令の顔に分厚い涙袋と顎髭を付けた風貌だった。
恰好は楽な作務衣だ。
普段は虎の威の借る狐に徹してるが、今回ばかりは(余り可愛がっていなかったが、それでも)孫娘の君子を害されて大激怒しており、捕縛されて連行された晴彦を睨んでいた。
令の方はもう興味も無さそうに上座から晴彦を見据えてる。
父親のこの視線が一番拙い事を晴彦も知っていた。
青夜を狙った賊の三族連座の処刑実行で公家達からはとうに見捨てられている。
その上、令に見捨てられたら、もう本当に終わりだ。
「大鳳の小倅を連れて来いっ!」
との君清の言葉で、別のドアが開き、顔が倍に腫れて青タンが出来た乱が連れてこられた。
どういう扱いを受けたのか、一目瞭然で分かる顔をしている。
「さっきの話をもう一度言ってみろ」
君清の冷え切った命令で、
「こちらの白鳳院晴彦様に『東条院の『白赦』となった鵜殿青刃と小巻園青花を毒で長く苦しむように殺さず傷付けるように』と毒の塗られた匕首を2本渡されました。その2人が天彦様と君子様だったとは誓って知りませんでした。本当ですっ! それだけは信じて下さいっ!」
「んんんんんっ」
猿轡をされてる晴彦が『それだと私が天彦達だと知っていて命令したみたいではないか。違う。私も知らなかったんだ』と答えたが声にはならなかった。
「兄上、言いたくはありませんが晴彦はもうダメです。白鳳院から籍を外す事を提案します」
『君付け』を止めた君清の言葉に、
「ふむ。そうだな」
軽く考えた素振りを見せた令が、
「君清、今から当主代理をやってみろ」
その言葉で白鳳院の当主代理の地位がたった今、君清に継承されたのだった。
「ははっ! 命ある限り務めさせていただきます」
君清が頭を下げて拝命を受ける中、令が、
「では、最初の仕事だ。それをどう裁く?」
自分の息子である晴彦を指差して君清に質問した。
「無論、厳罰に処すべきかと」
「何の罪で?」
「罪など必要ありません。これまでの不手際の数々から心の病での隔離で十分かと」
君清の言葉に『んんん』と晴彦は涙を浮かべて首を振ったが、
「ふむ。悪くはないな」
令が同意すると、
「罪人どもを別室へ連れて行け」
当主代理の君清の言葉で晴彦と乱の2人は部屋の外へと連れて行かれたのだった。
「・・・大鳳はどうする?」
「白鳳院に牙を剥いた羽虫は潰すのみです。例えそれが傍系であろうとも」
「羽虫の巣は?」
眼を冷徹に光らせて鋭く令が問う中、
「無論、潰しますよ」
「では任そう」
「はっ!」
采配に納得した令が、ふと君清を見て、
「このままでは男系男子が途切れる訳だが・・・」
「息子の君康に側室結婚をさせます。枢の喪中ですが、出来れば6月の今月中にでも・・・」
「ああ、仕方あるまい。死者よりも生者優先だ。それでその相手だが分かっておるな、君清? 嫡流ならば高位の公家の娘以外は認めぬぞ? 数は今年は2人で良かろう」
「はっ!」
白鳳院の後継者を約束されて君清は興奮気味に答えたのだった。
そして、その僅か10分後に、
白鳳院晴彦、病気で静養。
当主代理に白鳳院君清、就任。
この情報が異能界に公表されたのだった。
◇
東条院青蓮の四十九日法要があり、白鳳院晴彦が病気静養をしたその日の内だった。
白鳳院君清は長年、令の補佐をしていたからか、ちゃんと心得ており、皇居に田中青夜を呼び出していた。
「白鳳院の当主代理就任、おめでとうございます」
青夜もちゃんと祝いの挨拶を述べた訳だが、君清が、
「それよりも聞きたい事がある。吽近衛大将ほどの実力者がどうして大鳳乱ごときに後れを取って孫娘の君子に傷を負わせるという失態を犯したのだ?」
「東条院内の席次の所為です」
「?」
「私は副宗家として宗家を抱えた宗家代理の後ろを歩いており、私の後ろには分家頭の藤名の者達が続き、更にその後方での出来事でしたので」
「嘘ではないな?」
「嘘ではございません。母の墓が見えたが為におセンチな感傷に浸っていたという側面も否定はしませんが」
青夜は嘘臭い笑顔で返答した。
「そもそも何故、あの2人が東条院の親族席に紛れ込んでいたのだ?」
「『出席したい』との申し出があり、かといって白鳳院の御両名を下座の陪臣の列に立たせてる訳にもいかず、弟と妹が欠席する話をしてしまったが為に『ちょうどいいわ。その2人に変化しましょう』と君子様が仰られ・・・」
『ああ、その記憶も読んだな』と孫の悪巧みに呆れた君清が、
「吽近衛大将が止めてた記憶も見たが、もう少し強く言えなかったのか?」
「白鳳院の方々にですか? それはさすがに・・・」
「ふむ、確かにな。まあ、良かろう」
と青福寺の顛末に一応は納得した君清が、
「皇居に呼んだのには理由がある。前の当主代理が無能だったのでな」
そう前置きしてから、
「田中青夜、先の『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の第2戦功の褒美として、東条院の『先代落とし』の連座となった鵜殿青刃、小巻園青花に『皇赦』を追加で与える。励めよ」
『皇赦』とは無論『天皇の大赦』である。
つまりは青刃と青花はこれで完全に無罪放免となった。
予想外だったので青夜は背筋を軽く正して、
「ははっ、謹んでお受けいたしまするぅ」
芝居がかった返事をしてから、
「本当によろしかったのですか?」
意外そうに君清を見た。
「ああ、その代わり頼みがある」
「お断りします」
さらりと青夜は言った。
「? まだ何も言ってないだろうが?」
「白鳳院とは距離を取りたいので」
「それが『皇赦』を用意した私に対して言う言葉か?」
(何を恩着せがましく言ってるんだ? 『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の第2戦功の論功行賞の時に白鳳院晴彦が東条院を操ろうとアホな事を考えただけで、本当ならその時に出てたはずだろうが?)
と思いながらも青夜が、
「多分断ると思いますが、何をお望みなのです?」
「公家をもうこれ以上殺すな。私の評価に響くのでな」
「それくらいなら・・・喧嘩を売られぬ限りは」
青夜が承諾する中、君清が、
「そう言えばどうして白泉家が御前の不興を買ったか知っているか?」
「前々から白泉家の増長が眼に余っていたのか『よい機会だ』と仰られたのは直接耳にしました」
「確かに白泉家はな。他には?」
「『従三位の命を狙った賊の三族連座に『白赦』を貰えると考えてる者共の気が知れぬ』とも仰っておられました。本当は『島流し』も認める気はなかったようです、御当主様は。ですので私の方で『お願いですので公家は『島流し』にして下さい。黄泉小路に怨まれたくありませんので』と泣き付き、どうにか『島流し』を許していただいた次第です」
それには君清が意外そうに、
「・・・吽近衛大将の口添えだったのか、『島流し』は?」
「はい、こう見えて『お気に入り』なもので」
「ふむ。色々と参考になった。この調子で今後も友好的な関係を頼んだぞ」
「ははっ」
そう言って青夜は皇居の謁見の間から退室したのだった。
◇
その夜の内に『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』に関する論功行賞の訂正として、
第2戦功、東条院青夜に関する論功行賞の鵜殿青刃、小巻園青花の両名に与えた『白赦』を『皇赦』に変更。
との発表もされたのだった。
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最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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