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ソフトンニューヨークホテル東京で部屋を2室取るようになった理由
しおりを挟む5月6日は平日だが、まだゴールデンウィークである。
そしてハイニシキホテルの宿泊部屋はロイヤルスイートルームだったが、この時はまだ1室しか田中家でキープしていなかった。
この後のソフトンニューヨークホテル東京では田中家は2室キープしていた訳だが、この時はゴールデンウィークで部屋が取れない以前に、ロイヤルスイートルームを2部屋取らない弊害について田中家はまだ学習していなかったのである。
そんな訳で、青夜が白鳳院晴彦の部屋からハイニシキホテルのロイヤルスイートに、
「ただいまぁ~」
と戻ると、ドアを開けて5歩進んだリビングでは、半裸の愛と葉月とシャンリーが居た。
厳密に描写すれば、
愛は黒の高級パンツを穿き、ブラのホックを留めようと両手を背中に回していた。
葉月はピンク色の下着の上下姿で、ソファーに腰掛けてる。
シャンリーは5月6日は平日だったが制服と教科書がオジャンで通学出来ないので学校を休んでおり、白の高級ブラを付けて、前屈みになってパンツを穿こうと膝まで上げてるところだった。
「ちょ」
「お帰り、青夜」
「なっ!」
愛、葉月、シャンリーがリアクションを取る中、
「何やってるの?」
青夜が呆れながらも退室などせずソファーに堂々と座った。
「購入した下着の試着会をーーって、そうじゃなくて、青夜君、ここは気を利かせて部屋を出るところでしょっ!」
愛が一般常識を口にし、
「そうよっ! 出て行きなさいよっ!」
シャンリーは固まったノーパン姿の姿勢のまま青夜に文句を言っていた。
だが、根っからのお坊ちゃん体質で自分の事最優先の青夜は、
「オレの事は気にせずに続けていいよ。ってか、それよりも聞いてよ、みんな。『ヤマタノオロチ・伍ノ首』と昨日戦った事を信じて貰えなくて、白鳳院の代理様に呼ばれたら腕試しをやらされてさぁ~。マジであり得なかったからぁ~」
何事もないかのように、さっきあった出来事を話し始めた。
「ちょっと、青夜君っ! 普通に会話しないでよねっ! 他に言う事があるでしょっ!」
「何の事? あっ、ゴメン、気付かなくって。似合ってるよ、ママ、その黒の下着。シャンリーも白下着。まだ穿いてないけど、前屈みで胸が強調されてて。葉月のピンクもね」
「違うわよ。褒めなさいって言ってるんじゃなくてっ!」
愛が呆れて、
「そう?」
葉月が照れる中、
「信じられない、もういいわよ」
とシャンリーはパンツを上げて衣服を持ってベッドルームへと逃げていったのだった。
「もう」
愛も仕方なく服を持って退散し、下着姿の葉月が怒ったように、
「青夜、どうして褒めるの私が最後だったのよ?」
「だって、その下着、シンプル過ぎない?」
「まあ、確かにこれは安物だしね」
葉月はそう反省したのだった。
これだけでソフトンニューヨークホテル東京で部屋を2室取るようになったのではない。
ホテルの宿泊部屋1室の弊害はそれだけではなかった。
夕食はホテルのレストランで食べた訳だが、入浴でも問題が生じた。
ハイニシキホテルトーキョーのロイヤルスイートのバスタブは横にカーテンが付いてトイレと一緒のようなチャッチなものではない。
お風呂とトイレはちゃんと独立していた。
だが、ロイヤルスイートはトイレこそ2つあったが、バスルームは1室だけだったのだ。
問題となったのは入浴の順番である。
順番は厳正な志願制、並びに義理の母親である愛が葉月と青夜の混浴を認めなかった為に、青夜、愛、葉月、シャンリーの順番で入浴する事が決まった。
もう、お分かりだろう。
えっ? 何の事か分からない?
青夜が湯上がりで身体を拭く時、バスタオルを5枚使ったが為に、最後のシャンリーの入浴の際にはバスタオルが無くなるという事案が発生したのだ。
シャンリーが『バスタオルがない』と気付いたのは入浴して出ようとした、まさにその時であった。
「ちょ、バスタオルは? このホテルはどうなってるのよ?」
お風呂から出た段階でシャンリーがそう文句を言う破目になり、家族の使用済みのバスタオルなど使いたくなかったのでお風呂のドアの隙間から、
「ちょっと、誰か居る?」
と声を掛ければ、
「?」
青夜が来た訳だが、シャンリーは気配探知が出来ない。
そして風呂上がりだ。
バスタオルがなくて、ずぶ濡れなのに眼鏡など掛けない。
シャンリーは御存知、ド乱視だ。
なのでドアの隙間から湯上がりの裸体を晒しており、
「どうしたの?」
その声で、ようやく相手が青夜だと気付き『ちょ』と遅蒔きにドアを閉じた次第だった。
「フロントに電話してバスタオルを持ってきて貰って」
「何言ってるの。バスタオルなら、そこの棚の中に・・・」
「分かってるわよ、それでなかったのっ! って、ドアを開けないでよねっ!」
説明しようとドアを少し開けた青夜に対して裸のシャンリーは慌てて背を向けて身体を隠す破目になった。
まあ、さっき隙間からたっぷりと見られて、今もお尻は見られてたが。
「ったく」
青夜は仕方なくフロントに電話をして(室内電話の横の案内通りに操作してフロントに1回で掛けれて青夜は内心誇らしかった)バスタオルを持って来させて、
「はい、シャンリー」
青夜が手渡しして、これでようやくシャンリーは入浴を終えたのだった。
だが、まだこの次点ではチョイとした笑い話だ。
ソフトンニューヨークホテル東京で部屋を2室取ろうとはこの時はまだ誰も思わなかった。
問題が起こったのはその日の夜だった。
正確には深夜である。
葉月は青夜との同衾をさらっと主張したが愛が許さず、
マスターベットルームが愛と葉月。
セカンドベッドルームがシャンリー。
サードベッドルームが青夜。
ハイニシキホテルトーキョーのロイヤルスイートの寝室の部屋割りはこうなっていた。
なのだが、このハイニシキホテルトーキョーのロイヤルスイートは間取りが悪かった。
正確にはトイレとサードベッドルームの位置関係が、田中ビルでの自室とトイレの位置関係と酷似していたのだ。
それも奇しくも田中ビル5階の愛と3階のシャンリーの部屋と。
深夜に最初にトイレに行ったのは普段と違い、長湯をしてしまい、ホテルの冷蔵庫のミネラルウオーターで水分補給をしたシャンリーだった。
寝ぼけたシャンリーはトイレに行き、そしてそのまま青夜の部屋に入っていった。
ここまでなら、まだセーフだ。
何故ならサードベッドルームのベッドはシングルが二つ独立して存在し、シャンリーは隣の誰も使ってないベッドで眠ったのだから。
問題は愛の方である。
枕が変わったからか、眠りが浅かった愛もトイレに行き、田中ビルの癖でサードベッドルームに入ってきて、青夜の寝てる方のベッドに入ったのだから。
人が居ても気にせずベッドに入ったのは愛が既婚経験者で田中ビルではツインベッドで亡き夫の一狼と一緒に寝ていたからである。
更には青夜の最近の就寝事情も災いした。
青夜は田中ビルの4階の自室の時、葉月とアンジェリカと川の字で寝るという建前で、実際は同衾状態で眠っていたからだ。
なので愛がベッドの中に入ってきても睡眠中の青夜は起きる事もなく『また葉月か』程度に思って受け入れてしまったのだ。
結果、翌朝、炊事担当の葉月がいつもの癖で朝6時に起きて、青夜の部屋に『朝駆け』に出向いた訳だが、そこで葉月が目撃した光景は、
愛の寝着はホテルのパジャマだったのだが、ボタンが全開で肩まで肌蹴て上半身裸の愛が青夜の頭を抱き枕のように抱いて胸を押し付けて気持ち良さそうに眠っており、隣のベッドでは寝苦しかったのかホテルのパジャマのズボンを脱いだパンツ姿のシャンリーまでが何故か居て、カオスな状態だった。
「ちょ、ママも、青夜も、シャンリーも、何をやってるのよっ!」
葉月が喚いて、最初に愛が目覚め、
「ちょ、青夜君、何をやってるのよっ! 母親の私相手にっ!」
と慌てて身体を起こして殆ど脱げてるパジャマを着直して胸を隠し、
「・・・何よ、朝から五月蠅いわね?」
朝が弱いシャンリーも起きて、
「・・・何? まだ起床時間じゃないよね?」
青夜も不機嫌そうに起きて、
「えっ? 何やってるの、ママ? シャンリーまで? オレの部屋だよね、ここ?」
そう指摘されて『あれ、そう言えば』『どうして』と部屋の違いに気付いたが、
「青夜君、私が部屋を間違ってたんならその時に指摘してよね」
愛がそう逆ギレしながら、
(・・・昨日、一狼さんの夢を見たけど、もしかして青夜君を一狼さんだと勘違いして色々としちゃってない・・・わよね?)
シャンリーも、
「青夜はもう『別の部屋』で寝なさいよね、男なんだから」
と逆ギレしながら、
(危なぁ~。ママが居なかったら私が餌食になってたんじゃないの、これって)
身を呈して娘を守ってくれた義理の母親の愛に心の中で感謝したのだった。
因みに、この部屋間違えは1日だけではなく、アンジェリカが日本に戻ってくるまで3夜連続で続く事となった。
◇
こんな事があり、アンジェリカが日本に戻ってきて、ホテルを変更する際に、
「ソフトンニューヨークホテル東京のロイヤルスイートを用意するけど1室でいいわよね?」
とのアンジェリカの質問に対して、
「2部屋でお願い、アンちゃん。男の子の青夜君は別にするから」
「2部屋よ、ママとシャンリーが青夜を狙ってるから」
「私個人で1部屋予約して。お金は出すから」
「1人1部屋でいいんじゃない、面倒臭いから」
愛、葉月、シャンリー、青夜が声を揃えて2室以上を要求し、ソフトンニューヨークホテル東京ではロイヤルスイートを2部屋借りる事になったのだった。
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